2009/11/14 15:15
橋の下回りのチェックを完了。
橋自体の強度には問題が無さそうだという結論となって、いよいよ渡ってみる事にした。
右岸左岸のどちら側から渡るかは一つの問題だったが、最初に左岸から接近したので、そのまま左岸から…。
写真は、主塔(橋門)を潜って1歩も進まない状況で撮影した。
おおよそ50mという長さも、この時点ではそれほど長いようには感じられなかった。
細田氏が前に来たのは夏場だったので、この辺りは完全に緑に埋もれていたという。
その状況は、床板を埋め尽くす落ち葉が物語っていた。
この落ち葉の下に木製の床板がある。
その“見えざる床板”の状況を知らずに歩くのは危険なのだが、とりあえずはじめの3mほどは橋の高さが低い(下に潜り込んで撮影するスペースがあった)ことを知っているので、「大丈夫だろう」。
まだ、一歩も進んでいない。 が、
問題発生!
改めて橋の上から床板の様子を観察してみると、前回の“遠景チェック”と“下回りチェック”では気付かなかった破損…穴が散見された。
今のところその穴は、橋の両側の端っこのほうだけだが、真ん中の辺りにしてもどのくらい“痩せている”か知れたものではない気がする…。
端と中央部とでどれだけ部材の厚みが違うかとか、或いは素材の質が異なっているかとかは、全く分からないのだから…。
…やばい、ちょっと怖い…。
と い う こ と で…
この渡り方はどうだろうか。
欄干の上を渡ろうというのである。
数ヶ月前、細田氏から橋発見の第一報とともに画像が送られてきた時、私は既に“この渡り方”を考えていた。
木の橋であれば、床板を渡れないという可能性は十分にある。
それでも橋全体の強度に問題がないとなれば、“梁渡り”のようなテクニック、つまり橋の梁をそのまま渡る方法が使えるだろうと考えたのだ。
そもそも、本橋における欄干は単なる“転落防止の手摺り”ではなくて、ワーレントラスの梁そのものである。
だから、欄干を渡ることは意外に“正攻法”かも知れなかった。
そしてこれが、欄干上に立って撮影した写真。
まだ、前には進んでいない。
…はたして行けるのか?
この位置を歩いて。
論理的には行けるはずだが。
風は吹かないか?
滑りはしないか?
途中で降りられるのか?
ので、止めることにした。
おそらく、それが正解だと思う…。
欄干の上から、橋の始まりの3mを見下ろすと、そこにHAMAMI氏の姿。
彼もやる気らしい。
その前進が、私に勇気を与えた。
彼の無言のゴーサインは、何よりも信頼できる。
そして、さすがはHAMAMI氏。
見えざる床板の上で、既に彼はこの橋を渡る上での“絶対の急所”を見切っていた。
そこを外れて歩けば死ぬという急所を…。
いま、初めて前進している。
どうやって前進したのかといえば、いたって普通に「歩いて」である。
もちろん、“急所”のみを踏んでいる。
ここは、3mくらい進んできたところだ。
岸から離れるほどに、橋上に育つ植物は減っていく。
だが、よく見ると育っているのはススキや苔ばかりではない。
まだ小さいけれど、ドングリから育った木もある。
二人は、巨木になれない宿命の木々に見送られて…
決死の領域へ!
つぅか、渡っている最中にこの「現在地の客観視」をさせられたら、嫌だったろうな…。
幸いにして橋上の人間からは、橋上数メートル世界しか見えない。
15:17 (渡り始めてから2分経過)
状況は良くない。
…おかしい。
こんなはずでは。
確かにこの写真だけだと、怖さは十分に伝わらないかも知れないが……。
なんか、下半身にじわじわ来るものがある。
問題は、この床板。
隠すものが無くなって、遂に真っ裸になった床板が、どうしても信頼できなかった。
写真では分かりにくいし、仮に動画があってもはっきりしないくらい小さいのだが、所々に“抜け”がある。
谷底が、チラリチラリと見えるのだ。
いや、そんな風に穴が見えているところはまだ良い。
そこを避けて歩けばいいのだから。
だが、実際にはもうぎりぎり薄くなっていて、踏んづけた瞬間に抜けるような場所があるのではないか。
それが恐ろしかった。
我々の足は、ここで完全に止まった。
「ちょっと俺たち、やばいところに足を踏み入れてないか?」
そんな気がした私は、自分たちがいま置かれている状況を一旦整理したくなり、その場にしゃがみ込んで体の安定性をまず確保した。
それからしたことは、手近でかつ進路上からは微妙に外れた位置の“板”を1枚、やんわりと剥がしてみた。
にゅるっと剥がれてきた。
完全に朽ち木の手応え…。 い や す ぎ る!
