前回、ドローン撮影を試みた地点こそが、完成した恵岱別大橋の左岸橋頭となるべき位置、すなわち道道94号線と道道1086号の分岐地点となるべき地点であったのだが、実際に恵岱別大橋の橋脚が建設されたのは、対岸側だけである。
空撮だけでは飽き足らない私は、この対岸の橋脚に触れてみたいと思ったが、そのために、どうやって対岸へ行くかという問題があった。
「道道資料北海道」の調べによると、測量や恵岱別大橋建設のための工事用道路の敷設が平成6(1994)年の「暑寒道路」事業化に先駆けて行われ、着工後はこれを利用して資材が運搬され、工事が進められたという。
上図は平成16(2004)年の航空写真であるが、確かに工事用道路らしき鮮明な道形が見て取れる。
実際に建設された工事用道路は、途中で枝分かれする形の2本があり、本線をAルート、支線をA-2ルートと呼んだという。
それぞれ、右岸と左岸の下部工事を担うものとされ、各ルートに1ヶ所ずつ恵岱別川を渡る仮設橋(いずれも長さ64m)が設けられていた。
しかしこの航空写真では、平成9(1997)年に建設が中断してから時間が経過しており、かつ建設中止決定(2004年3月末)後の撮影であるためか、道形自体は鮮明であるものの、恵岱別川に架かる仮橋は、2本とも既に撤去されたらしく見当らない。
探索時点(2024年)でも当然橋はないままだが、かつて大型の工事車輌が出入りしていた工事用道路の道形はある程度残っているだろうから、これがアプローチルートとして役立つものと考えたのである。
こちらは地理院地図上に、茶色の線で工事用道路を再現した。
工事用道路利用における最大の懸念点は、幅が広く、水量・水勢ともに盛大そうな恵岱別川を、橋の無い状態で安全に横断できるかだ。
加えて、工事用道路の渡河地点のすぐ下流は恵岱別ダムの貯水池であるから、その水量如何では徒渉ができないだろうという懸念もあった。
しかしいずれにしても、工事用道路を辿って渡河地点まで行かないと、渡れるかどうかの判断はつかないだろう。
ドローン撮影地点(左岸橋頭予定地点)より約1km東へ道道94号を移動した地点が、工事用道路と同道道の分岐地点であった。
そこまで自転車で移動するのは、全部が急な下り坂だったので一瞬で済んだ。
2024/10/08 16:05
ここが工事用道路の入口だ。
恵岱別大橋が架かるべき地点より50mくらい低いが、そのぶんだけ恵岱別川との比高は小さく、横断しやすいはず。
なお、附近には車を停めて置けそうな道路余地が全く見られないため、車もここに収めて行動せざるを得なかった。
停めてある愛車の奥へ自転車で突入。探索の第2ステージ、はじめ!!
チェンジ後の画像は、突入直後の様子となる。
急な下り坂で始まった。
両側の旺盛な草むらに消え入りそうな道ではあるが、地理院地図に描かれていない道にしては上等だろう。その気になれば車のままでも入れそうだ。
16:08 《現在地》
だが、入って100m足らずで明確な広場に突き当たると、その先の道形はとんと不鮮明になってしまった。
とりあえず、自転車はここに乗り捨てる。
(平成5(1993)年の航空写真だと、ここに工事用道路建設のための現場事務所や資材置き場などが置かれていた形跡がある)
広場の周囲には、背丈くらいの笹藪が林床を覆う見通しの乏しい平坦な雑木林が広がっており、さっそく工事用道路を見失う。
だが、このくらいで諦めてはいられない。
日没まで残り1時間しかないので、熊避けの奇声とアラームを全開にしながら、こちらと思う方角へ豪快に藪を掻き分けて驀進した。
とにかく、遠くないはずの川岸へ出ることが、次の目的だ!
16:11 《現在地》
広場から先は工事用道路を忠実に辿ってはいないと思うが(ここは帰路でも道形を見失ったから本当に道形不鮮明だと思う)、GPSを頼りに工事用道路の“推定渡河地点”(仮設橋地点)へ直接向かうと、川岸の直前でポンとまた広場らしき所へ出た。
そこはまさしく存在を忘れ去られたようなぽつねんたる空地で、一方のみ川岸に面して明るかった。
そこが、航空写真により判明していた、仮設橋の地点である。
かつて大型ダンプが行き交った喧騒の名残を、草葉の裏に求めてみれば……
広場の片隅に、身を寄せ合うように山積みされた細いコルゲートパイプの排水溝が。
工事用道路の側溝として利用されていたものかと思うが、うっかり回収されずに残されたものか。
しかし、この場所に現代の土木工事が及んだことの微かな名残としては見逃せないアイテムだった。
16:13
航空写真により予期していたことだが、やはり仮設橋は失われたままであった。
ここに長さ64m、幅4m、高さ8mほどの工事用仮設橋が敷設されていたらしいが、橋台含めて一切形跡は見当らない。
さすがは、跡を濁さぬ丁寧な仕事ぶり。
橋がない以上、決して小川とは呼べない幅と水量を持つ恵岱別川を徒渉しなければならない。
下流側は案の定、水が溜まった湖面になっていたが、上流側は普通の流れであった。
ときおり道道を行き過ぎる車の音が聞こえてくるくらいで、あとはザーザーという川の音だけが流れ続ける無人の谷間だ。
しかも、川面は傾いた西日の蔭となって既に薄暗い。
日没が迫るこの時刻からの徒渉および入山には、少なからず躊躇を感じたものの、ここから目的地までは600〜700mの目算で、道の状況次第ではあるが、1時間あれば往復できると読んでいたから、悩む時間こそ惜しいと決し、徒渉へ挑むことにした。
