ミニレポ第176回 国道411号旧道 大常木〜一ノ瀬 

所在地 山梨県丹波山村〜甲州市
探索日 2012.10.12
公開日 2012.10.15

オブローダー・トラップ


「ああ、新道の工事してるな〜」

って、前から思ってた。

その新道が最近開通した事を聞いた私は、これまで何度も通った旧道がどうなったのかを、見に行ってみる事にした。

実は、mixiの山行が応援コミュの投稿から、その入口が「無事でない」ことを知ってしまったので、なおさら気になったのだ…。




【所在地(マピオン)】

今回紹介するのは、国道411号の旧道のうち、大常木(おおつねぎ)バイパス一ノ瀬高橋バイパス(いずれも山梨県事業名)に対応する部分である。
これらのバイパス(現道)の開通は平成23年11月だから、旧道歴は1年足らずに過ぎない。

国道411号は東京都八王子市と山梨県甲府市を結ぶ一般国道で、通称青梅街道。東京都奥多摩町や山梨県丹波山村といった山間部を通行する関東有数の山岳国道だが、第一次緊急輸送道路指定の重要路線でもある。

また、この付近の国道411号は多摩川の谷底近くを通行しているが、これは昭和34年に奥多摩ダム関連の補償事業として東京都が開通させた県道を基にしており(国道認定は昭和57年)、それ以前のルート(通称黒川通り)は多摩川右岸のかなり高い位置を通っていた。
この道についてはORJで以前レポートし、さらに「お試し記事」として無料公開しているので、宜しければご覧頂きたい→【download】(PDF形式)。

それではまず、大常木バイパス対応の旧道から見ていこう。




2012/10/12 06:07 《現在地》

これを書いている時点だと、「昨日」の風景である。
旧道としても新鮮ならば、レポートも新鮮なのだ(笑)。

で、さっそくだが、いま目の前にあるのが平成23年11月に開通したばかりの大常木トンネルだ。

大常木バイパスは全長493mだが、そのうちの355mまでが大常木トンネルに占められており、残りは旧道を改良した「改良区間」なので、実質的な新道と言えるのは、この大常木トンネルだけなのである。

この時点で既に旧道に属する法面が見えているが、さらに近付くことで、旧道の探索を難しくしている“大きな問題”が明らかになった。




こ、 こいつは…。

オブローダー殺しの罠…!


大常木トンネルの坑門の一部が、翼壁状に谷側へ延長されており、旧道を通せんぼしている。
さらに、坑門の裏側に設けられた大きな流水溝もまた、旧道を塞いでいた。

これらをどうにかしないと、スグソコに見える旧道へは入れないと言うことか。

谷側の地形がもう少しマイルドだったら、簡単に回避できるんだろうけどな…。

 ガ チ ってるもんな。



全長493m、平成23年完成の大常木トンネル。

坑門には最近のトンネルらしく、古風と自然への調和を狙った擬石の化粧石が用いられている。
洞内の照明が白いのも、また最近のトンネルの特徴である。

だが、なぜか工事銘板の整備が済んでいなかった。
このまま終ってしまうのか、或いは現在鋭意制作中なのかは分からない。




さて、出口の見えないトンネルは置いておいて、私の進路はもちろんこっちの旧道だ。

そこに道があった事自体を隠そうという意図が感じられるが、背後に旧道自体がしっかり見えてしまっているので、分かりやすさは非常に高い。
というか、旧道の存在をこれほど意識させる坑門は珍しいと言うくらい、翼壁が視線誘導的に働いている気がする。

ちなみに、丹波山〜塩山間の国道411号には多数のトンネルがあるが、昭和34年に全通した当初は1本もなかった。したがって、ここで紹介したほかにも大量の旧道が存在する。




さあ、腕の見せ所だぜ!

