ミニレポ第236回 岩手県道503号 遠野東和自転車道線 柏木平区間

所在地 岩手県遠野市
探索日 2012.4.15
公開日 2018.4.11

遠野市郊外のサイクリングロードにワナあり!


【広域地図(マピオン)】

2012/4/15 17:28 《現在地(マピオン)》

ここは岩手県遠野市の中心部から14kmほど西へ離れた宮守町下鱒沢地区である。平成の合併以前は宮守村に属していたエリアだ。
写真の左側に見える2車線道路は県土を東西に横断する幹線である一般国道107号で、私がいる部分は、一見その歩道のように見えるが、実は全く別の県道である。

この歩道に見える部分の路線名は「岩手県道遠野東和自転車道線」といい、岩手県に現在認定されている県道の中では最も大きな「503」の路線番号を与えられた、別個の一般県道なのだ。
写真中にも、遠野名物である「わさび」が自転車を立ち漕ぎするシュールなイラスト付きの立派な看板が設置されているのが見える。

なお、当サイトの読者ならばピンときたかも知れないが、自転車道線として県道認定をうけたこいつは、かつて「大規模自転車道整備事業」という国の事業によって整備された全国135路線の大規模自転車道のひとつである。岩手県には大規模自転車道が3路線存在する。


さて、上の写真の右奥辺り、“矢印”の位置に立っている立派な看板が、これだ(←)。

遠野東和自転車道観光案内図」と銘打たれた大きな看板には、自転車道の起点である遠野市土淵町から、終点である和賀郡東和町田瀬に至る全長29.8kmの路線が、太く赤い1本の線で示されていた。
沿道にある様々な景勝地や観光施設の写真や楽しげなイラストがふんだんに使われており、この看板1枚があれば丸一日サイクリングを楽しめそうな出来映えだ。各地の区間距離や起点からの距離も書かれており、かゆいところに手の届く内容といえる。

チェンジ後の画像は、私が今いる現在地周辺を拡大したものである。
そして私はこれから西へ進もうとしている。すなわち、間もなく起点から「22.5km」の地点にある「柏木平」を通過し、「26.1km」地点の「田瀬大橋」方向へ向う。

基本的にこの自転車道は国道107号と並行しており、国道の歩道を兼ねている場所が多いが、これから向う柏木平地区では珍しく国道を離れて、猿ヶ石川の蛇行をショートカットするように、橋を2度渡る経路になっている。



17:36 《現在地(マピオン)》 

案内板の場所から600mほど、国道の歩道のように見える県道503号遠野東和自転車道線を西へ進むと、この写真の十字路に着く。
ここが案内板に22.5km地点として表示されていた柏木平である。

案内板では、自転車道はここを左折するように描かれていたが、交差点の角にも、本路線の沿線各所に設置されている自転車道を示すオリジナル標識があり、左折すべきことを矢印で表現していた。
先ほどの案内板と、この矢印の標識を見逃さなければ、自転車道の利用者は左折するはずである。

だが、ここで真に注目すべきは、交差点直前の路上にあるシール状の案内表示(黄矢印のところ)だった。

これを見逃すと、結構面倒なことになる場合がある …かもしれない。



路面の案内表示の内容は、このようなものだ。

県道ファンを喜ばせる“ヘキサ”付きで書かれた「遠野東和自転車道線 路線案内」の文字の下に、十字路の案内図があり、そこに太い赤い矢印で県道の進路が描かれている。
この交差点を左折し、それから間もなく右折すべきことが分かる。
そこまでは、いい。 先ほどの案内板や、角に立つ矢印の標識と同じ内容だ。

だがその下に、家電品の説明書などでお馴染みの「!マーク」(JIS規格の消費者用警告図記号に定められた注意図記号の一種「一般注意」を示す記号らしい)と共に、読み捨てのならない重要なことが描かれていた。曰く――

自転車道 この先行き止まり
東和・北上方面 このまま直進
」 だというではないか。

つまり、自転車道はここを(赤い矢印のように)左折するけど、その先は行き止まりだから、東和・北上方面へ行きたい人(おそらくサイクリストの大半はそうだろう)は、この交差点を直進しろというわけだ。
先ほどの案内板では、左折した自転車道もちゃんと通じているように見えたが、何か通行止めになるような事態が起きているのだろうか? 気になるぞ。見に行ってみよう!



