2020/1/23 7:29 《現在地》
前回辿った軌道跡を引き返し、起点から通算900mの地点にある【崩落地点】を横断すると、そこから先は初めて足を踏み入れる区間だ。
いよいよこれから、ループ区間へ近づいていく。
崩落地の先にも軌道跡はちゃんとあり、刈り払いとピンクテープも変わらず続いていた。
この刈り払いが続く限り、道を見失う心配はなさそうだが、ループ区間まで連れて行ってくれるかどうか。
崩落地から100m足らずで、突然周囲が開けた。
GPSを見ると、須賀作第二堤という堤の直上付近にいる。
軌道跡と水面のあいだには10〜20mの高低差があり、池畔を行くというよりは、見下ろして進む距離感だ。
しかし、下方の斜面に猛烈な笹藪が生い茂っているため、水面も堰堤も見えなかった。
ちなみにこの景色の時点で、私は非常に不穏なものを感じております。
うまく説明できないが、これはまずいと、心底より予感した。
多分、大変なことが起こると思った。
7:36 《現在地》
あ〜あ…、やっぱりこうなったか……。 予感的中の、
激藪化。
池の畔のこちら側(右岸側)は、皆伐のまま放置されたような明るい斜面が広がっていて、背丈を遙かに越える密生した笹藪が蔓延っているのを見た時点で、ここまで続いていた刈り払いが尽きたら終わると思った。そして案の定、ピンクテープの刈り払いは、堰堤の直上を終点としていて、その先の池畔には踏み込まなかった。
うん。 止めます。(キッパリ)
この先の激藪に挑んだ場合に費やされる労力と時間に、期待される成果を天秤にかけると、どうにも踏み込むモチベーションを得られなかった。
それに何より……
私は早く見たいんだ! ループ区間を!
もし、このまま素直に路盤を辿らねばループを見ることが出来ないと言われたら、歯を食いしばって突入したと思うが、その必要はなさそうなのだ。
地図を見る限り、対岸の名古谷集落からアプローチするのが最も簡便な方法である。
旧地形図から読み取れる、現在地から名古谷まで約800mの軌道は、以下のようなものだ。
この激藪の向こうに続く軌道跡は、おおよそ300mほど池を見下ろす高みをトラバースした後、“何らかの手段”をもって沢を横断、対岸へ取り付いて進路を反転すると、そこから300mほど進んだ、まさに現在地の正面にあたる対岸の山腹高所で90度左折して、尾根を潜るループトンネルへ突入する。尾根の裏側へ出た軌道は、270度の右旋回で名古谷集落外れの尾根頂上(1.8km地点)へ辿り着き、そのまま西進して直前のトンネル上を横断、未曾有のループを完成させる!
そしてこれが、激藪直前の軌道跡から背伸びして遠望した、対岸の名古谷尾根――すなわち、
ループトンネルが眠る尾根!
当然ここからでは、隧道はおろか軌道跡も窺い知れない。
チェンジ後の画像にそれらしく書き加えたのは、想定される線形のイメージであり、実際の位置を反映したものではないことに注意。
それでも、遠望から感じた対岸の印象は、悪くなかった。
隧道現存の希望も、十分あると思う。
そこが宅地や農地として大々的に開発されていたら絶望的だったろうが、そうはなっていない。
それに山林の状況も、木々の代わりに藪が蔓延ってしまっている此岸よりは、だいぶ探索に向いていそうに見える。
ああ、早くあの森へ入って、隧道を探したい!
苦労してようやく尻尾を掴んだ軌道跡を、ここで一度でも手放してしまうのは、怖かった。また見失ってしまう可能性がある。
だが私は意を決して、ショートカットを開始した。一旦下山する!
