磯根崎海岸道路(仮) 第1回

公開日 2010. 4.13
探索日 2010. 2. 4


今回のレポートでは、今まで以上に皆様の調査力をお借りしたいと思っている。


というのも、

これから探索の成果は余すことなくお伝えするが、

それでも謎が沢山残ったのだ。


もちろん、自分なりに関連町村市などを漁ってみたが、成果はわずか。

これを書いている現段階では、正式な路線名さえ分からずじまいなのだ。


今はっきり言えることは…

富津市の東京湾沿いに、正体不明の廃車道が残されているという事実だ。




この探索の契機は、これ以上ないほどに単純だった。
何気なく「ウオッちず」を眺めていたところ、海岸沿いに「車道の特徴を持った歩道」を見つけたのである。


右図を見ていただきたい。

「A」の矢印の先には、紛れもないループ道路が描かれている。

また「B」付近には、これまた車道としか思えないようなゆったりとした線形のカーブ群が描かれている。

いずれも「破線」、つまりは「徒歩道」だが、車道が廃道になって辛うじて歩道を保っている場合も、このように描かれることが多い。

しかも、「A」と「B」は約5kmの破線のルートで一本に結ばれていた。
これは一連の廃道跡かも知れない。


だが、地形図上ではライトブルーの鮮やかな海は、浦賀水道に面する東京湾だ。
ここは、都心から直線距離で50kmも離れていない「首都圏内」なのである。

以前この近くに行ったときには、確かにまだ豊富に緑が残っている印象は受けていたが、それでも「大規模な廃道」が許されそうなエリアとは思わなかった。

地図上から受けた第一印象は、意外性である。

それゆえ、実は生粋かつ現役の「遊歩道」ではないかとも思われた訳だが、ネットを検索したところ、「A」は「廃」であるとの情報を掴んだ!
そして、その先から「B」にかけての情報は、たぶん無かった。

これはもしかしたら、都心に最も近い海岸的風景の廃道かも知れないぞ。

私はさっそく踏査に向かった。





「A」地点… 大貫漁港





大貫漁港 ――午前6時53分。

今回の旅の出発地。 はじめてくる場所。

海と空を隔てる細い陸の名は、富津岬。

砂洲のようなその高さでは、向こうにある「首都の煙突」を隠せない。



2010/2/4 6:53 《現在地》

この大貫漁港について、私は特に事前の情報を仕入れてこなかった。
そして、現地に早朝立った実感としても、これといって特別な感想を持たなかった。
強いて言えば、房総半島というのはどこまでが都会で、どこからが田舎なのかがよく分からないなあとか、そんな漠然とした感想。

夜駆けで「東京湾アクアライン」を走っているうちはもちろん大都会で、それから暫くコンビナートの夜景もまた都会。
でも、それから峠を越えたわけでもなんでもないが、気付けばこんな場所にいた。
もっとも、この景色が田舎かと言われれば、それもまた微妙でもある。

朝の漁港が無人っぽいのも、なんとなく違和感があった。




で、

この後表の通りに出たら、ビックリ仰天よ!







な!なんだ!

この道の広さは、ただ事じゃないぞ。

しかも、白線とか完全に消えきってるし…。



…なんか、オブ嗅覚的に、怪しい。





だってこれ、2車線の道も「2車線にしちゃ」イヤに広いが、右側のこの帯状の空き地は何?

この部分も将来は道路になる予定なの?

それとも、貨物鉄道でも敷く予定があった??