左折すると、2車線道路である市道があり、その左側にある縁石で仕切られた歩道部分が自転車道(県道)である。
道は川へ向って緩やかに下っているが、そこで右の方を見ると、大きな平屋屋根の向こうに、橋とトンネルが見えた。

この橋とトンネルこそ、「行き止まり」だと教えられた自転車道の続きだった。


左折から130mほどで、自転車道はこれまでの歩道的従属の立場を脱し、“独自区間”へ移行する。
写真はその地点である。
ここで市道を横断歩道で渡ってから、車止めと「車両進入禁止」の大きな看板に入口を護られた赤色カラー舗装の自転車・歩行者等専用道路へ。

嬉しいことに、ここには一般の県道と同デザイン&同サイズの“ヘキサ”(県道標識)が、「一般県道遠野東和自転車道線」と書かれた補助標識とセットで設置されていた。
全国的に大規模自転車道にはヘキサがないことが多いので、このように何の変哲もないヘキサが当然のようにあるのは嬉しい誤算だ。“独自区間”の誇らしさのようなものを感じる。

またここには、本レポートの1枚目の写真にも出ている、“立ち漕ぎわさび”が描かれた自転車道の標識と「観光案内図」も揃って設置されていた。
「観光案内図」における自転車道の有り様は前と変わっておらず、改めて見てもこの先で行き止まりのようには見えなかった。
これだけでも情報過多なくらいだが、そのうえ路面にも何かの表示があるようだ(黄矢印)。


路面に描かれていたのは、このような表示だった。

ここは遠野駅から15.5km、柏木平まで0.5kmの地点であるらしい。(ちなみに、この自転車道の起点は遠野駅ではないし、遠野駅前も通らない)
また、右上に小さく「23.0kp」という表示があり、起点から23km地点のキロポストを兼ねた表示であるようだ。

自転車や歩行者にとっては、頭上や路傍にある案内板よりも路面に描かれた案内表示の方が目に留まりやすいという考えなのか(多分それは正しい)、普段はなかなか見ない路面の表示物が相次いでいる。
こういうのは他の大規模自転車道でもあまり見たことがないので、他の様々な案内物の存在と合わせて、当自転車道に対する整備の念の入りようが伝わってくる。




直前に見下ろした平屋屋根の建物が右にある。
これは「優遊プラザ」という観光施設で、すぐ近くにある「ふるさと交流館」や、この先にある「コテージランドかしわぎ」などと合わせて、「柏木平レイクリゾート」と呼ばれている。
この自転車道から見下ろされる河川敷には大きな駐車場も整備されているが、いまは平日の午後5時過ぎであるため、施設はもう閉館しているようで、ここにもサイクリストや歩行者の姿は見当たらない。冷たい夕暮れの川風が音もなく吹き抜けている。

屋根の向こうに見えていたものたちも、近づいてきた。
大きな橋と、その先に口を開けているトンネルである。




17:41 《現在地(マピオン)》

豪奢だなぁ。

それがこの橋の第一印象であると同時に、印象のほぼ全てといえる。
県道503号の橋といえば普通のようだが、自転車道の専用橋としては稀に見る立派さだ。
橋からそのままトンネルに繋がるさまなどは、鉄道の未成線跡を転用したような雰囲気だが、そういうわけでもないらしい。

橋の名は、梁見橋。

傍らにはご丁寧にも命名の由来を書いた案内板があり、この橋のすぐ上流辺りの猿ヶ石川が
昔からの簗場であるための命名という。竣工年は不明だが、奇抜な構造からして平成生まれだろう。


これは少し後に別アングルから撮影した梁見橋の姿である。
自転車道であるがゆえの幅の狭さもあって、本当に鉄道橋のような雰囲気だが、
舟形に膨らんだプレートガーダーらしき桁は見慣れない。なんという型式なんだろう。
全長は5径間で200m以上あるだろう。自転車道専用橋らしからぬ豪奢さである。


