神岡軌道 第二次探索 (土編 第2回)

公開日 2009.10.13
探索日 2009. 4.27

 戦慄 の  


2009/4/27 15:03 

今回は、新猪谷ダムと「赤谷」の間に残る、推定400mの「小区間(2)」に挑む。

前回の小区間(1)同様、ここもこれといった期待感の無いエリアではあるが、今回は「踏破すること」に拘りを持っていたので、よほど大変じゃない限りは、頑張るのである。




前回の夏(7月)の探索では、この藪が嫌で引き返したのだった。 4月でこれという時点で夏の“威力”を推して計るべきであるが、猫のように姿勢を低くして潜り進む。





ぐむっ。

 ぐむぅ。

ただでさえ藪が深い最中、道幅を狭める構造物が容赦なく現れた。

国道への雪崩の落下を阻止するための、強固で巨大なコンクリート重力擁壁だ。

廃道化後に別の用途で手が入ってしまった廃道は、黙って放置されていた場合よりも通りがたいものが多い。
ここもその例に漏れない。




うむむ…。

どっちへ行くか、悩む。

どっちへ行っても最後は同じだろうが、どっちが楽に進めるだろうかと。

そんな選択を何度か強いられながら、それでも着実に距離を詰めていく。
藪は深いが、おおむね順調。これならば、400mはものの数分か。




その藪も遂に晴れた。

ふと見下ろすと、国道の姿が無くなっている。

またしてもシェッドの下に隠れていた。



実はこのとき、私の知らぬ間に、




孤独な戦いが、すでに始まっていた。




15:12

それは恐らく、国道にシェッドが作られる前からあるのだろう。
古い落石防止ネットの支柱が、微妙に歪んだ姿で多数並んでいる。

また、路盤の中央には、焼け爛れた古い木製電柱が、ポツンと立っていた。
この電柱が、私の心をとらえた。

逆に言うと、この場面は私にとって、そのくらいの意味しか持たないはずだった…。






電柱。

いや、電信柱だ。

小さな金属のプレートには、「上平通信線」という文字とともに「58」の番号が記されている。

これだって軌道の廃止後に建てられたはずだが、すでに役目を終えて久しい様子。
自分が随分と古いものの痕跡を追い求めていることに、今さらながら気付かされる。




電柱の先へ 5歩 進んだところで、足が止まる。

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キタ――!!

キタぁぁぁ!


一瞬、唐突すぎてそれが何なのか考えに詰まったが、それはどう見てもだ!

半分だけ残った、軌道時代のコンクリート橋だッ!!!






だが、心に背いて足は止まったままだ。




この写真を見て欲しい。

上の写真を撮影してから、戻って撮った訳じゃない。

上の写真は、望遠で撮ったのだ。

だから、彼我の隔たりというものが、
実際にはこれだけある。


この距離、
約5メートルが、大きな問題となった。


まだ、お分かりいただけない方もいるだろう。

もう、分かってしまった方もいるだろう。


見た目よりも、この5メートルは危険な5メートルだ。
どうやって進めばいいのかが分からない5メートルだ。

しかも、これが圧倒的にやっかいな問題なんだが…、工夫すれば行けそうな感じもしてしまう、そんな5メートルなのだ。

この、「頑張れば」というのが、本当に曲者なんだよな。
分かってる、自分がこれに何より弱いのは。
そのせいで何度怖い目に逢ってきたか。




だろうな…

結局、こうなる…


 チクショウ…

なんでこんな所(支柱の付け根)に、廃レールが括りつけられているんだよ…。

ここを踏んで行きなさいって、そう言う意味かと思うじゃねーか。

それ、  なんだろ…。





と、 遠いッ…!

向こう岸が、遠いッ!!



そして、

  ちょっと…  
  

      マジ怖い。


ここに桟橋のような廃レールが無ければ、諦めて別の手(といってもそれがあるかは不明だが)を考えもしただろう。
廃レール無しでは、どうしょうもなく超えれぬ場面なのだ。
唯一の救いが、2メートル毎にある、支柱。
そこが、完全に安全な橋頭堡の役割を果たしている。

しかし…、2メートルという距離は微妙に遠い…。




だ!!

絶対にだ!!


なぜ隧道が見えるッ!
この区間にそんな物は無いはずだろー。
そう思ったから、前回は探索をしなかったんじゃないのか!
ええッ!! nagajisさんよぉ!
(↑失礼。前回指令したのは、実は私でした…)





チョッ

チョーッ!

チョッ!!




チョッつ!


上の写真から、1cmも進んでないんじゃないか?!

