道路レポート 国道229号キナウシトンネル旧道 第2回

所在地 北海道古宇郡神恵内村
探索日 2018.04.24
公開日 2024.09.22

 キナウシ旧道への苦労した突入


2018/4/24 9:11 《現在地》

マッカ旧道を終えて振り返る。
塞がれた旧トンネルまでよく見えていた。



進行方向に向き直ると、そこには次なる探索の舞台、キナウシ旧道の入口が“異様な姿”を晒していた。

目の前にあるのは現道のキナウシトンネルで、平成15(2003)年の竣功、全長は1008mである。

マッカトンネル同様、この坑口前にも旧道への分岐などは無いように見えるが、当サイトの読者であればお気づきだろう?

それがあるべき場所に見える、異様なものの存在が。



9:12

凄い塞ぎ方!!

掲示されている看板類は他の封鎖された旧道にあるものと変わらないが、通常の鉄条網付き扉フェンスを補強して、それを遙かに上回る規模の鋼管組みのバリケードが、もともと狭い旧道の入口部分を150%封鎖していた。
それはとても高く、よくある“脇の甘さ”も全く見られない。というかこんなに脇の甘くないバリケードは見たことがない。
さすがにこれは、お手あげである。

ここまで厳重な封鎖は稀としても、近隣の似た立地にある海岸線の廃道がことごとく念入りに塞がれている最大の理由は、密漁者対策だ。
「パトロール強化中」と書かれた看板にも「古宇郡漁業協同組合」と書いてある。
この旧道は既に道路法の道路としての供用は終えており、道路の危険防止を目的とした封鎖ではない。
供用当時は路上から簡単に密猟者を発見出来たが、道路の廃止で人の目が届きにくくなった現在の海岸線は、密漁の温床になりかねない。そのため、海岸の道路がなくなっている区域でのパトロールは漁船によって海上から行われている。この日この場所に限らず、私も度々それらしき漁船が陸の近くの海上を行き過ぎるのを見た。

……というわけで、密漁という人の悪い行いために、私はワルい行いをすることになる。



にゃ〜〜ん?

からの、

にゃ〜〜〜〜ん!!



にゃにゃーーーー!!!!

からの、

にゃおおおおぉぉぉぉんんん!!!!!



9:23 《現在地》

目指す旧道へはあと一歩。ぴょんと飛び下りるだけの容易い一歩だ。

が、ここで足が止まった。

自転車を持ってきた方が、良かったんじゃないか?

……そんな考えが頭を過ったせいである。



私は悩んだ末、力技で自転車を持ち込むことを選んだ。

このときワルニャったルート上にある最大の障害は、現道山側に切れ目なく設置された高い落石防止フェンスの存在だった。
これを自転車で越えるため、車輪を外し、フレームと分けることで担ぎ上げた。
これはかなりの重労働であり、かつ反復のために時間を費やした。

先ほどのマッカ旧道では呆気なく自転車同伴を諦めた私が、なぜ今度のキナウシ旧道ではこれほど執念深く自転車を持ち込もうとしたのか。
もちろんそこには理由があった。
それは、私がこのキナウシ旧道のゴールとなる“出口”側の景色を、先にストリートビューによって知っていたためである。

レポとしてはまあネタバレになるが、私も先に知ったことだから、一緒に見て欲しい(↓)。



これが探索当時公開されていた、2014年撮影となる、キナウシトンネル南口の状況である。
3本3世代のキナウシトンネルの坑口が、左右だけでなく上下にも並ぶという、なかなか稀有な光景となっている。

中央の大きなトンネルが現トンネルで、左の海側に並んでいる見えるのが旧トンネル。これはやはり塞がれている。
そして、現トンネルのすぐ上に、鉄道を思わせるやや細身の坑口を開けているのが、旧旧キナウシトンネルである。
これまでの探索でも同様の傾向は見られたが、旧トンネルはほぼ必ず塞がれている一方で、そのさらに前の代となる旧旧トンネルは開口したままであるケースが多い。その理由は定かでないが、昔は旧トンネルの封鎖に今ほど熱心ではなかったのだろう。



南口の状況を見る限り、3世代のトンネルはこの地図のような配置で並んでいる。
旧トンネルは確実に通行不能だが、旧旧トンネルは自転車と共に通過できる可能性が多分にあった。
もちろん、洞内や北口の状況は分からないので、これは一種の賭けであったし、探索の確実性という意味では、徒歩が無難なのは間違いなかったが、後で自転車を取りに戻るのが面倒であることや、何より、旧旧トンネルという隠しルート(あまり隠されていないけど…笑)を活用することで、普通は通り抜けられない旧道を自転車同伴で通過したという“思い出”には、私が望む“楽しさ”があると思ったのだ。

ひとことで言えば、やってみたいと思ったから。 まあそういうことである。


……が、この自転車を持ち込むという判断が、本探索を一層エキセントリックでエキサイティングなものへ仕立て上げたのである……。



9:44 《現在地》

ようやく旧道路上への自転車の持ち込みを完了したが、一連の“脱獄行為”に32分もの時間を費やしたことには、正直、「やってしまった」と思った。
さすがに時間を使いすぎだ。
やれる、と思ってから、やりおえるまでに時間がかかりすぎた。
途中でやめるのが癪でやり遂げたが、これにより危険な“タイムリスク”を背負ってしまった。
というのも、もしこの旧道を目論見の通りに突破出来ず引き返す場合、脱出するにもまた少なくない時間を費やすことになるのだから……。

