※このレポートは「廃線レポ 千頭森林鉄道逆河内支線 第5回」の続きとなります。
当地までのアプローチについては、前記レポをご覧下さい。
※このレポートは「廃線レポ 千頭森林鉄道逆河内支線 第5回」の続きとなります。
当地までのアプローチについては、前記レポをご覧下さい。
千頭山への入山、その第一目的は「千頭森林鉄道」の攻略であった。
そして全部では無いが、この日の目的とする内容は果すことが出来た。
それからもうひとつ、第二の目的があった。
無想吊橋の攻略である。
寸又峡の支流である逆河内の奥地には凄まじく高い吊橋が架かっており、しかもそれが廃道同然になっているという情報は、私が関東に移住した当初から多くの方に教えていただいた。
テレビで放映されていたという典拠もよく聞いたが、私は残念ながらその放映を見ていない。
ただ、とにかく凄まじい橋がそこにあるから、崩れ落ちて消えてしまう前に見ておいたほうが良い。
そんな熱っぽい…勧誘と言っても良いような情報提供を、何件も頂いていた。
だが私には、すぐさまそれに飛びつくことが出来なかった。
正直、既にテレビが取り上げているという事実は、その内容は知らないけれども私の感覚を萎えさせたし、検索エンジンを使えばより最近の状態をモニタ越しに見る事は出来たが、「完全に知ってしまう」ことを恐れた私は、せっかくの先人たちが橋に近付く段になると、毎回見るのを止めてしまっていた。
それに私にとっての最大の問題は、下調べのつもりで入手した近隣の旧版地形図に描かれた壮大な森林鉄道の姿(もちろん「千頭森林鉄道」である)を見てしまったことで、林鉄の探索を除外してピンポイントに吊橋を目指すという割り切りが出来なかった。
現地は最寄りの集落から林道を20km近くも入ったところなので、そう気軽に行って戻ってくる気にもなれず、計画を欲張ってしまった。
それで千頭林鉄の探索の準備を始めたところから時間を要し、「ヤマビル多発で夏場はちょっと…」という悪条件もあって、最初の計画からは1年以上も費やした末の千頭林鉄第一次探索となり、そこで無想吊橋へのファーストアプローチをやっと叶えたのであった。
なお、テレビ番組では「日本一恐ろしい橋」と宣伝されていたらしい(未確認)橋だ。
こういう安易な宣伝されると、逆に疑ってかかりたくなるのが、ひねくれ者の質である。
私は知っている。
橋の怖さは確かに高さと関係するが、高さは実際の危険度とは比例しないということを。
そして真の意味で怖い橋とは、墜落して死んでしまう姿をリアルに想像できる橋なのだということを。
吊橋は揺れるから怖さが倍増されるが、実際に吊橋が揺れたために振り落とされるなどと言うことは、まず起きない。
言ってしまえば未体験者の強がりにも近い、かような反発心を抱いて現地へやってきた私。
そんな私の実際の無想吊橋に対するファーストインプレッションは、どんなものだったのか。
まずはそこから、お伝えしよう。
2010/4/21 13:52 【現在地(マピオン)】
ぶっとんだ。
リアルにこんな橋を見たのは、初めてだった。
吊橋だと聞いていたし、確かにあの“たわみ”は吊橋に違いないのだが、私の中の吊橋の現実的なサイズではない。
川を渡るというよりは、山を渡るといったほうが実感に近い。
ひも。
そう。それは谷に架け渡されたヒモのようにか細い存在に見えた。
とてもそこを人が通れるように思えなかった…認めたくはなかったが…私の想定していたものを越えた現実の風景だった。
この日持っていたデジカメで精一杯の望遠で覗いた状態。
懸垂線(カテナリー)という曲線に極めて近い、吊橋としての基本的なスタイルを感じる。
美しいのだが、「渡らん」と思っているだけに気が立ってしまい、鑑賞する心の余裕はあまりなかった。
ただ、この橋のカタチ自体は見覚えがある。
構造的には麓の山に沢山あるのと同じ、そしてここへ来る途中の林鉄跡で見た(天地吊橋)のとも同じ、
“井川筋標準”の吊橋だろう…。
ただ、これまで見てきた橋のどれよりも高く、長い。 それも、段違いに。
吊橋ほどに高さと長さの両面に柔軟な橋の形式もないが、
「無想」などというふざけた名前で呼ばれているらしいこの橋は、それを具現化した存在だ。
やばいだろ…。
踏み板の一部は、明らかに損失していた。
吊橋の場合、踏み板が無くても構造的には問題はない。必ずしも落橋のリスクが高いわけではない。しかし、現実的に“渡る”ためには、踏み板が必要である。
そのため現役の吊橋の場合は、定期的に踏み板を更新する。この橋は現役ではないらしいので、その更新が途絶えているのだろう。
ここから見た限り、ひどく踏み板が乱れているのは、この対岸近くの一箇所(3mくらい?)だけのようだった。
だが、その小さな乱れの存在が、私の心を大きく掻き乱した。
