道路レポート 愛知県道368号豊川蒲郡線 灰野坂 前編

所在地 愛知県豊川市
探索日 2014.4.08
公開日 2017.9.02


ドナドナ… ドナドナー…… (涙)
当サイト初となる愛知県道のレポートは、レッカー移動される先代愛車“ワルクード”の姿という、衝撃的なシーンから始まる。(この年の秋に本当にお別れしたわけだが…)

平成26(2014)年4月に自身初となる三河地方の探索へ出かけた私は、そこで当初の計画を大幅に上回る時間を過ごした。
原因は、ワルクードの突然の故障である。
初日の探索が終わり、新城市内の夜道を移動している最中、突然クラッチペダルが作動しなくなったのである。

自走不能に陥った私は、JAFに救援を要請したが、その場では原因が不明で、応急修理も不可能だったため、豊川市内へのレッカー移動となった。
この夜の私は、急遽豊川IC近くのビジネスホテルに宿泊し、翌朝一番で修理工場へ車を運んだ。それが写真の場面だ。

この段階では、故障の原因も、無事に治るのかも、それに何日を要するのかも全く分からず、非常に不安な気持ちのまま、全く土地鑑のない所に放り出された形であった。私にとって、初の三河がこうも厳しい探索地になろうとは。
旅先に車を残したまま一度帰宅することも考えたが、せっかくならば、この時間もオブローダーとして有効に活用したいと思った。
とりあえず2〜3日で修理が終わることを願いつつ、またそれを前提として、前夜に泊ったホテルを根城に(普段は車中泊である)、豊川周辺で探索をしながら過ごすことに決した。
幸い、探索のための道具は全て揃っている。

しかし、計画にない探索を急遽行うにも、用意したネタがない。
そこで地図と睨めっこして、地図上に見えている分かりやすい地雷…じゃなくてネタである、いくつかの不通県道に注目した。
困ったときは不通県道に行くのが、私の探索処世術(笑)。
今回紹介する愛知県道368号豊川蒲郡線は、そのような事情から臨時に探索を行った不通県道のひとつである。
ドナドナを見送った4月8日に、いつになく心の中に不安をたくさん抱えた状況で行った探索だ。

なお、この故障は結局、クラッチペダルに繋がっているケーブルが断裂していたという単純な原因であった。
そして部品の入手には2日を要したため、私は計画よりも2日長く豊川に滞在して探索を行った。
秋田から東京へと転居した私が、たった2日間だが、根城をもって道路探索へ出撃した“第3の地”豊川の道を、ご覧いただこう。




根城となったビジネスホテルがある愛知県豊川市の豊川ICから、西へ約8km離れた同市内に、東海道五十三次の宿場として名の知れた御油(ごゆ)町がある。
東海道を受け継いだ国道1号上の追分交差点を起点に、西へ向かって国坂峠の山を越え、三河湾(渥美湾)の湾奥に位置する蒲郡(がまごおり)市の中心部にある、国道473号上の終点へ至るのが、全長約17kmの一般県道、愛知県道368号豊川蒲郡線である。
その名の通り、豊川と蒲郡の両市役所間を最短距離で結ぶ経路にあたる。

全線の最高所である市境の国坂峠(海抜200m)は、数年前まで有料の観光道路だった三河湾スカイライン(県道525号)の南口にあたる土地で、交通量もそれなりにある。ゆえにこの道は路線名に恥じない越境の機能をちゃんと果たしているのだが、その本題から少し外れた豊川市内に、短距離ながら未整備の区間が残っている。
それは、豊川市御油町と同市御津(みと)町金野(かねの)の間にある、灰野坂という、海抜たった140m弱のささやかな峠越えだ。


私が探索時に持ち歩いているメインの地図は二つあり、スマホにインストールした「スーパーマップルデジタル」と、同じくスマホのアプリで閲覧できる「地理院地図」だ。
右図は、前者の地図で見た県道368号の灰野坂付近である。(「灰野坂」という名前は、現地探索中に初めて知ったが、レポート中でも先取りして使う)

元の地図だと、灰野坂の前後約2.1kmの区間について、県道を示す色塗りが途切れており、俗に言う“不通県道”らしい表現になっている。
だが、その区間内にも細い峠越えの道自体は描かれており(私が赤く着色したルート)、概ねその道に沿って「道路の予定線」を示すグレーのラインも敷かれている。将来的に新道が計画されているのは間違いない。
私は、この赤く着色したルートを自転車で探索した。

なお、「地理院地図」は峠西側の一部について、“赤線”とは違うルートを県道として塗り分けている。だが、豊川市がインターネット上に公開している都市計画図外部リンク)では、私が探索した“赤線”のルートを県道としている。このことも探索の前夜に確認していた。


それでは、県道の起点である御油町から探索をスタートしよう!



