再訪 してきました。
「山行が」レポートの中でもかなり問題作として物議を醸した、あの“隠密探索”の地に。
「甲子道路」といえば、古い読者さんならお分かりだろう。
工事関係者の目を盗んで突撃した、廃止されたてのトンネルたち。
あれから3年。
⇒問題の「過去作」
【位置】
これは、最新の地形図から見た甲子道路の甲子工区である。
甲子道路は計画全長23.3kmに及ぶ国道289号のバイパスで、従来車の通れない登山道国道であった甲子峠区間を結ぶべく、昭和50年以来工事が続けられてきた。
そして今年(平成20年)、32年にも及んだ工事はいよいよ開通の予定である。
このうちの甲子工区は、最も早く平成7年に開通していた。
だが、一度は開通した甲子工区に事件が起きたのは、平成14年のことである。
詳しくは前回のレポをご覧頂きたいが、平成14年7月の台風通過に伴う大雨で、地中の地層がずれたことが「事件」の発端であった。
これにより、付近を通過していた石楠花トンネル内部に亀裂や変形が発生したのである。
トンネルの使用は直ちに中止され、せっかく完成した新道は再びバリケードの向こうとなった。
当初は石楠花トンネルを補強して復旧する予定であったが、地盤の変形は予想以上に激しく、これは断念せざるを得なかった。
そこで石楠花トンネルを破棄し、地盤崩壊の影響のない、より地表から離れた山体内部にトンネルを付け替えることなったのだった。
工事の内容としては、石楠花トンネルから300mほど離れた「きびたきトンネル」の内部より分岐する新トンネルを建設し、石楠花トンネルの西口付近の地上で従来の道と再合流させるものとなった。
これにより、石楠花トンネルのみならず「片見トンネル」と片見1号、2号の各橋梁、きびたきトンネルの一部を含む全長600mは廃止され、全線地中の900mが新設されたのである。この総工費は31億円と見込まれていた。(福島民報平成15年4月1日刊より)
この工事は予定通り平成16年に着工され、前回突撃した17年はその真っ最中だった。
そして18年に工事は無事終わり、再度開通したとのことである。
どうなっているのだろう。
2008/5/5 5:21
今日はこれから宮城県内でアルバイトです。
でも、昼までに着ければいいので、ちょっと寄り道します。
東北ではこんなパターンでちょこちょことプチ探索を重ねている私。
真剣さが足りないと山もお叱りなのか、大概天気は良くなかったり。
前回とそっくりの霧深き甲子道路だ。
でも、今回は誰の目も気にすることはないのだ。
車からチャリを降ろして出発!
前回は見ることも出来なかった剣桂トンネル(↑)をパパッと通り抜け、第一剣桂橋へ。(→)
甲子渓谷を右に見下ろしながら(今日は雲しか見えないが)、伸びやかに軽やかに高度をあげていく道である。
今年中には、このまま会津へと抜けられるようになる。
そうしたらこんなに静かな道路風景ではなくなるかも。
いまはまだ行き止まりの国道なので、ほとんど通行量はない。
渓谷沿いにある剣桂というカツラの巨樹を見下ろす事が出来る(はずの)、剣桂展望台。
だが私は知っている。
3年前にはこの展望台の敷地は、コンクリートプラントとなっていたことを。
この第一剣桂橋の下にある工事用道路跡からガッシャンガッシャン稼働するプラントを見上げ、ここからは進入できないと逃げ出したことは忘れない。
さすがは工事慣れした福島県。
跡地利用もさり気ないのだ。
さあ出て来ました。
因縁深い「きびたきトンネル」。
前回はこのきびたきトンネルの反対側坑口までコソコソと近づいたのだが、とうとう内部には入れなかった。
内部では明らかに工事の最中だったからだ。
だが今回。
「何事かありました?」なんて、イタズラ後の飼い猫みたいな顔した坑門が現れたぞ。
内部に何かを隠しているはずだ。
ピッコロロロ…
ピッコロロロ…
え? 何かって。
もちろん、キビタキのボイスです。
今のところ、特に変わったところも無さそうな きびたきトンネル。
まずは銘板から見ていこう。
きびたきトンネル
1985年10月竣工
福 島 県
延長295m 巾6.0m
高 4.7m
やはり、特に変わったところもないようだ。
本当にこのトンネルなのか?
5:28
ムムッ!
なんか奥の方に青と赤の二つの光が見える。
やはり何か様子がおかしい感じだ。
150mくらい先だろうか。
来たよ…。
トンネル内分岐だよ。
しかも、イレギュラーによる後付の分岐。
トンネル出口付近の線形改良の一貫として、坑門を付け替えたときにこんな風景が出来ることがある。
過去の例では、岩手県の白石トンネル(写真)とか。
でもこれは、それとはまた違う付け替え例だ。
おいおい。 さっきも銘板あったぞ。
二枚目かよ。
強引だな。
きびたきトンネル
2006年3月竣工
福 島 県
延長896.3m 巾7.0m
高 4.7m
名前とか同じだし。
しかも、延長896.3mって、トンネル全部じゃなくて新たに掘削した分だけだ。
まあ、施工業者が違うし、こうするのが一番平和だったのだろうか。
同一トンネル内に全く別内容の銘板が複数あるという、大変珍しいケースである。
さっき見えていたあの青い光は、この旧道から漏れてくる出口の光だった。
しかし、近づくとなぜか光は見えなくなった。
目の錯覚?
