主要地方道米沢南陽白鷹線の不通区間探索は、低山でありながらも思いのほか奥深い地形に苦戦を強いられた。
初日、日没に邪魔をされたとはいえ、すぐ傍まで迫っていた大峠を、初歩的なミスのために捉えることが出来ず、無念の撤退となった。
午後7時前に泥まみれとなって白鷹町側のデポ地に戻った私は、チャリを愛車に格納するとすぐに、その日の宿を求めて移動を開始したのである。
県道が越えられずにいる山並みを迂回するように、国道287号線を反時計回りに南下、長井市内でガスを補充し、当初は南陽市赤湯温泉に風呂を求めたが見つけられず、夜8時頃から1時間ほど国道沿いのパチンコ屋で時間をつぶした後、コンビニで食事を確保し、いよいよ宵越しの準備を固めた。
宿泊地に思い当たる場所もなく、翌朝のアプローチの短縮を狙い、不通県道を南側から北上する事にした。
不通区間に続く県道は、その殆どが山間の1車線路であり、舗装こそされているが、とてもとても寂しい道であった。
この奥に本当に集落があるのかと不安になりつつ20分ほど進むと、山間に数軒が点在する須刈田の集落に行き当たった。
しかしここでも道は広がらないばかりか街灯の一つとなく、しかも夜雨は激しさを増してきた。
小さな立て札に見たキャンプ場の文字を頼りにして狭い未舗装路を2kmほそ進んだ場所に、辛うじて灯りのともる、されど無人の大野平キャンプ場を発見。
心細さに耐えかねて灯りに身を寄せるようにして、その敷地内にあるただ一つの街灯の下に車を停めた。
22時16分、この夜の泊地に着す。
雨の朝 2005.9.25 6:10
4−1 憂鬱な出発
6:08
須刈田集落の南西1.3km、長井市と南陽市境界付近に位置する海抜500mほどの山間地に大野平キャンプ場はある。
そこは須刈田から谷間に細長く続く耕作地や放牧地の端で、三方を低い稜線に囲まれている。
夜中音を立てて落ちていた雨が霧雨に変わっていた。
しかし、空には全く濃淡のないクリーム色が立ち籠めており、起床10分で今日の天気も絶望なのだと知らされた。
私は、正直このまま南陽市街におり、帰途に就こうかとも思ったのだが、なんとか踏みとどまり、前進を決意した。
パンをほおばり、6時11分、エンジン始動。
至極ノロノロとトイレ前の寄宿地から発った。
6:16
これが、須刈田の県道分岐点。
手前の道がキャンプ場に続く道で、右から正面へとヘアピンカーブで県道は上っていく。
当たり前のように、県道を示す標識はない。
分岐の先も、未改良で曲がりくねった細い舗装路が続く。
そして現れるのが、最奥の小学校、漆山(うるしやま)小学校杢ノ沢(きのさわ)分校である。
通年分校であるが、2005年現在生徒がおらず休校している。
平屋だが大きなコノ字型の木造校舎は、冬囲いのまま雨に濡れていた。
一面の草むらと化した中庭には、寂しさだけが充満している。
学校があると言うことは、いよいよ杢ノ沢集落は近いのだろうか。
まったくあたりには民家が見えず、不安に思う。
学校から少し進むと、僅かに視界が開け、小さなお堂の先に茅葺き屋根を含む数軒が見えてきた。
これが、現時点の南陽市側終点、杢ノ沢集落である。
南陽市街地から約7km。
その全てが1車線の未改良の道だった。
南陽市の将来計画図(
URL)においても、この県道は都市計画に含まれてすらいない。
今思えば、昨日辿った白鷹町側は奥の集落直前まで道が改良されており、通行不能を示す標識も立てられていた。
その意味では、見捨てられているという印象は受けなかった。
しかし、この南陽市側においては、もう開発の眼中にないような印象すら受けた。
偶然か、南陽市街からここに至るまで、ただの一カ所も県道の標識も見られなかった。
4−2 終点の集落
6:28
今にも砂利道になってしまうのではないかという有様で続いてきた県道だが、最奥の杢ノ沢集落で大きな道に出会う。
ここでも登場するのは、置賜東部林道である。
