ミニレポも今回で100回目。
東北各地の珍道・奇道ネタを中心に紹介してきたが、いまから3年と少し前の第一回では、「ど田舎の旧橋」を紹介している。
記念すべき100回目は、原点に立ち返り、やはり田舎の何気ない小橋を紹介しようと思う。
ただし、この橋は前代未聞だぞ。
秋田県北秋田市の阿仁前田は、まだ市町村合併からそう日が経っておらず、県人にとっては森吉町阿仁前田と言った方が遙かに通りがよいだろう。
これまでも山行がではあの「森吉林鉄」の総起点として何度も名前の出ている地名だが、ここにまたひとつ、山行が好みの“道”が発見された。
県道の一段下を流れる小又川に架かる、見るからに危なっかしい橋。
これはもう、行くしかない。
この橋の行き先は小又川の小さな中州である。
林となった中州の中には一棟の作業小屋が建っているが、ここの主以外は、おそらくこれまで渡ったことがないであろう橋だ。
県道からの降り口には、廃枕木を利用して作られた荒々しい階段があるものの、本格的な薮シーズンを前にして既に、これだけの緑に覆われている。
鉄パイプで申し訳程度に用意された手摺りも、もう数週間で草むらに隠れるだろう。
県道と橋の袂までの落差は5mほどに過ぎない。
いつ来ても水量の多い小又川だが、この時期は雪代でさらに勢いが付いている。
この膨大な清流がこめどころ秋田の恵みを呼んでくるのだ。
田んぼに張り巡らされた方々の水路に水を引く取水口が橋の袂に設置されており、波立つほどに激しい流れがU字溝を満たしていた。
さて、いよいよ橋である。
中州に行くための唯一の道であるが、近くで見ると、この橋はちょっと 凄いぞ。
鉄パイプと角材だけで構成されており、どんな“橋好き”でもこの姿を見て「かっこいい」などと思う者は無いだろう。
それも変わっていると言えば変わっているのだが、やはりなんと言っても、足場となる角材の少なさ、間隔の広さが、特筆ものである。
実際に足を踏み出してみると、かつてない渡橋感を実感できる。
どこかの公園のアスレチックな遊具のような渡橋感だが、すぐ足元をお遊びとはおおよそ無縁な濁流が容赦なく渦を巻いているところが新鮮である。
こんな事をして喜んでいる自分が、特に可愛いと思える橋だ。
そしてこの橋が、我々20代後半から30代前半くらいまでのファミコン世代にとって妙に懐かしさを感じさせるのは、細さのせいかなかなかに長く感じられる30mほどの橋が、後半に進むほどに目に見えて難易度が上がる点である。
単純な昔のテレビゲームでは、面が進むほどに、とても分かり易く難しくなっていったものだ。
この写真の場面は、この橋にとっては序の口である。
見よ!
この足を!!
こんな足の形で無ければ渡れない現役橋があったか?!
この男(→)のように手摺りを使わないで渡ろうとすると、本当に大変。
そして、いよいよ始まる後半戦。
穏やかな足元の流れに油断をかました私は、一歩を踏み出そうとして、思わず固まる!
レールの上に
枕木が!
……。
厳密に言えば、枕木のように見えるのは、おそらくただの朽ちた角材なのだが、絵的にこれは私のツボにはまった。
ま、だからどうしたの、と言われると、何とも返す言葉もないのだが。
とにかく、レールは本物である。
林鉄でお馴染みの細いそれは、すぐ傍を通っていた森吉林鉄の形見だ。
中州にたどり着くと、小さな木の小屋がある。
人の気配はないが、まるっきり廃屋というのでもない。
行く手には小又川の本流。
この先に道はない。
中州側から橋の全体像。
小さな中州を有効に利用するためだけに生み出され、一応はいまも現役のこの橋。
様々な物資を利用し継ぎ接ぎの塊のような橋だが、何だか印象に残る橋だった。
今日あたりまえのように渡られている橋たちは、
人が渡るには、
あまりにも、 大袈裟だ。
こーんな橋だって、場所が場所なら十分役目を果たしている。
橋という構造物の原点が、ここにある?!
※注意※ この橋は人が渡るに十分な強度がないように感じられましたので、むやみに渡らない方が無難かと思います。