いや、何かあるはずだ。
ガードレールの裏側へ進む。
そう言えば、3年前に恐る恐る除いた洞内にもこんな形のシルエットは見えていた。
本来は一直線に295mであったきびたきトンネルに、900m近い新洞をつなげたのである。
トンネル技術が十分に発達した今日であっても、その施工管理には相当の苦労があったと思う。
なんじゃこりゃ。
これが外の光を隠していた正体だ。
1,2,3,4… 18,19
見えている19個プラス、背後にも相当の数の土嚢が詰まっているだろう。
やはり安全のためには、ドライバーに出口を錯誤させるような光が見えていてはまずいのだろう。
でも、将来的にもこれ以上埋め戻すつもりはないのだろうか?
左端に、ありがたーい抜け道が…。
そして、この隙間を5mほどくぐり抜けると…。
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5:34
現役トンネルに入ったはずが、廃トンネルが始まったぞ!(←わざとらしい)
ともかく、またここに戻ってきた!
あのときは来られなかった「きびたきトンネル」の洞内分岐地点から、廃止された新道区間の全貌を見通す。
本当に気持ちよいほど一直線だったのだ。
地形を多少無視してでも、徹底してスムースな新道を作ろうとしていた事が分かる。
いま見通している物は、まずきびたきトンネルの廃止部分。そして片見一号橋から片見トンネル。その先には廃止の原因となった「石楠花トンネル」まで見える。
この景色を、私は見たかった!!
工事が終わってこんなに容易に接近できるとは、あのとき無茶をした意味が薄れるようではあったが、それはそれだ。
さあ、走り抜けるぞ!
壁にある、断熱材が詰め込まれたこの隙間。
この形にピンと来たあなたは鋭い。よく道路トンネルを観察している。
消火装置があったスペースだな。これ。
3年前にはこういうのものも残っていたのに、やはり再利用できるものは転用したのだろう。
廃止部分については、当然のように“もぬけの殻”状態にされていた。照明も外されている。
しかし、銘板は寂しげに残されたまま。
わざわざ剥がして鉄くず屋に持っていくのもコスト高だったのだろうか。
哀れだ。
だが、扁額はすっかり取り外されていた。
これも3年前にはちゃんと付いていたのに…。
廃隧道であっても、扁額が取り外されるというのは珍しいケース。
もしかして、この行き先は… 新トンネルか?
ここから見ると、洞内は真っ暗。
土嚢の隙間を抜けてくるナトリウムネオンは、ほとんど坑口まで届いていないのだ。
さて、片見一号橋から片見トンネルへと進むぞ。
3年前は下の旧道から、この橋の下の沢を強引によじ登って、片見トンネルのこちら側に出て来たのであった。
今回はもう障害となりそうなものは何もない。
あっけなさ過ぎるくらいだ。
この橋も、トンネルも、これからどうするつもりなんだろう。
もう朽ちるに任せられるのだろうか。
まあ、どこかに転用というわけにも行かないのだろうが…特にトンネルは…。
旧道がこの谷の底を通っている。
谷はとても深い。
そして、片見トンネルへ。
この廃止区間内にある3本のトンネルのうちでも、一番気の毒なトンネルだ。
なにせ、自分自身には廃止の原因が無いにもかかわらず、ここにあったがために廃止されてしまったのだ。
“もらい損”ということではきびたきトンネルもそうなんだが、向こうは半分だけでも使われているし、現道にちゃんと名前も残ったのだからこれよりはマシ。
まあ、石楠花トンネルもそれ自身が地山崩壊の原因を作ったのかは分からないので、罪を計ることは難しいのだが。
ちなみにこのトンネル、見ての通り切り通してしまっても構わない程度の山なのだが、出来るだけ自然の動物たちの生活圏を荒らさないという目的(エコロード)から、こうやってわざわざトンネルにしたのである。
せっかく作ったのにねー…。
片見トンネル
1988年3月竣工
福 島 県
延長66.1m 巾6.0m
高 4.7m
今度は坑門の扁額も残されたままになっていた。
昭和63年には完成していたわけだが、一般車両に開放されたのはだいぶ遅れて平成7年のこと。そして、平成14年には“事件”により封鎖されている。
それでも、3年前にはまだ工事用車両が通っているのを目撃しているが、今後はもう二度と車が通る日は来ない。
甲子道路全体の開通を見届けることなく廃止された、甲子道路の一部分である。
あれ れ?
なにやら不穏な空気。
片見トンネルの出口あたりに、前はなかったバリケードが新設されている。
その先には、全ての元凶。
未だ通り抜けを果たしていない、石楠花トンネルがはっきりと開口しているが…。
ガーン…。
後編では、石楠花隧道へと熱烈アプローチ。
地層破壊の恐怖とは?!