今回久々に《旧安曇村の廃道たち》に列せられるべき新作を公開したい。
とはいっても探索自体は2014年と少し前で、でも今まで公開しなかった理由が特にあるわけでもない、しかしここに、なかなか刺激的なトンネルがあるのは事実だ。
右図は松本平から上高地までのかなり広い範囲の地図だが、今回紹介したい道は、松本市安曇の島々(しましま)集落から北に6kmほど入ったところ(図中「探索区域」枠内)にある。
路線名をいまは敢えて書かないが、それには探索のきっかけに関わる理由がある。まずはそれを説明したい。
少し壮大な話をしよう。
平成17(2005)年まで松本平の西の端に南安曇郡三郷村があった。現在の安曇野市の三郷地区である。
ドライブブームが列島にセンセーションを巻き起こしていた昭和40年代、この村の人々は、村名を冠した“三郷スカイライン”という名の観光道路の建設に奔走したことがある。
三郷スカイラインの目的は単純明快。日本有数の観光地である上高地と三郷村を最短距離で結ぼうとした道路だった。
右図を見れば一目瞭然だが、三郷と上高地は山を挟んで隣り合っている。直線距離なら……(という書き出しなら近い距離を想像するだろうが…直線距離でも……)18kmほどであるが、そこにあるのはアルピニストに愛された常念山脈の2000〜2600m級の峰々だ。これを文字通り真っ向から乗り越えて上高地へ辿り着こうとした。
こう書くと荒唐無稽のようだが、一時は長野県も大いに加勢し実際に工事が行われた。まず第1段階として、村はずれ(海抜750m)から約8kmを整備して、終点の海抜1400m付近に登山基地を兼ねた「展望台」を開設することに成功した。その後は休日に登山バスを走らせるなどの需要喚起に努め、将来のスカイライン延伸の布石となる常念山脈縦走による上高地登山ルートを一般化させようとした。
やや勇み足気味に第二期工事もスタートし、九十九折りのパイロット道路が海抜1650m付近の国有林と民有林の境まで延ばされた。
だが、そこに立ちはだかったのが、国有林の分厚い壁だった。言わずもがな、上高地を核心部に据えた北アルプスの高山は、多くが車道新設の難しい保護林だ。特に核心部は厳重に保護された国立公園による保護地域である。もちろん、村や県は陳情によってこうした幾重もの保護の壁をぶち破ろうと考えていたが、一番外側の国有林の壁さえ越えることが出来ず、計画は敢えなく挫折。結局、開通したのは第一期工事分だけだったというのが、三郷スカイライン(現在の長野県道319号と495号の各一部)である。詳しくは私の『廃道探索 山さ行がねが (じっぴコンパクト文庫)』(Kindle版もあるよ!)をご覧下さい。
この三郷スカイラインの探索が、なぜ今回の島々谷での探索と結びつくのかという話を次にする。
私は2008年と2009年の2回にわたって三郷スカイラインの探索を行ったが、1回目の時に、スカイライン(第一期区間)の終点である「展望台」で、次の写真の分岐を見た。
未成に終わったスカイライン第二期区間の入口(左)は完全に廃道状態であり、常念山脈縦走の登山コースは右の道を行くことになるのだが…。
チェンジ後の画像は、その右の道の入口に立つ、お馴染み国有林林道の林道標識だ。
そこには、「島々谷(鍋冠)林道」と書いてあり、延長の欄と竣工年の欄は空白であった。
私は、三郷スカイラインとの関連を調べたい思惑があり、この一般車通行止めの林道へ侵入したところ、地形図にも描かれている通り、展望台から2.7kmで海抜1722mの「峠」(次の写真)に達した。
かつてスカイラインが国有林保護の壁に遮られてついに辿り着けなかった峠に、国有林林道は簡単に辿り着いていたところに、道を作ることのバックボーン的な難しさを感じたが、その話をここで長々としても仕方がないので、本題へ近づいていく。
松本市(旧安曇村)と安曇野市(旧三郷村)の境である峠は、またも分岐地点であった。
今度は右に行くのが常念山脈縦走登山道であり、かつての三郷スカイラインの構想ルート(未着工区間)でもある。
そして林道は今度は左だった。
この分岐にも林道標識があった。チェンジ後の画像がそれ。
「島々谷(島々)林道」とあって、やはり竣工年と延長は空欄だった。
林道は、深い切通しで峠を越えると、路線名が示すとおり、直ちに島々谷の源頭谷へ入り込み、険しい山壁を大きく削りながら南へ下り始めた。
トラバース基調ではあるが着実に下り続け、やがては島々の集落まで下りきるのではないかという期待と不安が湧き上がった。
だが、やがて大きな崩落(右写真)を境に激藪の廃道状態となり、自転車を担いでの奮闘を余儀なくされた。
廃道化した区間に入ってからも、昭和57年の設置年の書かれたガードレールを見ており、その年代に新設された林道であろうことを伺わせた。
途中の眼下に広がる島々谷は厳かで、雲霧に煙る奥山の神秘に心を奪われた。
結局、峠から数えて3.0kmキロの標柱を合図に、左写真のような明確な行き止まりが現われて、苦しい探索は終わった。
単独では発表する機会もなさそうだから、ここで駆け足に紹介してしまったが、島々谷林道はこういう行き止まりの廃林道である。
改めて、島々谷林道の終点は、峠から3km(展望台から5.8km)海抜1580mの位置にあって、これは最新の地理院地図上に描かれた道路終点位置通りだった。
私は三郷スカイラインの探索をしに行って、成り行きから島々谷林道の終点を極めたが、この時に強く感じたのは、島々谷林道は島々集落側の道に繋がる計画を持っているのではないかということだ。 そう考える強い根拠があるわけではないが、その方が美しいではないか。(←おい!)
……で、ここまで長々と話して、実はあんまりこの話は本編と関係がないことに気付く。(←おいおい!)
これはあくまでも、なぜ私は島々谷に興味を持ったかというきっかけの話であって、しかもおそらくこの探索がなくても、いずれ行くことになったとも思う。
というか、前から気にはなっていたのだ。
島々谷の奥へ……今度は島々集落がある下流側から道を辿っていったときの奥のことで、普通はそちらを思い浮かべるはずだ。島々を起点に島々谷を遡って徳本(とくごう)峠越えで上高地入りするルートは、常念縦走よりは遙かによく親しまれてきた上高地への登山ルートである。もっとも、近年の利用者は昔ほど多くはないだろうが……登っていく道の先に待つ、
次のような“地形図上の風景”は、だいぶ前から気になっていた。 ↓↓↓
二俣トンネル
↓
鈴小屋トンネル
↓
ワサビ沢トンネル
↓
即行止り!!!
これはいったいどうなっているんだろう?
(やっぱり、未成道っぽいよな……?)
わざわざ3本ものトンネルを掘っておきながら、即座に行き止まりなるとは面妖也。
見に行かねばなるまい!
(長い前置きはなんだったんだというシンプルな探索動機だ……笑)