“あの”激レア線形 と言われたら、あなたは何を思い出すだろう?
“あの”と書いているくらいだから、過去に当サイトで一度紹介したことがある激レア線形なのであるが……。
ああ、もうこれで分かってしまった人も多そうだな。
しかし、分からなくても、もちろん心配は要らない。
これから写真9枚ほど後に、それはちゃんと現われる。
今回の探索は、読者様から頂いたコメントを元に行なった。
だから私は探索前にネタバレしていたが、敢えて何があったかを書かずに進めたい。
場所は、和歌山県海草郡紀美野町(きみのちょう)の高畑という大字だ。
右図は現地の最新の地理院地図にみる高畑地区だ。
ここにある国道370号を出発して、高畑地区のかなり高いところに描かれている“建物の記号”を、自転車で目指す。
なぜ目指すかと言えば、この途中に、激レアの線形があるからだ。
ちなみにその激レア線形、地理院地図には描かれていない。グーグルマップにも描かれていない。マピオンにもだ。しかし、Yahoo!地図および航空写真を見ると簡単にネタバレするので、したくない人は見ない方が良いが、判断は任せる。
2020/3/5 14:41 《現在地》
ここは、高野西街道の愛称がある国道370号を、海南の市街地から貴志川に沿って20kmほど東へ進んだ、紀美野町高畑の路上だ。
道路トピック的には、世界初のメロディロード(走行時にメロディを奏でる特殊舗装、きみのメロディロード)として知られている道だが、まさにその奏での地点から東へ数百メートルで、この写真の交差点がある。
左折する道は、おそらく紀美野町の町道だと思うが、特に行き先や路線名などの標示物はなく、情報提供を受けなければ、一生立ち入らなかった道だと思う。
谷底近くを通る国道の標高は150mほどだが、これから目指す地点(そこまで行く途中に、見たいものがある)は320m前後なので、ここから上りとなる。
自転車にて、スタート。
左折して1車線の坂道を上り初めてすぐ、工場か倉庫のような建物があった。
何気なく通り過ぎようとすると、停まっている軽トラの荷台に、1匹のヌコが積載されていた。
そのヌコは億劫がりらしく、身体を動かすことなく、首だけを巡らせて、行き過ぎる私を見ていた。
このヌコの内心を想像して書くと、以下の通りである。
「 ヨッキのやつ、ついにこの場所を嗅ぎつけてきやがったニャ……。
実際に見たら、きっと仰天するはずだニャ…。覚悟するとイイニャ…。 」
一度切り返して、また上る。
入口から約300mで、この写真のように路傍から国道を見下ろすようになったが、上りは始まったばかりである。
そしてここで、分岐現わる。
14:47 《現在地》
変則的な十字路の交差点があり、地理院地図には書かれていない方向にも道が伸びている。
そして、その道こそが、目指す道だった。
私は、写真の右奥の道を上ってきたが、ここで狭い水平路を横断して、今度は左奥へ伸びる道に向かう。
周囲は柿の果樹畑になっていて、とても明るい。
上の写真の○で囲んだところに、私が進もうとしている道に向けて案内されたと思しき看板があった。
しかし酷く壊れており、かつては蛍光灯で内側から光る機能を持っていたと思うが、肝心の文字盤が脱落していた。
周囲を見回すと、割れてひっくり返ったアクリル製の文字盤を見つけたので、表側に向きを直し、位置を整え撮影したのが、右の写真だ。
文字盤からは、「しい365日」 「料理倶楽部」 の文字が読み取れた。
おそらく、「おいしい365日」 「○○料理倶楽部」 のように書かれていたのだろうが、欠落があって不明だ。
看板の状況からして閉業済みかと思うが、いわゆる農家レストラン的なものがあったのか。ネーミングから「美○しんぼ」を思い出したのは私だけではないだろう。
それでは、気を取り直して、地理院地図には描かれていない道へ入っていく。
柿畑を抜けると、道は急斜面をトラバースしながら、また上る。
景色も、路面の様子も、道の作りも、全くどこにでもありそうな里山の道路だが、
間もなく、激レアな道路風景が現われる ……はず。
私も、情報提供を受けた際に航空写真で所在は確認したが、実際に目にするのは初めてなので、とてもドキドキしている。
直前の分岐地点からおおよそ150m、
また切り返すらしく、前方の斜面上部にガードレールが現われた。
切り返した先の道が相当の急勾配であろうことは、ガードレールの傾斜から窺い知れた。
しかし、今いるこの坂も決して緩やかではない。両者の相対勾配は30%近くありそうだ。
それだけに、この上下の道がぶつかるのはすぐで、
ご覧の切り返しと相成った。
だが、実は……
ただの切り返しではない!
再びの分岐である。
特に察しがいい人は、今回の特殊な線形、激レア線形の正体が、ここで分かったかも知れない。
14:54
地図上で状況整理。
私は、地図にない道を上ってきた。
すると道が二手に分かれた。
一つは、切り返していく、もの凄い上り坂。
一つは、直進する、平坦路。
いずれも、行き先案内表示はないが……
まずは直進してみよう。
直進すると、さっきまで急速に上っていたのが嘘のように、平坦だ。
しかし、周囲の地形は急なので、道の左右にはコンクリート吹き付けの高い法面と、高い路肩擁壁が随伴する。
直前の分岐からおおよそ50m。
行く手に、何かまた見えてきた。
再度の分岐か?!
平面ループ!!!
強制的に、直前の分岐へ戻らされるッ!
