2009/4/29 14:34
現在地は栃折隧道内部。
西口より100m付近だ。
入ったばかりは乾いていたが、ここまで来る途中で浸水が始まり、だいたい10cmくらいの水深になっている。
普通、隧道は排水の都合を考えて、どちらか一方が高い片勾配か、中央付近が最も高い拝み勾配となる。
もし前者の場合は、進むほど水深は深くなる可能性が高い。
また後者の場合は、現在地がサミットの前後いずれかであるかによって、今後の水深の推移は変わるはずだ。
なお、貫通している可能性は相当に低いと考えられていた。
行く手に光が見えないこともそうだが、風のないことがそう考える最大の理由だった。
あーーわーあー、
なんか〜、いるよ〜〜。
洞窟のようなゴツゴツした天井に、茶色の巾着袋みたいなのが、ぷらりん、ぷらりん。
言うまでもなく、彼らの正体はコウモリだ。
灯りをあてても身じろぎひとつしないところを見ると、完全に冬眠の最中らしい。
通らせて貰いますよ…。
プラプラの下をくぐって進むと、少し水が深くなってきた。
車輪のリムにも水が絡むようになって、漕ぎの抵抗も増大。
バシャバシャと水をかく音が洞内に響く状況となる。
今日は長靴を装備していないので、これはやばい状況だ。
4月の地下水は、きっと冷たいだろうなぁ…。
そもそも、水没が始まった時点でやばいとは思ったのだが、チャリを漕いでいる最中だったので、惰性でそのまま入ってきてしまった。
始めは水たまりと思ったものが長く続き、気付けば10cmを超える水深である。
見ての通り、この隧道はチャリを穏便にUターンさせられる幅はない。
それをするためには、どうやっても地面に両足を下ろさねばならない。
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あっ!あっ!あっ!
付く!付く付く!
足が付くよ〜!
…あまりの低速のためバランスを崩した際に、右足を一瞬だが、じゃっぽりと水に漬けてしまった…。
―右足、浸水―。
ああ…。
なんか、前方やばくないか?
“陸”があるのは嬉しいが、明らかに普通の洞床ではない。
天井が崩れているようだ…。
それに、あの土砂の向こう側はもっと深く水が溜まっているかも知れない…。
あと、探索時には気付かなかったのだが、後で写真を整理していて、この左の壁に白いスプレーで数字のようなものが書かれているのを見つけた。
もっとも、単なる見間違いかも知れない。
水が、さらに深くなっている気がする。
おそらく、この辺りがいままでで一番深い。
ほとんどペダルを漕いで進むことは出来ず、上体をなるべく動かさないようにしながら、片方の壁を手で押すようにして、チャリのバランス取りと推力にした。
この水位、もしかしたら、隧道は全線下り片勾配なのか?
だとすると、ますますこの先の水深が心配だ。
どうせ閉塞しているにしても、それを目視できずに水没で敗退は悔しい。
というか、恐らく胸くらいまでの水深があっても、成り行き上、入らざるを得なくなりそうなのが、嫌だった。
…風邪ひいちゃうよ。
14:40
陸地上陸!
入洞から8分後、おそらく地中150mほどの地点だが、ここで崩れた土砂が堆積して陸を作っていた。
私はチャリごとここへ乗り上げ、とりあえずの足休めとした。
これは振り返って撮影した写真。
相当に入口は小さく見えるが、サイズも小さいので、ちょっと距離感は計りにくい。
ともかく、ここまで綺麗に直線であることと、ほとんど勾配がないということは分かる。
そう言えばここまで書き忘れてたが、洞床にはコンクリートが敷かれており、しかも両側15cmずつくらいは側溝になっていた。
それゆえ水の中でよく見えない路盤でも、チャリを走らせることが出来たのだ。
この先も、水没だな…。
深さはよく分からないが、そんなに深くなっているわけでも無さそうだ。
どうせ天井の高さだって2mも無いんだから、“全部”沈んでも、水深はせいぜいそんなもんだ…。
探索は出来ないだろうが…。
この先もずっと水没している感じがしたので、面倒だとは思ったが、足回りの装備を変更することにした。
リュックに忍ばせていたゴムのウォーターシューズを裸足の上に履き、いままで履いていた靴を仕舞う。
とりあえず、これで膝下までの水没は怖くなくなった。
冷たい水に足をつけるのは嫌だったが、靴が濡れてしまってずっとグジュグジュするよりは良い。
今日は天気はいいから、外に戻れば足なんてすぐに乾かせるしな。
14:45
準備が出来たので、
いざ、洞奥へと向け…
前 進 再 開!