漁港に面する約400mの直線道路の全体にこの空き地は続いており、ただの空き地とは思えないのだよ。

…まあ、今から向かう「破線道」と関係があるのかは分からないが、それはこの道の真っ直ぐ延長線上に始まるわけで、関係無いとも言いきれないだろう。




どうやらこの空き地は「国有地」らしい。
こんな立て看板が沢山立っていた。

でも、勉強不足でよく分からん。こういうのは。

とりあえず、画像は一箇所だけ加工して電話番号を隠してある。
「財務省関東財務局千葉財務事務所(第一)統括国有財産管理官」の電話番号は隠さなくてもいいだろ。
誰もイタ電しそうにないしな(笑)。

それにしても、「財務省関東財務局千葉財務事務所(第一)統括国有財産管理官」ってキーを叩いたら、指がつりそうになった。素朴な疑問として、こういう長い職名を英語に直すとどうなるんだろう?



こんな珍しい標識が立っていた。

津波の標識である。

過去の津波の潮位を示して警戒心を涵養するこの種の掲示物はよく見るが、敢えて道路(警戒)標識の形をとっているものは珍しい。

しかもデザインの出来が良く、私製とは思えないくらいだ。
もっとも、「高潮注意」の標識だと言われたとしても信じてしまいそうだが。

そして、標識と補助標識以外に、支柱自体も表示を担っているというのが面白い。
支柱の根元から40cmほどの所に巻かれたブルーのテープが、津波の想定高らしいのだ。




7:00 《現在地》

広すぎる道の両側は沿道の駐車場と化していたが、約400m続いた道の終わりも唐突だった。

「東京湾栽培漁業センター」や舟溜まりがある突堤への(普通の幅の)2車線道路が分かれると、一気に幅が狭まり、舗装も途切れてしまったのだ。

明らかに何かが「未成」な臭いを感じる、作為ある道幅の変化であるが、この先に待ち受けている「破線道」は、どんな答えを与えてくれるのだろうか。

いかにも房総らしい、冬なお濃い緑の山が、不気味に迫る。




きっ、キタッ!!

誰が作ったのか分からない、1枚の木札。

こんなものに、公道の定めを委ねられるのか。

この香ばしさ、とてもいいかんじだ。 

私のレーダーが反応。
眠かったホッペにビンタが飛んできた。
こいつはオブ的に期待できるかもれんぞ。




約100mの「軒先の砂利道」を走り終えると、バリケードとは言えないくらい簡単な封鎖「コーン×2」が道を塞いでいた。

左の山側は、正月の竹飾りが残されたままの「浅間神社」。
ここにもあまり人が来ている気配はない。

そして肝心の道はというと、広大な2車線道路の面影は全くない狭さ&急坂だが、一応まだ続いている。

もうこの段階で、「破線道」が単なる海岸線の遊歩道ではないことが理解できた。
あとは車道か否かだが、ちょっとこの雰囲気には自信が持てない。
先の景色を読みにくい。





7:02 《現在地》

約20mの坂道を登り切ると、そこはだだっ広い更地というか、造成地。

地形図にあった道とは形が変わっているが、数年以内に造成されたようだ。

周りより一段高くなっていて見晴らしが良く、住宅地にでもする予定だったのか。
海風を遮るものがないので、幾ら東京湾内とはいえ台風とか怖い感じがするが、ともかくこの土地も遊んでいるようである。

真っ直ぐ行く道は、この先50mほどで海岸線に突き当たり行き止まりであった。
残された方向は…、左。





左向けー 左!





こ、これが…

地形図にあったループ橋?



この姿はネットでチラリと見た気がするが、前後のシチュエーション込みだと一層不気味。


…ともかく、行ってみよう。

「破線道」の皮を被った未成道の臭いが、プンプンします。




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謎の 廃ループ橋


7:04

勢いよく「探索開始!」という場面で、いきなり水を差すようで申し訳ないが…。
入口に立っていたこの「保健保安林」の看板が、妙に気になった。

これ、一瞬本当にある公園の地図かと思ったよ(笑)。

ここにある限りはまだ勘違いする人は少ないだろうけど、これが本当の自然公園にあったりしたら、ぜったい地図と思って「現在地」を探す人が出ると思う。仕舞いには苦情が来るかも。