軌道跡から分かれて堰堤に直降する刈り払いがあったので、そこを通って堤上に出た。
魚や水鳥の気配も感じない静まりかえった溜池の奥深くへ、軌道は迂回していた。
渡河地点には橋があっただろうか。もし可能そうなら、名古谷側から見に行っても良いだろう。
ここから放水路に沿って少し下ると、自転車を置いた谷戸道の終点が待っていた。
2020/1/23 7:45 《現在地》
自転車を駆って谷戸の底を抜け出して、北側の斜面を登った尾根上に広がる名古谷(なこや)集落へ。
軌道が起点から延々1.8kmもかけて登った分に等しい高度差を、私が通った車道はわずか300mほどで登り切った。
尾根上に東西へ細く伸びる名古谷集落の中でも、ここは西の外れに近く、家並みも疎らだ。
住宅とススキの原っぱ(もしくは畑)が、茶色多めのモザイク模様に点在している。
双葉炭礦軌道がループで通過したのは、このさらに西側に隣接する山林だった。
集落でもし古老に会えたら話を聞こうと思ったが、誰とも会わず終わった。
そして、この写真の場所からわずか1分後、呆気なく到達した。
ループの在処へ。
ここが、ループの在処だと思うが……
恐ろしくなんの変哲もない路上だ!
もちろん、この写真も意図的に何かを隠すような撮影はしていない。
普通にこの道を利用すれば、誰もがこの景色を見て、素通りするはずだ。
とても珍しいループトンネルがあったからには、どんな奇抜な風景かと思えば、
とんでもなく普通過ぎて逆に驚きしかない。 しかし……
新旧の地形図を重ね合わせると、ここしかない。
実感が湧かないが、このようなイメージで軌道は走っていたらしい。
軌道は、この先の道路と並行して炭鉱へ上っていたし、
この先の道路の下を潜って、木戸駅へ下っていた。
あまりにも突拍子がなくて、どういう風に手を付けるか悩む。
2020/1/23 7:51 《現在地》
さあ、ここまで誰しもが認める“低空飛行”を続けてきた探索だが、
いよいよ今回最大のお楽しみ、ループ区間の探索開始だ!
写真は、前回の最後の写真のシーンを、反対方向から撮影している。
奥に民家が見えるが、あそこが名古谷集落の一軒目である。
ここは集落の外れのすぐ外側に隣接する領域である。
これまで私は双葉炭礦軌道を起点の木戸駅から辿ってきたが、ここからの探索はしばらく逆方向へ進む。写真もそのために逆方向から撮影した。
石炭を満載して山元(終点)を出発したトロッコは、おそらく終点から3.3km、起点から1.8km附近のこの辺りに来て、左折していた。
このまま現在の町道に沿って直進すれば、約900mで木戸駅へ到達するのだが、その間の比高は約40mあり(海抜50→10m)、5%に迫る平均勾配は非力な馬車軌道には厳しかったのだろうか。集落や耕地を出来るだけ避けたいという判断も、あったかも知れない。
ともかく、ここからループを介することで、同じ比高を倍の1.8kmほどかけて緩やかに降りていったのだ。
次の写真は、“矢印”の先端辺りで撮影したものだ。
うおーー!!
カーブしている路盤っぽいものがある!
これは、マジで嬉しかった。
ここにこのような線形の分かれ道があることは、ループ区間の路盤の現存を確かめるための要中の要であった。
これを見つけ出せないと、前回途中で藪を嫌って路盤の追跡を断念したことが完全な失策になりかねなかった。
このカーブは、既にループ区間の構成要因であるはず。
カーブはおそらく270度旋回するまで下りながら続いて、その先で自身が通過したばかりの尾根を潜るループトンネルに突き当たるはず。
カーブの半径は旧地形図を見る限りはそれほど大きなものではなく、ということはつまり、今から1〜2分後にはもうループトンネルと出会う可能性がある! ふひひひひ!! 刮目して待て!
7:52 《現在地》
わっしょいわっしょい!
わっしょいわっしょい!
わっしょいわっしょいわっしょっしょい!!
すまん。
読者を置いてけぼりにする勢いでテンション急上昇中である。
藪があり遠くが見通せない状況で、そのうえ時間を細切れに切り取っただけの写真では上手く伝えられないのが悔しいが、間違いなくループしはじめている!
入り口から50mほど進んだこの段階で、既にカーブは180度の旋回を果たしていた。
軌道らしい、ゆったりとしたカーブである。
そして、緩やかに下っていた。
しかも、この辺りの道は、低い築堤をなしていたのである。
これぞまさに、廃線跡や軌道跡の代表的な特徴であろう。
ループの一部である180度のカーブの雰囲気を、もう少しだけでも写真で伝えたいと思った私は、全体像を一望できる場所を探しに軌道跡の築堤を降りたらば、なんと!