橋上には特に展望用スペースや飾り付けなどは何も用意されておらず、いたってシンプルである。
そのうえ通行人の姿がまったくないので、未成線ならぬ未成道に足を踏み入れたような感覚になったが、
人がいないことについては、単に私の訪れたタイミングが悪かったのだということにしておこう。


橋を渡ると、道はそのまま対岸の山に突き刺さり、トンネルを穿つ。
橋とトンネルで構成されたこの直線なら、時速70kmくらいは出しても大丈夫そうだ。自転車で(笑)。

立派な銘板が教えてくれるその名は、須麻古(すまこ)トンネル
50mほどの短いトンネルだが、照明が点灯していた。そのうえ非常警報装置(洞内での異常発生を伝える装置、
坑門に取り付けられているパトランプだ)
と、通報装置(洞内の側壁に赤い小灯が見える)まで完備されていた。

豪奢である。



17:44 《現在地(マピオン)》

トンネルを出たら突然の直角カーブ!
自動車道だったらヤバいやつだが、ここは自転車なので、まあいいだろう…。あんなにまっすぐ進んできたのに突然曲がるギャップには驚かされるが。
ここは猿ヶ石川の蛇行に三方を取り囲まれた狭い陸地で、正面の低地には回り込んできた同川が流れている。

ここには、今回2回目となる“ヘキサ”があり、そのほかに2枚の案内板が設置されていた(黄色と緑色の矢印)。
手前の案内板は、一風変わった須麻古というトンネル名の由来を書いたもの。気になる人はこちらをどうぞ
奥の案内板は、次の画像をご覧くださいな。




それは、「柏木平サイクリングロード」と銘打たれた初めて見る案内板で、これまで見た案内板よりも大縮尺でこの柏木平の周辺を描いていた。

「現在地」は図中のほぼ中央で、橋やトンネルも描かれている。
注目すべきは、図の下端へ続くこれから先の進路である。
これを見る限り、「コテージランドかしわぎ」の外周をしばらく進んだ後で90度右に折れ、再び猿ヶ石川を渡るようになっている。
この案内板には書かれていないが、猿ヶ石川の対岸には国道107号が近接しており、渡ればすぐさま合流するはず。冒頭に登場した【観光案内板】でも、そのような表記に見えた。
だが、【交差点の路面表示】では、行き止まりになっているという。

…これはどうやら、この先に待ち受ける2度目の橋に、何かの問題が起きている可能性が大のようだ。



立ち去る前に、振り返ってもう一度須麻古トンネルを見る。

トンネルの土被りはさほど大きくないので、その気になれば切り通しにも出来たと思うし、現道はすばらしい平坦路なのだが、そこに多少の坂道を容れたならば、やはりトンネルは避けることは出来たと思う。
何度も言うが、豪奢な造りだ。

なお、須麻古トンネルはこれでも県道のトンネルであるから、当サイトお馴染みの資料のひとつ『平成16年度道路施設現況調査』のトンネルリストに、ちゃんと掲載されている。
そこから、現地では知ることが出来なかった竣工年などのデータが判明した。主な緒元は以下の通りである。

須麻古トンネル
 竣工年:平成14(2002)年 全長:55m 全幅:4.0m 全高:2.5m
『平成16年度道路施設現況調査』より抜粋

自転車歩行者専用道ということで断面が小さいのは当然だが、特に道幅に対して天井の低いことが特徴的だ。自転車で丈のある荷物を運ぶことはほとんどないので、これで十分という判断なのだろう。また、竣工年も予想通り新しかった。隣接する梁見橋も、きっと同時期だろう。



17:46 《現在地》

須麻古トンネルを出た自転車道は、それまでとは打って変わって小刻みに蛇行しながら進み、130mほどで写真の十字路にぶつかる。
トンネルを含め、この辺りは全て「コテージランドかしわぎ」の敷地内であり、下草刈りなどの手入れも良くされていて見通しが良い。

この十字路では、黄色っぽいカラー舗装をされているのが自転車道で、ほぼ同じ幅の道と平面交差しているが、あちらは公園内の車道である。
自転車道側には自動車が入れないように、前後とも車止めが設置されていた。




右の写真は、同交差点の中央に立って、自転車道の進行方向を撮影した。

ここにも、これまで何度も見た“立ち漕ぎわさび”の看板と、自転車・歩行者専用道路であることを記した大きな看板が立っているが、未だ「行き止まり」であるということの予告は現われない。
なおも平然と普通に自転車道は続いている。
目と鼻の先に見える猿ヶ石川向こうに、国道が待っているはず。

【交差点の路面表示】は、なんだったんだろう?
あれは何かの間違いだったのかなと思わせるものが、次々現われている。もしかしたらあれは、この先の橋が完成する以前の古い案内だったのだろうか。それが消されずに残っていただけ?



