2012/5/1 11:18 【位置図(マピオン)】
ここは秋田県北秋田郡上小阿仁村にある萩形(はぎなり)ダム。
その堤上路は林道として解放されており、冬期閉鎖中でなければ誰でも立入る事が出来る。
この一帯は県都秋田市から見ると太平山という標高1200m弱の山塊の真裏に当たる場所で、地図上ではそんなに山奥とも思えないが、現実には交通不便のため一般の人はあまり訪れない、秘境と言っても差し支えのないエリアである。
そしてここは、私が中学から大人になるまで秋田の住人であった頃に、“山チャリ”でさんざんブイブイ言わされてきた(今となっては恥ずかしい懐かしのレポもあり)山域なのだが、東京に引っ越してからはめっきり訪れる事も少なくなっていた。
久々にちょっと様子を見に行ったところ、ちょっとばかり凄い光景に出会ったので、今回はそれをお伝えしようと思う。
堤上路より見る、“小阿仁湖”と名付けられたダム湖の様子。
この年の冬は例年より少し雪は少な目だったが、そこは豪雪地として知られた上小阿仁村の山中である。
まだ山肌のそこかしこには根雪が残っており、それらを源とする小阿仁川、すなわちこのダムの水位は明らかに満水であった。
日中の日射しがいよいよ熱を帯び始めるこの時期こそ、雪解けのピークであったかもしれない。
この既に満水位となっている湖に供給されている雪解け水の多さは、これから行う極めて簡単な方法で、容易に知る事が出来た。
(なお前提として、この湖は源流に近く、他の水系から水を貰っていない)
その方法とはずばり… 下流側を覗く!
しゅんでぇ勢いで放水してる!
もちろん、これだけの大放水が山峡の森気を振るわす轟音も生半可でなく、
最大の音源である谷底までは、ダムの高さである61mは少なくとも離れているはずなのだが、
その距離を超越して鳴動さえも伝わって来た。
ぜひとも(↓)動画で体感して欲しい。
これまで何度も萩形ダムを訪れているが、
既に述べた通り源流に近いところにあるダムであり、
発電のため放水せず隣町に引水する水量も相当あるので、
こんなに激しく放水しているのを目にするのは初めてのことであった。
これは、内気な性格だとばかり思っていた“幼なじみ”が、思いがけない峻烈な怒りを露わにするのを見て、
驚き戸惑うと同時に、どこか一層の親しみを感じるような気分でもあった。
…という話だけでは、まるでこのサイトの主旨から離れて、
「ダムスゲー!」と言うだけで終わりなのだが、私は見つけてしまったノダヨ。
今まで何度も通ってきた「県道129号」のずっと下の谷底に…
この凄まじい迫力絶景を車窓とする、
特等席的車道の存在を!!
今回は至って単純で、ただあの道に立ってこの放水を眺めて見たいというだけの動機だ。
あの道自体は別に珍しいものではなくて、旧県道でも林鉄の軌道跡でもない、
ただ昭和40年代にこのダムを建設する際に敷かれた管理道路であることを知っていた。
11:23 【現在地(マピオン)】
ダム直下まで、残り250m地点。
やって参りました。
この道へ来るのは初めてだったが、土地勘があったのですぐに入口を見つけてここまで来れた。
現役のダムの道路なのでもちろん廃道と言うことはなく、途中のゲートさえ開いていれば車でも走れる良い道だ。
現在地からダム直下の道路終点までは約250mあり、ここからも見えている。
だが、案の定、そこまでの道のりは、
覚悟を要するものになっていた!
びしょびしょである。
道が途中からびしょびしょになっている。
それもそのはずで、明らかに道は水飛沫のなかを傘も差さずに通っている。
飛沫は上から注いでいるというよりも、すぐ下の小阿仁川の水面から吹き上がる、下から上への飛沫である。
当然私は雨傘や雨合羽を持っていない。
ここへ来た初志を貫徹するためには、相当の水濡れを覚悟しなければならない。
…この、防水でも防滴でも何でもない愛用のデジカメと一緒に…!
ダム直下まで、残り100m地点。
路面が濡れだした。
顔に霧吹きで当てられたような微細な水粒子の触れるのを感覚するようになる。
それもかなりの密度で、この位置に3分も突っ立っていれば、滴るくらい濡れそうだ。
びしょ濡れになるのが嫌ならば、ここで引き返すより無い。
ここから先は、超局地的暴風雨圏内となる。
覚悟は、いいか?
い、 いいよ……。
おぶ(水)おぶ(水)おぶ(水)おぶ(水)おぶ(水)
おぶろーだー!!!
water is cool !!!
逝くぅ! カメラ逝く! finepix HS20 が逝っちまう!!
だが、我慢して動画を撮った! 上の画像をクリックして見てやってくれ。
これは、なかなか見られる&体験出来る眺めじゃないと思う。
(ちなみに動画では早々とカメラのマイクが浸水して音が小さくなっているが、実際は耳をつんざく爆音の世界だった)
堰を切ると同時に堤の中ほどの高さから落下させられた水は、直後に地上の水叩きへ綺麗に反射して放物線を描き出し、それから小阿仁川の河床へと着水していた。
そこに至って初めて奔放に振る舞うことを許された水は、決して狭くない川幅を蹂躙しただけではまるで収まらずに、その新雪のような水面を盛り立てては対岸の林地や此岸の道路へと果敢に挑み掛かっていた。
その迫力たるや、頑丈そうなコンクリートの路肩が決壊しやしないかと、ヒヤヒヤするほどだった。
水飛沫を防ぐには何の役にも立っていないガードレールから身を乗り出し、頑張って水面を覗き込むと、忽ち強烈なアッパーカットを食らったように首を持ち上げられた。
想像を絶するほどの水勢と風圧であった。
すぐに鼓膜まで濡れて、音の聞こえが悪くなってきた。
これ以上立ち止まっていると、私のカラダよりも先にカメラが壊れそうだ。
水線を至急突破せよ!!
ダム直下まで、残り0m地点。
ダム直下の道路終点までやって来た。
ここはすっかり道が乾いていて、水飛沫も全く飛んでこない。
100〜50mを圏内とする超局地的暴風雨を抜けたのである。
ドゴォォォォォォ!
ぼがーん!
水さん、水さん、狭い所に閉じ込められて怒ってるのは分かるけど、
あんま対岸さんに八つ当たりしないでな…。
空を奔(はし)る水!! かっこええ!
どちらかというと、静かにサラサラと流れ出るイメージがあり、穏やかな春の風景を象徴する事もある“雪解け”だが、
それが河川の一所に集められた時のパワーは凄まじい。
今日は晴天だが、このうえ大雨でも降ったらどうなるものか。
そんなことが毎年数ヶ月間も続く雪国の河川こそは、“脅威の破壊者”であると言わねばなるまい。
恵みの川、母なる川も事実だが、川沿いの低地やそこにある道路にとってはタマラナイ暴力だ。
毎年のように谷の道は荒らされ、それがひとたび廃道になれば、無惨な事になるのである。
納得。
こいつは、やばい。