この写真は、ネット上に「中国に実在する登山道」などとして紹介されているものである。
見ての通り、とんでもない恐ろしい桟橋である。
これで一般の登山道らしいのだから、かの国の観光客は皆、オブローダーライセンスA級を所持しているのだろうか。
私も、もし目の前にこんな橋があったら、精一杯強がりながら、きっと渡ってみせるだろう。
しかし、海外旅行などに興味のない私は、生涯ここへ行くことはなさそうだ。
ただ、我が日本国内にこれに匹敵するような道を探すだけである。
で
見つけちゃった。 えへへ。
まあ、ミニレポな時点で、読者の大半はもう(・∀・)ニヤニヤなのだろうが…
侮るな!
…どこにあるかといえば…。
この橋のすぐ傍である。
県道6号の青海橋を渡っているときに、ちらりと見えたのだ。
凄まじい桟橋の姿が!
旧青海橋のレポートは、その桟橋へ行くための副産物に過ぎなかった。 実は。
ん?
とても険しそうな地形には見えない?
大袈裟だろうって??
侮るな!!
旧青海橋の東の袂から安比川上流へ向かって歩き始める。
川と山の隙間に田んぼがあり、その山際に水路が通っている。
9月27日の集中豪雨によってこの田んぼは一度完全に水没してしまったようで、上流から流れてきたゴミが散乱している。
畦の縁には砂や泥が堆積し、大変な有様だ。
水路にも大きな倒木などが詰まっており、水は流れていない。
細田氏と二人、水路や畦を通って上流を目指した。
前方には青海橋が見えてきた。
目指す桟橋は、この橋よりも更に上流にある。
更に進む。
数十年に一度という大出水にも動じなかった現道の青海橋。
しかし、橋脚の上部にも流れてきたと思われるビニールのゴミが付着しており、想像を絶する高水位に達したことを伝えている。
いよいよ山と川は接するようになり、その隙間に水路と土堤が並行している。
水路の行く手に、一本の素堀隧道が見えてきた。
そこは隧道が必要なほどに岩山が川に接しているのだ。
これも洪水の被害であろう。
水路隧道の出口は、土堤を越流してきた土砂によって半ば以上も埋め立てられている。
この水路は現役の施設らしく早速修理の手が動き始めているのか、傍に工事用の測量杭が立てられてた。
水路隧道の内部の様子。
水が深く、しかも泥が堆積しており中にはいることは出来ない。
出口の光も見えないし、風も通じてはおらず、内部でふさがっているのかも知れない。
全長は10mかそこらなのだが。
前の写真に戻る。
この水路を管理するために、上流の取水堰へ向かう歩道がある。
それは隧道を通らず、この岩場を迂回するのだが、問題の桟橋はそこにある。
…気付いた?
もう見えているのだが。
キタ―!
イイネイイネー。
イイヨー。
インパクト抜群である!
岩場に打たれた1m間隔ほどの鉄棒の上に、針金で板を固定しただけの通路。
そこには本来全く道はなく、鉄の棒のほかに橋を支えているのは、わずか2本の松の木だけだ。
隧道を迂回するように、弧を描いて岩場を回り込んでいる。
その全部が、こんな桟橋になっているのだ。
橋の幅は、僅かこれだけ。
足を横に置けば、かかとがはみ出すほどに狭い。
さらに、木の板は恐ろしく薄い!
たった1枚きりで支えており、大人が乗ると撓る。
撓るんだよ〜!
この奇抜過ぎる桟橋。
洪水の後に仮設的に設置されたわけではなく、元々ここにあったらしい。
…だって、この橋も洪水の被害を受けているんだもの。(写真右)
水面から2mと離れていないこの場所は、完全に激浪に飲み込まれてしまったことだろう。
至ってシンプルな構造だったことが幸いして、流出にまでは至らなかったものの、唯一の足がかりである鉄の埋め込み棒が曲がっている。
だから、橋も一部川側に向かって傾斜している。
言うまでもないことだが、ここを通るのは、半分運頼りである。
落ちる覚悟も無ければ、とても通ろうという気持ちにはならない。
私と細田氏は望んでその恐怖の洗礼を受け、自らを、オブローダーとしてより高い場所へと導いたのである。
…つか、この橋は笑っちゃうほど楽しいというのが、本当のところ。
もっとも、下にあるのが水面でなければ、誰も渡らないだろうが。
うふふふふふ
あははは
うふうふふふふふ…
桟橋は全長13mくらい。
案の定、水路隧道の裏側に回り込んだところで終点となった。
行く手の川の蛇行の途中に、自然に高水位が越流する形の取水堰がある。
やはり隧道の入口がゴミで詰まっており(右写真)、これより上流の水路は満水となっていた。
我々はこの景色を見届けると、満足して引き返した。
もちろん、帰りも桟橋を通るより他にない。
最後に遠景から全体像をお伝えしよう。
これは、青海橋の上から眺めたものだ。
対岸に続く水路と、その途中の隧道坑口が見えている。
左端が取水堰で、隧道をくぐって右へ下っている。
この、隧道の部分の崖に、桟橋は架かっている。
我々は、最初にこの景色を見てしまい、それでどうしてもその上を渡ってみたくなったのだった。
もう一枚。
桟橋部分を望遠で撮影したものだ。
とんでもない場所に架かっていることが分かるし、この位置まで水没した洪水の凄まじさには身震いさえ覚える。
今後、この橋がどうなるのかは分からないが、とりあえずこの橋を無事に渡り終えたことにより、我々は件の「中国の桟橋」を攻略したような気持ちになった。
気持ちだけな。