オシャレな都市公園の裏に、怪しい県道が…


2014/4/8 14:18 《現在地》

問題の県道368号が、接続する他の道路からどのように案内されているかのチェックから、“不通県道”の探索は既に始まっている。
ここは同県道の起点である追分交差点に接続する道に一つである、愛知県道5号国府馬場線上にある青看だ。
この先あと400mで県道5号は起点の追分交差点に到達するのであるが、それを予告する写真の青看に、直進方向として県道368号が案内されている。

さっそくだが、県道368号に関する表記内容には、後年の修正痕という、隠しがたい違和感がある。
明らかに県道の“ヘキサ”は後から重ねて貼られたように見えるし、掲げられている二つの行き先も同様だ。
修正前の内容が分からないのは残念だが、とりあえず「蒲郡」と書かれていない時点で、路線名を全うするような自動車の通行は困難だということが予感された。



青看の直後に名鉄名古屋本線を越す跨線橋があるが、自転車が通行禁止だったので、歩道橋を迂回する最中に撮影したのが、この左右の写真だ。

これから超えると峠(灰野坂)の鞍部が、市街地の向こうに横たわる穏やかな稜線上にひときわ存在感を示しており、パスハンターとしての私の気分をさっそく盛り上げてくれた。
稜線に連なる宮路山の富士を思わせる三角錐の頂部や、さらに遠くにある五井山(国坂峠の近くだ)に霞む姿が、この県道の山がちな道行きを暗示するように重畳していた。



これが、天下の国道1号上にある、県道368号の起点、追分交差点だ。
片側2車線の国道1号の東西に、それぞれ県道5号と368号が十字に分岐するありきたりな交差点で、特に県道368号が「怪しい」というようなこともない。
地図上で不通区間と疑われる区間が始まるまでは、この交差点からわずか1.5kmしかないが、普通に多くの信号待ちの車列があり、青になる度に吐き出されていた。もちろん、入っていく車もたくさんいた。

(国道1号と直に接続する“不通県道”は、いったいどれくらいあるのだろう?)


現代の東海道こと国道1号を横断して県道368号に入るが、そこからわずか150mほどで、今度は旧国道である県道374号長沢国府線を、行力という交差点で横断する。
この県道は大部分が近世までの東海道に重なっており、十字路を右折すると間もなく、かつて御油宿が置かれていた御油の中心街である。
(ただし、この交差点部分の県道は微妙に付け替えられており、東海道と重なっていない)

冒頭で紹介した青看には、県道368号の行き先として「御油市街」の表示があったが、それはこの辺りを示している。
そのため早くも、県道368号の行き先として当初案内されていた目的地は、「東三河ふるさと公園」だけになった。行力交差点にある青看でも、そのようになっている。
峠の先の地名は、やはり出てこない。



旧国道を横断してさらに100mほどで目立たない路地と交差するが、それが近世の東海道だ。
そしてさらに100mばかり進んだ所の左側の沿道に、よく目立つ石碑が2本並んで立っていた。

白い大きな石碑に大きな文字で深々と「豊川社道」と刻まれており、他の面には嘉永6(1853)年の記年もあった。
探索中の県道と関係する道標石ではないかと色めきだったが、帰宅後の調べにより、どちらの碑も無関係らしいことが分かった。

「豊川社道」とは、豊川市の中心部にある豊川稲荷への道である。御油宿から豊川稲荷を経て、浜名湖の北岸を回って再び東海道の見附宿へ出る一連の街道は、“姫街道”(県道5号の前身)と呼ばれる、東海道の有力な脇道だった。
これは東海道と姫街道の追分に立っていた道標石が移設されたものであるらしい。



ちょうど川沿いに植えられた桜並木が盛りを迎えていた音羽川を御油大橋という新しげな橋で渡ると、少しずつ峠への上り坂が始まり、背後の山も高く大きく感じられるようになった。
同時に交通量も減ってきたが、道は相変わらず立派で、両側にも新興住宅地が続いている。ニュータウンとして近年再開発された地区のように思う。