ここで現われた、23.5kmのキロポスト路面表示(上の写真の矢印位置)。
国道107号の交差点から660m来たことが分かる。
だが、【前回の23kmキロポスト】にはあった「この先」についての表示がない。

…ん? やっぱり、抜けられないの?

どっちなのよ。
はっきりしない野郎だぜ。
まあいい。進んでみれば、すぐにはっきりするはずだ。




入口に車止めが設置された自転車道であるはずなのに、なぜか四輪のタイヤ痕が色濃く残っている。
左に見える家並みは、全部コテージだ。
右は猿ヶ石川で、この少し下流に堰があるので、湖のように見える。

そろそろ、この川を渡る二度目の橋が見えてくるはずだ。




17:47

が、その後も橋の姿は見えてこなかった。

橋が現われないまま、コテージ村の端が近づく。

その先の川縁は、疎林の森になっている。

そして………






マジかよ。

橋なんか、どこにもねーぞ!

ここまで何回も見た【観光案内板】も、ちょっと前にあった【別の案内板】も、ぜんぶだったということに…。


こんなことが、許されるのか〜。

自転車道の沿道に点在している案内板だけを信じて遠野側から走ってくると、700m手前に1度だけあった【交差点の路面表示】を見逃した場合、ここへ迷い込むことになるだろう。
そして、ここから対岸へ渡る方法はない。 だって、



ここは袋小路。

真っ当な地図(↑)の中では、こうもあからさまな袋小路なのである。

ここに橋はないし、各地の案内板は嘘だった。以上が結論である。


だから、教訓―― 「案内板を信じずに、ちゃんと地図も用意しよう」。



案内板を見る限り、橋はここに(点線のように)架けられる計画だったようだ。

私はここへ来るまで、橋が何らかの理由で通行止めになっているのだろう。案内板は橋が通行できた時代に作られたのだろう。そういう風にそう予想していたが、そもそも橋があった痕跡がない。
そして、これはこの後詳述する聞き取り調査ではっきりしたことだが、一度も架橋されたことはないという。
架橋の計画はあったが、実現していないとのことだ。
ようするに、未成道である。
大規模自転車道といえば未成道との絡みが濃厚だが、そのいつものパターンだった。

なお、この辺りは川幅があまり広くないので、梁見橋ほど長い橋である必要はなく、100mで十分だったろう。
対岸には国道のガードレールが見えており、渡ればすぐに合流である。
ここまで作ったならどんな橋でも架けてしまえばいいと思うのだが、そう思うように行かないのが公共事業というものなのだろう。

まあ、これが不幸中の幸いといえるのかは分からないが、道自体は一応、行き止まりにはなっていない。
見る人が見れば明らかに不自然な折り返すようなカーブを突然描いて、隣り合うコテージ村と接続していた。
もちろん、その先にはもう自転車道としての案内などは一切ない。ただの道路である。
この接続は未成道の行き止まりを無理に取り繕った感が半端ないのである。



現地の私も、すぐにはこの展開(橋が痕跡さえないこと)を受け入れられず、あわあわした。
何せ、いままでこうも平然と複数(←これ重要)の案内板によって“嘘をつかれた”経験が、なかったのである。

ここから先に進めないことははっきりしたので引き返すしかないわけだが、その最中、「コテージランドかしわぎ」の管理棟で管理人らしき男性から、話を聞くことが出来た。

自転車道についての地元証言 (括弧内は私の補足)

  • ここから国道へ渡る橋は、未だかつて架けられたことがない。
  • 橋は、今から10年くらい前(探索は2012年なので、平成14(2002)年頃か)までは、建設する計画が決まっていた。
  • 橋が描かれている案内板も、その頃に建てられたと思う。
  • その後、橋の建設は中止されてしまい、それっきりになった。おそらく予算不足だったと思う。
  • いまでも、(橋がないのかと、お客さんに)よく聞かれる。

