ミニレポ第221回 国道48号旧道 湯渡戸橋 後編

所在地 宮城県仙台市青葉区
探索日 2016.5.29
公開日 2016.6.05

杜の都の温泉街、水面に映える錆びアーチ


2016/5/29 5:48 《現在地》 

アーチの美しさに魅せられ、渡るよりも先に谷底に降りて眺めたばかりか、川の徒渉までやった。
図らずも、橋が無くても対岸へ行けることを証明してみせたわけで、その点では、何となく橋に申し訳ない気持ちになった。

が、それはもう済んだことだ。
今から改めて橋を渡って対岸へ向かうこととしよう。
橋を含む一連の旧道を走破するまでが、このミニ探索である。




旧 湯渡戸橋の南側橋頭に立って、橋上を望む。

ちょうど足元から先が橋なのであるが、手前半分ほどは、まるで森のようである。
仙台市と言えば、杜(森)の都というのがよく知られた愛称だが、そこにある橋の上まで森とは、なかなかに洒落ているではないか。
コンクリートで鋪装された橋の上が、人為的な客土もなく、これだけ綺麗に緑化されているのは、ひとえに樹木の作用であろう。
毎年秋に降り積もる落ち葉が、長い時間をかけて土となり、この緑を育んだのだ。

訪れる人もほとんどないようで、橋上の緑に踏み跡は見られない(11年前にはあったのだが)。それでも浅い草むらなので、見通しも悪くないし快適に進む事が出来た。




橋の長さはおおよそ30mだが、真ん中辺りまで来てようやく本来の路面が露出していた。
隣にある現橋から見下ろした時、よく見えていたのがこの辺りだ。
上から現橋を行く車の音が聞こえるが、それを除けば静かな環境で、川風が気持ちいい。
ただ、何となく見下ろされているような気持ち悪さがあるのは、現橋の存在だけでなく、正面の高層ホテルのせいだ…。

右の画像は、11年前の同じ場所。季節は1週間ほど右の画像の方が夏寄りだが、緑がより濃いのは左の画像だ。生長してる〜。



こんなビルに見下ろされながら、落ち着いて探索出来るわけがない〜(涙)。
また、温泉ホテルということもあって、その気は無いのにうっかり露天風呂を覗いちゃったりするんじゃないかという不安も、あった。
まあ、実際にはその危険は無いようだが。

それはそうと、11年前の写真と比較すると、今回の方が建物が綺麗である。
良く見ると、建物の配色が変わっている。最近、塗装し直されたようである。

読者さんの情報によれば、このホテル(グリーングリーン)は40年くらい前に建築されたが、近年一度倒産し、リニューアルされたらしい。

ところで、もし今後このホテルの上層階に宿泊される方がいたら、ぜひとも、そこから橋がどのように眺められるのかを教えて欲しい。



おそらく、廃橋としての本橋最大の特徴は、欄干が見あたらないことだと思う。
そのため、ちょっとした悪戯心を出して橋の端へ行こうものなら、即座に第一級のスリリング体験が出来てしまう。

普段、手すりのないビルの屋上に立つ事もなければ、鳶職人でもない私にとって、直角に切れ落ちたコンクリートの縁を足元にするという体験は新鮮であり、普段良く体験する断崖を歩くのとはまた違った、なにか「わるいこと」をしているような気持ちになるのだった。

なぜ、この橋には欄干が見あたらないのだろうか。
これは普通に考えて、大きな疑問である。
木橋や土橋のような橋ならば、木材である欄干が朽ちて無くなったのだろうと予想できるが、本橋は鋼鉄のアーチとコンクリートの床版を有する、立派な永久橋である。
コンクリートで鋪装された橋の欄干は、普通はコンクリートで造られているものだ。
それがまるっきり残っていないのは、竣工昭和12年(推定)、廃止昭和28年という、かなり古い橋とはいえ、さすがに不自然ではないのか。




この謎の答えは、今回のレポートを書くために11年前の写真を見直していた時、解明された。

なんのことはない。
答えは至って単純で、欄干は木造だったのである。

今はもう完全に朽ちて無くなってしまったようだが、11年前の写真には、太い木材で組まれた欄干の一部(支柱が倒れたもの)が写っていた。
現在も、この支柱を固定していた金具は橋の縁の部分に点々と残っている(←写真の青○の部分。なお、桃○の部分は、水道管か何かを設置していた跡である。旧道化後のものだろう)ので、現役当時も全体が木造の欄干だったと判断が出来る。

この時代の現存する橋自体が珍しいが、コンクリートの床版に木造欄干というのは、初めて見る!!



