神岡軌道 第二次探索 (杉山編 第2回)

公開日 2009.5. 6
探索日 2009.4.27

杉山、旧国道上の廃線跡


2009/4/27 13:20 《現在地》

なんか、凄いのが出てきた。

何なんだ。 このカタチ…。

いわゆる、特殊遺構といって良いだろう。

なぜにこんなカタチなのか。
まるで岩の重みに押し潰されたみたいだが、坑門にはひび割れ一つ無い。
最初からこのカタチだったに違いないのだが…。

ぶっちゃけ、鉄道用としては初めて見るカタチだ。

永冨さんが見たらどんな反応しただろうナァ。




神岡軌道上で見られる隧道の多くには、隧道を用いない並行する路盤跡が付随している。
その正体は九分九厘「旧線」の跡だと思われるが、果たしてこの杉山にある隧道にも、それは残っているだろうか。

どうも見たところ、ここにはそれが無さそうだ。
ということは自動的に、大正4年の馬車軌道(鉱石運搬専用)としての開業当初からあった隧道と言うことになる。



坑口前から路肩を見下ろすと、
亀裂のような谷の底に轍無き旧国道が見えた。


実は前回探索中、猪谷〜横山(レポ第1〜4回の区間)においては合計4本の隧道と遭遇しているのだが、その全てで「旧線」らしき「隧道を迂回する路盤跡」を見ている。

そう考えるとこの隧道は、大正4年開業当初における猪谷以南最初の隧道であったかもしれない。

それは、ここが隧道以外ではどうしても越えられない難地形だったことをも物語っている。

それでは早速、この「」へ入ってみよう。
ワクワク、ドキドキ。




中のカタチは普通だった!!

入って3mほどの地点で、なんと隧道の断面が変化。
その先は、神岡軌道上では普通に見られる「半円+平な側壁」というパターンだ。
なにゆえに、この坑口部のみ特殊な断面になっているのだろうか。

しかも、物理的にウィークポイントであるはずの坑口が、半円よりも遙かに脆弱な扁平断面というのは、同時に施行されたとしたら不自然きわまりない。

ここで考えられるのは、扁平な坑口部のみが古く、その先の「通常断面部」は新しいということだ。




今度は素堀かよ! 

なんと忙しい隧道だ。

扁平断面で始まった隧道は、20mほど通常の断面を経て、今度は素堀になってしまった。
しかも、その素堀部分は僅かに10mほど。
その先は出口まで残り30mほどが、全て通常断面である。

先ほどの話に戻るが、ここでの「新しい」というのは、地方鉄道の免許を得て旅客営業を行うようになる戦後のことだ。
昭和20年に地方鉄道免許を特別に公布された神岡軌道は、同24年に実際の営業を開始するのであるが、この際には十分に路盤の強化が行われているはずだ。
また少し遡って戦時中には、軍部から神岡鉱山の増産を指示されたこともあって、輸送強化のための路盤改良が行われた記録も残っている。



また常識的に考えれば、大正15年から昭和4年にかけてそれまでの馬力を廃止し、内燃機関車を導入した際にも、かなり路盤の強化が必要だったのではないかと思う。

今のところ具体的に、「いつどことどこをどのように改良したのか」という資料にはお目にかかれていないが、状況証拠的に考えても、神岡軌道には最低2世代の路盤が重なり合っている。
そして、主に隧道や大きな橋のある区間で両者は別々の経路を取っていたと考えられるのである。

話が長くなったが、ようはこの隧道。
迂回路が見えないことを考えても、大正4年から有るのだろう。
そして、そのウィークポイントである坑口部のみを、当時の小さな断面規格で覆工した結果が、先ほどの扁平断面だと思う。
隧道の内部に関しては、前述したような契機のいずれかで拡幅工事を行い、また部分的に覆工も施したのであろう。

…それにしても、あんな小さな坑口に吸い込まれていく旅客列車とか、ちょっと信じがたい光景である…。




全長60mほどの隧道を潜り抜ける。
出口付近には、多くの枕木が敷かれたままに残っていた。

猪谷側坑口は、いかにも鉄道らしい、そして神岡軌道らしい、ロックシェッドを兼ねた延伸形状である。
当然、あの可笑しげな扁平断面は存在しない。

外に出て振り返ってみても、やはり外を迂回する旧線は存在しなかったと断定できる。
これは、神岡軌道上では初めて遭遇する、“大正由来の隧道”である。




隧道を抜けると、そこには先ほどまでの杉林も、鬱蒼とした森も無かった。

路盤は、明るく日差しの照りつける、崖の先端に出てきたのだった。

当然のように高く迫り上がる法面。
ゴツゴツした素堀の岩面に、ポツリポツリと淡い彩りを添えるツツジや小さな野花が美しい。
春山ならではの開放感を満喫しながら、誰一人いない廃線路盤を歩くのは、とても充実した時間である。

