2010/8/24 12:31 《現在地》
推定全長330m、封鎖された須田貝隧道へ自転車による潜入を開始。
早速の水たまりに路盤状況を感じた私は、最初からヘッドライトと手持ちライトのWライトで進行することにした。
入って最初に壁の作りをチェック。
側壁と天井とで、明らかに風合いが異なっている。
垂直の側壁は場所打ちのコンクリートであろうが、天井の方はコンクリートを吹き付けているようだ。
しかしアーチの形は整っているので、漏水防止のための後補強だろうと考えられる。
続いて、10m先に見えるブルーシートへ進む。
どうやら隧道の南側坑口付近は、工事機材置き場として使われていたようだ。
と、これは“過去形”にしなければなるまい。
使用するたびに入口の鉄パイプのフェンスを解体しているワケでないならば。
見たところ廃棄処分されたわけではなく、あくまでも保管しているようだったが、このままでは隧道と共に誰からも忘れられてしまいそうだ。
しかも、ここに保管?されていたのは、機材だけではなかった。
子供が乗る車のおもちゃみたいな大きさの、四輪のタイヤを履いたトロッコを発見!
下にある自動車のタイヤと大きさを比較して欲しい。
本当におもちゃみたいなサイズだが、おもちゃにしては荷台が武骨過ぎる。
一体これで何を運んでいたのか、運べるのか気になるが、とりあえず…
これが1台目。
2台目は自転車。
いや、2台目だけじゃないぞ、これは。
現地では数えることはしなかったが、この写真には少なくとも5台の自転車が ごちゃってなってる。
見た感じ、タイヤの空気が抜けているくらいで、意外にシャンとしている感じだった。
まあ、シチュエーション的にそう新しいものではないと思うが。
なんと、まだあった。
3台目…じゃなくて、7台目の車輌は、バイク。
お馴染み、スーパーカブというやつだと思う。
全然バイクは詳しくないので、違っているかも知れないが。
こいつもタイヤはフニャフニャだが、事故車っぽい感じではない。
いったいこの闇に溶ける廃隧道には、
何台の車が放置されて居るんだ!
って、おまえ!
出た。
8台目は乗用車!
デカイよ。
流石にすごい存在感。
道をきっかり半分塞いでいる。
隧道の中で廃車体を見たのは初めてじゃないが、大抵それは短い隧道だった。
なんか、フロントガラスが異様な色になっていて、中が見えないし…。
正直、この先へ進んで…
嫌でも車内を目にするだろう事が、いやだった。
な〜んとも形容のし難い、異様な状況になっていた。
フロントガラスが。
間違いなく割れているのだが、それでも“面”としては破れておらず、軟らかい膜のように凹んだところに地下水が溜まっていた。
そして、その全体が茶色から白への、きわめて怪しいグラデーションを描いていた。
運転席側のドアの窓は、開いていた。
フロントガラスが割れて車内に散乱していた。
しかし、それ以外は車内に荒らされた様子はなく、意外に綺麗だった。
恐れていたようなものは、なにもなかった。ホッとした。
じつは結構心臓がバクバクいってた。
廃隧道の中に廃車という取り合わせは、何か苦手だ。
車に詳しくはない私でも、エンブレムがあったので分かる。
これはホンダのシビックだと。
すごく昔、ウチもこの車に乗っていたような記憶がある。
型は違ったと思うが。
入口から100mほど進んだと思われるあたりで、洞内に異変が起きた。
というか、実はこの前から異変はあって、アーチがコンクリート吹き付けであったのは最初だけだったのだが、その変化の地点は見落としていた。
だが、流石に今度は見落としようがない大きな変化だ。
素堀への変化。
変化というか、退化…。
悪化ともいう……。
これが覆工の変化点。
向かって左がコンクリートの覆工で、右は素堀の岩盤だ。
自ずから覆工の厚みがどの程度であるかも明らかになった。
かなり薄い。薄っぺらだ。
15cmくらいしかないだろう。
あと全体的に赤茶けているが、地下水に鉄分が多く含まれているのだろうか。
側溝の水はとても透き通っていて綺麗だが、この色の中にあると、透き通り方さえ不健全に見えてくる。
まあ、鉄は身体にイイカモだけど…。
う〜〜ん!
