令和7(2025)年6月21日に、初めてメールをいただく加藤氏という方から、完全に初耳である情報の提供があった。
それは次のような内容だった。
加藤氏からの情報提供メール
今回おそらくこれまでネット上に情報のなかった隧道を発見したので情報提供させていただきます。
富山県の称名滝の手前に雑穀谷という北陸でも数少ないクライミングエリアがあるのですが、その上部、今では登られていないエリアに手掘りの隧道を見つけました。
ごく短いものも含めて五本あり、一部這いつくばらないと通れない程度に崩落してる箇所もありましたが、全て貫通しています。
上流側は崩落と工事による立入制限のため、下流側は深い藪のため、この道がどこからどこへ通じているものかはわかりませんでした。
ただおそらくは砂防ダムの工事のためのものではないかと考えています。
駐車場から、がれた谷を登り10分ほどでたどり着ける場所であるため、もし富山に来られる際には調査いただければと思います。
また写真を数枚添付させていただきます。以上、よろしくお願いいたします。
このような内容であった。
富山県の雑穀谷という地名に全く心当たりはなかったが、それは私がロッククライマーではないからだろうか。
しかし驚くべきは情報の内容で、なんと5本の隧道があるという。
雑穀谷(ざっこくだに)がどこにあるかというと、だいたいこの辺にある。(↑)
富山県立山町の有名な称名滝(しょうみょうだき)へ向かう県道が、その駐車場の2kmほど手前で渡るのが雑穀谷だ。
私は子供のころに家族旅行で称名滝へ一度だけ行ったことがあるが、当然その時に雑穀谷へ意識を向けることはなかったし、大人になって廃道探索をするようになってからも、この称名川の周辺エリアには一度も足を踏み入れたことがない。
理由は単純で、探索の対象となるようなものを何も認識していなかったからである。
だが、この加藤氏のメールは、これまで探索者として全く無関心であった雑穀谷に私の興味を惹きつけるには十分すぎる内容であった。
最新の地理院地図で雑穀谷を見てみる。(↑)
当然ながら、情報提供にあった隧道が描かれていたりはしないし、隧道があるという道も描かれてはいない。
地図には雑穀谷の入口を通る県道から約600mくらい奥まで1本の軽車道が描かれているが、この道に隧道があるわけではないらしい。
なおこの雑穀谷自体は相当に奥深い谷である。
入口から2kmほどの所にある発電所取水口までは、その凄まじい高低差を埋めるようにおびただしい数の砂防ダムが描かれている一方で、その奥は一転して相当に技術がある登山者でなければ遡行できないハイグレードな渓流であるらしい。したがって奥地はとても私が辿り着ける領域ではないのだが、幸いにして隧道群は、「駐車場から、がれた谷を登り10分ほどでたどり着ける場所」とのことだから、車道や砂防ダムが存在する谷の入口付近にあるものらしい。
土地鑑がなさ過ぎて、最初にいただいた情報だけだと、雑穀谷のどこで道を外れて探しに行けば良いのか分からなかったので、ここで私は加藤氏に“おかわり”をお願いした。
最初のメールに返信する形で、追加の情報を頂戴したのである。
加藤氏からの情報提供メール(おかわり)
所在としては雑穀谷の北岸(右岸)側になりまして、クライミングエリア側にあります。
写真1枚目がクライミングエリア全体を写したものでして、そこでマーキングした箇所の写真が2枚目の写真になります。
ルンゼ状のガレを登り2枚目写真中のマーキングした場所まで登っていくと隧道に気がつくかと思います。
大体谷底からは50メートルほどの高さでしょうか。
上流側だともっと高度は下がり、道路から10メートルほどの高度にまでなるかと思います。
このルンゼ状ガレから登るのが最も発見しやすいと思い、そのほかの開口部は崩落の影響もあり道路から気づくことは難しいと思います。