ループ線の分類としては、いわゆるラケット型ループ線と呼ばれるもので、
勾配の緩和ではなく、車の進行方向の逆転に特化したタイプのループである。
伝統的には、鉄道のターミナルに設置されることが多いが、日本国内では数が少なく、道路用もまた大変に珍しい。
(山行がで過去に一度だけ紹介した平面ループカーブは、佐白山観光道路だった。)
(その他、道路用ラケット型ループの例をいくつか挙げる。
長野県松本市の国道158号前川渡交差点を高山方から右折する場合、一旦交差点を通り越し、先のラケット型ループ路で反転してから左折するよう規制されている。
また、新名神高速道路の亀山西JCTでも、一部のランプウェイが本線をUターンする形に設置されており、立体交差ではあるが、機能的にはラケット型ループである。)
要するに、この道路の正しい(設計者が想定した)通行方法は、
図に赤く示したラケット型ループ線を利用することで、
桃色で示した、先ほどの急な切り返しを、
無理のないハンドル操作で通過しろということなのだ。
一見、これは理になかった通行方法のように思えるが、
もし本当に有効であるならば、もっと採用されて良いはずで、
何か、“大きな問題点”がある気がしてならないが……、
そんな問題点の一つは、一目のうちに瞭然だった。
次の写真を、見て欲しい。
見よ! この分岐地点の無理やりな勾配変化!
車高の低い車は、バンパー大破を免れないような尋常外の勾配の急変がある。
これは、上り坂と下り坂の間に平坦路を挟まなければならないことによる、本来は不要な勾配の急変である。
また結局のところ、平面ループ線部分は高低差を分担することが出来ないので、上り下りの役に立たず、
そのために、平面ループ線の前後が非常な急勾配にならざるを得ないことにもなっている。
どのくらいいるのか分からないが、たぶん多くはないだろうこの道のユーザーの多くも、平面ループには冷ややかであるご様子…。
明らかに、想定された通行方法に拠らず、切り返しを無理矢理曲がっていることが分かる轍が多く、ちゃんと通ろうとすると、枯れ枝などの路上ゴミを大量に踏み越えねばならない状況だ(涙)。
だが、これが出来るのは小回りのきく車だけだろうし、段差からタイヤを落としてしまったような痕跡もあったので、もし真似しようとする人は要注意だ。
あと、何度も書くが、車高の低い車は通れないと思うぞ。
結局、同じくらいの工事量で右図の水色のような“平凡な切り返し”を作れる場合、平面ループカーブを選ぶ理由があるのかという問いになる。
そのうえ、平面ループカーブは、通行方法が分かりづらいので、事故や渋滞の原因になりかねず、交差点も増えるため多くの車が利用する道路では決定的に不利だ。
もしも、道路が公共性の高いものでなく、設計者の嗜好や遊び心が多分に反映される場であれば、こういう変わった線形は至る所に見られたであろうが、これを税金で作る以上、個性を出しにくいというのが現実だ。それだけに道路は画一化された平凡な世界で、愛好家以外には魅力に乏しいものとみられることも多いのだが、これについては私は逆の考えを持っている。つまり、道路は高度な画一化を求められた世界だからこそ、その中の奇妙な部分には真っ当な理由が潜む可能性が高く、知識で追求しがいがあると思うのだし、また、極めて変化に富んだ唯一無二の地形に画一的な道路を据え付けるための努力の賜物が、魅力ある道路構造物たちなのだと思う。
突然熱く語ったが、この平面ループがなぜここにあるのかは、不明です!(断言) (紀美野町の建設課に問い合わせてみる予定)
ループ部分をもう少し観察してみよう。
一応ここも本線であるはずだが、まるで行き止まりの支線かと思うくらい、轍が細い。
全く完全に無視されているわけではなく、轍があるのは救いか。
しかし、道幅などの道路の規格自体は、ちゃんと前後と同じものが確保されており、全利用者がここを通行することを想定していそう。
ループ部分のカーブは、決して不自然な円形ではなく、地形に即した感じに歪になっている。この点、公園的でない実用道路的で、佐白山のヤツよりも萌える。また、佐白山は一般車両通行止めだったが、ここには規制がないのもポイント高い。
なお、ループ部分に一方通行などの規制はないが、常識的には時計回り一方通行だろうし、入口の線形もそうなっている。
ループの後半部分もちゃんと道幅があるが、路肩のガードレールは誰にも触って貰えなくて寂しそう。
路肩擁壁に較べて路面全体が陥没しているように思えるが、おそらく実際そうなんだろう。
斜面に切り取りと盛り土をして、ループ線のアールを確保しているので、大規模な土工になっている。
ここは感動すべきところ。
平面ループカーブならではの道路余地である、四周を道路にとり囲まれた“島”部分が、全く放置されていたら寂しいが、なんとも手のかかった立派な藤棚(かな?)になっていた。
これは、愛がなければ維持し得ない景観で、その愛が植物に対するものなのか、道路に対するものなのかは分からないが、両者ともであって欲しいと願う。
Post from RICOH THETA. - Spherical Image - RICOH THETA
ちょっと失礼して“島”の中央、カーブの中心から撮影した、全天球画像をご覧下さい。
ロータリーっぽい風景だが、カーブは正円ではなく、ラケット型ループ線になっているのがポイント。
そして最後は、佐白山の時と同じように、
模範通行動画をご覧下さい。
(今回は全天球動画なので、グリングリンしてね)
以上、紀美野町より、激レアの平面ループカーブをお知らせしました!
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