あと長時間見ていると、山の部分の「∩∩∩」のテクスチャのせいで痒くなってくるのもイヤだった。

…相当にどうでも良い話だな。




明らかに2車線道路用のボックスカルバート。

でも、ほとんど使われている形跡はない。


何より退廃を醸しているのは、右のコンクリートブロックの擁壁だ。

半ばから上の方が、亀裂で大きく傾いてしまっている。
コンクリートブロックがこんな風になっているのは、廃道でもあまり見ない絵で、新鮮。
そして、安全から言えばもう絶対に使ってはいけない状態。

にもかかわらず、特段に封鎖されている気配もない(コーン×2はあったケド)。
つまり、
忘れられた車道って事で、OK?


それにしてもだ。
この作りの立派さは、結構マジだぜ。




空虚しかない洞内。

トンネルは大抵曲線を持っていて、その柔らかい印象のせいか、たとえ空でもここまで空虚には見えない気がする。
暗渠やボックスカルバートの類は、路盤や照明なんかがないと本当にただの函だから、こんな印象になる。

そして、そんな空しい地下道だが、出た先はウイットに富んでいるようだ。
地形図を裏付ける、円形の左カーブが始まっている。




この段階での私の「素性予想」は、未成の観光道路というものである。
東京湾を見下ろす磯根崎の海岸線に車道を通せば、そこは必然的に浦賀水道を行き交う船舶を一望出来る、第一等の展望道路になりそうだという印象を地図からは受けた。

このループ橋は、その予感を裏付ける光景といえる。
そもそも、この程度の高低差を詰めるのにループ橋が必須とは思えないし、地形的にもルート選択の幅は有りそうに見える。
ループ橋=観光道路」というセンスは古いと思われるだろうが、全くその通りだ。
きっとこれは、古いセンスで作られた観光道路。




素晴らしき…円カーブ。


円というのは日常生活の中では極めてありきたりな曲線だが、山岳道路の線形としては、ほとんど絶滅しているものだ。

緩和曲線などといった難しい理論を踏まえた「クロソイド」とかいう曲線がこの業界では正義となり、凡庸な円カーブは特別な理由でもなければそうそう新設されない。
そんななか、未だに円カーブが基本になっているのが、このようなループの道路である。
円を描く線形を、円形以上に旨く曲がる方法というのは、さすがにないらしい。

2車線の道幅が空しい円カーブの行く手は…。




なんか、変。

この程度の小規模なループ橋ならば、普通は最後までR(曲率)が変わらないまま立体交差部分に辿り着くはずなのに。
これはどうしたことだ。
急に道が狭まった。
しかも藪が深い。轍が薄い。
坂も急だ。

どうやら、このループ道路自体未完成であるらしい。
だって、立体交差部分へ入る所なんて、妙な段差があるし、ほとんど直角カーブだし。

…変だ。






7:08 《現在地》

ループひとつで、あら大変。

すっかり舞台は、山中だ。





一応は、この直線部分が立体交差部分と言うことになっている。

ガードレールがあるのがそれを教えてくれているが、とにかく両側とも藪の繁茂がもの凄く、ループらしい見下ろしの視界を得ることは少しも出来ない。

こういうのも、一応「ループ橋」というのだろうか。
慣例的には言うと思うが、実際には橋は全くない。
あるのはボックスカルバートひとつだけだ。

ニセモノでも、ガードレールの所に親柱とか銘板でもあってくれると気分は出たと思うんだが。

別に責めている訳じゃないんだけどね。





どうやら、

ここからは、攻めなければならないらしい。


ループを抜けると、隣り合う漁港の風景なんて少しも感じさせない、いきなり「山の廃道」ぽかった。

地形図ではね、最初から徒歩道で、これからも徒歩道で…途中全然変化はないのだが。
実際の状況は、かなり変化に富んだものになりそうである…。

先はまだ長い。
全長5kmのうち、ここはまだスタート地点である。