上記の写真が私の見つけた4本目と5本目の隧道がある箇所で、マークした場所に4本目の隧道の坑門が写っているはずなのですが、ほとんど気づくことはできません。
この懇切丁寧な“おかわり”のおかげで、不案内な私でもようやく探すべき場所のイメージを掴むことが出来た。
そして、最初のメールにあったように、この場所が「北陸でも数少ないクライミングエリア」であるということも写真から理解した。
クライマーでもなんでもない私が隧道へ辿り着けるのかという一抹の不安はあったが、そのくらいは実際に自分の足で確かめることとしよう。
探索前にもう一つだけ私が不案内である事への言い訳をしておくと、この場所で発見された隧道たちが歴代の地形図に描かれたことは一度もなかった。
だから、普段はそういうものを頼りにしている私のアプローチだと気づけなかった。
そして、それほどまでに私の知らない存在であっただけに、発見された隧道群が“なんなのか”も、見当が付かなかった。
雑穀谷にある膨大な数の砂防ダム(現在もダム工事は続いているらしい)は目を引く存在であり、加藤氏が推測されている通り、「砂防ダムの工事のためのもの」、つまり砂防工事用の道路や軌道の痕跡という可能性は高そうだ。他にもう一つだけ個人的に可能性がありそうだと思ったのは、砂防ダム群とともに雑穀谷に描かれているもう一つの人工物である、発電所の導水路に関わる工事用道路や軌道という説だった。
何はともあれ、まずは現地を見てからじゃないと、これ以上を調べる気にはならないよ。
(偏狭なんだけど、自分が辿り着けない場所では机上調査のモチベーションを保てないのだ)
いざ、雑穀谷ロックゲレンデへGO!
「称名道路」を登って雑穀谷へ
2026/5/10 7:16 《現在地》
ここは桂台の分岐地点。
正面に伸びているのが、称名滝へ通じる富山県道170号弘法称名立山停車場線、別名“称名道路”である。
また、フレーム外だが右方向には富山県道6号富山立山公園線“立山道路”が伸びており、立山連峰の主要な登山口である室堂まで通じている。
雑穀谷の入口まで約600mと迫っているここから自転車に乗り換えて進むことにした。
レポートもここからはじめる。
称名道路イン。
この道路は称名川の右岸に沿って、海抜660mの桂台から、3km奥の称名滝駐車場まで一般車両に解放されている。
同駐車場の海抜が970mくらいあるから、単純計算で平均勾配10%を越える急坂路である。
大型観光バスも通る道路なので整備は行き届いているが、自転車にとっては決して甘くはない。
雑穀谷が600m先という手近な位置にあってくれることに、感謝した。
7:23 《現在地》
急坂の洗礼をさっそく浴びながら7分後、約50m高度を上げて海抜710mの地点で、仰ぐようなアングルで分岐地点が見えてきた。奥には橋の姿も。
さっそく到着。ここが雑穀谷の入口である。
一旦分岐を素通りして、称名道路が雑穀谷を跨ぐその名も雑穀谷橋の上へ進む。
ぞうぞうと、本流以上に盛大な水音を上げている雑穀谷を橋から見下ろす……いや、見上げると、地形図のとおりに沢山の砂防ダムが折り重なるように連なっていた。
私が目指す場所は、地図上にはっきりと場所を示せるような形では分かっていないが、とにかくこの雑穀谷沿いの道を上っていけばクライマーたちがトレーニングに利用する大きな岩場があり、その一角に隧道へのアプローチとなるガレ谷はあるらしい。写真を見せて貰っているから、現場に行けば気づけると思う。
確かにここからでも、それらしい切り立った岩場がちょっと見えている。
あのへんっぽい。
県道とは比べものにならないレベルの急坂だな。
特に入るなとも入れとも書かれていない雑穀谷沿いの道の入口はコンクリートで舗装されていた。
物凄い坂道である。上流に数十基はあろうという砂防ダムたちは、この道によって作られたのだろうか。
それとも、別の道が……。