動き出すと、またすぐにコンクリート巻き立て区間が始まった。
…これで、三度目か…?
一回一回の巻き立て区間は短く、どうやらピンポイントに地質の悪い場所を抑えているようだ。
今度も、すぐに終わる気がする。
かなりコスト意識をもって建設したことが伺える構造だ。
それでも、素堀り区間に較べれば巻き立て区間の方が遙かに安心して走れるし、この“五月雨式”覆工には助けられた。
こっ、コレはッ!!
コウモリがッ!
コウモリたちが…!!
コンクリートの隙間へ、ギュウギュウに詰まっている!!
身体を寄せ合って冬眠するのに、この亀裂は都合良かったのだろう。
いったい何匹隠れているのか、壁を剥がしてみたい衝動に駆られた(笑)。
14:49 推定深度250m。
巻き立ての終了と、陸地の出現。
動画を見た方は、直前の流れがお分かりだろう。
コウモリハサマリポイント(CHP)から50mほど続いていた巻き立て区間がここで終わり、三度素堀区間が始まろうとしている。
また、一時深くなった水位が目に見えて下がり、この先ではコンクリートの路面が現れている。
あと、どうでも良い?けど、この巻き立て最後尾のアーチ…
めちゃくちゃ歪んでません?
あああ……。
なんか、やばいぞ…。
チクショウ、思い出しやがる…
上北を思い出しやがる…。
まだ、あそこよりは1000倍もマシだけど、人道サイズの素堀隧道は、トラウマだぜ…。
うお! これを書いていたらちょうど地震で家が揺れた。
崩れてくんなよ!
うわー、崩れてるなぁ…。
大丈夫だろうなぁ…。
こんなに狭いというだけで、もう十分ドラマチックなのに、それだけでは飽き足らないと見える。
何でこんなに崩れてんの?
これって、俺を試してんの?
悪いけど、このくらいじゃ、どどど動じないぜ。
風もない、光もない、何度も崩れている。
チクショ…。
崩落地点を越えると、また水が溜まり始めた。
ちなみに、この写真はチャリを降りて撮影している。
目線と天井が近いことに注目して欲しい。
こんなサイズの隧道が、曲がりなりにも公道だったとしたら、それは驚くべき事だ。
普通に考えればトロッコさえ通れぬこのサイズ、鉱山の坑道にも劣る。
なお、この反対側の坑口については情報提供者も知らないとのことであったが、それは本当にあるのだろうか。
実は、もとより峠を抜けるための隧道ではなく、鉱山跡とか、何かの試掘坑…。
…ああ、でも入口にははっきり銘板もあったしなぁ…。
やっぱり、隧道なんだよなぁ……。
う…
イッちまってる…。
あ…
上に抜け穴が……。
抜け穴って言っても、これは明らかに人の作ったものじゃない。
天井が抜けた分、空洞になっただけだろう。
もしこの隧道に少しでも風が吹いていれば、もっと前向きになれたと思う。
これは、あまりにも絶望的な風景ではないか。
…… 行 く の?
そりゃあ、行くけどさぁ。
行くけど、
チャリはお留守番だぜ。
流石にこれ以上持っていくメリットが思いつかない。
すぐに帰ってくるからな…。
ガラガラ…
ガラガラ…
よっこ いしょ…
閉塞、 か?
あああ…
終わってねーし…。
この隙間抜けたら、ますます帰りは遠くなる…。
隙間の向こう、酸素とか、 大丈夫なんだろうな。
終わってねぇ…。
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