大白川林道 前編

所在地 長野県松本市安曇
公開日 2009.2.1
探索日 2008.9.8

【所在地(別ウィンドウ)】

これから紹介する大白川林道には秘密がある。

それはかつて一夏だけ、国道158号の迂回路として一般車両が通行していたという事実だ。

国道の迂回路として並行する林道が使われたという記録は各地にあるが、その道が現在ではすっかり廃道になっているという点で特異といえる。

大白川林道が国道の迂回路になったのは、昭和41年の7月頃から翌42年春までの半年ほど。
その原因は、国道を襲った大規模な斜面崩壊だった。

そして、あなたは既にその現場を見ているかも知れない。
以前に紹介した『道路レポート 国道158号旧道 水殿ダム〜奈川渡ダム(第2回)』の「ずみの窪隧道」脇の旧道こそ、まさにこの時廃止された区間だったのである。



それでは、

 誰も知らない、一夏だけの国道へ、GO!





閉ざされた入口


2008/9/8 15:20 

国道158号の「五領沢橋」の東詰に大白川林道の入り口はある。

橋は目の眩む高さで、眼下には金色の水面が龍のように蛇行している。
安曇三ダムの中兄、水殿ダム湖である。





うお。

予想外の2車線路。
とても林道とは思えないが…。




なるほど納得。
ここまでは旧国道だったのだ。
行く手を遮るガードレールの下には、2mほどの段差と現国道がある。

本来の大白川林道は、この旧国道の終点に始まる。



切断された旧国道と、すんでの所で車一台分の路盤を逃した大白川林道。
そして、早くも緑が濃い様子…。



林道の証として、この壁際に見慣れた標柱が立っていた。

大白川林道 起点
幅員 三.六 米
延長 九八二八 米
昭和五十四年度竣工

昭和41年に使用された記録はあるが、標柱の竣工年は新しい。



そしてそのすぐ先には、夏草に溺れかけたゲートが…。

華奢に見えるが、これでも一応施錠されているので自動車は入れない。
というか、誰も入ろうと思わないだろう。
いきなり廃道確約の雰囲気だ。

それでは、参ろう。




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最も危険なバス道路


15:25

この道路は国有林野事業のため松本営林署が管理する専用林道です。
一般車の通行は国有林野事業に支障がありますから御断り致します。
なお通行して事故があっても責任は負えません。

   松森営林署長

こんな看板があるとおり、ここは一般車通行止めの「専用林道」であるが、かつて国道の通行止めに際して一度だけ解放されたことがある。
しかも、そのときに通行したのは一般車だけでなく、上高地を目指す松本電鉄の路線バスも往来したのだという。

しかし、通常のバスでは通ることが出来ず、わざわざ10人乗りのマイクロバス2台を準備して区間輸送にあたったと言うから、同社にとって夏の上高地線の収益が生命線であったことが伺える。




夏草の絨毯に始まった林道は、確かに普通のバスが通れるような幅員ではない。
しかも未舗装である。

釜トンネル―上高地の昭和史』には、当時この迂回運行に携わった人々の苦闘が描かれている。
そのなかで、当時の社長が振り返って語った次の言葉が印象的だ。

 「上高地線の比ではないほど怖かった。」

現代の感覚からいえば、「そんな怖い道を客を乗せて走ったのか」と非難されそうだが、ここでは英雄譚的色彩を帯びた話として語られている。
ちなみに上高地線とは、国道158号経由で中ノ湯から「釜トンネル」に入り大正池を目指す、現在でも松電のメイン路線である。



もちろん、いくら「時代」とはいえ、ただ運に任せてバスを走らせたのでは悲劇である。
実際には、始発から最終バスが通り過ぎるまで、常に運行責任者が迂回路上を移動して監視にあたるという、精一杯の安全運行への努力も払われていた。
それゆえ、大きな事故もなくこの夏を乗り切る事が出来たのだと話は結ばれている。

道は、国道と並行しつつ次第に高度を上げていく。
間違って路肩の石を落とせば、そのまま国道に石つぶてを振らせる危険がある。
そんな意味からも、この道は通行止めであって然るべきと思われる。




夕日に向かって登れ!

そんなドラマチックな展開になった。
道が森に入ると藪漕ぎの危機は去ったが、路面状況は激悪で、非常にガレている。
それでいて道幅は妙に広いから迫力がある。

そして現れた不思議な道路標識。
どちらも初めて見るデザインで、いかにも「林道」らしいオリジナリティを感じずにはいられない逸品だ。

特に上の「待避地点予告」標識の方は、昭和40年代までの旧制標識に共通するデザインの方向性を感じさせて嬉しい。
「点」の字体も含め、かなり古そうである。
これらの標識は、この道の中でも一度しか見なかったが、かつては管内の色々な林道に設置されていたものと思われる。




標識に見とれていると、前方からユラユラとオヤジが現れた。

まったく予想外の遭遇であり、実はかなりギョッとした。
強烈な西日を背負って来るもんだから、それはまるで糸の切れた巨大なマリオネットが無言で近づいてくるような感じであって、農協の帽子を被ったノーマルオヤジだと分かるまで白昼夢の世界に入ったようだった。

なんか声をかけないのも不自然な遭遇であるから、すれ違いざまに「こんにちわ」と言うと、「この先はひどく荒れているぞ」と言われた。
「そうですか。行けるだけ行ってみます」と、締まりのない答えをして離れた。




入り口から500mほど進んだだろうか。
少し上りの勾配が緩んだかと思うと、急に左にカーブした。
おかげで眼下から国道が消える。

道幅は相変わらず広い。
これならば国道の迂回路としても使えただろう。
ただし、ちゃんと手入れをしてくれていればだが。

もう車が入らなくなって相当経つようで、落石だけではなく倒木もそこら中に散乱している。




いままでの国道の代わりに、右は小さな沢になった。
それがみるみる登ってきて、私を追い越そうとする。
すぐに追いつかれると森が途絶え、林道はまた夏草に埋もれそうになった。

その緑の向こうには、間違いなく無人であろう作業小屋が見える。

廃のムードをますます濃くしながら、林道は最も険しい中盤戦へと入っていく。