トンネル(隧道)って、なんだ?
トンネル
1.山腹や地下などを掘り貫いた通路。鉄道・自動車道・人道や水路用。隧道。 (2.以下略)
色々な辞書を見てみると、トンネルとは、山や地下を掘抜いた人工の通路を指すものらしい。
我々も特に意識せずとも、普段からそのような用途で使ってきたと思う。間違っていなかった。
中国地方のちょうど真ん中辺りに位置する岡山県新見市に、
そこは以前探索して紹介した、岡山県道50号の万年通行止区間である“無明谷”から東へ6kmほど離れた高梁(たかはし)川沿いで、近くを国道180号が通っている。
「鬼女洞」の名前は、地理院地図をはじめ、市販の地図にもだいたい書かれているが、その扱いは大きくなく、すぐ近くにある新見市最大の鍾乳洞である井倉洞や、高梁川の紅葉の名所である井倉峡、あるいは絹掛の滝が幅を利かせている。
鬼女洞は、その名から容易く予想できるとおり、鍾乳洞である。
鍾乳洞
石灰岩の割れ目から入った雨水や地下水の溶解作用によってできた洞窟。洞窟内は地下水が流れ、天井からは鍾乳石、下には石筍が立ち並ぶことが多い。石灰洞。
鍾乳洞は、人工物ではない天然物だ。すなわち、辞典的にはトンネルたり得ない。
しかし我々道路ファンは、その僅かな例外を知っている。
当サイトでは未発表だが、私も執筆に参加した『日本の仰天道路』(間もなく三刷増刷開始!)の巻頭に盟友よごれん氏が執筆された、岡山県道300号にある羽山第二隧道がそれである。
私も探索済みだが(すぐ近くの羽山第一隧道はレポ済)、あの素掘りのトンネルは天然の鍾乳洞を一部活用して掘られた、天然物と人工物のハイブリット・トンネルなのである。だから完全な人工物ではないし、完全な天然物でもない、トンネルであり鍾乳洞でもある、不思議な存在だ。
ちなみに、あそこと、この鬼女洞は、直線距離なら10kmほどしか離れていない。
この地域は、山口県の秋吉台と並ぶ一大カルスト地形(石灰石地帯)として知られる阿哲台を構成している。
天然洞はトンネルたり得ないというのは、辞書はともかく、道路世界では些か常識に収まりすぎた考え方といえるもので、鍾乳洞ではない海蝕洞を再利用したトンネルなどは、古今東西相当の数が知られている。こことかね。
少し前置きが長くなった。
今回紹介するのは、鬼女洞である。
この鍾乳洞には、地図上から読み取れる、とても変わった特徴がある。
地理院地図上の表記が、めっちゃトンネルだwww
←地形図で用いられる地図記号には、「トンネル」と「坑口」が別々に存在している。
「トンネル」は、その辞書の意味通り、人工の地下通路を表現するものとして使われているように見受けられる一方、単体の「坑口」の記号は、海蝕洞や鍾乳洞などの天然洞の坑口や、あとは人工物だが鉱山坑道の坑口にも利用されている。
鬼女洞は天然洞だが、少なくとも地形図の表現上だと、全長約200mの直線の道路(徒歩道)トンネルである。そうとしか見えない。
そしてこの地形図の表記に引っ張られているのか、手元のスーパーマップルデジタルなんかも同じように表現している。まるでトンネルのように…。
鬼女洞とは一体いかなる素性の穴なのか。
この地図表現を見たことで、初めて興味が湧いたのである。
というようなきっかけで調べを始めたのであるが、まずは現地へ行く前に軽い下調べをした(相手は私が慣れている「トンネル」ではないので普段以上に慎重に…)。
お馴染み『角川日本地名辞典』には、単独で「鬼女洞」の項目があり、次のように解説されていた。
鬼女洞(きめんどう)
