尾 盛 駅 をご存じだろうか。
wikipedia:尾盛駅 には、こう書かれている。
駅周辺に民家は無く、その上駅に通じる車道も1つも無い。このため鉄道でしかこの駅へ来ることはできない。
そのため、一部の鉄道ファンに日本で最も理想的な秘境駅といわれている。
2008年度の年間乗降客数は574人である。
太字は著者による
オブローダーというのは、元来「ひねくれ者」の資質を有する。
誰もが使う道ではなく、敢えて裏道を探し、無理に使われなくなった道を辿ろうとする。
「イケナイ」 「行けない」 と言われれば、本当にそうなのかと確かめなければ気が済まなくなる。
「道が無いのに駅があるわけなんてないだろう」 と、そう心から疑う。
そして、「秘境駅ファン」というのも相当に「ひねくれ者」であろう。
非共益の誹りなどどこ吹く風で頑張る秘境駅を愛する者が、
年に500人以上も、
この「どこにも行けないホーム」に降り立っているという現実が、私には微笑ましい。
今日は記念すべき“出会いの日”になるかも知れない。
“オブローダー × 秘境駅ファン”
「尾盛駅さ行がねが!」
今回のテーマを一言でいえば、「尾盛駅に陸路で行ってみよう」である。
しかし、本当に尾盛駅に通じる道はないのか。
最新の地形図を眺めてみた。
うふふふふ。
確かに、一本も道が描かれていないでゴザル。
つか、なんでこんな所に駅があるんだ。
乗降客574人の内訳は、100%秘境駅ファンということか。
尾盛駅は、静岡県の私鉄大井川鐵道井川線にある一般駅である。
前後駅を含む範囲の地形図は、右の通りである。
この辺りは「接岨(せっそ)峡」と呼ばれる大井川の大渓谷地帯で、観光地になっている。
その観光の主要な足が井川線なのであるが、道路の整備も少しずつ進んでいるので、その存在感は相対的に減少している実情がある。(赤字路線である)
そして尾盛駅は、接岨峡温泉駅からは2.2km(線路キロ程ベース)、閑蔵(かんぞう)駅からは2.7km(同)離れた位置にある。
繰り返すが、地図中においては尾盛駅まで繋がる“線路以外の道”はないようである。
しかし、図中に赤くハイライトした「破線道」が、かなり“いい線”まで行っているのが、前から気になっていた。
その末端から駅までは、直線で500mと離れていないのである。
しかも今年4月上旬頃、読者のAIR氏から、この道を途中まで歩いてみたというタレコミがあった。
それによると、この道はどうやら「遊歩道」らしい。
あ、 間違った。
廃遊歩道らしい……。
かつて、接岨峡温泉駅から尾盛駅へ行く遊歩道があったのだろうか?
それでは、歩いて駅まで行ったという人も、いると言うことだろうか?
もしそうだとして、なぜ「廃」になってしまっているのか。
秘境駅としてはとても有名な同駅だが、この歩道についての情報は、ネット上にも無さそうだった。
やはり、行って確かめるしかない!!
こういうの、ダイスキッス…。
しかし、駅まで歩いていって、ただ戻って来るというのも、ツマラナイ気がする。
せっかく駅に行ったのだから、やはりそこから乗りたいではないか。
この立地を信じるならば、尾盛駅の乗客と降客の数は、本来同じはずである。
だが、私のチャレンジが成功すれば、このバランスを僅かだが乱すことが出来る。
それってなんか、とっても楽しみ!!
乗員さんは、どんな顔をして迎えてくれるだろう…。
楽しそう!!
…というわけで、尾盛駅の発着時刻を確かめてみたのが、右の図。
この駅に止まる列車は、1日4往復8本である。
そのほとんどが午後で、1〜2時間に1往復ずつ列車はやってくる。
そして、悩んだすえに私は決めた。
★第一候補(乗車目標)
尾盛発14:53 (千頭方面行き)
☆第二候補(乗車目標)
尾盛発15:10 (井川方面行き)
○最終防衛ライン(終電だし…笑)
尾盛発16:28 (千頭方面行き)
あとはこの時刻から、踏破に掛かりそうな時間(90分)を逆算して、出発時刻(13:15)を決定したのであった。
レッツ! オブチャレンジ!