どうやって、突破してやろうか。

目の前の流水溝の段差は、約2m。
嫌らし〜い感じで、下りれるけれども、空手では登れない高さだ。



自転車が、行ってしまった。

ネタでなく、ちょっと早まって(ばか)自転車を先に流水溝に降ろしてしまった。

1ヶ月ぶりの探索で、しかも朝一番ということで、感が鈍っていたらしい。浅はかだった。

行くのはいいが、もしこの旧道が通り抜け出来なくて戻ってくる事になったら…、少し面倒なことになりそうだぞ。




ひとつ余計な“業”を背負いつつも、人工的障害物を自転車同伴にて突破成功。

な〜に。

ちゃんとこの旧道を貫通すれば、何も問題はないわけで。

ね!

それにこれまでの経験上、こういう廃道区間であっても将来の管理を考え、どちらか一方からはアクセス出来るようにしておくのがセオリーだ。




6:11

ということで、障害物を乗り越えて旧道の路盤に到達した。

私が通った事のある車道が、廃道となって人目から遠ざけられている哀れさは、無視ができなかった。
ぶっちゃけ、つい最近まで現役だっただけに驚くような発見があるとは思えないが、独り占めが許される状況を、味わってみよう。

なお、この坑門を建設している最中、旧道はどこを通っていたのかという問題だが、右の谷に仮設の桟橋が架せられていたと思う。




それでは、参ろうか!

延長約600mの大常木トンネル旧道区間!

さっそく、こんなにボロかったか?と思うような眼前の路面だが、工事終盤のゴタゴタのなかで、こんなにささくれ立ってしまったのだ。
もう二度と補修されることもないのだと思うと、なおさら愛おしいじゃないか。

うねうねと続く路面と、愛媛ミカンばりにネットで包まれた法面の組合せは、未だにわが国の山岳道路の標準的な風景であって、そこに安らぎさえ覚える。




50mばかり進むと、路面から舗装が無くなった。
代わりに現れたのは目の細かい砂利敷きの路面で、とてもよく締まっていて自転車の乗り心地がよい。

もちろん、現役当時は全面舗装だったはずなので、わざわざ剥がしたということになる。
国道411号の山間部の旧道は、その多くで廃道化工事を施されているが、一番新しいこの旧道も例外ではないようだ。
舗装を剥がしただけで他に何もしなくても、自然に還るペースは段違いなのだと思う。

その他、よく見れば路肩のガードレールも支柱が埋め込まれていた穴だけを残して、残らず撤去されていた。
この様子だと、道路標識類も撤去されたっぽいな。




で、残されたのが コレ と…。

まあ、他に移設して活用するような高価なものでも無いのは分かるけれど、連れて行ってあげなよ…。

一応、道路の一部なんだからさ。
砂袋とかもそのまま放置されていて、ぶっちゃけ不法投棄のビニールゴミと変らなくなってるし…。

一応補足しておくと、これは冬場の路面凍結時などに、路面に撒いてスリップを防止するための砂である。
ご自由にお使い下さいみたいな扱いになってることが多いけど、実際にばらまいている場面を見たことはない。
活用したことがあるという人がいたら、ぜひその体験談を聞かせていただきたいものである。




確かに、こんなカーブはあったような気がする。

しかし、大常木トンネルの旧道区間内には、橋やトンネルのような目立つものがない。
そのために、やや淡々とした進行になるのはやむを得なかった。
舗装やガードレール、道路標識など、直接ドライバーと触れ合っていたものが撤去されていることも、その傾向を助長した。

廃道とは言え単純に放置はしない。
そんな山梨県の仕事の速さが、際立っていた。






路肩に寄ると、ガードレールが撤去されているために、恐怖を感じた。
眼下に見える多摩川(丹波川とも)の谷は深く、水の音が聞こえはするが、なかなか視線は水面に届かなかった。

紛れもなく難工事を感じさせる道だが、ようやく立ち止まって、その事に思いを馳せる機会を得た気がする。




6:15 《現在地》

旧道に入って約3分。
味わいながら200mばかり進んだところ、突如路面に盛り土の山が現れた。
しかし、どこから出て来た砂利なのかは分からない。
トンネル工事の残土かも知れないが、それにしては随分と目が細かく、川砂利のようでもある。

この盛り土によって、本来の路面は路肩に30cmくらいを残して埋め立てられ、なおさら現役当時からほど遠い風景にしてしまっている。
これも廃道化工事の一環なのだろう。

ちなみに、この盛り土もよく突き固められているので、自転車でストレス無く走破することが出来た。




「もう何も無いのかな…。」

そんな弱気を忘れさせてくれたのが、この小さくとも嬉しい発見だった。

お馴染みのキロポストだ!

