国道158号旧道 水殿ダム〜奈川渡ダム 第2回

公開日 2008. 9.19
探索日 2008. 7. 2

ずみの窪隧道脇の 謎の穴


2008/7/2 8:27 《現在地》

安曇三ダムが昭和40年代初頭に相次いで開通する以前の旧国道を求める旅は、まだ始まったばかり。
現国道には、チャリにとって危険の大きな11連の隧道群がある。
現在はその2本目、「ずみの窪隧道」の松本側坑口脇にいる。
ここに、初めて旧道の入口を疑わせる空き地を発見したのだ。

しかし目下の注目はそれよりも、空き地の一角の擁壁に現道の隧道とは交差する方向に口を開けている、この四角い穴である。




この四角い穴が不自然なのは、坑門?の作りの極端な粗雑さである。
なんかただ、擁壁に無理やり穴を刳り抜いただけに見える。
実際、断面などまったく処理されておらず、内部の木材が露出してしまっている。

普通に考えれば、これは一度作った擁壁を後から四角く刳り抜いたようである。
当然、土留めの擁壁にそんなことをすればどうなるのかは明らかで、支えを失った土砂がごいごいと崩れて、外まで溢れだしている。

一般の用に供する構造物としては、あまりに杜撰な工事に見えるが、問題は、さらにこの奥があるということだ…。




壁の裏に、もう一つ坑門が…。

しかも、今度のものは隅の処理もきっちりしていて、本物の坑門ぽいぞ。

だけども。 だけれども!

なんか、これって… 廃隧道を狙うオブローダーを仕留めるための“落としワナ”なんじゃ?

首突っ込んだら、そこで上の大岩が落ちてきて頭をグシャとやられる予感が…。
まさかこの日本にそんなブラックなジョークが仕掛けられているとは思いたくないが…、冗談抜きで怖ええ。




ワナ… ではないらしい。

この怪しく針金の巻き付いた木材には、ほとんどテンションがかかっていなかった。

もっとも、だからといって上の岩が落ちてこないとは限らないが、ともかくワナの危機は解除された。


隙間は狭く、身体を捻り込むことは出来ない。
這い蹲って、頭とカメラだけを先行させてみた。

そして写された写真が、 …次。




うわー…


 ちゃんと空洞があるよ… 隧道かよ。 マジで未発見隧道?


うう… 暗いな。 ライトライト。
頭を突っ込んじゃってるから、腰のライトが取れない。
「nagajisさん、悪りっスけどポシェットからライト出してもらえねスか。」

さんきゅ。


  よし、 照射するぞ。






それは、本当に隧道だった!

だが、奥行きは10mくらいである。



先端部を見る限り、コンクリートの覆工はもとよりそこまでしかなかったように感じられる。
そして、埋め戻しではなく、自然に崩れて埋もれている様な感じだ。

行き止まりと分かった以上立ち入って確かめる事はしなかったが(容易に立ち入れる状況ではなかったし)、果たしてこれは何なのか。
隧道というよりはボックスカルバートのような四角い断面も不自然だし、自動車が通るにはギリギリのサイズである。
場所打ちコンクリートが使われているので、普通に戦後の構造物だとは思うが。


空き地、擁壁、隧道?、そして現国道のずみの窪隧道の位置関係は、右図のようになっていると思われる。

こうやってみると、我々の発見した小断面の閉塞隧道は、現隧道の工事に関係して掘られたものである可能性が疑われる。
位置的には内部で接続している可能性が高いのだ。

なぜその必要性があったのかは、現地の地形を見る限り分からないが…。

あなたの推論も聞かせてもらいたいが、新たな史料が出てこない限り、答えは永遠に分からなそうだ。


なお、旧道については疑わしさはあるが断定とは行かず、一度ずみの窪隧道を通り抜けて反対側から確認することにした。




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今度こそ旧道を発見


8:29

さて、改めてトンネルナンバー「」、ずみの窪隧道(全長427.6m)に進入する。

「ずみのくぼ」とは一度聞くと耳に残る個性的な音だが、おそらく、桜に良く似た花を咲かせる「ズミ(酸実)」という木がよく生えている窪(沢)という事だろう。
何度でも口に出して言いたくなる名前だ。

ずみのくぼ… ずみのくぼ…

nagajis: ずみのくぼ… ずみのくぼ…




ずみの窪もグネグーネ。

ちょっと車が来ていないすきを狙って道路中央を走ってみたが、こうすると余計に狭さが分かると思う。
白線の外にほとんど走行するような余地はないのである。
埃と水あかで汚れた壁面は、昔ながらの一列照明をろくに反射せず、一連の隧道群独特の薄暗さを演出している。
壁面にペイントされた白い蛍光塗料が嫌に目立つ。

 ゴォーー!