新見市法曽字柏のドリーネの底に開口する鍾乳洞(石灰洞)。ドリーネの水が流入する吸込穴が洞口であり、末端は高梁川に面した石灰岩の岩壁に開口している。洞口が2つあり、貫通したトンネル穴。どちらからでも入洞可能である。吸込穴としての洞口は巨大であり、高さ15m、幅17m。平常は流水は少ない。洞内の天井の高さは約7〜15m。二次生成物は発達せず、つらら石・石筍・カーテン・石灰華がわずかに見られる。洞内には洞床より0.3〜1mの箇所に円礫の堆積層があり、豪雨時の状況が推定される。かつて観光洞として開発したが、交通の便、洞内景観ともに観光に適さず失敗した。
「洞口が2つあり、貫通したトンネル穴」で「かつて観光洞として開発したが、交通の便、洞内景観ともに観光に適さず失敗した」、それが鬼女洞……。
なるほど、かつては観光客たちがこの洞内を通り抜けて(貫通して)いたのであろう。
そのような洞窟の特徴をわかりやすく表現するために、地形図の作成者はここに坑口と坑口を結ぶ坑道の線を書き込み、まるで全長200mの直線の道路トンネルのように表現したのであろうと想像する。
観光客が往来した事実を以て、鬼女洞はトンネル(すなわち交通施設)として利用されたものであると結論づけるのは、些か乱暴だろう。
観光客の目的はおそらく通り抜けにはなく、洞内の観光であったろうから、山を潜り抜けるための交通施設とはちょっと違う気がする。
その点において、先の羽山第二隧道や松陰くぐりほど、“トンネル的”ではない。
とはいえ、廃れた観光洞という部分にも些か興味を惹かれたし、それともう一つ、地図を見ていて気になる部分を見つけたのだ。
それが分かりやすいように、今度はカシミール3Dで地形を立体的に表現してみよう。
鬼女洞がトンネルの様に描かれている地形図を立体的にしてみると、現地の地形の特徴がより分かりやすい。
鬼女洞の西口がある「柏」という集落は、全体が盆地を通り越して傾斜の強い巨大な窪地のようになっているが、これがカルスト地形に特徴的なドリーネという浸食地形である。かつて学生時代に地学の授業で耳にした御仁も少なくはないだろう。
で、そんなドリーネに集まった雨水は、その底に口を開けた吸込み穴(ポノール)に呑み込まれ、地下の洞窟(鬼女洞)を流れて、出口である吐出し口から高梁川に放出されているのである。
この地下水の流れが鬼女洞を造った機序の全てであり、そこに人の力は介在していないとみられる。
(だから地形図の表現ほど洞内が一直線だとは思えないが、まあそれはおいおい…。)
で、この立体図だとより印象的に見えるのが、洞窟の東口から高梁川の縁を走るJR伯備線の線路まで続く、恐ろしく急傾斜な徒歩道の存在だ。
観光洞であったというのなら、この線路上に駅でもあって、坑口まで観光歩道が続いていたのだろうか。
駅などあった気配はないが、この歩道は地形が凄まじく険しい事も含め、今どうなっているのか、とても気になる。
対岸には国道180号が通じているが、川を渡る橋が見当らないし、線路側から鬼女洞へ行く手段が思いつかない場所である。
私が興味を感じるものが幾つも重なり、探索のプランが固まった。
西口の柏集落から出発し、鬼女洞を通過後、東口から伯備線の線路まで歩道跡?で到達することを目指す!
なお、鬼女洞をキーワードにして検索すると、あまり新しい情報は多くないものの、探索の記録は少なくない。
その多くは洞窟ファン(ケイバー)たちで、道路として云々しているひとはいなさそう(笑)。
だから、東口に通じる歩道跡?については、マジで情報が少なかった(楽しみ)。
幸いにして、かつて観光洞であったくらいだから専門的な洞窟技術はなくても通り抜けできるようだし、そもそも封鎖されていないという情報が嬉しかった。
鬼女洞へGOだ!
(この探索を後えたとき、私はトンデモナイ人物と遭遇する……)