道路レポート 青森県道256号青森十和田湖自転車道線(十和田市区間) 第1回

公開日 2015.11.30
探索日 2014.11.12
所在地 青森県十和田市


“大規模自転車道”は、が深そうだ。

前々から薄らと感じてはいたが、平成24(2013)年にほんの僅かな時間を過ごした「和歌山県道802号太地新宮自転車道線」において、その予感は決定的な確信へ繋がった。

※大規模自転車道とは……
昭和48年に旧建設省がスタートさせた道路事業で、当時のサイクリングブームを背景に、国民の健全なレクリエーションの増進を図るべく、全国に約5000kmの自転車専用道路(大規模自転車道)を整備するとした。各路線は都道府県や指定市が事業主体となって、国の高率の補助金を受けて整備された。各路線が一般都道府県道として供用されており、路線名は「一般県道○○自転車道線」のようになる。この事業は国土交通省となってからも受け継がれ、平成21年現在の全体計画4300kmのうち、約3600km(計134路線)が供用されている。


全国に134路線もあるという大規模自転車道の一覧は、国土交通省のサイトで公開されている。(→リンク
これを見ると、東北地方だけでも16路線が認定されているのだが、各路線を探ってみると案の定、「和歌山県道802号太地新宮自転車道線」のような未完成臭をプンプンと漂わせる路線が、いくつも発見された。
今回はそのうちの1本、青森県の有名な観光地を結ぼうとして夢破れた(っぽい)、愛称「田代平高原自転車道」こと、正式路線名「一般県道青森十和田湖自転車道線」の一部を探索したので、紹介しよう。

サイクリストならば、これは必見! そうでないあなたも一寸見てほしい!

これがサイクリングを愛する全ての“国”民のために、“国”自らがお墨付きを与えた、134ある珠玉の一つだ!!




【周辺図(マピオン)】

既に述べた通り、このサイクリングロードは県道である。
そのため、一部の市販品やネット上で見られる地図などが県道として表現している。
右図は「プロアトラスSV6」だが、黄色く塗られている道がそれである。
地理院地図など他の地図もいくつか見てみたが、基本的に県道として表現している地図は、どれも同じ区間を示していた。
具体的に言うと、青森県十和田市内の仙人平ち湯ノ台を結ぶ約4.5kmの道である。
ここは名山として知られる八甲田山の中腹にある冷涼な高原地であるから、いかにもサイクリングに適していそうだが、正直いって、「青森十和田湖自転車道」という名前にはいささか遠い気がする。
青森の市街地と十和田湖畔の距離は、近い道を選んでも50kmはあるはずで、4.5kmばかりの県道は、明らかに名前負けの「未完成」っぽい。

そして実際、その通りであったようだ。
国交省のサイトで公開されている本路線のデータは次の通りである。



起点は青森市、終点は十和田湖町(現:十和田市)となっており、計画の全体延長は43.5kmにも及ぶ。
だが、昭和49(1974)年の着工から13年後の昭和62(1987)年に「整備完了」したはずの整備済延長はといえば、約半分の21.4kmに過ぎないのである。
あからさまな未成に終わった道路計画だった。

とはいえ、先ほどの地図で見た僅か4〜5kmの路線だけが“全て”ではないことも分かった。
少なくとも21.4kmは整備が完了して、県道として立派に供用されているということを、この国交省のデータは伝えている。

それでは、先ほどの地図に県道として描かれていなかった区間は、いったいどこにあるのだろう?
その答えも、国交省が教えてくれた。



左図は国交省のサイトに掲載されている青森十和田湖自転車道線の概要図に、いくつかの地名などを私が書き加えた物だ。

これを見れば明らかなように、当初の本路線には、青森市の中心部と十和田湖(ただしこれは十和田湖の畔という意味ではなく、十和田湖町という旧自治体名を指していた)周辺を結ぶ全体計画(43.5km)が存在して、青森側と十和田湖側の両方から整備が進められたようである。
だが、昭和62年度までに21.4kmを整備した時点で、何らかの理由から、残りの計画は中止されたのであろう。平成15年末時点で「未整備区間」は無いことになっている。

もちろん、こいつは“自転車道”であるから、仮に未整備の区間があっても、他の一般道路へ迂回して自転車を走らせる事は出来る。
したがって普通の道路が未開通であるのとは、幾らか意味合いが違うだろう。
それでも、当初計画が半分も履行されずに終わった事実は覆らないのだ。屈託の無い、未成道である。

このように、本路線は青森市内と十和田市内の2箇所に存在している。
そして今回紹介するのは十和田市内の区間である。
改めて、十和田市側の赤く示されたラインを見て頂きたい。