表示された数字は「70K2」というもので、すなわち起点から70.2kmということ。
しかし、国道411号の起点である八王子市左入町からここまでの距離は、何度計っても65kmしかない。
全て旧道を選んだ場合は、5kmも増えるのだろうか。
旧道は膨大なので確認していないが、だとするとずいぶん大きな違いである。(この先に70.4kmのキロポストも見つけたので、東京側から計測していることは間違いない)



旧道区間は“W”字形に蛇行しており、地中を緩やかなS字カーブで突き抜ける現道に較べて、200mほど距離が長い。
また、道幅も(国道411号の古い区間を走ったことのある人にはお馴染みの)幅5.5mくらいしかないキツキツの2車線であった。

隣接する一ノ瀬高橋バイパスとほぼ同時期に工事が進められたが(開通は同日)、建設の目的は時間距離の短縮というよりも、防災力の向上にあった。
一ノ瀬高橋バイパスの旧道区間近くで平成18年7月23日に大規模な土砂崩れが発生し、それから安全が確保されるまで45日間も通行止めになった事を記憶している人はいるだろうか。
その件がきっかけとなって、これらのバイパスは建設されたのだそうだ。



ようやく山の頂に、朝日が届きはじめた。
だが、まだまだ谷には冷たい夜気が留まっている。
薄暗い時間から探索したせいで、写真の写りが悪かったのはお許し戴きたい。

盛り土の区間は約300mで終り、砂利の路面が戻って来た。
そしてほぼ想定通りの距離で、ゴールが見えてきた。

…さて、正念場だぞ。


まあ、大丈夫だとは思うけど。





6:18 《現在地》

げ!

まさかの、ヤバげな雰囲気。

…つか、さっきの“入口”よりも無理くさくね?  おいおい……。




キツい!

すっごく分かり易く、キツい!!

坑門邪魔すぎる。あと30cmでいいから引っ込んでくれたら…。




迂回とか、そういうことを考えられる地形じゃない…。

工事中には、ここにも鉄骨製の仮設桟橋が架せられていたのだが、それを撤去すると、本当に旧道は孤立してしまった。

こんな事になっていようとは……。


…なぜ、付いてきた自転車…。





正直、自転車無しならばギリギリ突破出来たと思うんだ…。

この黄色っぽい縁の所(幅20cm)に立てば、坑口側に手が届いたと思う。

無駄に怖いけどな…。



撤収しかあるまい!





結局、恐れていた事態になってしまった。

“入口”で越えた流水溝を、自転車と一緒に引き返すことが出来なくなった。

仕方がないので、まずは自転車だけを担ぎ上げて段差を越させた。
次に自分がどうするかだが、あまり踏み込みたくなかった崖下のガレ場へ迂回するよりなかった。

歳不相応な浅はかな行為をしたのだから、自業自得である。
でも、ウツボカズラのようなオブローダー・トラップだ…




幸い、ガレ場斜面は手掛り足がかりとなる凹凸が多く、見た目ほどの危険を感じることなく、突破することが出来た。

現道に復帰した私は、すぐに自転車を回収し、この大常木トンネル旧道の探索を終えたのだった。


続いては、もう一つの旧道区間に参ろう。
今度の区間には、現役当時、なかなか印象深い橋や洞門があった記憶がある。
今回の区間を見ると、「まさか」という心配はあるが、それも全て次回明らかになろう。


――“お札”なんかを用意して、待っていて欲しい。





つづく




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