“大規模自転車道”(※)は、 闇 が深そうだ。
前々から薄らと感じてはいたが、平成24(2013)年にほんの僅かな時間を過ごした「和歌山県道802号太地新宮自転車道線」において、その予感は決定的な確信へ繋がった。
※大規模自転車道とは……
昭和48年に旧建設省がスタートさせた道路事業で、当時のサイクリングブームを背景に、国民の健全なレクリエーションの増進を図るべく、全国に約5000kmの自転車専用道路(大規模自転車道)を整備するとした。各路線は都道府県や指定市が事業主体となって、国の高率の補助金を受けて整備された。各路線が一般都道府県道として供用されており、路線名は「一般県道○○自転車道線」のようになる。この事業は国土交通省となってからも受け継がれ、平成21年現在の全体計画4300kmのうち、約3600km(計134路線)が供用されている。
全国に134路線もあるという大規模自転車道の一覧は、国土交通省のサイトで公開されている。(→リンク)
これを見ると、東北地方だけでも16路線が認定されているのだが、各路線を探ってみると案の定、「和歌山県道802号太地新宮自転車道線」のような未完成臭をプンプンと漂わせる路線が、いくつも発見された。
今回はそのうちの1本、青森県の有名な観光地を結ぼうとして夢破れた(っぽい)、愛称「田代平高原自転車道」こと、正式路線名「一般県道青森十和田湖自転車道線」の一部を探索したので、紹介しよう。
サイクリストならば、これは必見! そうでないあなたも一寸見てほしい!
これがサイクリングを愛する全ての“国”民のために、“国”自らがお墨付きを与えた、134ある珠玉の一つだ!!
既に述べた通り、このサイクリングロードは県道である。
そのため、一部の市販品やネット上で見られる地図などが県道として表現している。
右図は「プロアトラスSV6」だが、黄色く塗られている道がそれである。
地理院地図など他の地図もいくつか見てみたが、基本的に県道として表現している地図は、どれも同じ区間を示していた。
具体的に言うと、青森県十和田市内の仙人平ち湯ノ台を結ぶ約4.5kmの道である。
ここは名山として知られる八甲田山の中腹にある冷涼な高原地であるから、いかにもサイクリングに適していそうだが、正直いって、「青森十和田湖自転車道」という名前にはいささか遠い気がする。
青森の市街地と十和田湖畔の距離は、近い道を選んでも50kmはあるはずで、4.5kmばかりの県道は、明らかに名前負けの「未完成」っぽい。
そして実際、その通りであったようだ。
国交省のサイトで公開されている本路線のデータは次の通りである。
起点は青森市、終点は十和田湖町(現:十和田市)となっており、計画の全体延長は43.5kmにも及ぶ。
だが、昭和49(1974)年の着工から13年後の昭和62(1987)年に「整備完了」したはずの整備済延長はといえば、約半分の21.4kmに過ぎないのである。
あからさまな未成に終わった道路計画だった。
とはいえ、先ほどの地図で見た僅か4〜5kmの路線だけが“全て”ではないことも分かった。
少なくとも21.4kmは整備が完了して、県道として立派に供用されているということを、この国交省のデータは伝えている。
それでは、先ほどの地図に県道として描かれていなかった区間は、いったいどこにあるのだろう?
その答えも、国交省が教えてくれた。
左図は国交省のサイトに掲載されている青森十和田湖自転車道線の概要図に、いくつかの地名などを私が書き加えた物だ。
これを見れば明らかなように、当初の本路線には、青森市の中心部と十和田湖(ただしこれは十和田湖の畔という意味ではなく、十和田湖町という旧自治体名を指していた)周辺を結ぶ全体計画(43.5km)が存在して、青森側と十和田湖側の両方から整備が進められたようである。
だが、昭和62年度までに21.4kmを整備した時点で、何らかの理由から、残りの計画は中止されたのであろう。平成15年末時点で「未整備区間」は無いことになっている。
もちろん、こいつは“自転車道”であるから、仮に未整備の区間があっても、他の一般道路へ迂回して自転車を走らせる事は出来る。
したがって普通の道路が未開通であるのとは、幾らか意味合いが違うだろう。
それでも、当初計画が半分も履行されずに終わった事実は覆らないのだ。屈託の無い、未成道である。
このように、本路線は青森市内と十和田市内の2箇所に存在している。
そして今回紹介するのは十和田市内の区間である。
改めて、十和田市側の赤く示されたラインを見て頂きたい。
先ほどのプロアトラスの地図において、県道として表現されていたのは仙人平から湯ノ台までの短い区間のみであったが、この国交省の地図を見る限り、さらに南の十和田湖温泉で国道102号と交わる「終点」まで整備されているようだ。
右図はお馴染みの地理院地図である。
この地図でも、十和田市内の区間で県道の表現がされているのは、仙人平から湯ノ台までだけである。
だが、国交省の路線図では、自転車道は十和田湖温泉の辺りまで降りてきてようだ。
となると、湯ノ台と十和田湖温泉の間をどのように結んでいたのだろうか。
「赤点線」は、国交省の路線図に描かれていたラインを大雑把に落とし込んだものである。
こうして見較べると、確かに地理院地図にも、それらしい道が描かれていることが分かる。
ただ、この“想定ルート”にも問題はある。
湯ノ台の標高は約460m、そして十和田湖温泉は約210m。標高差は250mもあるのだが、“想定ルート”の距離は4kmに過ぎない。
4kmで250mは、平均勾配6.3%。
この数字、一般道ならば普通の山岳道路の範疇だが、こと「自転車道」には厳しい気がする。
まあ、自転車道ばかりを選んで走るサイクリストでもない限り、やはりこの数字は普通の道路の勾配としか感じないと思うが、私の知る「自転車道」と名の付くものは、どこも「過剰なほど」緩やかなのが定説だっただけに、違和感があったのだ。
果たしてこの区間の道は、勾配に対してどのようなルートを取っているのか。
それを解明する事も、今回の探索の大きな目的であり興味であった。