ただし、その法面を丁寧に覆っているワイヤー網は、軌道時代のものではない。




すぐ足元。

直角に切れ落ちた20mほど下にある平らな部分は、もはや長閑な旧道ではなくなっていた。

あれは、現国道を覆う長い長いロックシェッドの屋根である。

頑丈なシェッドだけでは飽きたらず、その上にある自然の岩盤にも沢山のアンカーを打ち込んだり、ワイヤーでがんじがらめにしたり、路上からは見えないところで色々と手をかけているのである。
さすがは元一級国道なのだ。




爽やかな気持ちで歩いていくと、「少しは苦労しなさいよね」というお達しか、行く手を巨大な雪崩の通り道のような場所に遮られた。

写真で見るよりも実際には傾斜がきつい印象で、しかもカール状に周囲を浸食しているために、この凹んだ部分に入り込むだけでも結構手こずった。
だが、こんな中途半端なところで断念する選択肢はなく、私も矜恃を持って挑んだ結果、数分でこれを横断することが出来た。




まるで、軌道跡は「 空 気 」のような扱いだ…。

まあそれでも、このワイヤーを張る工事をした人々の記憶には、昼飯を食べたり休憩を取る場所としてくらいは印象に残っているだろうか。


何度も何度もお辞儀をしながら進んでいく。





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13:37 《現在地》

正確な現在地を推し量る術はないが、かかった時間から考えて、おそらく700mほどは来たのではないかと思う。
この未踏破区間の延長は約1kmと計っていたので、残りは3割。
既に隧道1本という大きな大きな収穫を得ているせいもあって、気持ちはあくまで大らかだった。

しかも春先の路盤は、萌える緑の美しさと路盤自体の存在感とが絶妙にマッチしていて、とにかく気持ちがよい。




下流方向に進んでいるにもかかわらず、谷底との高低差は縮まるところか、むしろ広がっている感じがする。
実際には僅かながら下っているのだが、それ以上のペースで高原川の河床が低下しているのである。

この大きな高低差は、神岡軌道が最後に神通川対岸の段丘上高所にある終点猪谷駅へ無事たどり着くため、遙かに10km以上も手前から少しずつ貯め、そして温存し続けたものである。
それだけに、この軌道跡から里を見下ろす景色は大変に素晴らしい。

前方、高原川右岸に広がる緩斜面に、見覚えのある横山の集落が見えてきた。
前回探索で、荒田沢に遮られて引き返して下り着いたところだ。
その裏山には、前回探索した軌道跡が隠れているはずだが、杉林が深くて見通せない。




うおっ!
 橋だ!

唐突!

まさに青天の霹靂… というのは大袈裟かも知れないが、いはやは、全く予期せぬ光景。

こんなところに、橋が出てきた!





たかいなんてもんじゃねーぞッ!


何なんだこの橋は…。

渡れるか渡れないかと問われれば、当然 「る!」訳だが、微妙に橋全体が山側に傾いているし、踏み板が有ったり無かったり適当だし、しかも風がビュービュー吹いているしで、 正直怖いである。


実際の橋自体の高さは3mくらいなのだが、見えるというか、見たくなくても見えてしまう景色は、ひたすら高い。

俯いて渡ることにする。




すりすり。 すりすり。

橋の強度が分からないので、最初の数歩は重心を後ろにしながら、すり足前進だ。

そのうち、流石に鉄の橋だけあって頑丈そうだと分かったので、普通に立って渡った。

ただし、踏み板は信用がならない感じがしたので、あくまで剥き出しの桁の上を歩く。



渡り終えて振り返る。

なぜこんなところに橋が架かっているのかと問われれば、それは路盤が崩れて無くなってしまったからではないかと読む。

そして、この橋は軌道時代のものなのかと言われれば、おそらく違うだろうと答えたい。

確証はないが、桁が余りに脆弱だし、幅も610mmあるかどうか…。

だから、廃線後にも暫くここが通路として使われていて、そのうちに路盤が崩れたか何かで橋を架けたのではないかと思う。
でも、それにしては鉄橋というのはオーバースペックな感じもする…。
ぶっちゃけ、この橋については謎が残る。




再び歩き始めると、裸の岩場を巻くような狭い路盤が続いていた。
上には灌木が茂っていて、夏場はワケが分からなくなりそう。

「隧道」も「橋」もやった!

あとは、荒田沢の失われた橋の橋台に行き着いて「終点」だろうと読んでいた私だったが、そんなに甘くはないのだった。

常に期待の上を行くのが、神岡軌道クオリティだった。






スガーン!


あの暗がり… やっぱり、
アレだよな…。


ま、まさか、素堀が出ちゃうの??!






 あ れれ?

路盤は暗がりの方には向かってないぞ?!


で、 でも、

 その方向に行くって事は、どっちみち…。




再び隧道出ました!

それも、2本!


たぶん、 新  だな。


ゴージャス & エキサイティング…。








ゴメン。


幸せすぎる。