道路レポート 北海道道987号豊似広尾線 カシュウンナイ〜ラッコベツ 第2回

所在地 北海道広尾町
探索日 2022.10.09
公開日 2024.05.09

 花春2ゲート〜花春3ゲート 放棄道道


2022/10/09 13:23 《現在地》

いやはや、なんとも、向きが変な案内標識ぐらいで驚いている場合ではなかった。
予想に反して、私が通ろうと思っていた道道は、見事に廃道化している模様だ。

現在地は、起点から約4.6km地点の分岐である。
道道はこの分岐を左折するのだが、入口にある大きな両開きゲートが閉鎖のうえ施錠されていた。
しかも、道路管理者ですら扉を開けて通行することが滅多にないようで、向こう側の路面がすっかり緑に覆われていた。
案内標識があるくらいだから、以前は通行できた時期もあったのだろうが、現状なぜ封鎖しているのか、現地には特に説明もみられなかった。



するーっと下を潜って、自転車ごと進入。

しかしほんとなんで入口の電光掲示板はこの事態をスルーしていたんだ……。
道路地図などでは車道が繋がっているように描かれているので、実際ここまで来て初めて通れないことに驚いた無垢な被害者が、実際いたと思うぞ。
私はこれを被害とは感じていないから良いけど……。



なお、道道冬期通行止区間一覧表によると、これは広尾町字カシュウンナイ38番2に所在する春花2ゲートというらしい。
同資料に拠れば、このゲートから、2.4km先にある春花3ゲートまでの区間は(春花1ゲートからここまでの区間に引き続いて)、11月17日から5月17日まで冬季閉鎖されるとのことだが、冬季閉鎖以前に何年もずっと閉鎖されたままなんだろって言いたいよ!



13:24

ふぁーーー、入っちゃった〜。めっちゃ草生している〜〜。

でも、森の木々の間にヘキサが立っているのがエモい。とっても大好物だ。

しかし、私の豊富な経験上、都道府県道レベルの道の封鎖ゲートっていうのはやっぱりそれなりに注目度が高いのか、ゲートのすぐ先とかは結構踏み跡が濃くあったり、刈払いがあったりするのが普通だと思うんだけど、北海道の人口密度が少ないせいなのか単にこの道道がマイナーすぎるのか知らないが、ゲートを入ってすぐにこの草むらというのは軽く衝撃だ……。

この先の展開だが、比高おおよそ100mの小さな峠越え区間となる。現在地の標高は130mで、峠の頂上が約230mの高さだ。
地図読みで、峠までの距離は約1.2km。また越えた先の下りも約1.2kmで、合わせて2.4km進んだ先が上野塚地区の入口である。
で、その辺りから道道が途切れる未供用区間となっているようだ。

繰り返しになるが、目の前の廃道っぽい区間が未供用区間ではないはずなのだ。ここは供用中なのになぜか封鎖されている区間である。
決して、草生したから封鎖したわけではないだろう。封鎖したから草生したはず。
何があったのか、進んで確かめるとしよう。



ヒグマ対策の自動ブザー吹鳴装置(仲間のHAMAMI氏が設計作成した自作アイテムで、設定した一定タイミングおよび任意のタイミングで原付バイク同等のクラクションを吹鳴する)をオンにして、ゲート内を走行開始。動画の冒頭で聞こえる音がそれだ。道内での探索時は、普段使っているクマ鈴に加え、このブザー装置を使用することで、特に危険とされる出会い頭の近接遭遇を避けるように注意している。また、万が一緊急事態となった時のために、腰のホルスターにヒグマ用のベアスプレーも装備している。

もう何年も車は通っていなさそうなゲート内だったが、獣道なのか、あるいは稀には通行人がいるのか、道路中央に草の薄い部分があって、自転車での走行には意外と難がなかった。とはいえ、非日常空間に侵入したという緊張感はヒシヒシと感じる。コメントでヒグマが恐いと書かれることが多いが、当事者である私もそれを常に恐れている。道内の山での途切れぬ緊張感は、内地の山とは別種のものがある。(そして実際、結構な頻度で探索中にヒグマを目撃しているので、今後もこの緊張感が薄れることはないだろう)



