国道455号線は平成4年に国道昇格を果たしたばかりの、東北ではもっとも新しい国道の一つである。
それまで県道だった路線をいくつかつなぎ合わせ、盛岡と太平洋岸の岩泉町は小本港までが指定されている。
このラインは県都と、著名な観光地である龍泉洞、それに三陸海岸などを繋ぐ重要な路線として、国道指定後特にピッチを上げて改良工事がなされ、現在では冬期間でもその全区間を通行することが出来るまでになった。
道中最大の難所である早坂峠に長大なトンネルが穿たれる日も、近いだろう。
快走路へと生まれ変わりつつある国道455号線であるが、その大部分は従来道路の拡幅や比較的規模の小さな線形改良によっており、大がかりな旧道はあまり見られない。
これまでもいくつかの旧隧道や旧道を紹介してはいるが、どれも規模は小さかった。
今回紹介する旧道もまた、わずか300mほどのミニ旧道である。
しかし、小さくてもなかなかに骨のある姿を見せてくれる。
小本川に沿って通る現道の山側の斜面に、ただの法面の施工にしては不自然な物が見える。
これは、紛れもなく道路。
しかも、コンクリート製の桟橋ではないか。
近代的な山岳道路では多用される事もあるが、旧道に桟橋という取り合わせは、ちょっと珍しいように思う。
どうして、崖を埋め立てて普通の道路にしなかったのだろうか……?
深い雪を踏み分けて接近。
小本川にはりだした小さな山を迂回するために、崖にへばり付くように桟橋を架けているようだ。
地図にも描かれていないような小規模な旧道であり、この山の手前でも裏側でも再び現道と一つになるのだが、なかなか立派な桟橋ではないか。
コンクリートは余り風化もしておらず、打設されてからそれほど経っていないような印象を受けたが、コンクリの風化ぶりは経年を推し量る上ではあまりあてにならない事を私は知っている。環境やコンクリ自体の質が、一番影響するからだ。
ほら、やっぱりこれはかなり古いぞ。
なにせ、かなり太い木がその橋脚の裏の、そこに土なんてあるのかと思えるような場所から生え出し、そのまま橋桁と2回ばかり「粘着」したあとに、やっと空へ伸びている。
相当の逆境に耐えてここまで育った木の根性に敬服してしまう。
もし工事を始めた段階でも既に生えていたのだとしたら、切らずに施工していることはかなり不自然である。
おそらく、この橋の年齢はこの木の樹齢と同じくらいなのでは無かろうか。
この幹……トチノキでしたっけ?
ちょっと、自信がないというか……たぶん間違ってます。
なんとか崖をよじ登って(別にそんなことをしなくても迂回すれば簡単に登れるのだが)旧道上にたどり着く。
何という道の狭さなのか。
これではとても車など通れないぞ。
そう思ったが、よく考えてみると、道幅を圧迫している原因は旧道敷きの半分くらいを占拠する現道の落石防止柵である。
もはや旧道は道として勘定されておらず、ただの現道の保安用地になっているのだろう。
これは反対側の様子。
どうやら、落石防止柵などなくても、車一台がギリギリ通れるくらいの幅しかなかったようだ。
法面は完全に素のままで、路肩はといえば桟橋の上もその前後もガードロープのみである。
いかにも昭和中期の山岳道路の姿である。
現道が、全く何の苦労もなくただ一つのカーブでこの山をかわしているのとはとても対照的なのだが、その理由は探索後にちょうど通りかかった地元の方にインタビューした結果、分かった。
一見なんの変哲もないカーブに、わざわざ桟橋を設けなければならなかった理由は、
なんのことはない、
当時は川の流れが旧道の崖の下にまで迫っていたから。
そう言うことだそうだ。
なるほど、現状からは想像が付かなかったが、いまから二十数年前までは、隣の集落へ行くにも、当然小本の港へ出るにもまずはこの難所を越えねばならなかったと語ってくれた。
路肩を固めるのではなく、桟橋となっている理由も同じで、川の流れが崖の袖を常に舐めるような状況だったため、橋の方が都合が良かったのだろう。
短い旧道区間には、桟橋以外にはガードロープの支柱くらいしか遺構はないのだが、もうひとつ、今も埋まっているのかは分からないが、NTTの前進、日本電信電話公社時代の掘削注意の標識が残っていた。
注 意
重要電話線あり
この付近を掘る
ときは必ず下記へ
連絡してください
宮古電報電話局
線路宅内課
電話 宮古<01936>2−2600
現道は、川の迂曲を埋め立てと掘削によって平坦化し、そこへ通されたのだ。
そのことを知らなかった私にとっては、誠に不自然な旧道であった。
この岩泉の山間部においては、ほんの一昔前まで、このような岩根に噛みつくような道がただ一つの、外界へ通じる道であったのだと言うことを、申し添えておきたい。
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