これ、どう表現すれば良いんだろうな。

両足がちゃんと構造物に接しているのに、異常に怖い。
怖そうだと思っていたが、予想以上の怖さだ。
まず、この姿勢が良くない。
ふにゃふにゃふにゃふにゃ、全然体の芯が立たない。
そりゃそうだよ。体重のほとんどはブルンブルン揺れるレールが預かっていて、それでも右へ転げ落ちるのだけはぜったい嫌だから、上半身を法面に斜めに寄せている姿勢。。きっと物理学者でも計算不能の姿勢だ。
クソ姿勢” だ!




クソ姿勢” の模式図を用意してみた。

怖さが伝わるだろうか。

ポイントとなるのは、ネットの無駄っぷりだ。

外見的には、ネットが張られていることで、多少の安心感というか、“守られている”感のようなものがある。
しかし、実はそれも誘い込むための  のひとつだったのだ。

廃レールに体重を預ける以上、ネットにはどうやっても手は届かず、無理にそれをすると【こんな風になる】こと請け合いだ。

ネットは生還を難しくする、ただのだ!





こっ、 こんなはずでは…ッ!


(こんな顔するなら、最初から挑まなきゃ良いのに…)





おぅえ…。

吸い込まれそうだ。

吸い込まれそうだ。


前に某国道ばたのこんなネットの裏側に、ミイラ化した鹿の死骸が挟まっているのを見たことがある。
あの焼けるような醜景が、脳裏に甦る。

ここで落ちれば、開放的な場所に墜落する以上に、自力での生還は難しくなりそうだ。
見たところ下はびっちり閉塞していて、袋の鼠。
そもそも、墜ちればそれだけで息絶える危険もあるかも。


これは、失策だな。

ここは、私の実力(バランス感覚)では、迂回すべきだった。

くじ氏(仲間のロッククライマー)には便道であろうが…。






15:20

もちろん、墜ちたらこんなレポは書かない。

無事、成功したよ。

成功したけど青ざめてるって、負けた気分だって、松の木以来か。

いや、他にも忘れちゃならん失敗談が色々あったはずだが、忘れてる?

忘れてないよね?

いや、忘れてるかも…?





さ、さあ…、ともかくは収穫…。

手にした収穫物を楽しむことにしよう…。
それだけが、後悔を過去に追いやってくれるはずだ。

この橋は、今まで私が見たことのない形をしている。
去年探った区間では、この形の橋は一本も見なかった。

適当な形容が思いつかないが、冷凍室の中の製氷皿のような形というのか。

コンクリート製の上路鉄道橋で、欄干があるのは珍しい。
(普通、路盤を欄干が包み込むような形の橋は「下路」や「中路」だが、本橋の欄干はあくまでも単なる欄干であって、荷重を受け持つ部材では無さそうなので、「上路」橋と判断した。)




穴だらけの桁(これがまた想像していたよりもだいぶ高かった)から底を見透かすと、H型の橋脚が見えた。
はっきりとは見えないが、恐らくこの橋脚は桁と一体になっているのではないだろうか(ラーメン橋)。

見れば見るほど変わった形の桁だ。
前回見つけなかっただけで、神岡軌道にはこの形状の橋が他にもあるのだろうか。


ということで、半身の橋を一本収穫した。
続いて、隧道があったよね…。




…ちくしょうめぇ…。

隧道が潜んでいやがったか。

国道の真上に…、無いと思っていたが…。

国道を通る限り、基本的にロックシェッドの上は覗きようがないのだから、気付けなかったのも無理はない。


…いや、しかし、 嬉しいぞ。

嬉しいぞ!これ!





が、
ここで勇んで飛び込むと、ヤバかった。




罠だ!

そっくり路盤が抜け落ちていた。

あんなにビクビクしてネット地獄を越えた直後の安堵。
そして、気付くと目の前に隧道がある状況。

これはヤバイ罠!

隧道へ夢心地で駆け込めば、ネットの時とさほど変わらぬ地獄へと、自らホール・インするところだった。





数多の敵を斬って伏せ、時ぞ来たれり!





閉塞している…





罠だったんだ……。







まあ、こういう日もあるさ。

十分、じゅうぶんだよ…。

隧道があったことを、こうして確かめられたんだからね。


さあ、迂回して先へ進もう。

恐らくもう少しで、見覚えのある赤沢に出られるはずさ。





 出た

 ら、

白い… (T_T)






終わつた。




無理。

これはどうやっても無理だ。

隧道が迂回できない。



またしても、この展開なのかよ…

いったい、この小区間(2)には、幾つのが仕掛けられているんだ…。

これ以上進むためには、不本意だが下へ降りて、国道を迂回するより無い。

下へ…







下へ…