北上線 旧仙人隧道 大荒沢口2004.10.7撮影
岩手県和賀郡 湯田町


 岩手県和賀郡の特にこの錦秋湖周辺は、森吉と並んで、山行がには特になじみの深い土地である。

それは言うまでもなく、これまでに幾度もの良質の探索を提供してくれたと言うことだ。
具体的には、2003年度の山行がレポの読者人気投票第1位となった「錦秋湖 水没遺構群」を筆頭に、本年度の「和賀計画」など、本レポ(=道路レポ)クラスを二本紹介できているし、隧道レポとしても「大荒沢隧道」や、「謎のトンネル」などというのもあった。
これらは、全て錦秋湖の湖畔や、そのすぐ下流の和賀仙人地域に集中している。

そんな、私をアツくしてやまない和賀に関する、新しい情報がもたらされたのは、この夏のことである。
複数の読者様から教えて頂いた情報によれば、

9月末から11月の下旬にかけて、湯田ダムの設備更新工事などに伴い、通常の最低水位よりも、さらに6メートルも、水位を下げるのだという。

湯田ダムと言えば、もちろん錦秋湖を生み出したダムである。
つまりは、いくつもの水没遺構が眠ると期待される、あの錦秋湖が、かつて無い水位まで減水するというのである。

こっ、これは重要情報である。
予定していた山チャリ計画を急遽キャンセルして、錦秋湖への幾度めかの探索に赴いたのは、掲示板などにも、ちらほらと水位減少の情報が書き込まれ始めた、10月上旬のことである。

ただし、時間の都合上、かつて探索したことのある汀線ギリギリのラインは探索対象外とさせていた。
具体的には、「旧北上線 本内隧道」や「スノーシェード跡」、それに対岸の国道107号線の旧橋遺構群などである。
上記のものは、全て先に挙げた「錦秋湖水没遺構群」のレポをご覧頂きたい。

ずばり、今回のターゲットは一つだ。
それは、衝撃の鍾乳隧道、旧北上線仙人隧道だ。
ダム下流の和賀仙人地区と、現在は水没し、駅も消滅した大荒沢地区とを繋ぐ、北上線最長の隧道仙人隧道の、その大荒沢側坑門である。

果たして、二度と訪れぬかも知れない、最低水位以下の水位に、隧道の痕跡は現れるのか?!
流石に現存は難しいというのが、率直な予想ではあったが、とにかく行ってみた。

そして、そこで見た水位の低さは、“何か”を期待させるに充分なものであった。


 



 この日、色々走った後に、最後の目的地として、錦秋湖へと来た。
時刻は、もう15時をまわっていた。

私が湯田町川尻交差点にて国道107号線に合流したとき、出迎えてくれたのは、ときならぬSLの姿であった。
この日は、三日後に控えた北上線名物のSL錦秋湖号運転の試運転日であって、たまたま、私がここに差し掛かったときに、北上行きの上りSL列車が和賀川に架かる橋梁を駆けていった。

まわりには、既にどこから聞きつけたのか、多くのてっちゃんや、俄カメラマン達が陣取っていたが、私は飛び込みでSLに遭遇するという、幸運であった。




 これより湖畔の国道を、以前の「錦秋湖水没遺構群」のレポのとき同様、下流へ向かって進む。
進んでいけば嫌でも、水位が如何ほどに低まっているのかを知れるだろう。
湖が反対車線側だったのが、ちょっとやりづらかったが、車の少ない時を見計らって、対向車線を逆走するなどして、少しでも湖畔の様子を調べた。

その結果、確かにめちゃくちゃ水位が低いことが分かった。
かつて無い低さなのは、間違いない。
私が見た限りだが。

例えば、この写真の場所、見覚えがあるだろうか?
以前も紹介した、国道の廻戸橋の旧橋である。
画像にマウスカーソルを合わせてもらえれば、前回レポ時の画像を表示する。




 さらに進むと、徐々にだが、その水位の低さの全容が掴めてきた。
まず驚いたことに、通常はダム湖であるはずの部分が、流れのある河そのものになっているのだ。
水位が低いとか高いというレベルではなく、湖がないのである。

私が今まで何度も見てきたウチでも、ダントツに水位が低い。
とにかく、河だったことは一度もなかったので。
夏場の水位低減期から、そのまま今回の特別水位になっているために、湿潤期であれば水没するはずの元河岸段丘部分は、もはや当たり前のように陸上だ。
そして、通常は決して水面上にでることはなかったと思われる、元々の川原が、一面泥の平面として現れている。
褐色の崖と、その底の茶色の川原は、まるでコロラド川だ。(変な思いこみ?)