この急坂に怖じ気をなしたわけではないのだが、自転車はこの入口にデポしていくことにした。
ここからは徒歩でこの車道を上っていくぞ。
立て板のような舗装路を上っていくと、一瞬で雑穀谷橋は足元に消えていった。
そして……
7:32
入口から5分くらい歩くと、相変わらずの激坂の先に、コンクリート舗装と同じ色をした山肌の一角が現れた。
クライマーでなくても、クライマーが好みそうだと分かるような、そんな岩壁だった。あそこがロックゲレンデだろうか。
手前にある電柱やカーブミラーとの対比で、その岩壁が相当に高いものであることが分かると思う。
あの岩壁を登らなければ辿り着けない隧道だったら完全にお手上げなんだが、情報だとそういうことではなさそうだった。
とはいえ、あんな岩壁があるエリアを探索するとなると、やはりそれなりの危険度にはなりそうだ。心しないと。
7:35
岩壁の巨大さを物語るように、見えてからもまだ少し道のりがあって、視界からも一時的に消えた。
代わりに立ちはだかったのは、広い谷幅を塞ぎきる巨大な砂防ダムである。
これまた一台の工事用車両が、良いサイズ比較対象になってくれている。
本体に取りつけられた銘板によれば、これは雑穀谷第3号ダムという構造物で、昭和56年着工、60年完成とのこと。
谷だけでなく、道も堰き止められていそうな雰囲気だが……
7:36 《現在地》
蛇行しながらこれを乗り越えて…… あっ!
【見覚え】
あるぞ、正面の窪んだところの風景は!
いま右の方に見えているのが、さっき正面に見えていた高い岩壁だ。
情報にあったクライミングエリアのイメージとも合致している。
ここだここだ!
こんな場所に隧道が…?!
率直な感想は、まさにこれ。
歴代の地形図に一度も描かれたことがない道が、この上を横切っていて、そこに5本もの隧道があるという情報は、どことはいわないが過去に私が(騙されて?苦笑)探索したいくつかの未確認情報と近しいレベルの突拍子の無さである。
私の探し力不足だったのか、情報に誤りがあったのかは、情報提供者との連絡が途切れてしまったために永久の謎になっている、そんな過去の苦い経験(複数)を思い出してしまう。
が、今回は写真もある!! 加藤氏との連絡も継続できている。
あるんだここにZUI★DOUが!(確信)
あとはこの足で登って、ありつくだけ!!
なお、情報の通り、ちょうどこのガレ場や岩壁の下に広い駐車スペースがあり、クライマーたちに解放されているような感じだ。
一方で、この先には行くなよという砂防関係者からの意思表示も、言葉や文字でなないが、目に見える形であった。
今は現場一帯無人のようだが、こんな分かりやすい通せんぼある?(笑)
情報によれば、この道をさらに辿っていくと隧道群との高低差が縮まっていって、最終的には道の10mくらい上まで近づくということらしいが、どこまで行っても道から隧道群は見えないとのことだから、教えられたとおり、背にしたガレ場からのアプローチを敢行しようと思う。
いざいざ登高!!
教えられたガレ場を攀じ登ると……
7:36 《現在地》
間違いない、ここだ。
情報にあった、現場。
ここからだいたい50mくらい目の前のガレ場を登ると、「4本目と5本目の隧道」がある場所に辿り着けるという。
が、これも情報の通りであったが、こうして道から見上げても、ガレ場の上にそれらしい気配は全くない。
隧道は見えないし、隧道があるなら一緒にあってしかるべき前後の道というものも、全く見えなかった。
したがって、もし何かの偶然で私がこの場所へ来たとしても、ここを登ってみようとは絶対にならなかったと思う。
それは情報提供者の加藤氏も同様であったはずで、やはり彼にはここを登る別の理由があった……つまりは、ロッククライミングをするためにここを訪れたのだろう。
……それはともかく、次にやるべきことは明確だ。
登高開始!