あっ。 来た来た。
後ろから爆音接近中。
端に寄らなきゃ、急いで寄らなきゃ。




 ドドゴゴォーーーー!!

 プ゚シュゥッ!

  ゴゴーーーー…


大型車は、みんな我々の横で当て付けがましく、「プシュゥ」していく。
そして一台大型が追い越していくと、ほぼ必ずその後ろには車列が出来ている。
全て通り過ぎるまでは、まさに地獄である。
路肩は相変わらず濡れ&マッディ&側溝の蓋がツルツル状態だし。
もうほんと、どこ見て走ればいいのー。 ちゃり!




ひーーひーー。

出れた〜〜。 nagajisさん、無事かー??

なんか、ついさっきも同じ構図の写真撮ってるような(笑)

しかも、まだまだ後ろから車が迫ってるし。
この場所で立ち止まってるのって、車にとっては相当に邪魔くさかったかも(スマン)。

でも、そこに旧道がありそうなんだもん。




あー。 nagajisさんが逃げ出した。

旧道に、逃げ出したッ!


待ってくれ! チャリも棄ててどこへ行くんだ?!
これはマジで旧道なのか。

ここに旧道があるということは、小雪なぎ隧道にも有ったのに見逃してきたっぽいゾ。




8:33 《現在地》

つか、振り返るとこの場所めがけて国道が突っ込んできていて笑った。

これは本当に旧道っぽい。
というか、ずみの窪隧道の入口のカーブは新道としてどうなんだろう。
ちょっと反則なんじゃないか。

この旧道らしき道を入ってすぐ、チェーンによる簡単なバリケードがあるが、人気はない。




出た! 廃道で世界一絵になる男の後ろ姿! 

入口から50m足らずで広場のような場所になったが、その先は行き止まりっぽい。

ちょうどこの広場の下には、鉄の送水管(発電水路)が埋まっている。
これは鉄管を管理するための作業道路だったのか?

ちなみに、この鉄管は大白川発電所のもので、海抜1300m付近の山上から一気に900m付近の水殿ダム湖畔へと水を落として発電している。
直接安曇三ダムに関係する施設ではない。




nagajis: これって…


明らかに車道跡っぽい。 つうか、旧国道だろ!
幅の広さといい、隧道を迂回して山腹に沿って続く線形といい、間違いない。
しかも、幅広の路盤跡に落石ゴロゴロ、そこから木が生えてきているとか…。 オイシイ!!

二人は隧道のストレスから解放された事もあって、声を出してはしゃいだ。
この日最初の廃道がこんなにオイシイと来れば、それも無理からぬ事だった。

ようやく、旧国道 ゲットだぜ!




しかしこの旧道、ガチムチのハイリスクロードである。

山手を見上げれば、そこには苔生した絶壁が見えなくなるまで続いている。
路上に散乱している21インチCRTモニタ大は落石は、ここから随時提供されてきたのだ。
今もいつ補給されるか分からない状態であろう。
おぞましい…。

一方の路肩も切り立っている。
かつてガードレールは有ったらしく、白く塗られた支柱だけが残っている。
見下ろしても、やはり木々に遮られ遠くは見通せない。
50mほど下には、前に分岐した発電所への道や水殿ダムの湖面が有るはずだが。




うおっ! これは。

nagajis: また出てきた。

そう。 また出てきた。
四角い穴が。

今度も崩れてほとんど埋もれているが、果たして内部は…

あるのか?




ううっ… かびくせぇ。

なんだか、甘い匂いがするぅ。


空洞は有るようだが、風もなければ光も見えず。
この甘ったるいカビ臭さは… 大体どんな状況になっているの、想像が付く気がする。

 …フラッシュ撮影 入ります。




これだ。

木の支保工が腐った臭い。

そして、奥はやはり数メートルでグシャってる。

この坑道のような隧道の向かっている方向は、明らかに現道の「ずみの窪隧道」だ。




これは左図の通り、ずみの窪隧道から地上へ延ばされた横穴であったと考えるより無いだろう。
この隧道には、埋め戻された横穴が2本も有ったことになるわけだ。
山腹沿いの隧道では、横穴を掘ることで切羽(隧道の掘削面のこと)を増やし、工期を短縮することがある。
切羽の数は、単純に山の両側から掘った場合2となるが、途中に横穴を1つ用いることで切羽を2つ増やすことが出来る。横穴が2つあれば切羽の合計は6となり、単純計算で隧道の掘進速度は3倍となるわけだ。ちなみに、工程管理の難度や周辺環境への影響が拡大する事がデメリットである。



8:42

旧道の探索を再開。

下流方向へ歩き始めると、道はますます荒れ果ててきた。
山手からの土砂や倒木の流入が極めて多い。
この道が、昭和42年に「ずみの窪隧道」が開通するまで、国道であったのだ。

ただし、この時点で我々は非常に大きな思い違いをしていたのだが、それに気付くのはまだ少し先のことである。
ともかく、この道が隧道開通までの旧国道なのは間違っていない。




見よ。 この廃道!