先ほどのプロアトラスの地図において、県道として表現されていたのは仙人平から湯ノ台までの短い区間のみであったが、この国交省の地図を見る限り、さらに南の十和田湖温泉で国道102号と交わる「終点」まで整備されているようだ。



右図はお馴染みの地理院地図である。
この地図でも、十和田市内の区間で県道の表現がされているのは、仙人平から湯ノ台までだけである。
だが、国交省の路線図では、自転車道は十和田湖温泉の辺りまで降りてきてようだ。
となると、湯ノ台と十和田湖温泉の間をどのように結んでいたのだろうか。

「赤点線」は、国交省の路線図に描かれていたラインを大雑把に落とし込んだものである。
こうして見較べると、確かに地理院地図にも、それらしい道が描かれていることが分かる。

ただ、この“想定ルート”にも問題はある。
湯ノ台の標高は約460m、そして十和田湖温泉は約210m。標高差は250mもあるのだが、“想定ルート”の距離は4kmに過ぎない。
4kmで250mは、平均勾配6.3%。
この数字、一般道ならば普通の山岳道路の範疇だが、こと「自転車道」には厳しい気がする。
まあ、自転車道ばかりを選んで走るサイクリストでもない限り、やはりこの数字は普通の道路の勾配としか感じないと思うが、私の知る「自転車道」と名の付くものは、どこも「過剰なほど」緩やかなのが定説だっただけに、違和感があったのだ。

果たしてこの区間の道は、勾配に対してどのようなルートを取っているのか。
それを解明する事も、今回の探索の大きな目的であり興味であった。



十和田市区間の起点、仙人平の国道103号交差点


また、八甲田山中に来てしまったのだ。
私にとって、この八甲田という山の中は、なかなかに鮮烈な印象を持った土地である。もちろん、探索という意味でだ。
あんな苦闘や、こんな死闘のあった土地といえば、読者諸兄にもご理解いただけるかと思う。

そして今回。
今回ばかりは、マイルドに楽しめるはずだ。
所詮相手は「自転車道」であり、多少急勾配であったり、不人気ではあるかもしれないが(きっとそう)、良い景色の中をのんびりサイクリングして、これまでの闘いによってこの地に抱かれたキツイばかりの印象を拭いたいと思っている。

写真は、猿倉温泉辺りの国道103号から見る北八甲田山の風景だ。
今回のスタート地点は、標高1000m近いここからだいぶ十和田側へと下った、標高600mの仙人平から始まる。



2014/11/12 9:46 《現在地》

仙人平。背の高い広葉樹が一面に生い茂る森の中に、今回のスタート地点の交差点がある。
特定の名前も信号機もない、九十九折りのカーブの途中にある交差点だった。しかし青看だけは設置されていた。
「湯ノ台」とだけ行き先が案内されている左の道が目指す自転車道だが、特に県道の表示は無い。

それでも、ここが青森県道256号青森十和田湖自転車道線の分断された南側区間(便宜的に「十和田市区間」と称する)の始まりであることは間違いない。
北側区間(青森市区間)の終わりからここまで25kmくらい離れているが、自転車道の替わりとなる一般道が整備された県道(ただし冬季閉鎖あり)や国道なので、実際にここまで順路通りにサイクリングすることは(自転車で高低差900mの峠越えをする事に耐えられるなら)難しいことではないし、実際にそこそこ人気があるコースだと思う。

ただし、多くのサイクリストはここまで来ても敢えて左折はせず、このまま国道を走ると思う。
その最大の理由は左折した先の自転車道がマイナーで目立たないからだが、もしその存在を把握していたとしても、自転車のためだけに整備された自転車道でなければ走れないような軟弱なサイクリストは、ここまでの分断区間でとうに絶滅しているはずだから(笑)。



これが左折の道の始まりの光景。
一見すると、歩道と車道が分離帯で隔てられた、いかにも観光地らしい瀟洒な道路のようである。
そして、これら全体が県道256号であると考えるのが普通だろう。

だが、実際はそうではない。

県道に認定されているのは、あくまでも路線名の通りに「自転車道」だけである。
ゆえに、右側の車道部分は実は十和田市道であって、県道ではないのだ。
県道は、左側の幅3mに満たないまるで歩道のような部分=「自転車道」だけである。

そして、この時点でもう分かったのだ。
予感していたとおりの、自転車道の不人気ぶりというヤツが。
だって、入口の車止めに固定されたスノーポールが倒れかけていて進路を邪魔しているのに、それがそのままになっているんだぜ。明らかに、県道管理上の瑕疵あり!(苦笑)