築堤に埋め込まれた、小さな水抜きの暗渠を発見した。
暗渠の構造物自体は見えないが、おそらく昔ながらの陶管(土管)が使われているはずだ。
ますますもって、軌道跡らしいぜ!
Post from RICOH THETA. - Spherical Image - RICOH THETA
全天球カメラである“シータ”を手に、一度は通り過ぎかけたカーブを最も広範囲に眺められるポイントを探して撮影したのが、この全天球写真である。
見よ! この超分かり易いループ(の入口部分)!
廃道探索中、シータをこれほど有効に活躍させてあげられる場面というのも、なかなかあるもんじゃない。心ゆくまでグリグリしてやって欲しい。
まあこの写真にしても、補助線がなければ何が何だか分からないとは思うが、こんな感じで築堤を絡めたゆったりカーブの下り坂が、180度旋回するまで続いていた。
(意外に地味な風景だと言うのはナシで許して……汗)
180度曲がって終わりじゃない。
少しの直線を挟んで、また同じ方向90度曲がりはじめる!
もちろん、下り坂も続いている。
このカーブを曲がりきれば、最初の進行方向からは270度も転回することになる。
その先に待ち受けるのは、自明なる自分自身!
禁断のウロボロス軌道の結末を、見届ける時は近いッ!
……というわけで、ここも曲がり終えたらば……
あっ
7:56 《現在地》
( 察 し )
うん。 …… う ん 。
まあ、これは十分にあり得た、予想していた結末だ。
廃隧道が現存していないのは珍しいことじゃないし、なにより……
現在使われている町道のこんなに間近な直下を潜っていたのは、良くなかった。
隧道の崩落で町道が陥没するリスクを考えたら、さすがに放っておかれないよな。
正直言って、比高が小さすぎるよ…。
生き延びたッ!
なんと!ここで路盤、絶望に抗うッ!!
絶望の笹藪緩斜面斜面の寸前で突如の翻意、身を捩り回避! 九死に一生ッッ!
隧道現存への命脈を、辛くも繋ぐッ!!
いや、この展開は痺れたね。
駄目と思ってからの復活だ。
路盤らしい道は右に90度以上曲がって、“尾根”との直接対決を一旦避けた。
この間にも道は下り続けていて、いま私が最大の問題点として指摘した“土被りの小ささ”を回避する方向へと進んでいる。
もっとも、このままずっと対決せず尾根沿いを西へ下ってしまうようだと、それはまた問題だ。
ループではないことになってしまう。
これは振り返った風景。
道の雰囲気は今まで見てきたこの軌道跡っぽいものであり、ちゃんと延長線上にいるのだと感じる。
ああーっ! 緊張するッ!
いま私は、次のカーブがどちらへ向かうのかが猛烈に気になっている!
さあ、曲がるぞ。
ドンピシャだ。
この方角と線形は、今度こそ来たっぽい。
さっきよりも尾根との比高が大きくなっていて、しかも路盤はより信念的に深く地面へ嵌入していく気配があった。
さあ、隧道よあれ!
7:58 《現在地》
8:00 《現在地》
8:01 《現在地》
コメントなしで、写真と現在地の地図だけで少し進んでしまったのは、落胆の表れだと思って欲しい。
ループが始まり、とても期待したんだが、結局、町道を潜る隧道は埋め戻されてしまったということなんだろうな。
最後に坑口跡みたいな明瞭な地形もなく、ただ寝ぼけたような斜面を上ると、ここ――尾根を走る町道であり、かつてはループ上を跨いでいた軌道――へ出てしまった。
周りを何度かうろついて調べたが、ピンとくるものなし。
ひとつ手前の写真は、尾根の上で町道と並走していた新発見のミニ廃道(現在地の地図で緑線で表記)で、雰囲気的にこれが軌道跡っぽいな。
尾根の町道は直線化が進んでいるので、それに取り残された軌道跡なんじゃなかろうか。
ともかく、ループ線がここにあったという状況証拠は十分だが、最強の証明材料である隧道は貫通していなかった。
……まず、一敗。
だが、もう一敗するまでは、希望もある。
いまアプローチしたのは“北口”であり、尾根の反対側にあったはずの“南口”が開口しているかも知れない。
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