 つづいて、無地内橋の旧橋の痕跡だが、こちらもかつて無い様相を呈していた。

写真右の方にちらりと見えるのが、和賀川である。
これっぽっちだ。
無地内橋に関しては、湖底部分に、今まで存在の分からなかった基礎が存在していたことも、今回判明した。
また、橋が現存しないのは、湖底にも残骸などがないことからも、落橋などではなく、やはり撤去分解されてしまったようだ。
知っている場所だけに、水位の低さが余計に面白い。
画像にマウスカーソルを合わせてもらえれば、前回レポ時の画像を表示する。
 


 これは、錦秋湖の旧線の景色として、多方面に紹介されている、長い長い堰堤部分だ。
深い草むらに不鮮明だが、南本内川橋梁の橋脚跡などと共に、相変わらず孤立していた。
実は、あそこってまだ行ったこと無いけど、あんまり広い草原のただ中なんで、行く気になれないんだよな。
別に、渇水期にならいつでも行けるんだろうけど。

国道から一般県道133号線へ入り、湖を跨ぐ天ヶ瀬橋から、和賀仙人方向を俯瞰する。



 天瀬橋から、今度は上流方向の景色。
奥に見える橋は、秋田自動車道の高架だ。

以前に撮影された写真と比較してもらえば、その水位の低さは、一目瞭然であろう。
これだけ下流に来ても、まだ湖は現れず、流れている。

この様子であれば、なにか、期待できるかも…。

画像にマウスカーソルを合わせてもらえれば、前回レポ時の画像を表示する。



 途中、大石集落のJR北上線ゆだ錦秋湖駅で、幾つか荷物を整理した。
ちょっと、リュックを新調した事に浮かれ、色々と持ち込んだために、背中や腰が痛くなってしまったので(粒様のリュックだよ…)、この先の探索に不要そうな着替えなどを、帰りの輪行に使う当駅の待合室に隠したのである。

 え?

汚いものを隠すなって?
テロじゃないかって?

無言…。





 少し身軽になって、国道とは対岸の右岸を、秋田自動車道やJR北上線と絡み合うようにして、峠山へと進む。
途中から道は砂利道になり、また舗装に戻ったかと思うとすぐに「謎の隧道」へたどりつく。

ここから、湖畔に降りて進もうと思う。
謎のトンネルに入らないで、このまま湖畔を進むダム管理道もあるのだが、事前情報によれば、工事中であるという。
トラブルを避ける意味でも、敢えてここから湖畔に降りて、体で水位の低さを感じるのも悪くないだろうと考えたのだ。
旧地形図などの読み取りの結果から、ここから目指す仙人隧道水没坑口までは、湖畔を1.3kmほど進めば良いだろう。



 トンネルの前で、湖畔を見下ろして、また驚いた。

ここでようやく湖の形を示すという水位の異常な低さもさることながら、その黄金色の湖面に浮かびあがった、まるでマンションのような構造物が二つ。
その高さからは、通常時は水没していることが明らかだ。
いままでも、このような物体の存在は知らなかった。
目茶苦茶気になる!!

なにか、大変な発見がある予感がしてきた…。
大げさでなく、凄まじい水位なのだ。
信じられない、水位なのだ!






 溜息が出た。

余りにも、私の心の琴線を激しく揺さぶる発見なのである。

坑門などではない。
坑門ではないが、まさか見られるとは思っていなかったものを、私は見ていた。

お分かりだろうか?

眼前の一面の泥の中に、くっきりと浮かびあがった、プラットホームが。


 …大荒沢駅だ。

ダム工事と共に放棄され、新線には復元されなかった、北上線幻の駅、大荒沢。
おおよそ数十年ぶりに、この地上へ現れていた。
それは、錦秋湖にまつわる、新しいストーリーの幕開けを、予感させた。

 時限付きの、伝説を…。



2004.10.29作成
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