隧道レポート 草木トンネル (旧三遠南信自動車道) 序

所在地 静岡県浜松市天竜区
探索日 2011.3. 3
公開日 2011.9.13


草木(くさぎ)トンネルとは、おそらく日本中でここにしかない、

高速道路から一般道路へと転落したトンネルである。




レポートのタイトルにある「三遠南信自動車道(さんえんなんしんじどうしゃどう)」は、その名の通り、三(三河)・遠(遠江)・南信(南信濃)の各地方を結ぶ、我が国の高速道路のひとつである。

今回紹介する草木トンネルとその前後の道は、この三遠南信自動車道の旧道である。

高速道路の旧道といえば、【道路レポート:中央自動車道旧道】もそうだったが、それと大きく異なっているのは、こちらには現道が今のところ存在しないという点だ。
にもかかわらず旧道があることを不思議に思われるかも知れないが、草木トンネルとその前後の道は三遠南信自動車道として建設されたが、その後の計画の変更によって、一般道路に格下げされたのである。
そして、新たな「三遠南信自動車道」はと言えば、まだ完成していない。

現道はないが、旧道だけが存在している。一般道路として。

しかもそこはちゃんと、誰でも一目見れば、「普通じゃない」と分かる姿になっている。
計画の変更から時間が経つにつれ、カムフラージュは進んでいるが、まだまだ完全に臭いは消えていない。



今回は、序。

どこにそんな道があるのかという話しから、はじめる。


三遠南信道の「予告」



2011/3/3  【地図は後ほど】 

今回の旅は、しばらく車で行く。

写真の交差点は、静岡県浜松市の北部に位置する天竜区水窪町奥領家(てんりゅうくみさくぼちょうおくりょうけ)の国道152号上にある。
少し前(平成17年)までは水窪町という独立した行政の役場所在地だったところであり、今も景色自体は当時からほとんど変わっていないと思う。

そして、国道152号といえば、“酷道”の世界ではとみに有名な道だが、この道を南(終点:浜松市)から北(起点:長野県上田市)へ向けてひたすら走っていくと、この水窪町から次の長野県飯田市南信濃(平成17年までは南信濃村)にかけてが最初の酷道区間…自動車交通不能区間となっている。

峠の名で言った方が通りが良いかもしれない。青崩(あおくずれ)峠である。




← 地図で見る現在地はここ。

国道152号を浜松から出発すると、旧天竜市二俣、旧龍山村瀬尻、旧佐久間町大井などを経て、旧水窪町奥領家にやってくる。(これらは全て現在の浜松市内)

ここまでの距離はおおよそ60kmで、全体(約250km)から見ればまだまだ序盤ながら、地図上の沿道の緑の濃さを見ても分かるように、天竜以北は人口も少なく、道路網も未発達な山岳地帯を通行している。
その割には地図上のラインが真っ直ぐに見えるのは、高度な改築によるものでは無くて、中央構造線という巨大な地質構造が作った谷地形の中を選んで通っているからである。
その途中に自動車交通不能区間が2箇所も存在するなど、この道の整備状況は、全国的に見てもかなり遅れている。

そしてここ水窪というのは、その通行不能区間のひとつである青崩峠のどん詰まりにあって、申し訳ないが、僻地という言葉がぴったり当てはまるような場所だ。


…と、今回は国道152号の探索ではないのに、なぜこんなことを少し詳しく書いたかと言えば、国道152号と三遠南信自動車道(国道474号)とが、かなり密接な関係を有しているということがひとつと(この話はまた後で)、なにより、私がこの水窪の街の入口で、そこにある青看を見て感じた、強烈な違和感という一種の“驚き”を、あなたにも共感してもらいたかったからである。

それでは、再び現地へ。





水窪の街の入口にある青看には…

↓↓↓


高 速

三遠南信道
SAN-ENNANSHINDO

道 路

の案内がある!!



これは決して、水窪をバカにしているわけではない。

ただ、国道152号だけを浜松から北上してくる限りにおいては、
出発してすぐに東名高速道路の浜松インターの案内を見て以来、
50km以上もずっと高速道路とは完全に無縁だったし、途中で一度たりとて
「三遠南信道」という名前はもちろん、この“蛍光緑色”を見ることも無かったのだ。

それが、この街を過ぎたら国道も行き止まりだという僻遠に来て、唐突に案内される。

そんな意外性を突いた驚きが、ここにはあるのである。


ひとことで言えば、

こんなところに高速あったんだ〜!

