ミニレポ第198回 山梨県道37号南アルプス公園線 増野隧道旧道

所在地 山梨県身延町
探索日 2013.10.28
公開日 2014.10.10

早川街道の最初の関門となった、険悪な絶壁道


前回(ミニレポ197)はこの県道南アルプス公園線の山吹隧道の旧道を紹介したが、続いては増野隧道のそれを見ていこう。

前回説明したとおり、この2本の隧道は700mほどの間隔をおいて近接しているが、敢えてこういう表現をしていることからも察しが付くと思うが、隧道としての歴史は一様ではないのである。

その違いは実際の旧道風景にも大きく現れているので、早速紹介しよう。





2013/10/28 13:02 《現在地》

山吹隧道を探索した後、自転車を回収して身延方向へ走行を再開。
トンネルから300mほどで早川町に別れを告げる町境に到達した。

現場は、「何の変哲もない」というにはいささかブラインドの度合いがキツ過ぎるカーブで、ダンプの走行が多いこともあって、ここを通るドライバーはみな対向車に警戒しているものと思う。
私もクルマでこのカーブを走るときは結構警戒する。冬は路面凍結もしていて怖かった。

ともかくこのカーブを境に、身延町粟倉に入る。
そしてまもなく前方に、山吹隧道を最初に視界に納めたときとそっくりのアングルで、増野隧道が見えてくるのである。




こ、これは……!

山吹隧道と違い、

こっちはもう最初から旧道の存在を諦めたくなる風景なんだが…。

少なくとも、この段階で完全踏破は不可能なのは、明確だった。



とはいえ、明治43年の地形図には、

隧道を介さないルートが確かに存在していたのである。

その痕跡が完全に失われたとは、やはり考えにくい。

となると、崖の左側の緑が帯状に見えている所が… 怪しいのか。



13:04 《現在地》

増野隧道坑口前に到達。
後補と思しきロックシェッドが延長されていて、従来の坑門は全く見えなくなってしまっていた。
扁額も無く、工事銘板は存在したのであるが、撮影した写真が白飛びの失敗写真で読み取れないという体たらくだ。
まあ、机上調査で不足分は代替するので勘弁して欲しい。

それより問題は、旧道だが…。




無理ッ!!!

どうやっても近付けないです。
これは、無理に行けば死にマスノ。

でも、まるっきり道形が無いと思いきや、よくよく岩盤の凹凸を眺めていると…

微妙に片洞門状に凹んだ部分が水平に近いラインで続いているような気もしつつ…。

…うう〜〜〜ん。 モヤモヤするけれど、近付いて確かめる術は無いし、仮にジェットパックを背負って近付いても、遺構があるはずもない。
コンクリート吹き付け工事が行われる前が、見たかったスな。



潔くこちら側からのアプローチは諦め(分かっていた)、増野隧道を通行する。

全長は53mで、山吹隧道(60m)と大差ない。
また、竣工年は昭和51年とされている(平成16年度道路施設現況調査)が、これは現在の姿への改築が完成した時期であり、「道路トンネル大鑑」巻末のリストには、大正13年竣工としてリストアップされている。

これは南アルプス公園線の隧道として、以前紹介した高長隧道の「大正11年竣工」に次いで古いと考えられる。
ただし、高長隧道は明治43年地形図にも既に描かれているという“未解決問題”がある。同地形図に描かれていない増野隧道よりは確実に古いのだろう。




しかし、そんなことはお構いなしに、現在の増野隧道は角瀬隧道や山吹隧道と同様に現代の姿をした「ふつうのトンネル」であり、ここを通行中に、実は100年近く前に馬車軌道が走っていたのと同じ地下空間を共有しているとは、とても思わないだろう。

その事を伝えただけでも、私にはこのレポートを書く意義があったと思えるのだ。

なお、写真は身延側の坑口で、こちらは昭和51年改築当初の坑口を見る事が出来るが、扁額がないのは山吹隧道と共通していた。





で、廃道探索はこっからだ。


13:05 《現在地》

さっそく、身延側坑口の脇をチェックする。

ここがダメなら、もう駄目だ。手がない。



道形ないよ〜(涙)。

これは万事休す か?

でも、せっかくだから赤い★印の地点までは、降りてみよう。



マジか! 道発見!!

無ければおかしいとは思ったが、現道からは小谷に遮られて見えない崖の斜面に、
明瞭に道跡と分かる、幅1m以上の平場が存在するのを発見した!