5:51 《現在地》

渡り切ったところで振り返って撮影。

11年前と比較すると、明らかに緑が濃くなっている。何度も言うように季節は同じなので、緑の侵蝕がゆっくりとだが着実に進んでいる事を示している。

今後はどうなっていくのだろう。 東日本大震災にも動じなかった橋である。私が生きているうちに、自然に落ちることはなさそうだ。
もともと美しい見応えのある橋だけに、どんな廃れ方をしていくのか、とても楽しみだ。



で、こうなる。

真っ正面に突き当たっている。

高層ホテルの最下層に!

旧道は……、これに呑み込まれてしまったのだろうか。

それにしても、この建物の凹んだ部分は、どういう意味があるのだろう。
2階建ての一戸建てがすっぽり収まるくらいの大きさがあるが、特に出入口があるわけでは無く、用途不明の謎のスペースとなっている。
気になるが、全く分からない。




結論から言うと、旧道はこっちにある。

ホテルに突き当たったら、そこを左である!
橋の南側も直角のカーブだったが、なんとこの北側もそうなっていたのである。

しかしこれは、11年前の探索の経験が無かったら、気付かず引き返していたかも知れない。
そのくらい、ここは分かりづらいと思う。
理由は分からないが、この旧橋の北側橋頭は少し盛り土がされていて、もともとの旧道の路面が全く残っていない。
そのうえ、ホテルと現橋という大きな障害物の存在が、旧道の匂いを完全に隠してしまっているのだ。



今回の探索では、このアングルでの撮影をしなかったので、11年前の写真で失礼する。
ここのベストアングルっぽい良い眺めだが、周辺の藪が深いために、ここへ来るのが少し面倒くさい。

旧 湯渡戸橋は、昭和12年頃に完成し、戦争を耐え抜くも、平和な時代の始まりと共に役目を終えた、短命な橋だった。
著名な温泉街の入口にある、とても風光に恵まれた谷を渡る、それ自体も美しい橋だ。
これだけの好条件があったなら、生きた時代次第では、絵葉書に登場する名所になれていたかも知れない。

もっともっと働きたかったと思うが、そのためには少しばかり、木造の欄干や薄い床版は前時代的だっただろうか。
だが、それよりも遙かに"致命的”だったのは、橋の長さを短くするために存在していた、明治馬車道そのままの無理矢理な線形だろう。
昭和28年に完成した現橋は、それらの問題を一挙に解決する、決定打となった。




ここからは橋の北側区間の旧道探索である。まず現橋の下を潜る。

旧橋からここまでの50mは、地形の改変が大きく藪も濃い、つまらない行程だが、ここから先はちゃんとまた旧道がある。



ところで、これまでのどのシーンでも現橋は、昭和28年の橋というのが信じられないくらいの綺麗さを見せていたと思うが、それはやはり、念入りな維持管理の賜物であったようだ。

何気なく橋台の脇の辺りの壁を見ると、なるほど確かに古いコンクリートである。
紛れもなく昭和28年の構造物なんだなという感じがした。そして、今まで以上に親しみが湧いた。


旧道は、左に広瀬川の穏やかな水面を見下ろしながら川沿いを行く。
現道と合流するためには、この右の斜面を登っていく必要があるはずだが、相変わらず自動車の為の道路としては過剰に勾配が緩やかで、その分大きな迂回を強いられることになるわけだ。完全に明治馬車道の特徴である。
道幅は、大型車も通れるくらいに広い。



5:54 《現在地》

旧橋から150m。
現道に背を向けたまま一体どこまで行くんだと、初めてだったらそんな不安を憶えていただろう辺りで、ようやく進路を反転させるカーブが現れた。

旧道は蛇行する広瀬川が作り出した細長い半島状の地形を上手く利用して、無理なく高度を稼いでいた。
馬車だけでなく、人力車や自転車にも優しい道だが、この迂回の激しさは、徒歩の旅人にも敬遠されそうだ。




折り返すと、両側を広瀬川に切り取られた尾根を上っていく。
最初のうちは右を見るたびに、少し前に辿った道が下に見えていた。
そしてそれが見えなくなると、今度は現道を行く車の音が近付いてきた。

この区間は廃道というほど荒れてもいないし、朝日に照らされた森の緑が美しく、大いに癒やされた。



5:56 《現在地》

最後に、反対側でも見たバリケードを越えると、現道へ脱出!

開始から終了まで30分にも満たない、朝の軽い運動向けの、ミニ探索であった。



なお、最後の現道との合流地点は、最初の写真を撮った場所だ。
すなわち、湯渡戸橋の北詰である。まさに、迂回したなぁという実感。
旧道では、下って曲がって渡って曲がって上ってと、500mある行程を、
現道は平坦な直線の150mにまで短縮している。これ以上はあり得ない。



完結。



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