という驚き。



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そのまま水窪の街の中に入って行くと、今度は別の分岐と青看が現れるが、そこにも先ほどと同じように、「飯田」と並ぶ「三遠南信道」の緑色の行き先表示があった。

そしてこの交差点を直進した先には、はじめて目的地までの距離が分かる案内板が。↓↓




飯田はまだまだ遠い! 73kmも先なのか。

そして、肝心の「三遠南信道」はといえば、この先8kmだそうである。
スグソコではないが、そんなに遠いわけでもない。車ならすぐに辿り着けそうだ。




水窪川の河谷に沿って細長く続いく水窪の街を通り過ぎると、酷道という表現がしっくり来るような、寂しい道になった。
所々で拡幅工事が行われていたが、まだまだ1.5車線の場所が大半である。
随所に“おにぎり”は設置されてはいるものの、もはや不通区間へと突き進む、先細りの展開は明らかである。

本当にこんな道の先に「高速道路」なんてあるのか。

先を知らない誰しもが不安を抱くに違いない。
私がここをはじめて通ったときも、そうだった。

そしてこうした道は、途中いくつかの小集落をすり抜けながら、7km続く。





三遠南信道との「遭遇」



水窪中心部の標高が260m、翁川沿い最奥の集落であるここ池島の標高が600mである。
ここまでの7kmは全て登り坂であり、青崩峠への道はまだ半ばだが、なかなかに険しい事を知った。
今回私は車で楽をしたが、何か申し訳ない気さえしてしまった(いずれ青崩峠をやるときは、ちゃんと自転車漕ぎます…)

そしてここに、待望かつ久々の青看があった。
私はこの少し手前に車を停めると、ようやく自転車に乗り換えた。
こっから先は、探索だ。




急な登りのため、ノロノロと青看に近付く。

青看は250m先の分岐の予告であり、相変わらず「飯田」と「三遠南信道」のセットが直進で、「青崩峠」が右折という案内になっていた。




そして、予告通り、少し進むとまた青看。

今度こそ予告ではなく、本物の青看(?)であるようだ。

何か、青看以外の標識も見えている。

再び1.5車線に狭まった道を登っていくと…




分岐地点に到着した。

青看には国道の表示がされていないが、国道152号はここを右折する。(そして青崩峠の交通不能区間になる)

対して直進する道は、平成20年まで三遠南信自動車道だった。そしてそれと同時に、国道474号でもあった。
(三遠南信自動車道は、国土交通大臣が「一般国道」の自動車専用道路として指定した高速道路(高規格幹線道路)である。同じ高速道路(高規格幹線道路)でも、東名高速道路や中央自動車道などは(道路法上の)「一般国道」ではなく「高速自動車国道」なので、別の法的根拠で整備されている。詳しくはウィキペディアをどうぞ。)

つまり、青看は堂々と古い情報を掲載していることになる。
いまここに「三遠南信道」などという道は存在していない。

だが、高速道路ではなくなったが、それでも飯田へ抜けることは可能である。
だから、行き先表示の半分(飯田)は正しい。




しかしこの、「飯田へ抜けられる」ということに関しても、条件付きである。

その条件が、青看の支柱に取り付けられた、文字びっしりの案内板である。(実はこれが水窪の街中にもあったが、写真を撮り忘れていた)

書いている内容は、「長野県兵越峠7km先 全長8m重量14t以上の車両通行不能」というもので、土地勘も地図もなくて、ここまで青看だけを頼りにしてきたドライバーは、少し戸惑うことだろう。

「 急に「兵越峠」なんて言われても…。
 そんなの目の前の「三遠南信道」で、
 バババッと越えられるんじゃないの?!」 と。

これは、地図を使って説明しなければなるまい。




より広域な図は【こちら(マピオン)】で。

地図のまん中に巨大なS字を描いているのが、山中に突如現れたハイウェイ。三遠南信自動車道(の旧道)である。

現在地で国道152号と三遠南信道が分岐し、それぞれ青崩峠と兵越(ひょーごし)峠に向かっている。
青崩峠は自動車交通不能の登山道だが、兵越峠には林道(現在は市道)が通じており、長野側へ抜けることが出来るのだ。
つまり、兵越峠は国道の不通区間の迂回路として活用されているのである。

改めて注目していただきたいのは、三遠南信道の姿である。
それは草木トンネルを越えた少し先で、市道に合流して終わっている。

…高速がブッツリと… …面白そう!





能書きはこれくらいにして、そろそろ見てもらおう。








山中に突如現れたハイウェイ

ってやつをな!

↓↓↓

↓↓↓







やがった!




以上のレポートの中に、一箇所重要な訂正がある。
【ここ】で、「直進する道は平成20年まで三遠南信自動車道だった。そしてそれと同時に、国道474号でもあった。」とした箇所がそれである。

現在の草木トンネルの所属について、ネット上には「一般国道152号に変更された」と「県道に降格した」という、2つの情報が見られた。
このどちらが正解なのかを確認すべく、所管の「浜松市土木部土木総務課」に問い合わせたところ、意外にも、草木トンネルの区間は現在も国土交通省が管理する国道474号に指定されているとのお答えを得たのである。

草木トンネルは三遠南信自動車道ではないものの、(現時点ではまだ)れっきとした国道474号だったのである。
2011/9/15 自主追記