ミニレポ第196回 秋田県道248号 春山田沢線 前編

所在地 秋田県仙北市
探索日 2014.09.09
公開日 2014.09.13

ささやかな罠が待ち受ける県道 


皆さまの中にも訪れたことがあるという人が沢山いるだろう、秋田県有数の景勝地である田沢湖である。

日本一の水深(423m)を誇る神秘の湖の成因は火山カルデラといわれており、ほぼ円形をなす湖の周囲を外輪山に囲まれている。
そのため、湖へ至る道路はすべて、峠越えである。

現在、車が通る事が出来る湖畔への道は、全部で5本ある。
西の旧西木村方面からは県道38号と60号、南からは柴倉林道、東の旧田沢湖町方面からは最大の利用度を誇る県道38号、そして北から、今回取り上げる県道248号が通じている。
ちなみに旧西木村や旧田沢湖町は平成の大合併で仙北市として一体化しており、これらの道はすべて仙北市内で完結している。

県道248号の路線名は春山田沢線といい、旧田沢湖町の田沢地区と、田沢湖の北岸を結んでいる。
全長3843mという比較的短い路線だが、柴倉林道を除く他の湖畔道路に較べて整備が著しく遅れていることが、最大の特徴である。
しかし、冬期閉鎖以外は大抵解放されているので、程ほどの“険道”として楽しめる他、行楽シーズンにしばしば起きる湖畔道路の交通過密(現在は渋滞するほどではないが)から逃れる裏道、抜け道として、一応の利便性はあるように思う。

それでは、田沢側から紹介しよう。



2014/9/9 14:52 《現在地》

これが県道248号の“終点”の交差点。
左右の道は国道341号で、奥から来るのが県道248号である。

県道の側には大きな青看が見えているが、国道側には青看は無論、信号機や、停止線さえ存在しない。
カーナビや道路地図を見ていなければ、ここから田沢湖へ通行できるとは思わないだろう。
4km弱の道のりとはいえ、田沢湖は写真奥に見える山並みの裏側にあり、歴とした峠越え路線である。

秋田県オリジナルデザイン(他の県で見たことはないのでたぶん)の県道用キロポストも発見。
1km置きに起点からの距離を表示するのがメインの使い方だが、起点と終点には数字の代わりに路線名を記したものが置かれるのが通例で、秋田県内の道路巡りをする上では重要なチェックアイテムである。



県道側にある立派な青看。

この道へ入り込み、完抜してみせるくらいの旅行スキルがあるドライバーには、おそらく不要なものと思われるが、将来的には国道側にも同様の青看を設置出来るくらいまで、県道の全線を整備をしようという心意気のようなものが伝わってきた。

この終点からしばらく…山間部に入るまでは、この青看が相応しいくらいにしっかり整備されているのである。




県道は蛇行する玉川左岸の肥沃な舌状地をゆったりカーブで横切りながら、次第に川へ近付いていく。
道の両側には色づき始めた稲田が広がり、その果てに濃い夏色の里山、さらに遠くに青みがかった高き山々が囲繞する、我が国の山村原風景を強く感じさせる眺めである。
先ほどからすれ違うのは、広い道幅に不釣り合いな軽トラばかりだ。




県道の左手の眺め。

一際高く聳えるのは、岩手県境奥羽山脈の一座たる駒ヶ岳だ。




一方こちらは右手の眺めで、昭和31年に合併し田沢湖町の一部となる以前の田沢村の役場所在地だった下田沢集落だ。

この県道も認定当初は、下田沢集落内で国道(の旧道)から分岐するルートであったが、いつの間にかこの立派な2車線道路に付け替えられていた。
工事を見ていた村人たちは、あと数年もかからず湖畔までこんないい道が通じると思ったのだろうな。



14:58 《現在地》

終点から850mで右より旧道が合すると、そのまま玉川を渡る橋にかかる。

幅は2車線分あるが、これまでの新道よりは幾らか古びて見える、コンクリート路盤も露わな橋の名は中島橋という。
銘板によれば竣工は昭和48年3月と、やはり結構な壮年橋であった。
逆に言えば、昭和48年当時には、この県道を2車線化する計画が既に存在していたということかも知れない。

橋を渡ると、見附田地区。
いよいよ外輪山の山裾である。



14:59 《現在地》

橋を渡って100mほど進むと、県道は正面に来た外輪山の裾野を撫でるように緩やかな左カーブとなるのだが、このカーブの直前に、ちょっとした罠がある。
まあ、引っ掛かっても命に関わるような罠ではないので、他愛のない“いたずら”と言ってもいいかもしれないが、しかし道路上でこれだけ正々堂々と発動される罠は珍しさもあり、記録に留めておく価値のあるものだと信じる。

道路の左側に見える標識に注目!!



