2010/11/6 14:39 【現在地(マピオン)】
センターラインの消えかけた2車線道路。
おそらく昭和55年の着工からそう経っていない時期に建設されたのだろう。
直前の冬期閉鎖ゲートは開いていたが、「5km先で工事中につき通行止」の表示があった。
だが、もし本当に5kmも進めれば大前進で、6年前の探索で私が見た工事現場(終端)は、ここから2.7kmほど先である。
現在地の標高は約350m。
ここから、標高620mの奥羽山脈笹峠越えの登りは本格化する。
その経路は下前川と左草川の間の細長い尾根筋に付けられており、明治期のルートからも、そうは遠くないところである。
探索済みの区間は、自動車で高速進行中。
上の写真のところから少し登るとセンターラインが消え、1.5車線路となった。
それでも全く対向車も来ないので、道が狭いという感じはしない。
この辺り、同じ県道花巻大曲線の自動車交通不能区間でも、平成12年に長大トンネルを連ねた近代的山岳道路として遂に開通(ただし暫定開通部分が現在も残る)した「中山峠」とは、そもそもの整備に対する本気度(需要予測)の違いを感じずにはいられない。
中山峠は旧沢内村と花巻市を結ぶ標高810mの峠で、沢内と外部を結ぶ東西方向の交通路であることや、明治時代に本格的に開鑿された点など、笹峠とは近似する部分が多い。詳しくは『廃道をゆく2』参照のこと。
入口から1.5kmほど進んだところに牧草地のような一角があり、目指す稜線を広く仰視することが出来る。
しかしこの日は不思議な天気で、朝から晴れと雨とが幾度となく入れ替わっていた。
そして、お天道様も夕暮れを前に、遂に“こんがらがって”しまったのか、激しい天気雨に見舞われた。
あまり急なカーブや急坂は無く、2車線でないことを除けば、理想的な山岳道路である。
とはいえ、それは6年前と何も変わっておらず、特筆すべきことも無い。
そして、道路標識とか橋やトンネル、洞門といった、話題になるような物も無い。
だが、雨に濡れた紅葉は美しく、自転車で登ったとしても、さして苦にはならなかったであろう。
いやむしろ、早く自転車に乗りたかった。
14:52 《現在地》
キター!
見覚え有る景色来た!
自動車便利すぎる。県道1号との分岐地点からここまで約8kmあったが、20分もかかっていない。
奥羽山脈もこの辺りでは、意外にチョロいなり。
6年前の私は、この風景に後ろ髪を引かれながら、工事関係者に遠慮して立ち去ったのである。
それが今回はどうだ。
前はなかったバリケードを残して、全く人気がないではないか。
よし! チャリの出動だ!
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14:54
見覚えのある空き地に車を停めて、自転車を下ろす。
この空き地の背後の高い所が、明治以来の旧道の通っている尾根で、前回は峠からここまで、旧道を下ってきたのだった。
6年前には、3棟のユニットハウスと工事関係者の車で埋め尽くされていたこの空き地。
しかし、今回は完全に私一人きりだ。
麓の案内板には、「工事中につき通行止」と書かれていたが…、
今日はたまたま休工日とか、そうのでもなく…、
工事自体が終わっているっぽい。
雨に濡れたバリケード。
言葉少なく、ただ1枚。
「 通行止 岩手県 」
コンクリートブロックを用いた簡単には開閉の出来ないバリケードを見て、直前の“予感”は確信に近いものへ。
工事は終了
あるいは、中止か休止…。
バリケードの先の路面は、前回未舗装であったが、今回はちゃんと舗装されていた。
舗装された上で、さらに数年の経過を感じさせた。
改めて、笹峠周辺の地図を見てみよう。
現在地のバリケードは、県道1号との分岐地点から約8km、「5km先工事中」の案内板があった白糸の滝分岐地点からは、2.7kmの地点である。
案内板に従えば、現在の末端部はここから2.3km先ということになり、直線距離で800mしか離れていない県境の笹峠より奥へ進んでいることが予想された。
なお、ここから旧道を経由して秋田県側の工事末端部までは約3kmある(これは前回の探索で踏破済)。
また、現在地の標高は520mで、峠までの高低差は100mに過ぎない。
これらのことから、岩手県側の工事は既に峠まで完了しているのではないかという期待が持たれた。
誰もいないバリケードの先へ…。
真新しい路肩のガードロープは、全て支柱から取り外されていた。
意外に知られていないが、冬期閉鎖を行う道の場合、閉鎖期間中はガードロープを支柱から外して置くのが普通である。
そうしないと、雪の重みでワイヤーが伸びてしまったり、雪崩によって破断するようなことが起こるからだ。
この付け外しの作業は閉鎖の前後に人間の手で行われており、かなりの労力を伴う。
この道の場合、バリケードまではちゃんとガードロープが張られていたが、常時通行止めになっている奥部では常に外してあるのだろう。
なお、現在のバリケードの位置は、車を展開させる位置の便宜を考えて決定されているとのことである。(ソースは解説編で取り上げる)
そして、バリケードから数えて2つ目のカーブである
が、
すごかった。
ね?
ここからの眺め、絶対すごそうでしょ?
いったいどんな景色が見られるのか?
↓↓↓
鬱蒼とした森の中を通じる旧道からでは、得難い風景があった。
今まで背にしてきた沢内の谷をこんなにも見晴らせる場所を、私は他に知らない。
どれが何山かなどという野暮なことは、この際どうでも良い。
新しい道によって手に入れた風景が、ことさら美しかった。
そのことが感動的で、それを独り占めしている事実に興奮した。
この興奮には、エッセンスとしての背徳感も混ざっていた。
当然、設計者も“分かっていて”、このカーブはセンターラインなど敷かれていないにもかかわらず、非常に広い道幅が用意されていた。
「車を停めて、景色を眺めてみたらどうだい」というヒントだろう(そうとしか思えない)。
しかし現状では、地元にもこの宝物のような眺めを知らない人が大勢いそうだ。
ヘアピンカーブの90°までは素晴らしい見晴らしの世界だが、残りの90°は強引に山肌を削り取った、堀割のような道になっていた。
この道路の両側の高い法面には既にコンクリートによる保護工が施されており、緑化工事にも抜け目はなかった。
それはひと目で、「金を掛けている!」のが分かる風景だった。
後にも紹介するが、この辺りの道は建設反対派から“1億円道路”と呼ばれている。
それは、100m作るのに1億円の金が掛っているからだという。
巨大な堀割のカーブを抜けると、それまでの進行方向が反対になる。
そしていよいよ、6年前にブルが盛んに地山を削っていた、あの終端部に到達する。
そこで私を待ち受けていたのは、意外な景色だった。
え? これって…