このまま自転車道の探索を開始しても良かったが、今回は自転車道を逆方向(麓から上る方向)に終点側から探索することにした。
今いる場所をスタート&ゴールに定めた、自転車による周回探索をこれから開始する。
すぐ近くの空き地に車を停め自転車を降ろすと、その自転車に跨がり、グネグネの急な下り坂が続く国道103号を、十和田湖温泉目指して駆け下った。


そしてやがて、山の中にしては驚くほどに大きな川が道沿いに現れると、
それこそが十和田湖より奥入瀬渓流を過ぎて流れ来た奥入瀬川の姿であって、
ここに今回行程における折り返し地点、焼山の地への到達を果たしたのであった。



十和田市区間の終点、国道102・103号焼山交差点


10:25 《現在地》

焼山の奥入瀬川べりに、国道103号と102号の焼山交差点がある。
この辺りの大字名は十和田市法量(旧十和田湖町法量)で、国交省のデータにあった終点の地名にも合致する。
なお、現地の青看では103号の“おにぎり”は省略されているが、右折の道は102号と103号の重複区間になっている。

八甲田山と十和田湖および奥入瀬渓流という、青森県あるいは東北が誇る有数の観光地を結ぶこの交差点は、行楽シーズンの休日などにしばしば渋滞を発生させる有名な場所だが、この日は平日でしかも紅葉もほぼ終わりとあってか、静かな朝の風景であった。

そして私の調査の結果、問題の県道256号は、この青看で行き先すら書かれていない左折する道であるようだ。
さらに交差点へ近付いて観察する。



十字路である焼山交差点に北側から合流してくる道は、青看では行き先の表示も無く、一見すると単なる十和田市道のようである。
また、入口の両側に門柱様の大きな柱が立っていて、そこに大文字で「十和田湖温泉」と書かれているから、同温泉街への通路ということも分かる。

だがここにはもう一つ、あまり目立っていない案内板というか、道標石のようなものが立っているのである。
おそらく自動車だと見過ごしてしまいそうな…「赤矢印」のところに…。




こんなにお金のかかっていそうな道標石が!

木や金属でも用は足りそうなのに、こいつは思いっきり頑丈で手間のかかった、オール石造の、しかも凝った意匠の道標石である。
そして、しっかりと「青森十和田湖自転車道」の文字が刻まれ、それがこの奥50mから始まるということが示されている。

もしも、これでしっかりとした利用実績のある自転車道であったなら、この道標石も「ふさわしい」ものであったろう。
だが、私は既に見ちゃってるんだよなぁ…。
この区間の終点における、わびしい「スノーポール」に通せんぼされかかったような姿を。

しかしともかく国交省のデータ通り、この焼山交差点の近くまで自転車道は整備されているようだ!



10:26 《現在地》

果たして、交差点から50mばかり入ると、道路の右側に東屋を持った小さな公園や木製案内板と共に、一見歩道のように見える「自転車道」が、現れたのだった。

この地点こそが、青森市起点から計画延長43.5kmの距離に設けられた、一般県道青森十和田湖自転車道線の終点である。




いきなり、現代のサイクリングシーンでの大勢を占めている、あの細いタイヤで高速性に優れた“ロードバイク”を強烈なパンクに陥れそうな段差があって、笑った。

この瞬間に、一部サイクリストのこの自転車道に対する評価は低下するに違いないが、ツッコミどころはそれだけじゃない。




大規模自転車道に良く見られる光景として、一般の道路のように白線が敷かれているというのがある。
この路線もそうなっていて、中央線(センターライン)や車道外側線が敷かれているのだが、道の終わり方があまり唐突で、車道外側線を割って走らない限り、自転車道から市道へ出る機会がない。正面の電柱へ突っ込んでいけというのか。

「自転車道なんだから良いじゃん」というのは容易い。だが、自転車だって立派な車両である。供用されている道路として、これは設計ミスではないのだろうか。
…自転車道だから、いいのかな。やっぱり(苦笑)。
私も、「どうせ未成道だから」と穿って考えすぎだとは思うが、この段階でもう、「なんか気持のはいっていない道路だな」という気がしてしまったのは、本当の話しである。




さっそく、県道256号の走行を開始する。
すぐ隣には東屋や駐輪場所が整備されていたが、例によって、人の姿も停まっている自転車もなかった。

道幅は3mほどで、これは道路構造令で定められた自転車道の基準通りである。さらにその道幅は、車道外側線やセンターラインによって路肩や上下線に分離されているが、どの線も消えかけているので、見た目には普通の道路に付属した歩道とあまり変わらない。
強いて言えば、車道との分離が徹底されているとことが違いと言える。普通の道路における車道と歩道の分離は、せいぜい縁石があるくらいだが、ここでは街路樹のある分離帯が設けられている。

