長野県道26号 奈川木祖線 奈川渡ダム〜奈川 後編

公開日 2008. 10.17
探索日 2008. 7. 2

旧宮ノ下隧道 北口へ


2008/7/2 11:07

宮ノ下隧道の旧道、北側の入口として考えられるのはここしかない。

この道は入山集落へ向かうための市道であり、当初旧道とは無関係と判断し素通りしていた場所だが、交差点の形を少し変えてやれば確かに旧道らしい。

全長600mを越える長大な廃隧道。
その洞内アプローチへの希望を胸に、いざ北口へ接近開始!




旧道へ右折する。
写真右の路肩を見て欲しい。
擁壁やガードレールが路面の高さに合っていないが、これは新道に据え付けを行う際、旧路盤を掘り下げていることを意味している。

少し進むと、前方を行くnagajis氏がチャリを止めた。




…見てますね。

nagajisさん、魅入ってますね。

廃隧道。

全長600mクラスの廃隧道は、沢山ありそうで意外に数が少ない。
なかなかのレア物件である。





でた。

旧宮ノ下隧道。

この北口は僅かな廃道さえ従えず、現役道路脇に唐突な坑口を残していた。

誰が見てもトンネル(隧道)と分かるものが、まったく遺跡のようになって放置されている姿は、かなりシュールである。
オブローダーの世界でもう少しメジャーな物件になっていても不思議はない。

そんなハイインパクトな風景だ。




遠目にはかなり大きな坑門に見えたが、近づいてみてその理由が分かった。

もしこれが煉瓦造りならば“ねじりばんぼ”になったのではないかと思えるような、スキューした坑門だったのだ。
軸方向に対し、坑門の面は30度近く斜行している。
山岳トンネルとしては非常に珍しい。そう言っても差し支えがない程のスキュー坑門である。

なぜこれほど大きくスキューしているのかを考えてみたが、よく分からない。
少しでもコンクリートの使用量を抑えようとしたのだろうか…。




立地の異様さに肝を抜かれ、肝心の報告が遅れた。

まことに残念ながら、こちらも坑口は塞がれていた。
南口同様、コンクリート壁と土盛りと土嚢の山というふうに、念入りだ。
使われなくなった40km/h制限の道路標識が、スキューの分だけ残った洞内に投棄されていた。
また、写真には写っていないが、南口同様の標識類が坑口に取り付けられている。

目立つカーブミラーは、後付けのものだと思う。
県道が現役だった当時から、ここは入山集落へ向かう道との分岐地点ではあったはずだが。




洞内から見晴らす坑口前の風景。

この立地は、「作業」をするには余りに目立ちすぎた。

そう。 「作業」をするには…。




下から天辺まですべてコンクリートの壁ならば、こんな気持ちにならなくて済んだのに…。

塞がれた隧道の上半分は土と土嚢によるものである。
土の部分はおそらくモルタルが混ぜられており、コンクリート同然の堅さになっている。
だが、土嚢の部分はどうだ。

イタズラ心が、我が双肩に力を込める。


ぅむっしょ!




か、開口!!

しかし、イテテテテ…。

土嚢はひとつひとつが癒着しており、無理やり引きはがす作業で手の爪の一部が欠けてしまった。

天辺の小さめの土嚢ひとつだけは動かせたが、他は無理だ。

或いは何人がかりなら可能かも知れないが…、隙間から洞内を覗いた結果……。




もし仮に土嚢を退かして進入しても、内部も天井すれすれまで土砂が積まれており、奥へ進むことは至難である。
というか、ほとんど無理だ。
まして、600mもあるのだとしたら、 …考えただけで恐ろしい事になる。


この場所で土嚢をコチョクリマワシテイルのを見つかるのもヤバイので、元に戻して場所を離れた。




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人目に付かない場所でなら…


2008/7/2 11:20 

今一度、ここへ戻ってきた。

人知れず作業が出来そうな、南口である。

まずはコンクリートの壁の上に登るのが一苦労だったが、どうにかそこを乗り越えて、土嚢の山にコンニチワ…。




そこまでしようとする私に対し、nagajis氏が呆れているのが分かった。

確かにバカげているかも知れないが、私にとって、そこに隧道を形作る地底の空洞がある限り、アクセスしたいのだ!

呆れついでに、彼は手伝ってくれた。
土嚢を人一人分だけ取り除く作業を。




やはり土嚢はとても重く苦労したが、どうにか 私一人が入場するための穴 が開通した。

強烈な黴臭さと土の匂い鼻につく。
穴からは、少しの風も出てこない。
こちらから頭を突っ込むと、どうにか奥まで進めそうではあるのだが、その狭さは私が「ヒラメ」にならねばならないほどである。

nagajis氏には万が一“詰まった”場合のフォローをお願いして、地上で待っていてもらった。

いざ、旧宮ノ下隧道内部へ。




コンクリートの天井に背中を、土混じりの乾いた瓦礫に腹を擦りながら、ヘッドライトを頼りに匍匐前進。

余りの狭さのため、支障する岩塊を退かしながらの不自由な前進である。
何とも言えぬ息苦しさと土臭さのため、私はあっという間に汗だくになった。

出入り口は塞がれていても、洞内奥まで土砂で埋もれていることはないだろうと踏んだ上での潜入であったが。

これでは遠からず限界が…。




とりあえず、7分もかけてどうにか5mほど進んだ。

このペースだと、600mに14時間もかかることになる。

…つか、それはマジで死ぬ。







ペースを上げて20mくらい進んだが、依然として行く手の様子に変化は無く、それ以上の前進は断念した。

どうやら、新トンネル掘削で生じた残土をここで処理しているようだ。
下手したら、本当に600m全てが埋もれているのかも知れない。
50年もすれば自重でいいかんじに天井付近が空くと思うので、私が年取って腰も曲がった頃に、もし忘れてなければ再訪しよう(笑)。


てッ、 撤収!!

腰が痛いッ!!




nagajis氏に生暖かく迎えられた私の身体は、土砂災害現場より救出された人のそれと余りに酷似していた。

つか、ホントに汚ねー。



最後は“お目直し”に、爽やかなダム湖の風景を。

我々は、土嚢の山を元に戻し、寄り道を完結した。
そして、探索のメインストリームである国道158号へと速やかに復帰した。