16:16 《現在地》
ただ、どこでも渡れれば良いというものではなく、対岸の地形も重要であった。
仮設橋がかつてあった辺りは、対岸のせり上がる土壁が険しく、その上の平らな土地も猛烈な密度で笹が茂っていて、そこに入り込んで進むことは大変難儀しそうであった。
そのため歩き易い河原を上流へ向かい、対岸の地形条件が良くなるのを待つことにした。
結果、仮設橋地点から100mほど上流で川の流れが曲がっている辺りの条件が良さそうだったので(写真の場所)、ここを徒渉することにした。
ざぶざぶ。
なんの捻りもなく探索靴のまま横断したのは、これも時間を節約するためだ。
もし時間があれば、ここだけウォーターシューズに履き替えて渡っただろう。
生命感の濃い豊かな自然の川だけに、川底の石のヌメリがとても強く、滑りやすくて難儀した。水の深さは膝の少し上くらいだったが、水勢も十分。転倒してカメラを濡らさないことに最大限注意を要した。
16:18
渡ることには成功したが、右岸の岸辺は鬱蒼とした草藪で、どこから立ち入るべきか悩んだ。
まったく踏み跡らしいものが見当らないのである。
工事用道路があるはずだが、川からは窺い知れなかった。
この藪の深さに恐れをなして、少しのあいだ河原を上流へ向かって歩いたが、工事用道路は右岸を上っていくはずだから、河原を進めば高さが離れていく。
そのことに改心し、藪へ突撃。川岸のネズミ返しのように笹藪のキツイ急斜面を無理矢理に攀じ登ると……。
16:24 《現在地》
あった! 鮮明なる道形が!!
これが、工事用道路であるのに違いない。
記録通り、幅は4mくらい。
ガードレールのない盛土の道で、未舗装だが硬い踏み心地が残っている。
お陰で周囲と比べて藪も浅く、これは期待以上に辿り易そうだ!!
なお、地図を見ると、この近くに小さな支流の沢があり、そこが右岸における北竜町と雨竜町の境界になっているが、その沢は築堤の下にあったようで、存在に気付かぬまま、いつの間にか雨竜町域へ入り込んでいた。
余談だが、私が雨竜町へ足を踏み入れるのは人生初のことで、それが人家の近くのまともな道路ではなく地図にない廃道に拠ったことが、なんだかおかしかった。オブローダーらしいなと……笑。
さあ、ともかくこれで目的地へのレールに乗った!
あとはバンバン進んで目指すだけ!! 急げ!
16:25
案の定、工事用道路はすぐにキツイ上り坂に変じた。
目指す橋脚群の在処は、川底より40mくらい高い場所なので、どうやっても登っていく必要がある。
路上の藪がときおり視界を妨げたが、主に草藪なので笹藪と違って与しやすい。
熊避けだけには配慮しながら、最大速度で歩いた。
川の音は、すぐに遠くなっていった。
16:26
道は直線的で、行く手にある地形の起伏を、盛土と切り取りを交互に行って上手く均してあった。
これは切り取りの場面だ。
日陰は藪が浅くてより歩き易かった。
この忘れられた道を工事車両が行き交ったのは、主に平成9(1997)年の工事中断までだろうが、平成16(2004)年の工事中止決定時にも、仮設橋撤去のため最後の出入りがなされたことだろう。
その性格上、現役当時を含めて地形図に描かれることは一度も無かった。
切り通しの路肩に目を向けると、【見覚え】のあるコルゲートパイプがまだ本来の任務を頑張っていた。
ちなみにこの場所は範囲外だが、増毛当別線の予定線の一部は平成2(1990)年指定の暑寒別天売焼尻国定公園の保護区域に入っていた。
そのため計画当初より自然保護運動との軋轢があった。一度は克服し着工に至ったものの、平成9(1997)年のクマゲラ確認によって再び問題が浮上、そのまま工事再開されず中止されたのである。
これに関して、かつては同公園の利用計画に増毛当別線の整備が組み込まれていて、保護区域内に車道を建設できる根拠になっていたが、平成16(2004)年の計画中止後に公園計画が改定されたので、再び改定がない限り、増毛当別線をかつてのルートで建設しなおすことは出来ないし、事実上そのようなことが起る可能性は皆無だろう。
この道路、完全に未来を断たれてしまっているのだ……。
16:29 《現在地》
ひとしきり上ると、登り方が中だるみとなって、そこに草の茂る広場があった。
分かりづらいが、ここが工事用道路の分岐地点であった。
直進が本線格のAルートで、このまま右岸の橋脚工事現場へ向かい、右折は支線格のA-2ルートで、ここから再び川まで下って再渡河し、左岸の橋脚工事現場へ向かっていた。
ただし、左岸の橋脚工事が始まる前に工事が中断されたため、A-2ルートは本来の役割を果たせなかったという。
A-2ルートにも恵岱別川を渡る64mの仮設橋が整備されていたが、やはり撤去済みである。
今回は時間もなかったのでA-2ルートは省略し、最短でAルートを辿って未成橋脚群とまみえたい。
16:29
こちらが工事用道路Aルートの続き。
再び一直線の切り通しの上り坂だ。
切り通しの中にいることもあるが、とても薄暗くて厭になる。
早く探索を完遂しなければ夜になるぞ! 急げ急げ! 駆け上がれ!!
おそらく、この坂の上が最終目的地だ!!!
16:33
ああっ
橋脚だ! 遂に辿り着いた!
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