実はこうした構造(道路の他の部分や、他の道路との物理的な分離)は単なるお洒落ではなく、道路法が定める「自転車専用道路等(自転車専用道路、自転車歩行者専用道路、歩行者専用道路)」の要件(道路法第48条の13)であって、決して欠くことが出来ないものである。この構造は大規模自転車道に限った話しではない。



起点に設置されていた立派な自転車道の案内板。
豊富にイラストが入った手の込んだ作りで、ここから仙人平まで区間が描かれている。
そこに全長11.5kmという表示を見つけたが、この数字は予想よりもだいぶ長いものであって、少なからず驚いた。

冒頭説明で書いたとおり、この十和田市区間の地図上から推測された全長は、仙人平から湯ノ台まで4.5kmと、湯ノ台から焼山まで4km程度を合わせた、約8.5kmと推定していただけに、それよりも3kmも多いというのは、いったいどこを“ほっつき歩く”つもりなのか?!
案内板の地図でも、そんなに迂回があるようには見えないが…。

また、看板の設置時期を推し測るヒントもあった。
図中を良く見ると、国道102号は赤線と“おにぎり”で示されているのに、国道103号はそうなっておらず、いかにも後からシールで訂正したような表現になっている。
実は平成5年までの国道103号は今のように青森市起点ではなく、旧十和田湖町の十和田湖畔子ノ口(ねのくち)に起点があった。
つまり、この看板は平成5年以前に設置されたとみて間違いない。



スタート直後、自転車道に付き物の道路標識である「自転車および歩行者専用」が登場した。
仙人平の場面でも書いたが、県道に指定されているのは道路の右側部分(自転車歩行者専用道路)だけであり、左側部分は十和田市道である。
そして十和田市道の部分は自動車専用道路ではないので、歩行者や自転車も通行できるが、県道部分は自転車歩行者専用道路なので、歩行者および自転車(軽車両含む)だけが通行可能だ。

このように隣接する二つの道路の管理者が異なっている事は、鋪装の色合いの違いからも伺える。完全に白線が消えてしまった県道部分は、長らく鋪装の張り替えや白線の更新がされていないに違いない。

こうして標高210m付近から始まった県道は、さっそくにして登り坂だった。
自転車道らしい緩やかさではあるが、こういうのが延々11.5kmも続くのだと思うと、少しばかり気が重かった。



10:35 《現在地》

市道沿いに450mほど登っていくと、唐突に自転車道は終わりを迎えた。

全くもって唐突で、一見すると単に歩道が途絶えたようにしか見えないが、この時点で県道256号は容易く行方不明になってしまったのである。
果たして、自転車道線として認定された県道は、自転車専用道路等(自転車専用道路、自転車歩行者専用道路、歩行者専用道路)以外の道路としても存在し得るのだろうか。
もし可能なのならば、単に隣の市道と重複していると考えられるが、不可能であるとしたら、ここから先は県道256号の未供用区間ということになるだろう。



車道と分離された自転車歩行者専用道路は忽然と姿を消してしまったが、そのかわり市道の左側の路側帯が妙に広い状態が続いた。
これはあれか。
導入空間だけは確保されているが、分離はしていないという状況か。
既に述べた通り、自転車専用道路等(自転車専用道路、自転車歩行者専用道路、歩行者専用道路)は制度上、かならず道路の他の部分と物理的に区分されていなければならない。
ここにはそうした区分がないので、自転車専用道路等にはなり得ないのであるが、土地的には確保されていて、将来少し手を加えれば実現出来るようにされている気がする。

普段、わざわざこんな事まで考えながら道路の景色を見てはいないが、自転車道に着目すると、色々と重箱の隅が気になってくるものである。
興味の無い方には申し訳ない。
でも、単純に面白くなるのはこの先なので、もうしばらくお付き合いいただければ幸いである。



10:36 《現在地》

なんか出て来た。

一旦は消えてしまった自転車歩行者専用道路が、唐突に市道から左へと別れていた。

笑えるほどに、目立っていない。
自転車や歩行者ならば気づけるかもだが、自動車だとまず素通りする。
まあ、ドライバーが素通りして困るものではないが、ぶっちゃけ、サイクリストも気づかない方が幸せかも知れない。

だって……



いきなり階段とか、
激萎えもいいとこだ!


国民に求められてるサイクリングロードっていうのは、こういうもんじゃ無いと思うんだが……。

ほとんど初っ端から階段とか、設計者はサイクリングを楽しんだことがあるのか?



…いかん。いきなりちょっと乱暴になってしまった。

反省する。


まあ、そういうこともあるだろう。


たまにはな。