途中、「東三河ふるさと公園」までの距離を表示した案内標識が、執拗に繰り返し現れた。
まるでその先に道はないような振る舞いが徹底している。
これには沿道のぬっこ氏も苦笑いであった。




公園までのラスト300mほどはそれなりに急勾配となり、沿道の家並みも途切れたが、相変わらず道は立派である。一点の曇りもみられない。
そして道の真っ正面には、スタート直後に遠望した鞍部が、相当近くに迫って見えた。
このまま峠の直下にトンネルの1本でも貫通させれば済んでしまいそうであり、実際に豊川市の都市計画図を見ても、峠の下に長さ3〜400mのトンネルが計画されている。

ここまで一切の“不通感”を漏らさず、あくまで「東三河ふるさと公園」への道という体で進んできた県道だが、その公園に達したときに何が現れるのか……。
イタズラな予感に、思わずワルい笑顔が浮かんだ。



う〜ん! 素敵な公園じゃないのさ!

地の利を存分に活かした、素晴らしい景色だ。これを駐車場から簡単に見ることができるのは、オイシーイ!


市街地方面の眺めも素晴らしいが、反対側の眺め――灰野坂の鞍部とその両翼をなす濃い緑の稜線――も、絵になっている。

これらの美景に豊川市民も思わずニッコリといったところか、平日(火曜日)日中にもかかわらず、多くの車が広い駐車場に収まっていた。

(そしてその元気な車たちの姿を見て、我が“相棒”の不幸にちょっとだけ陰った……)


だけど、“真の県道”は、公園の駐車場には入らない。

この直前に、県道の分岐地点があった。

↓↓↓



14:37 《現在地》

起点から1.5km、海抜おおよそ60m(起点から+40mほど)の高台にある、信号のないこの無名の交差点が、県道368号の不通区間の御油側入口(確認が取れていないが、おそらく道路管理者が【自動車交通不能区間】未改良道路(供用を開始している)のうち幅員、曲線半径、勾配その他道路状況により、最大積載量4トンの貨物自動車が通行できない区間をいう。に指定している区間)である。

「スーパーマップルデジタル」の地図では、さっそく県道の進路上に「車止め」が描かれているのだが、実際はどうなっているかというと――



確かに車止めはあるのだが、道を塞ぎ切れていない。

なにこの微妙な扱いは……。

入っていいのか? 駄目なのか?

しかも、不通県道には大抵付き物である、「この先通り抜けられません」みたいなことを告知する、道路管理者が設置した看板も見当たらない。
ここだけでなく、起点からここまでの区間にも一切、そういう不通県道の存在を直接に伝えるようなものはなかった。(ちなみに青看以外のヘキサもなかったと思う)

道幅の半分だけを塞ぐ車止めがあるものの、その先の道は1車線ながら綺麗に舗装がされ、菱形の道路標示(横断歩道の予告)まである。
あまりにも、不通県道の入口っぽくない。なんかオシャレだ。




そして、不通区間側から交差点を振り返った景色にも、不審な点がある。

なぜ、「通行止め」の標識が、こちらを向き?

単純に標識の向きが間違っている可能性が高いが、設置時点で間違っていたとは考えにくいいし、自然にこのように変化するとも思えない。
悪戯?

まあ、裏返っていて見えない標識に法的拘束力はないらしいので、車止めの意を介さず入り込むドライバーは、それなりにいるかも知れない。(いや、いないか?)
当然、私は入る。




入ってみた。

道幅は一気に狭くなったが、道自体は真新しい。
そして、道の左側に大きな拡幅の余地があるが、将来の道路予定地であろう。

路面が舗装されているおかげで、本来の交通量が測りづらい。
とりあえず、私は誰とも出会わなかったが。
まるで隣にある公園の中を通っているのかと錯覚するくらいに綺麗な道だ。

この先がどうなっているのか、とても気になる。
ガシガシとペダルを回して、なかなかきつい急坂を上り進んだ。




隣にある公園の駐車場と背比べをするように、急速に高度を上げると、

振り返り見る豊川の眺めはさらに素晴らいものとなり、この県道にも、さらに明るい印象を与えつつあったのだが……



あ、きた。

車止めの交差点から、約150m。

脇にある公園の終わりとともに、道の見栄えを繕うものが、一気に、

全 部 落 ち た 。

(道幅が、いきなりやばそうだ…笑)