この全長20kmを越える舗装林道が、県道の不通区間を縫うようにして、南陽市と長井市を東西に結んでいる。
沿道には「山形工科短期大学校」があり、私がここにいる間にも、自動車学校の送迎バスが林道を通っていった。
この一体の生活路は、もはや県道ではなく、この林道だというのだろうか。
林道と県道との交差点においても、私が来た方向(県道)には行き先が書かれていなかった。
特に行き先が案内されていない、県道。
南陽市までの7kmも、時間に余裕があればチャリで走ってみたいと思わせる、なかなかの“険”道ぶりだった。
いずれまた。
右の図の通り、この杢ノ沢から南陽市〜長井市間の通行不能区間(L=0.8km)までは、僅か300mだが置賜東部林道と県道は重なっている。
つまり、県道は供用済みということになるのだが、余りにも距離が短すぎるせいか、この間に県道らしい物は何もない。
単純に、低い稜線へと森の中上り詰める林道でしかない。
杢ノ沢から車なら1分とかからず、県道と林道との分岐地点に着く。
そして、
この分岐点は、よほど注意深く地図と睨めっこしないと、まず気がつけない。
4−3 不通区間の県道
6:28
ここが、その分岐である。
左に、分かれていく道が、有るの、 お分かりいただけるだろうか?
車では100%進めないので、ここでチャリを降ろす。
チャリでも99%進めないように見えたが、とりあえず、儀式的なものだ?!
6:32
あのやー。
あんまりこんなんだと、逆に醒めるよな。
不通区間の味わいっていうのはさ、もともと道があったとかさ、作ったんだけど険しくて放棄されたとかさ、そう言うのがオイシイのであって、なんだか地図上で適当に県道指定したまんま、造林道だか歩道だか分からないような廃道っていうのは、どうなんだろ。
読者的には好きですか?
俺的には、ショボーン…。
だって、道がある以上は入らねばならないじゃない…。
その強迫観念が、つらいんす。
案の定、そこは県道だどうだという以前に、道として怪しい。
怪しいどころか、全くあてにならない。
造りとしては、造林道。
単に崖を削って進んでいくだけ。
路面は余りにも藪となっていて入れないので、斜面にチャリを寄せて、何とか進む。
チャリを持ってきた意義はゼロだ。
しかも、悔しいことに県道の予定線とぴったり同じ方向に進んでいる。
まるっきり違う道っぽければ、速攻で引き返すのに…。
ほーら、チャリ有るよ〜。
もはや、自己満足でしかない。
自身すら満足しているか最近は怪しい。
単純に、癖でそうしているようにさえ思う。
ただ、もともとは車道だったのは確かだと思う。
廃道には、思いのほか幅がある。
折り重なるような藪は、いつ一歩も進めなくなるかと感じさせたが、不思議とチャリは前進できる。
無論、押しだが。
そして、前方が少し明るく白くなった。
地図によれば、この先は一気に沢底へ落ち込んでいく。
県道の予定線は、この100メートルほどの高低差について、なんの配慮もなく真っ直ぐ突っ切っているが、どう考えてもそんな道は造れない。
おそらく、将来的には大々的に切り崩すか、蛇行路を選択するのだろう。
ともかく、現時点まででそのような工事が行われた気配はなく、いよいよ前方に現れるのは、予想通りの景色だった。
6:44
植林地の真ん中の小さな平場。
砂地なのは、おそらく人為的に草が生えにくいようにした跡だと思う。
県道は、この先真っ直ぐ斜面を駆け下って、長井市大石に至るが、沢底までの直線距離は100m程度しかない。
そこに道を模索したが、単に杉の林しか無く、
この不通区間には道がないと結論づけ撤収を決めた。
地形図にて帰宅後確認すると、この不通区間には点線すら描かれておらず、県道の全くのオリジナル区間だと想像できる。
ならば、予め何らかの道がないのも、頷けよう。
次回は、林道を迂回しつつ、この不通区間を反対の長井市大石側より挑戦。
そして、昨日撤収している、大峠へと挑む。
最終回だ。