この十字路、おそらく何の標識も無ければ、100台中99台が直進して、何事も無く先へ進んでしまうだろう。
だが、なぜかここに 「田沢湖畔 左折」 を指示する案内標識が立っている。

…まあ、普通に考えて…… この標識は撤去し忘れである。
道路管理者による撤去忘れ。
直進の県道が開通したのは、早くとも平成15年以降である(根拠は後ほど)。
それまでは、ここを左折するのが県道だったに違いない。

狭い旧道へとわざわざ迂回させてしまう、こんなに目立つ標識を撤去せずに放っておく。
これにクレームが来ていない時点で、本路線の利用度が知れるだろう…。私もクレームなんで言わずに、生温かく見守りたい。



もちろん、道路管理者様の指示は絶対であるから、左折して狭い旧道へ入る。

すると、即座にデリちゃん(デリニエータ)の裏切りに遭った。

「田沢湖町」って…! ここが県道ならば「秋田県」と書いてあるべきなのに。
ちなみに田沢湖町が仙北市となったのは、平成17年。
この区間の旧道化は、それよりも前らしい。

で、そんな裏切りにもめげず、というか性懲りもなく、2度目の(撤去し忘れ)案内標識が見えてきてる。不親切なんだか親切なんだか分からない(笑)。



100mほどで突き当たりの丁字路。

そしてここにも案内標識があり、これで先ほどの案内標識が“誤認”ではなく、確かにこちらの道を指し示していたことが確定した。

まあ、ここは純粋に案内標識があって良かったと思える場面だ。

なぜなら…




なんの予備知識も案内標識もなく、この畦道のような道(つうか畦道だよね)に進むのには、勇気が要る。
自転車の私は気軽だが、自動車でこういう道へ入る気持ち悪さは、皆さんもたぶん苦い思い出と不可分のものとしてお持ちだと思う。

県道248号旧道の可愛らしい狭隘に歓喜しながら前進すると、まもなく見覚えのある場面へ。



この斜め十字路で旧県道を横切るのは、平成15年に探索した玉川森林鉄道の廃線跡である。

当時のレポート(玉川森林鉄道 第3回)の中ほどに、林鉄側から出会ったこの十字路が登場している。
そして当時は現在の県道がまだ出来ておらず、この狭路が歴とした県道だったことが分かる。
(ちなみに、この県道を走破したのは今回が2度目であるが、1度目は随分前で写真を撮っていなかったようで、記憶も曖昧だ)

林鉄跡を突っ切って、更に進むと…




一瞬、砂利道を疑ってしまった。

実際は簡易鋪装路であるが、軽トラの轍の部分以外は草が茂っていて、走行感覚もフラットダートのそれに等しい。
周囲は休耕中の田圃ばかりなので、なおさら寂しい雰囲気だ。

…私は断言してイイと思った。

この轍の主の半分は、先の道路標識を真摯に受け止めた、純粋無垢なドライバーのものであると。
あの標識が撤去されたら、ここはいよいよ廃道同様になるのでは…。



やったッ! 広い道だ!!

って、煽るほどのロングランでもなく、この狭い区間は全部で200mそこいらである。
でも、何も知らないドライバー(がこの道へ来るかはさて置き)を不安にさせるには、
十分に濃密な道のりだったと思う。

それに、この県道はまだまだ終わらないんだぜ。



15:04 《現在地》

何食わぬ顔で合流してきた、現在の県道。
ただ、こちらも何だか。あまり元気がありそうではない。
白線が消えかかったまま放置されているせいだろう。

この新しいわりにうらぶれた雰囲気は、如何にも未成道にありがちだが…。




これでは元気になりようもないか。 →

立派な県道は、旧県道と合流した地点を最後に終了し、この先に続いているのは、旧県道のままの姿の現県道。

こいつは、良い感じに……香ばしいだろ。

大丈夫だよ。ミニレポだから。
この道は、ちゃんとみんなの大人気スポット“田沢湖”へ連れて行ってくれる。
狭いのに我慢さえしていれば、ちゃんとな……。



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