覆工の有り難みが実感されるぜ!
未だこの隧道がいつ完成し、またいつから放棄されているのか分からないが、少なくとも無普請(=素堀)が許されるような地盤環境ではないようだ。
ここにあるのはこぶし大以下の物ばかりだが、ポロポロポロポロと数え切れないほどの小石が舗装の上に散乱していた。
素堀になって隧道の断面は大きくなったが、不安感も増した感じだ。
とりあえず出口は確実に近付いているし、“間違い”はないと思うが、結構本格派の廃隧道だ。
きたきた。
案の定、荒れ方が悪化してきた。
側壁が崩れ、側溝を埋めるだけ山になっていた。
電線に取り付けられた蛍光灯も、触れればたちまち落ちてきそうだった。
→
素堀になってから、側溝がとても大きくなった。
幅が広いだけじゃなく、深い!
写真だと分かりにくいだろうが、微妙に青く見えるくらいに深い。
おそらく水深50cmくらいある。
それだけ湧水の量が多かったのか、単に深く掘りすぎたのかは、定かではないが…。
中間地点は過ぎただろう。
前と後を見較べて、そう判断する。
残りは100mくらいかと思う。
そしてここで、南側がそうであったように、コンクリートによる覆工が復活した。
覆工復活直前の壁の崩れ方を見れば、いかに覆工無しが危険か分かろうというものだ。
ともかくこれで一安心といいたいところだが、何か、まだ出口のシルエットはおかしい。
閉塞も封鎖されている様子もないので、通り抜けは間違いなく出来るだろうが、状況はあまり良く無さそうだ。
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フェイントをかけられたよ…。
コンクリートの巻き立てが復活したと思ったが、それはわずか10mかそこらで終わって素堀に逆戻り。
当然のように壁はボロボロ崩れまくり。
予算がきつかったのだろうか。かなりせこくコンクリートを節約したようだが、その事が隧道の寿命を短くしている気がする。
…ともかく、今度こそゴールまで覆工が途切れることは無さそうだ。
コンクリートで巻いただけではなく、鉄板で補強を施されている。
南口のコンクリート吹き付け同様に、漏水対策だろうか。
側溝はどこかへ消えたが、路面は水浸しに近い。
これか!
歪なシルエットの元凶は!
頑丈に固められているはずの側壁にぽっかりと大口が空き、
そこから臓腑のように大量の瓦礫が洞内になだれ込んでいた。
規模はその比ではないが、左側もやはり同じように壁が破れている…。
今はまだ。
今はまだ、
顔をしかめながらも…
通行できる。
しかし私は知っている。
側壁の大穴が辿り着く結末を、知っている。
例えば、かつて「二井山隧道」というのがあった。
ある年に側壁に大きな穴が出来ていた。
そして、確か次の春くらいだったと思うが、落盤して地上から消えた。
他にも挙げればいくつもある。
側壁の大穴 → 大落盤。
死のコンボ。
悪戯な「 死 」を避けるには、長居無用。
腐った水が異臭を漂わせる沼を越え…
暑き(涼しくはない)緑の光の元へと逃散する。
北口へ到着。
こちらは塞がれていなかったが、よく見ると木柵が朽ちて倒れていた。
…外には緑しか見えないが、どうなってる。
左の壁はもう機能していないが、右も実はやばくなってる。
膨らんでいるのが、分かります?
予言する。
放っておけばこの隧道、10年以内に閉塞する。
10年後といえば2020年…。
もちろん明日落盤するかも知れないし、特に北口辺りには立ち入らない方が良いと思う。
次回は静かな湖畔の旧道です。
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