案内板に描かれているということは、それが設置されたとみられる平成14年頃まで、ここに橋が架設されることはほぼ確実視されていたのだろう。
しかしそれでも、通常の行政の対応としては、実際に開通するまで案内板に修正シールを張るなどして対応しそうなものだが、そういうことがなされていた形跡はないし、現状は見た通りだ。
案内板の内容が実際の道路状況と異なっているとはいえ、実害としては少しうっかりした人が数キロ余計に歩かされたり、自転車を漕がせられる程度のかわいいものではあるが、10年近くも実態と異なる案内板がまかり通っていること自体は、行政の怠慢と指摘されてもやむを得ない。(これを書いている2018年現在は、さすがに修正されている可能性もある)
一応、【交差点の路面表示】があったので、完全放置とはいえないが…。

なお、道路地図帳や地形図などでは、この「コテージランドかしわぎ」と外部を結ぶ道は、今回の自転車道の他に点線の徒歩道しかないように描かれているが、実際は徒歩道ではなく舗装された車道であり、ここを管理する柏木平レイクリゾートの公式サイトにあるアクセス案内(→リンク)でも、その道が案内されている。
つまり、あの立派な梁見橋や須麻古トンネルは、この「コテージランドかしわぎ」へのアクセスルートとしても唯一のものではない。現に、自転車道では誰とも出会わなかったのに、ここには沢山の車が停まっていて、管理棟も元気に営業していた。 自転車道よ……(涙)。

さらにこの帰り道にも、近くの集落で井戸端会議中の住人3人から、次のような証言を得ている。

自転車道についての地元証言 その2 

  • 橋は確かに建設する計画があり、地主も了承していて、「俺が生きている間には架ける」と言っていたが、結局予算が付かず放置されたままになっている。もう多分架けられないだろう。
  • 橋は、川の最も狭くなっている辺りに吊橋を架ける計画だったと思う。

複数の証言者から、橋が架設されなかった理由は予算不足であるという話が出た。信憑性は高いのかも知れない。

いやはや、大規模自転車道の闇の深さを、ここでも垣間見てしまったのである。
ほんと……、アリとキリギリスの寓話じゃあないが、あの豪奢な【梁見橋】【須麻古トンネル】を、もう少し控えめな造りにしていたら、あと吊橋1本くらいは架けられたんじゃないですかねぇ(ボソリ)。
橋やトンネルだけじゃなく、各種案内板や標識類も、ここまでは完備しすぎるほど完備されていた印象なだけに、全力で走ってきたはいいが、新記録を目前としたゴール前で突然ぶっ倒れたランナーみたいになってしまっている……。





さて、最後に多少の机上調査である。

まず、遠野東和自転車道の大規模自転車道としての全体像についてだが、それを調べようとした段階で大きな障害にぶち当たった。
なんと、2017年6月以降のどこかのタイミングで、それまで国土交通省道路局のサイト内にあった大規模自転車道に関するページがまるごと削除されていたのである。
現在公開されている、例えばこの「サイクルツアー」というページには、上部の帯バナーの中に「大規模自転車道」のページへのリンクが残っているが、実際にアクセスすると「404 Not Found」だけが表示される状態だ。
国交省のサイト内に、こうもあからさまなリンク切れがあるとか…。大規模自転車道事業に対するやる気のなさが透けて……などと思ってしまうのは穿った考えか。
まあ冷静に考えると、昭和48(1973)年に始まった大規模自転車道整備事業は平成21年度で終了しており、ページの削除も不自然ではないのかも知れない。


出典:国土交通省道路局サイト(internet archiveよりサルベージ)

幸いにして、「internet archive」にはちゃんと記録が残っている(→リンク)ので、今も内容を見ることはできる。以下はそこから拾ってきた情報やキャプチャ画像である。