当初の予定通り、橋を渡る…渡りきるとしたら、あの踏み板の少ない場所をも攻略しなければならないのだ。
幸か不幸か、私は私の前に渡った人がいることを知っていた。
しかし、その人が訪れたのは今日でも昨日でもない。
私が前にしたこの「今日」の橋の状態は、おそらく私しか知らない…。
私が渡れば、それは「渡れる橋」という事になるだろうが、既に「渡れない」という選択肢も現実にはあり得るはず。
実際に「先日は渡れたのに今日は渡れない」という選択をしたならば、私は(おそらく大半の読者さんも)大いに落胆するに違いない。
しかし、無理に渡ろうとして墜落することだけは避けたい。
正直いって、「もう10年も誰も渡っていない」と言われていたら、敢えて渡ろうとは思わなかったかも知れないこの橋なのだ。
対岸に用事があるわけではないのだから、なおのこと無為にキケンを冒す行為なのである。
…私の判断は、ここではとりあえず「保留」とさせてもらう。
最初の「きっと渡れるはず」という(根拠のない)自信は、完全に消沈してしまった。
だが、現実を目にしたことで、何百歩も大きく前進したのは間違いない。
もっと近付いてから、渡橋の可否判断をしよう。
現在地はここ。
日向林道の8.5km地点であり、庄尾と呼ばれる尾根の一角である。
目指す無想吊橋までは、あと500mほどだ。
それは最新の地形図にも前後の徒歩道とともに描かれており、廃道であるにせよ、廃道になってからあまり時間は経っていないことを感じさせる。
これは現在地より、無想吊橋対岸の風景を撮影。
よく見ると橋からだいぶ離れた山上に、広大な植林地が広がっているのが見える。
そこは標高1200〜1400m付近(橋が架かっているのは900m付近)の山腹と思われるが、地形図と照らしてみると橋を渡った先の破線の道は、この植林地を目指している事が理解できる。
ちなみにこの山腹の頂点は海抜2171mの不動岳という山で、無想吊橋はこの不動岳への登山道としても利用されていたようだ。
だが、本来の架橋の目的は登山道ではなく植林地の造成、もっと言えばその前の段階としてあった、伐採事業にあったと考えられる。
(もちろん、吊橋を使って木材の搬出は出来ないだろうから、索道などが用いられたのだろう)
日向林道を前進する。
引き続きこの道が無想吊橋への唯一のアプローチルートである。
路面の状況はこの通り、かなり荒れていた。
しかし、心はふわふわ上の空。
頭の中には天かける吊橋の姿が、ふわふわゆらゆらちらついた。
もはやこの心を抑えるには、一刻も早く橋の前に立つしかない。
13:57 《現在地》
最初に吊橋が見えた地点から300mほど進むと、路肩に生えた木々に隠れていた橋が再び見え始めた。
先ほどは正面に見えていた橋だが、今度は路肩のかなり下の岩尾根に半ば遮られ、対岸の近くだけが見える。
岩尾根は非常に急峻なもので、また対岸も同様に非常に急な崖である。
吊橋は両岸ともに非常に険しい位置に架け渡されているのである。
これは、少しでも短い橋で足りる位置を模索したうえで架橋地点を決定した事を伺わせる。
最初見た時点ではあまりに橋が高く長いので、何のひねりもなく単純に谷を渡っているのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
吊橋を望遠で撮影。
踏み板が途絶えている部分で、数枚の横板が空中に浮かんでいるように見えるのは、
細くてこの距離では見ることが出来ない鉄線が存在することを教えていた。
もしこの橋を渡りきるとしたら、その鉄線が唯一の頼りになるのだろうか。
ちょっと実際に近付いてみないと、状況の想像がつかない。
でもそれは、とんでもなく怖いことなんじゃないだろうか…。
そこから少し進むと、橋の姿は再び見えなくなった。
心は少しも鎮まらないままだ。
ここは上の写真に写っていた岩尾根と林道が交差する、深い堀割である。
そしてすぐ先にもうひとつの尾根が見えているが、橋は向こうの尾根の下方に架かっている。
なお、日向林道から見える吊橋は、今紹介した遠近二種類のアングルだけだ。
(上流側からも見える場所があるかもしれないが、未確認)
橋の周辺の尾根筋がかなり入り組んでいるうえに、林道と橋の高低差が50m以上もあるので、意外に林道からは見えないのである。
最初に見えた尾根地点では、どうやっても橋が目に飛び込んでくるので、見逃す心配は無いが…。
14:01 《現在地》
最初に橋を見てから8分後、約500m進んだ尾根を越えたすぐのところが、林道から橋へ下る山道の入口である。
案内板のようなものはないものの、立ち木に赤いペンキが塗られている。
私もそれを目ざとく見付けて、そこから崖下を覗き込んでみると…
このような手作り感満載の木製階段が、路肩から谷底へ向けて続いているのを発見!