13:27

ゲートから100mほど進んだ地点。
道は無名の小さな沢に沿って、これまでよりも強い勾配で登っている。
路面は草生しているが、しっかりとした硬さを感じる。そのお陰で、周りに密生している笹もまだ路上には入り込んでいない。
道幅も案外広く取られていて、見通しは悪くない。ヒグマの恐怖さえなければ、くつろげそうな長閑な森である。



13:29

ゲートから200mほど進むと、道の状況は意外にも好転した。
路上の草生し方が更に軽減し、薄らとではあるが、草のうえに四輪の新しい轍がある気がする。
これは、反対側のゲートが開いているか、強引に突破したとかで、ここまで進入してきた車がいる気配だ(で、引き返した)。もしそうであれば、この先の道路状況には期待が持てそうである。

二つの未供用区間という“本題”に取り組む前に、想定していなかったこの山越え区間の荒廃に、あまり時間を使いたくない気持ちがあった。
まあ、予想外の展開があるというのも探索の醍醐味であるし、先ほどのゲート周りの香ばしい景色を見れただけで、もう既にこの探索は「おいしい」と思っているが。



13:38 《現在地》

ゲートから600mくらい進んで来たところで、道路標識発見!
そしてその奥には、ちょっとワイルドすぎるんじゃないって感じなアップダウンが!!
これ、もともとこんなアップダウンだったのか、それとも地すべり跡だったりするのか。
後者であれば、これが原因で道が長期封鎖されていることも想像できる規模だが、道自体は杜絶せずに繋がっているようだ。

それにしても、なんか道全体が芝生でも敷いたみたいな綺麗な緑加減になっていて、藪や倒木に苦しめられることが多い廃道探索の中で、これは一服の癒しだ。登り方はより厳しくなってきて、足は結構重労働をしているのだが、自転車から降りずに力漕していけるので楽しいし爽快だぞ。



やっぱりこれは正常な路面ではないな。
道幅の路肩側半分くらいが、数十センチ陥没している。
亀裂自体は既に埋まっていて路面は繋がっているが、道路管理者はさすがにこのまま解放するわけにはいかないと判断したんじゃないだろうか。

ただ、そのまま何年も復旧がされていないのは、もともとこの道の需要がとても少なかったのか、他にも原因があるのか…。
現地の告知物に情報がなさ過ぎて、判断できないよ……(苦笑)。

なお、この陥没地点のすぐ先に反対向きの道路標識が立っているのが見えるが、その内容は……(↓)。



「路肩弱し」と、ビックリマーク(「その他の危険」)。

レアな警戒標識である「その他の危険」をわざわざ設置してまでアピールしていた「路肩弱し」が、現実になってしまっていた。
標識を設置するほど予期できたのなら、路肩を頑丈に作っておけば良さそうなものだが、予算とかいろいろ制約があったんだろうなぁ……。
で、結局、こうなってしまうというね。まるで人生訓だ。



13:39

で、峠の登りの終盤に差し掛かると、登り方が強烈なものになった。
写真は入口から900m地点にあるヘアピンカーブだが、積雪地の道路としては反則級な急坂であった。
この峠道の急坂ぶりは、地図からも読み取れる。ゲートから峠まで1.2kmで100m登るから、平均勾配は8.3%。しかも前半では大して登らないので、後半が10%を超える平均勾配になっている。

この辺りは既に遠征4日目の疲れた足にはキツく、休み休み、登った。



13:42

急坂のお陰で、一気に沢の樹陰から逃れ、目指す峠の稜線を正面に見据えた高い景色に変化した。
峠に迫って、勾配の厳しさも最高潮である。感覚的な話だが、地形の機嫌を伺いながらゆるゆる行く感じではなく、ブルドーザーで豪快に野山を切り開いたかのような積極的な登り方をしている。
道の状況は相変わらず緑だが、先ほどの陥没地以外に封鎖の原因になりそうなものは見当らない。



13:47 《現在地》

ゲートから1.2km、海抜230mにあるおそらく無名である峠に到達した。
この間の自転車での所要時間は20分少々。ほぼ全線で乗車ができたが、後半は勾配がキツくて休憩を多く挟んだ。

峠は小さな広場になっていたが、標識や看板などはなく地味だ。
広尾町の字カシュウンナイと字上野塚の境界となる峠である。
眺望も、南北とも木立が邪魔をしていて、そもそも周囲の山より抜きん出て高い場所でもないから、あまりなかった。



13:52

5分間の小休止を挟んでから、上野塚への下りへ入る。
おそらく植林であると思うが、上野塚側はカラマツが多く生えており、より北国の峠っぽい雰囲気だ。
路面が浅く草生していることも、勾配の厳しさも、相変わらずの様子。

チェンジ後の画像は、進行方向を望遠で写した。
森を透かして上野塚にある牧場が見えている。
この先に待ち受けている一つめの未供用区間は、いかにも難所らしい山越えの途中ではなく、上野塚の平地に降りた牧草地帯に存在するようだ。どんな状況なのか、とても気になる。

さあ、まずは下りだ! ブレーキチェック・オールイエロー!!