そして…、床板の下がどうなっていたのかが明らかとなった。
えっと…、状況は最悪に近いです。
床板は、思っていた以上に薄っぺらだった。
黄色く着色した部分が、鉄製の縦の梁である。
これが橋の軸方向に4本等間隔に配置されている。
いま私が乗っているのが上流から数えて2本目。HAMAMIさんは3本目だ。
鉄製の梁の上に、約30cm刻みで枕木のように配置されているが、木製の横の梁だ。
これは角材で、太さは15cm×15cmくらい。
そして、更にその上に厚さ5cmほどの床板(これが表面)が敷き詰められている。
フニャフニャで、それ一枚ではとても体重を支えきれなそうな床板の下には、格子状に“空”が存在することが明らかとなった。
踏む場所を誤れば、踏み抜くということだ。
いまやったように1枚1枚床板を剥がして、その下にある縦横の綾となった梁を確かめながら歩けばいいと思うかも知れないが、それはこの規模の橋では現実的ではない。
それに、剥がしたところは平坦ではなくなるので、余計に歩きづらいだろう。
つまり、見えない格子模様を脳内で再現しながら、そこを踏んで歩く必要があった。
…もちろん、少しくらい外れても必ず踏み抜くわけではないだろう。
だが、一度踏み抜きを体験したら、もう足がすくんでどうにもならなくなると思った。
踏んでも大丈夫な場所のイメージ。
黄色は鉄製の梁が下にある部分、青は枕木状の太い木材が隠れている部分だ。
一番信頼がおけるのは黄色い梁(“絶対の急所”)であり、次いで信頼できるのが青。
出来れば黄色い部分だけを歩いて行きたいが、それは不可能に近かった。
なにせ、
鉄の梁と言っても幅はこれしかないのだ。
その上だけに全体重を預けるのは、無理だ。
ゾワワワ…
こ、怖すぎる。
足踏み中…。
下手な動きすっと、マジで死ぬな…。
枕木と枕木の隙間を考えると、最も不幸な場合、すり抜けて落ちないとは断言できない。
それに、枕木にしても端の方はボロボロで、踏んだら折れそうなのだ。
真ん中だってどうなっているか分かったもんじゃない…。
思案中…。
これはもう、“奥の手”を使うしかないか…。
出来れば、使わずに済ませたかったが……。
前進、
再開!
…なんか、妙に視座が低い気がするって?
そりゃまあ、こうなってますからね…。
恥も外聞も捨てて四つ足ですよ!
こういう場面での四つ足の安心感は並ではない!!
これで、勝てる!!
このニャンコ譲りの“四つ足渡橋法”を用いれば、完全攻略も目前と思われた矢先、私は信じがたい光景を目にした。
私の5mほど後ろをゆっくりと進んできたHAMAMI氏が、無言のまま、二本足で近付いてきたのである。
彼がいる位置はもう、今しがた私が二本足を諦め畜生に墜ちたエリアだった…。
ぐぬぬぬぬ…。
しかし、この闘志は、抑えねばならぬッ……。
私には、もう立ち上がる力はないッッ…。
15:25 (渡橋開始から11分経過)
右岸に着いた!
左岸と同じように、枕木を立てたような簡単なフェンスで橋門は塞がれていたが、
どういう訳か橋の上に生えた潅木が根元から切られていた。
切り口はまだ白く、1ヶ月以内の伐採のようだった。
誰がどのような目的で刈り払いを実施したのだろうか。
ということで、渡橋完了である。
四つ足ニャンコは偉大だった。
だが、返す返すも恐ろしいのはHAMAMI氏である。
彼は見事に直立のまま渡り遂せた。
その素性については敢えて伏せておくが、その変わったハンドルネームは彼の血を引く3人の人物と関係しているのである。
そう言えば、この画像。
HAMAMI氏の右肩の辺りに小人が見える。
我々の決死の渡橋の最中、今回探索最大の立役者であるミリンダ細田氏は何をしていたのだろう。
前から「気持ち悪い」を連呼していたが、まさか岸辺の草むらに潜って“えづいて”いたのだろうか。
実はそうではなかった。
彼もまた孤独にトラウマと戦い、橋に挑んでいたのである。
「最初の2mくらいを3往復くらい、うーだうーだうーだうーだ行ったり来たりしていたスよ」 とは本人の言である。
……おつかれさま。
いよいよ雨脚が強くなってきた。
写真は、初めての右岸からの眺めだ。
こちらからの眺めもまた良い。
戦いは終わった
…かに見えた。
だが私は直後に引き返し、自らの意志でもう一度橋を渡ってみた。
HAMAMI氏が2足歩行で攻略した橋を、私も同じように立って、どうにか渡り遂せた。
踏む位置さえ誤らなければ、大丈夫らしい…。
15:34
私とHAMAMI氏、
一往復達成。
もう何度でも訪れたいと思える場所だが、渡るのは恐らくこれが最後だろう。
第一印象よりも、遙かに怖い橋だった。
個人的には、“踏み外して墜ちる”より、“踏み抜いて墜ちる”ことの方がよほど怖く感じる。
それゆえ、同じ規模の“裸の鉄骨の橋”より渡り難いように思う。
もっともそれは「思うだけ」で、実際にこの橋の踏み板が一切無い裸の状況だったら、渡るわけは無いが。
ところで話は変わるけど、
この「旧鳥坂大橋」が出来る前の道に、
興味はな〜い?
さっきの写真に、それがちょっと写ってしまったので(笑)、行くことにする。
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