なお、新旧ルートなのかは分からないが、橋へ下る山道は2本ある。
この写真の道がひとつと、ここから10mばかり下流側にももうひとつ道があるのだ。
両者は橋へ向かう途中で合流するのでどちらを行っても良いが、多分この階段道の方が楽に降りられる。
14:02 林道に別れを告げ、吊橋への下降を開始する。
必ず戻ってくることを強く心に願いながら!
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ちょっとだけ!ヨッキれんの宣伝。
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前述したとおり、林道と橋の袂は高低差が50m以上もある。
地形図読みだと、ちょうど70mである。
そして、この間の水平距離は地形図読みで80m程度である。
単純計算で山腹勾配が45度近くあるわけだから、山道は大変な急勾配である。
地形図だとほぼ直線的に描かれていた歩道は、実際にはジグザグを描きながら下っていた。
もちろんこれは車道ではなく、大きな荷を担いで歩けるような道でもない。
この道でしか行く事が出来ない吊橋は、やはり林業従事者が山へ入るための人道だったのだろう。
この山腹の地面にはほとんど土が見えず、大量の瓦礫が木々の合間を埋めていた。
下草がまったくないせいで、ずっと下の方まで見通せてしまう。
この時点で、高所恐怖症の人には耐え難いかもしれない。
14:05 《現在地》
ジグザグジグザグに40mくらい下っていくと坂は緩くなり、尾根の先端方向にトラバースする感じになった。
かなり道は崩れているが、要所要所に木製の桟橋やトラロープが設置してあるので、慎重に歩けば難しいところはない。
そしてこのトラバース区間に入って間もなく、私は予想外のものを見ることになった。
山道のすぐ下の斜面に、幾筋ものワイヤーが這っていたのだ。
どのワイヤーもピンと張っていて、なにか力が架かっていることが伺えた。
そしてその先端はいずれも、堅そうな岩盤に直接ボルトで固定されていた。
落石防止ネットでもあるのかと思ったが、この下に道はない。
見ての通り、数十メートル下はスッパリ切れ落ちた絶壁なのである。
なんなんだ、これは?
なんだか大変な事になってきた。
路下にあるアンカーとワイヤーの数は一層増え、まるであやとりをするかのように急な山腹の木々を縫っていた。
数本どころか、数十本はある。
いくつかは先ほど見た岩盤に固定されたワイヤーであったが、また新たに太い立ち木に固定されているものもあった。
そしてこの無数のワイヤーはみな、私の進行方向に向かって収斂していた。
その事に気づいて、やっとこれが何なのかを理解したのである。
尾根の先端が近付いてきたのであろう。
前方の木々の重なりが薄くなり、明るくなってきた。
そしてそれと同時に、斜面はますます急になってきた。
もう、いつ見えてきても おかしくない感じだ…。
いよいよ急になった斜面を横断するために、道は木製の桟橋を連続させていた。
そして、これまでは地面を這っていたワイヤーたちが一斉に離陸して、
1点に… いや、厳密には 横に並んだ2点 に集約してきた。
その先に待つものは、ひとつしかない!
来た!!
14:07 《現在地》
到着!!
確かにこれは、廃橋である。
左に傾いた、巨大な廃橋…。
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