人口30万を誇る東北日本海の主要都市、秋田市。
その閑静な住宅地の一角に、「軌道」が存在している。
そんな情報を得た私は、迷わず現地へ向かった。
そして遭遇した!!
明治から昭和中期まで長きにわたり、各地の街角から、遠い山の奥地まで、
色々な場所に敷かれ、慎ましやかにこの国の成長を支えていた、
鉄道全ての原点を感じさせずにおかない、素朴な音と、力強い手触り…。
そこにあったのは、生きている、手押し軌道の姿だった。
2011/6/29 9:47
当サイトお馴染みのミリンダ細田氏の自宅に、軌道が敷設されてる?!
しかも、軽快な音を立てながら、目の前で動いている!
“朝のゴミ出し輸送”を行っている!!
これは、紛れもない現役の軌道だ!
所有者である細田オーナーによれば、本軌道は貨物用とのことであるが、
今回特別に許可をいただいての試乗が実現した。
運転士(“車夫”?)は、もちろん細田オーナーだ。
全線通しの車窓動画を、ぜひお楽しみいただきたい!
動画: シーン2 【試乗】
(起点:細田家表停車場〜終点:細田家奥停車場 0.014km)
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細田手押軌道が敷設されているのは、秋田県秋田市にあるミリンダ細田邸の敷地内であり、軌道の全長は0.014km(営業キロ数と一致)である。
起点「細田家表停車場」と終点「細田家奥停車場」を結ぶ線路は、全線が単線の直線であるが、起点側には76.487‰の急勾配区間が存在している。
軌道には鉄軌条(軽レール/6kgレール)が用いられており、これは日本工業規格〔JIS〕に準ずる最小のレールである。
軌間は15inch(インチ)/381mmで、これは世界最小の実用軌間とされる。
本線の敷設工事は平成22年10月18日にミリンダ細田氏により着工され、同日竣工、開業日も同日である。
【全景】 起点側から終点側を望む。
軌道は細田邸の建物と外壁の間の僅かなスペースに沿って敷設されており、
当初は軌間500mmを検討したものの、建築限界の問題から381mmに決定されたという。
【細田家表停車場】
通常は貨物専用であることもあり乗降設備は存在しないが、軌条終端には「車止標識」付きの簡易車止め設備と、その直前には衝撃防止用装置としての廃レールが存在する。
起点付近の軌道はコンクリート上に枕木を介して敷設されており、起点側に向かって76.487‰の急な下り勾配となっている。
滑走事故防止の観点から、通常、車両は平坦な終点側に留置される。
【路盤の状態】 勾配変わり点附近にて撮影。
起点側0.010kmを除いた区間はバラスト軌道になっており、同区間は終点まで平坦である。
手入れが行き届いた路盤の状況はすこぶる良い。
なお、枕木に対する軌条の固定方法はネジ式で、敷設前から軌条と枕木が梯子状に固定されたいわゆる「軌匡(ききょう)」である。
これらの加工は、後述する車両の制作と共に、栃木県日光市に本拠を置く「せんろ商会」に委託された。
【軌条】 切れ端を撮影。
前述の通り、軌条は日本工業規格品の「軽レール(6kgレール)」で、フランジ部に刻印がある。
製造年月日は不明であるが、本軌道敷設に際して「せんろ商会」を通じて新造されたものだという。
なお、かつての森林鉄道でも6kgレールは9kgや12kgと共に頻繁に用いられており、特に6kgレールは森林鉄道2級線の一部や作業線など、低規格の線で用いられていた。
【車両】
本軌道に在籍する車両は「平トロッコ」1輌のみである。
この「せんろ商会」製「トロ2型改」は、外側軸受型平トロッコ(アウトサイドフレーム型平トロッコ)で、株式会社永瀬工場製の車輪に木造台車が固定されている。
1台あたりの価格は、「結構する」。
正確な金額を私は教わったが、車両を含む総工費に関しては細田家内でも非公開事項であり、一般公開はご容赦されたいとのこと。
連結器を有しているが、2両目の増備は予算問題のため見送られているそうだ。
ただし、この車両の改造計画が進行中だという。
【車輪と軌条の近景】
実用世界最小といわれる軌間僅か381mmの線路ながら、
軌条も車両も「プロの手による」極めて精緻な出来映えであり、
さらに細田氏の愛情のこもったメンテナンスが行き届いているためか、
そこらのローカル線よりも、活気のある雰囲気を醸している。
小さくても、これは明らかに本物!
【メンテナンス風景1】
普段運転していない時の車両は、雨避けの覆いの下に置かれている。
また、運転の前後には欠かさず軌道と車両のメンテナンスを行っており、特に木造台車は念入りにメンテナンスされる。
写真は、台車の一部に生じた僅かなひびに、木工用ボンドを塗り込めて補修を行っている風景。
【メンテナンス風景2】
補修が終わった後(中央の結束バンドが補修箇所)は、車両全体をタオルでお掃除。
これにて本日の運行を終了する。
(運行は不定期である)
最後に、細田氏からいただいた「せんろデータ」を、原文のままでご覧下さい。
楽しんでるなぁ、細田さん…。
平成22(2010)年に“開業”した細田手押軌道は、現在(平成27(2015)年)も健在である。
私が秋田へ里帰りする度にちゃんと運行状況を確認しているので、間違いない。
今でも年2回の定期メンテナンス(車軸や軌条連結部のグリスアップなど)体制が維持されており、運行頻度は決して多くないが、安全運行に万全の状態である。
最近、全天球カメラというジャンルに属する面白いカメラ(RICOH THETA S)を入手したので、それを使って撮影した走行中の動画をご覧頂こう。
この動画をスマホのブラウザや、PCの場合はFirefoxやChromeなどのブラウザで見ると、再生中自由に360度の方向を眺める事が出来る。
これは普通まず見る事のない、回転する車輪の傍より眺めた走行シーンである。
走行する車輪の重さで縄のように撓むレール、レールの継ぎ目が奏でる断続音、車輪のフランジとレールの噛み合いの有り様など、鉄道の原点を感じさせる素朴かつ迫力のある風景を、ご堪能下さい。