ここは是否とも完抜を目指したい!! 普段よりそう強く願いながらの突入となった。



鉄壁のバリケードを有する旧道入口ゲートを振り返る。
乗り越えてきた右手の盛土には、現トンネルが埋設されている。
盛土と護岸に挟まれて、バリケードがある部分の旧道は著しく狭められているが、建設中、どうやって交通を確保していたのだろうか。仮設道路を海側に設置したのだろうか。



廃道と化したキナウシ旧道の侵攻を始める。

さっそく頑丈そうな覆道である。
扁額などはないが、現役当時はこの構造物も含めて、一連のキナウシトンネルと呼ばれていたことを探索後に知った。
地図を見る限り、地下を潜るホンモノのトンネルである部分までは、まだ7〜800mの距離がある。
そしてその全てが、連続した覆道の下にある。

侵攻開始!



9:45

頑丈な覆道に守られているお陰で、廃道とは思えないほど綺麗な道だ。
僅かにカーブしながら、見渡す限り覆道が続いている。
照明は取り付けられていないが、海に開けている窓から十分に採光しているので、さほど暗い感じはない。
ただ、奥の方には暗い部分も見えている。

この覆道、構造や外観の印象から、明らかに平成生まれと感じたが、実際、平成5(1993)年の航空写真を見ると、ここはまだ明り区間であったから、平成15(2003)年の現トンネル開通に伴う廃止まで、どんなに長く見積もっても10年利用されていないことになる。
さすがにこれは勿体ない。平成8(1996)年に発生した豊浜トンネルの事故がどれほど道路管理者に大きな衝撃を与え、既存の整備計画を大幅に更新することになったのかが窺えるようだ。あの事故がなければ、現トンネルの整備は行われなかったのではないか。



9:46 《現在地》

旧道入口から約200m(覆道入口から約150m)で覆道の断面が変化した。
少し狭くなり、道幅もごく僅かに縮小している。
このような長い覆道区間ではしばしば見られる、建設時期が異なる覆道の接続地点であろう。

平成5年の航空写真だと、ここから覆道は始まっていた。
壁の一部が化粧タイル張りになっているのは、かつてここがキナウシトンネルを名乗る一連の覆道の入口だった名残だろう。
よく見ると縦書きの銘板を取り付けていた形跡もあった。しかし銘板の行方は不明だ。



覆道の接続地点から外へ出て進行方向を撮影した。
この先の覆道には、明り採りの窓がない部分が見えている。そういう区間が2個所はあるようだ。
そして200mくらい先には道路の海側にそそり立つ岩礁とは呼べないレベルの巨大な岩山が見える。

このような奇岩怪石が織り成す海岸風景の妙は、積丹半島の代表的な景観資源であり、ニセコ積丹小樽海岸国定公園の重要な構成要素でもあるが、観光化されているのはごく一部であり、それ以外の大部分は今日、海岸道路の地下化のため、接近して鑑賞すること自体が難しくなっている。
シーニックバイウェイのような道路景観の観光利用と道路の安全確保の間には、妖怪と人間のような相容れない部分が存在していて、限られたコストで並び立たせることは、極めて困難だと思う。



9:47

窓のない部分へ突入。
当たり前だが、全く景色が見えないので、四角いトンネルと変わらない感じである。
ただ窓を蓋で塞いだだけにもかかわらず、ビックリするくらい海の音が遠のいて静かだった。
なぜ部分的にこうしているのかは不明だが、頻繁に波が吹き込むとかの理由がありそうだ。

最初の暗がり区間を通り抜けて……



9:48

ナニィ?!


目の錯覚とかじゃねーよな……?



間違いなく閉塞壁だ。

思っていたよりもだいぶ早いお出ましである……。

あと400mくらい先の旧トンネル坑口までは(ようするに覆道である間は)塞がれていないと予想していたのだが……。

くっそ! 早くも自転車同伴での突破に赤信号か?!



9:49 《現在地》

30分もかけて自転車を持ち込んだのに、廃道らしからぬ綺麗な路面でスイスイ進むこと僅か5分足らずで閉塞壁に辿り着いてしまった。
旧道入口から約400mの位置である。
先ほど外へ出て【遠望】したときに見た、覆道が2回目に窓無しとなるところが、この閉塞壁の在処だった。

なぜここで封鎖する必要があったのかは分からないが、こうなっては……



外へ出て進むよりない。

これは覆道の外側に波除けのための広い人工地盤が存在することに救われる展開だろうか?

そうなってくれると良いんだが、巨大な岩山がそそり立つ景色は先行きへの不安を煽った。


……まあ、ここまで来たら、やれることをやるまでだ。 進もう。




なんか、様子がおかしくないか……?


先に言っておくけど、この前方の岩山、絶対に海側には迂回できないからな。




9:50 《現在地》

覆道が、
トンデモナイことになってるぞ…。



自転車、やっちゃったねぇ……。


ここから進める余地、あるかこれ………?





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