2010/4/19 13:15 【周辺地図】 《現在地》
接岨峡温泉駅は、犬間集落裏山の少し高いところにある。
そのため集落の表通りは、長島ダム建設に伴って広く明るく改良された県道388号接岨峡線が担っている。
集落自体も妙に綺麗だが、やはり長島ダム建設に伴って移転してきた家が多いためだという。
そして、接岨峡大橋のたもとにあるトイレ付き駐車場が、接岨峡温泉駅だけではなく、尾盛駅の最寄り駐車場である。
もし尾盛駅で「パーク&ライド」を試みるには、この駐車場が「パーク」ということになるが、ここから「ライド」までの道が…ありやなしや。
なお、写真内の赤い線は、私の動線である。
車を降りて、尾盛駅を目指すのである。
接岨峡大橋を渡って道なりに進めば、約2kmで閑蔵駅に行くことが出来るが、尾盛駅への道はここを左に行く。
左へ…。
お土産屋さんの脇…、幅1m足らずの道。
か、階段が…。
もちろん、何の案内もない。
大丈夫か?
30mほど小径を上っていくと、線路端に突き当たる。
そこで左を見ると、ローカル線の好ましい姿をした接阻峡温泉駅が間近であった。
レールの幅こそ見慣れた1067mmだが、ホームの高さが、ちょっとあり得ないほど低い。
いったいどんな列車が現れるというのか。
実はまだ、一度も目にしていない…。
振り返ると、「27」とペイントされた坑門があった。
井川線の第27号隧道である。
そしてその脇には、保線用通路にしては幅の広い、歩道用のガードレールが目立つ道がある。
もしやこれが、「廃遊歩道」と報告されている道の始まりなのか。
このガードレールは、曰くありげだ。
第27号隧道脇まで来ると、その道は右へ逸れていた。
その雰囲気は、確かに歩道のようであるが、と同時に「廃」を醸し出していた。
今にも両側の笹藪に掻き消されてしまいそうだ。
しかも、道幅に倣った小さな「Aバリケード」が置かれている…。
13:22 《現在地》
「本川根町役場建設課」と書かれたAバリケード。
ちなみに私も間違えていたが、本川根町(ほんかわねちょう)は平成17年に中川根町と合併して
川根本町(かわねほんちょう)になっている。
だから、今は川根本町というのだそうだ。
こんなに紛らわしい改名の真意は、何だったんだろう。
ともかく、ここから「廃道」が始まるようだ。
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ゲートを避けて先に進むと、思ったほどヤブヤブしていないようで一安心。
それに、土道の路面はほぼ平坦で、歩きやすい。
確かに遊歩道として使われていたとしても、不自然ではない感じだ。
間もなく、前方にまた何かの「立て札」が見えてきたのだが、この内容が相当に意味不明な、全く予想外のものであった。
何 だ と 思 う ?
「対向車あり」
って、マジで?
この道幅で「対向車」って…。
自動車?!
…まさかなぁ。
これは自転車のことなんだろうか…?
確かに、自転車くらいなら通れそうだが…。
看板はまだ新しげであり、謎が深い。
さすがにこれ、自動車は通ってないよね…。
なんか、肝心の所でガードレールが無くなって、
頼りないトラロープに変わってしまった。
序盤から、思いのほか険しいぞ。
バリケードから100m少々で、最初の山肌の出っ張りを回り込み、足元に第27号隧道の北口が現れた。
地形図の通りなら、これ以降は道の表記が消える最後まで、ずっと線路よりも上を通るはずである。
そして、その先についても、線路よりも下に行く理由は特に無い。
尾盛駅まで、ずっと線路よりも高いところを通って行くものと想像していた。
ガードレールが無ければ、古道か杣道か保線用通路か、いずれとも区別の付かなそうな「ソフト廃道」を順調に進んでいく。
橋 …だ。
この狭い狭い道に、橋が現れた。
まあ、水のない桟橋だが…、生意気にも「名札」が立っている。
「第一竹の花橋」というそうだ。
なんか日陰で、存在感はとても薄いのだが、とりあえず…廃橋発見だ。
そして、確かに遊歩道だったんだろうなと、これで決定的に思った。
伝説的快挙(?)達成へのロードとしては、
今ひとつ覇気の感じられないスタートとなった、“謎の廃遊歩道”。
この道は私を尾盛駅へ連れて行ってくれるのだろうか?