しかも、意外にも刈払われているのか、視界が良好だし、
危険な崖側には転落防止のトラロープまで張られているじゃあないか。

なんだこりゃあ。



しかし、トラロープが張ってあろうが無かろうが、相当に危険な道である事に変わりはない。
路肩には常に轟々という音とともに岩肌を噛む濁流が見えていて、僅かでも踏み外そうものなら、未来は一つしかありえない。
怖ろしい道である。

この立地は先ほどの山吹隧道旧道と似てはいるが、それよりも道の規格が遙かに低い。
前者が昭和49年に至るまで車道として利用され続けていたのとは、全く条件が違うといわざるを得ない。

そもそも、大正時代に馬車軌道をここに通すことを計画した段階で、ここは隧道を避けられないと判断されのだ。
山吹隧道の地点は、当時明かりで切り抜けたことと比較しても、この増野隧道の地点が、いかに難所であったかが窺えよう。




そして、現れる、

現役らしき養蜂箱(ハニーボックス)。

全くもって、彼ら“養蜂家”の行動範囲には恐れ入るものがある。
東北地方における山菜採りの行動範囲に匹敵するか、それを上回るものを感じる。
同じ早川沿いでは、切川隧道の旧道部分にも同じものが置かれていたが、ここは更に輪をかけてアクセスしづらい、どうやって養蜂箱を持ち込んだのかと思えるような立地である。

しかし、彼らのおかげでこの大正時代に廃止されたという古道が、まだ辛うじて命脈を保持しているのかもしれない。



さらに進むと、道はやや上りとなる。
平面線形的としては、岩場を回り込むようにずっと左カーブしていて、先は常に見通せない。
藪が無ければ、路肩からは早川とその対岸の眺望が得られるのだろうが、それが無いおかげで恐怖が軽減されている側面もあろう。
法面の傾斜も徐々に厳しくなり、やがて垂直を通り越して、オーバーハング気味となってきた。

そんな中、岩場の窪みのような所に納められた、二つめのハニーボックスを確認。
養蜂家恐るべし。彼らのハニー捕捉能力は、オブローダーの廃道検索を超越している。

そして第二のハニーボックスの先には……




平身低頭せざるを得ない!
こんな怖ろしい片洞門がッ!!


これは無理だ。 馬車鉄道は通れない。
明治以前の道はげに怖ろしき哉。いわゆる、“背擦り腹擦り”の難所というべきだ。
しかし、この岩場の形状は、紛れもなく人為の工作物たる道路の名残である!



熱い片洞門に興奮したが、同時に背筋を冷たいものが走る。

往時からこんなものだったのだと思うが、とにかくここは道が狭く、車道という次元ではない。
一番狭い所は幅40cmくらいだろうか。路肩にしぶとく立ち木があるからまだマシなのだろうが、
リュックを背負って歩いていたら、不意に岩場に角があたって、崖へ身体を押されるような感覚を味わったので、
その後は身体が硬くなりまして、気持ち悪さが20倍アップでした……。



しかし、トラロープもあるというのを心の支えにして(間違っても身体の支えにはなりませんよ)、

この人道規模の片洞門を、身を屈めながら進んでいったのであった。

いやはや、地味な場所に凄い道が潜んでいたものである…。



13:08 《現在地》

そして、やはり行き着いたのは、踏破の限界地点であった。

ここまで道形が鮮明に残っていたことから、この先の斜面にもそれは当然あったと考える。
しかし、長年の早川の浸食によって崖は崩れ落ち、放置していては地中のトンネルまで崩壊が及ぶおそれが出てきたのだろう。
地表に守るべき道はないのにも拘わらず、この先の斜面は新しい治山施工によって、ガッチガチに固められていた。

おそらく、ここまでの旧道に張られていたトラロープも、治山工事中に作業道として利用された名残だろう。
ハニーマン達は、あまりこういうサービスをしないので。




帰りは幾分余裕を持って、この岩場の“危道”であり“奇道”というべきものを味わった。

ここにかような人工的色彩を帯びた道が建造された経緯も時期も不明だが、隣接する山吹隧道の旧道沿いに、文久2年(1861)の綱橋供養塔があった事に照らせば、江戸時代には開通していた由緒ある生活道路であったということが十分に考えられる。
当時の日本人の背丈が現代人より小さかった事も、この片洞門の高さがいささか低いことと関わりがあるように思われたりする。

ただし、近世に公道として認められていた「早川入往還」は、このような険阻を避ける目的からか、早川の川縁に道を採らず、高い尾根の上を延々と迂回していたことが知られている。




2回にわたりお伝えしてきた、同じ道の隣接する小規模旧道の探索はいかがだっただろうか。

現道に存在するトンネルの姿や規模はそっくりでも、それぞれに秘めた歴史は大きく異なっており、旧道の状況にこそ、その違いの最大の痕跡が留められているということが、お分かりいただけたと思う。
旧道を知る事は、現道の歴史に触れる第一歩であると、ここでも持論を重ねて稿を終えたい。にゃう。






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