これは取り付いた直後に振り返って撮影した写真。
奥に見える日本離れした規模の岩壁は、悪城(あくしろ)の壁と呼ばれる、称名川と立山溶岩台地を分ける、落差500mという日本最大の岩壁である。
登ろうとしているガレ場とは規模が違いすぎるこんな岩壁を背にしながら、登っていくのである。
7:39 (登り始めて2分後)
珍しく持参したヘルメット(自転車用だが)を被ってから、ガレ場の斜面に取り付いた。
ガレ斜面は幅が10m以上あり、傾斜は最初からかなり急だ。
特に道や踏み跡はないが、上ろうと思えばどこでも登れる感じの良く締まった崖錐斜面だった。
右も左も切り立った岩場(おそらくそこがクライマーのゲレンデなのだろう)で、このガレ斜面だけが徒手空拳でも登っていける地形になっている。
ただ、繰り返しになるが、クライマー以外が登っていく動機を持ちえない場所だ。
見上げると、このガレた斜面には明確に終わりが見えている。それがだいたい下から50mくらいの高さだと思うのだが、崖錐斜面の上は切り立つ崖になっていて、行き止まりのように見えていた。
7:41 (登り始めて4分後)
今日は私の他に誰もいない斜面を、黙々と攀じ登る。
まあ、写真だとあまり変化が感じられないと思うが、30mくらいは高度を上げていて、おそらく高所が嫌いな人なら足元を見たくないと思う。
崖錐斜面の宿命で、登れば登るほど傾斜は少しずつ強くなっていく。
徐々にガレ場の幅も狭まってきて、両側の切り立つ岩壁が近づいてきた。
進むべきルートの選択の幅も減ってくる上に、上部の岩場から剥がれ落ちてきたカミソリ刃のような岩塊も目立ってきて、登高に不便を感じ始めた。
背後には、ほんの少しだけ背比べに立ち向かっている成果が感じられる悪城の壁が。
雑穀谷と称名川を隔てる稜線との背比べも同時に進んでいるが、こちらは幾分勝算があるというか、少し登っただけでもどんどんと奥の悪城の壁が見えやすくなる変化があった。
私の中では、称名川の一帯というのはことごとくこの悪城の壁のような場所という印象があって、とても私が探るような交通遺跡の眠る土地とは思っていなかったが、今回その無知を思い知ることになりそうだった。
ありがたいことである。
7:43 (登り始めて6分後)
ゴールというか……、私が登れそうな地形の終わりが近づいてきた。
ここまで来ると傾斜は急で、そのうえ手掛かりになる草も疎らになってきた。
グリップが弱い良く締まった砂地の斜面である。
ただ、ありがたいことに、ここには存置ロープがあったので、それを補助に使ってガシガシ登った。
なお、未だにはっきりとした隧道や道の痕跡は見いだせていないが、しばらく見え続けている“黒い影”の存在は認知していた。
ある辺りからずっと見え続けていて、未だに“見間違い”として除外されないままにあり続けている、黒い影だ。
おそらくアレが……。
7:44 (登り始めて7分後)
“黒い影” × 2 !!!
さっきから見えていたのは、右の方に見えている影だけだったが、反対側の左の壁にも、ほぼ同じ高さに、まさに対となるような感じで、黒い影が見えてきた!
このガレ場を登れば2本の隧道に遭遇するという情報と合致する状況だ。
しかし、ここまで来ても見えてきたのは穴らしき影だけで、それらを繋ぐ道があるのかないのか……、わからん。
ともかく、それらしき場所まであともう一歩だ!!
7:47 (登り始めて10分後)
もうこれ以上は、素手の私には登れない所まで来た。
道からは、きっかり50mくらいだったと思う。
果たして、黒い影と見えたものの正体は――
隧道だった!!
こっちにも!!
登ってきたガレ場の両側に、小さな隧道が口を開けていた!
情報、マジだった…… すごい。……感激。
続く