13:55

おおお〜〜。
こちら側は、カシュウンナイ側に輪をかけてすげー急坂だ!
大型車の通行も想定していたのか、ヘアピンカーブの幅はだいぶ広く作られているが、勾配がもの凄く、抉り込むようなコーナーはジェットコースターを連想させた。
また、2車線分以上の広い道幅がほぼ均一に草生している姿は、未成道のような異様さがあった。

この勾配、私の自転車のいまいち効きが弱ったブレーキだと、なかなか止まることが出来ず、撮影の機会をあまりとれなかった。
急なのに未舗装だし、そのうえ草が生えていて滑りやすいので、仮に車輪はしっかり制動できたとしても、そのまま車輪ごと空走し簡単には止まれないと思う。それほどの急坂である。



14:01

そんなわけで、勾配が凄まじかった下り坂の前半をほぼスルーして、小さな沢底に入ってやっと勾配が緩くなる後半へ。
この峠越え区間の全体が、地理院地図だと軽車道の示す細い実線で描かれているが、実際の道幅は大部分が1.5車線以上あり、狭い印象はない。むしろ通行量に対して無駄に広いという印象を持った。急坂ではあるが、ちゃんと舗装さえすれば、普通の道道になるだろう。



14:04 

頂上から約1.1km進んだところで、沢の出口に達した。
もうこの先は上野塚の広大な牧草地帯である。
沢の出口は湿地林になっていて、道はそこを左折して迂回しつつ、少し登り返しながら山裾を東へ向かう。
この先の最終的な道道の進路は西にあるのだが、道道がここで一度東へ回り込むような線形を見せたところで……

地図をチェックせよ! ↓



SMD24の地図は、このすぐ先の地点までを道道として表現し、そこから直線で約1km西に離れた地点から再び道道を描いている。
すなわち、この間が未供用区間という表現だ。
一方、地理院地図では、もう少し先まで道道として表現しており、そこからごくごく短い断絶を経て南側に道道が再開している。
どちらが実態に近いのかを、現地の道路状況から確かめたい。
この先の展開に注目だ。

で、すぐに訪れたSMD24上での道道末端附近には、道幅など道路規格や標識などの表示物、いずれにも変化は見られず、そのまま1本道が続いているだけ。

ただ、その場所で前方カーブの辺りから、ガサゴソする野生動物の気配を感!



シ シカだった!

でっぷりした丸尻のエゾシカが、私に気付いて道の上を逃げていった。

びっくりさせないでぇ。



14:07

さらに200mほど一本道を進むと、反対方向に設置された「その他の危険」の警戒標識があった。
補助標識がないために、いったい何に警戒して良いのか分からない困りもの。
(昔都市伝説で、補助標識がない「その他の危険」は幽霊が出る場所を示しているっていうのがあったな)
まあ、こんな下半身をまるまる笹に溺れさせた警戒標識を見たら、警戒する以前に退散するのが普通の反応だと思う…。
寧ろそれが狙いか?


で、この標識の直後だった。

前回の【花春2ゲート】から、約2.7km進んだ地点にて……



14:08 《現在地》

花春3ゲート、到達!

このゲートも完全に閉まっていて、しかも長年開かれていないらしく、ゲート全体が笹原に埋れている。
が、ゲートの脇の空地に薄ら轍があって、ここまで目にした轍の主も、そこから出入りしていたようである。
しかし、法的には現役であるはずの道道に、こんな草に埋れたままのゲートがあるというのは、ちょっと衝撃的。
この一連の峠越え区間は、もう道路管理者にすら見放されている感がすごい。


次回は、一旦ヒグマの恐怖から解放されて、上野塚の未供用区間の実態を探る。





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