すばらしい!

路幅、路面状況、そしてガードレールやコンクリートの土留めの存在。
そして、路上にも分け隔て無く生え育つ木々。
まさに、道の廃されて時を経た姿である。
私もnagajis氏も、予想以上の廃景に歓喜した。

だが、思い出して欲しい。
先ほど我々は、この旧道を反対側から見つけることが出来なかったということを。
このまま楽に進めないことは、明白だった。




来た来た来た。

埋もれてきたー!!

前方が大変な事になっている、悪寒。




ほわっつ!

これって、道無いぞ。
崩れたとか埋もれたとか、そう言うレベルでなく、本当に道の痕跡が全然無い。
しかも、見渡す限りずっとだ。

行き止まり… なわけはないよな…。




やっばい!

この斜面に、本当に道が埋もれてるんだわ。

遠くからはただの急な山斜面にしか見えなかったけど、それまで道が続いていた高さを慎重に進むと、高さ2〜3mの石垣が埋まっていた。
これが本来の路肩だったわけだな。
その証拠に、ガードレールを支えていた柱が残っていた。
谷底へ向けて無惨にへし曲がり、鉄くずが落ちているのかと思ったくらいだが。

凄まじい破壊力をもった土砂崩れが、ガードレールも路上にあった何もかも一撃でなぎ払ってしまった様子が窺える。


こんな状況だけに、この先しばらく、前進は軽く命懸けとなる。




もっとも危険を感じる斜面は30mほどだったろうか。
ここばかりは、チャリを担いでどうこうというレベルではなかったと思う。

そして、おそらく「ずみの窪隧道」の中間地点を過ぎただろう辺りで、前方に再びコンクリートの擁壁が現れた。

断面の様子を見る限り、これより手前は土砂崩れと一緒にどこかへサヨウナラしてしまったようだ。

ともかく、これから先は道が復活してくれる…

…と良いが…




笑ってしまった。

俺ら、いつの間にか旧道の下を歩いてた。

久々に現れた擁壁(とはいってもせいぜい30mぶりだが)が法面だと思ったら、違かった。
それは路肩だったのだ。

いかに道路が原形を留めていなかったかという証だ。
こんな短距離で、いつの間にか道路の下に行ってるなんて、おかしい。
そして、以前として路上には歩ける余地が全くない。
これほど斜面と一体化したうえで、さらに森にまでなってしまっている廃道も珍しい。まして明治云々ではなく、40年かそこいらの旧国道なのに。




森化が進んでいるからといって、この斜面で落石に遭遇する可能性は低いとは言えなさそうだ。

木の幹の地面から1mほどの位置に、ここ数日中に付けられたような真新しい打撃痕が刻まれていた。
それも、この木一本だけでなく、周囲の木にも新旧の傷跡が結構付いている。

この場所で育つと言うことは、いつでもぶん殴られるということなのだろう。

我々も、全く例外ではないわけだ。
…そこまで自分が不運だとは思いたくないが、ランダムエンカウントの死を常に抽選されているという状況は、決して居心地のよいものではない。

見るべき遺構も全て地中のようであるし、早々に突破してしまおう。nagajisさん。




8:52

見覚えのある地点に出て来た。
これで、今歩いてきたものが「ずみの窪隧道」の旧道であったという確信を得ることが出来た。
約500mの道のりに、17分を要していた。
本日一本目の廃道としては、なかなか充実していた。怪しい横穴も見つけたし。




旧道説を支持する、だめ押しの発見である。

この古びたガードレールの向きは、明らかに今歩いてきた道の方を志向している。



ということは、これととても良く似た立地条件の…




小雪なぎ隧道にも、旧道があったーー!!

恥ずかしいが、すっかりこれは見逃していた事になるな。
二人も雁首を揃えて、本当に恥ずかしい。

言い訳はすまい。

ただ今は、見過ごしたまま終わってしまうこと無く、気付けた幸運に感謝しよう。

そして、感謝を込めて、この旧道もやっつけて行くだけのことだ。





次回、これらの旧道の意外な正体が明らかとなる。