まず、平成15年度に作成されたとみられる路線データは、右の通りだ。
「全体計画」の欄に書かれている29.8kmという数字は、沿道各地に設置されている【観光案内図】に書かれていたものとピタリ一致している。
しかし、平成15年度末における整備見込みが25.9kmで、平成16年度にさらに0.9kmを整備する予定と書かれているが、完了年度の欄には平成17年とあり、果たして最後の1年で(29.8−25.9−0.9=)残った3.0kmを整備できる見通しがあったのかどうか、甚だ疑わしいと思ってしまうのは私だけか。



出典:国土交通省道路局サイト(internet archiveよりサルベージ)


左図も同サイトからサルベージした路線図である。
これを見ると、今回探索した柏木平の区間は、確かに「未開通区間」を示す青い点線で表示されている。
本当にぽつんと、途切れている。

上記にあった「平成16年度の整備予定区間」は、ここではなく遠野市の中心部に近いところに書かれており、事業完了年度である最後の平成17年度に、問題の橋が整備される計画だったのかもしれない。少なくとも平成15年度にはそういう計画だったように想像する。

なお、今回の探索では訪れなかった図中の各@〜B地点の状況については、グーグルストリートビューで見ることができた。

@地点リンク)は、建設されなかった橋の渡った先にある国道だが、自転車道に関して特にこれといったものは見当たらない。
この先もずっと田瀬ダム周辺のA地点辺りまで歩道のない区間が続いており、左図には自転車道の「整備済み区間」になっている部分もあるが、実際は目に見える自転車道は存在しない。いいのかこれで。

A地点リンク)から自転車道の終点とされているB地点までは、閑散とした山村風景の中の国道であるにもかかわらず、立派すぎる幅の歩道が併設されており、これが自転車道ではないかと思う。また、A地点の東側にも少しの間は自転車道の導入空間と思われる広い余地が続いている。

B地点リンク)の交差点は、この自転車道の終点であり、A地点から続く幅広の歩道が自転車道だと思うが、遠野市内の各所にあるような自転車道の案内板・案内標識などは見当たらない。A〜B地点は東和町内であるが、東和町はこの計画に遠野市ほど熱心でなかったのかも知れない。
というか、輪行に便利な鉄道駅や有名な観光地が近くにあるわけでもないこの山間地の交差点が、なぜ大規模自転車道の終点になったのかは不思議である。
まあ、近くには田瀬湖という綺麗な人造湖があり、見所がないわけではないが…。
この終点から、あと20kmほど西へ国道107号を進むと、東北新幹線の駅もある北上市街に出られる。
遠野と北上を結ぶ自転車道なら、もっと利用者からの覚えは良かったと思うが、東和〜北上間はなかなかの峠越えなので、自転車道の建設は難しいと考えられたのかも知れない。

ちなみに、大規模自転車道整備事業に採択されるには、いくつかの条件があった。2以上の市町村を経由することや、延長が20km以上あることなどで、確かにこの路線もそうした条件は満たしているが、自転車の計画交通量がピーク時に1000台/日以上という条件を満たす見通しがあったのかどうか。まあ、一部区間が満たせば良いのなら、遠野市街のどこかで満たせるのかも知れないが…。


最後に、今後の開通の見通しについてだが、はっきりしたことは分からない。
ただ、先ほども書いたように、この自転車道の根拠になっていた大規模自転車道整備事業は平成21年度で終了している。
(全国に135路線4300kmが計画されていたが、平成21年度末の整備済み延長は3600kmだったという。未完成路線は58路線で、うち52路線は完成時期未定とされていた)
代わりに平成22年度から社会資本整備総合交付金が始まり、これによって大規模自転車道整備事業を含む従来の様々な補助金が一本化し、自治体の裁量によって様々な種類の事業に充てられるようになったそうだ。
つまり、自治体が自転車道の整備続行を優先すれば建設できるはずだが、未だに橋が架かっていないということは……、たぶんそういうことなんだろう。

あと橋を1本架けるだけで、遠野〜東和間の道のりが1km以上短縮され、自転車乗りにとっては確かに便利なんだけど、そういう風に声を上げる人の数が、もうあまり多くないんだと思う。
どんな立派な橋もトンネルも、やはり道として起点から終点まで繋がっていてこそ、真価がある。
それなのに…、大規模自転車道って、どこに行っても可哀想な目に遭ってる気がするなぁ。



完結。


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