2010/2/4 8:00 《現在地》
復活した車道を歩き始めて5分。
この間は緩やかな左カーブがあっただけで、特に道路構造物といえるようなものもなく、ただ幅の広い平場の中央にシングルトラックが付いている状態だった。
しかし、ここで予想外の変化が現れた。
地形図だと破線の道はこのまま直進しているのだが、明確な踏み跡は、ここで進行方向左後方に折れて、車道跡から離れていたのだ。
ちょうど左の山の上には「東京湾観音」があるので、踏み跡の行き先は予想が付いた(未確認だが)。
この予想外の“マジ廃道”出現は、ネタ的には“オイシイ”と思ったが、それよりも不安な気持ちが先に立った。
道の周りは、いかにも房総の海岸沿いらしい照葉樹の重厚感のある森で、その林床は背丈が低く非常に密な笹の原に覆われていた。
この笹原が路上を完全に占拠することが起きれば、今のように自転車で進むことはほとんど無理になるだろう。
その場合、かなりのタイムロスが予想される。
今回の計画では、このまま終点まで自転車同伴で進む予定だった。
分岐から150mほど沢の中を道が占拠する感じで上り詰めていくと、幻日のような朝日を背景にすえた、深い堀割が現れた。
シルエットが強調された照葉樹林は、いかにも怪しげだ。
だが、堀割はいつだって場面転換の重要なキャラクターである。
今回も例外ではなく、右に45度折れた先には、予想外の明るさに満ちていた。
そこには道とは明らかに異質な、極めて広い空間が感じられた。
この不安な廃道からのいち早い脱出を、私は願っていた。
8:06 《現在地》
やられたッ!
…そう思った。
だって、これはちょっと酷い…。
道だけが尋常じゃない藪で、そこから左に一歩外れれば、広大な空き地だった。
8:07
ここから私の失策が始まる。
正直、藪の状況的に、この脱出まではやむを得なかったと思う。
だが、脱出した後が拙かった。
こうやって地図の上に示せば「なんでこんなミスを!」と訝しく思うかもしれないが、「地形」に頼って道を探すことを普段としている私は、GPSや方位磁石を確認する事を習慣にしておらず、この(背後の像の他は)目標物のない広大な空き地では、正しい進行方向を盲目的に「広場を突き抜けた対角方向」と盲信してしまったのだった。
「赤い矢印」のように廃道敷きから広場へと脱出した私が次に取るべき行動は、そのまま広場の縁を、南東方向へ進む事だった。
しかし私は「ピンクの線」が示すような動線(途中で何度も進路を変えているが、その理由は後述)で、地形図には存在している「もう一本の道」へと接近していった。
もっとも、少し自己弁護をさせてもらえば、ほとんど四方全てを何らかの道に囲まれている(ように描かれている)この空き地ゆえに、経路はどうあれ南の隅に辿り着ければOKだろうと簡単に考えていた。
そのため、広場の中でも藪が浅い北側をメインに移動したのだ。
最終的に、何が誤算であったかといえば、
2本の破線の道がどちらも発見できなかったことと、
洒落にならない藪の深さだった。
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先に「当面の探索結果」を述べてしまったので、この間のレポートは簡潔にしたいと思う。
「激藪」の廃道敷きから脱出した私は、200m四方もある広大な原野へ入り込んだ。
写真はその場面を振り返ったもので、奥の帯状の笹藪が、本来通りたかった廃道敷きである。
黙ってその傍を行けば良かったのに、明らかに別方向へ進路を向けている。
なお、この原野内には幅2mほどの、最近刈払われたらしき帯状の部分があった。
それは通路というわけではなく、東京湾大観音の胎内の展望台から見下ろすと、ミステリーサークルよろしく何らかの図案が浮かび上がるものと推測された(真偽は不明)。
初めはこんな感じで、自転車に跨って進めたんだが
空き地の中ほどからは藪が深くなって
うぎゃー!
8:19
結局、広場を西から東に横断する作業に8分くらいもかかって、
なんとか “それらしい側溝のある場所” に辿り着いた。
「もう一本の破線道」であろう。
冬だというのに、広場の東半分は藪が深く、横断はかなりの重労働だった。
おそらく夏場は「不可能」だろう。
あぎゃー!
もう無理です!
思うように進めないイライラが爆発し、自転車を目前の藪に放り投げて座り込んだ!!
広場の東の端に辿り着いてから、今度は側溝伝いに南西へ進み始めたのだが、
これがもう写真のような尋常ではない激藪のため、まったく不可能に近かった。
少なくとも、自転車同伴はこれ以上考えられない状況。
この藪の深さは、完全に想定の範囲外だった。
一応ここも当初は空き地内だったはずなんだが…。
房総の藪の恐ろしさに、もろ 直撃 した。
自転車放棄。
ようやく広場を横断して東側の道に辿り着いたと思ったら、それ以上南に向かうことが出来ず、自転車を放棄する羽目になった。
私は悩んだ。
自転車をこれ以上先へ進められないと言うことは、このまま目的地まで無理矢理進んでも、また戻ってこなければならないと言うことである。
それならばいっそのこと、ここは撤退して、改めて「目的地」側から「現在地」を目指すのが正手なのではないかと。
だが、安易にそれを実行するのもまた考え物だった。
周囲の藪が深く、現在地の把握が十分ではないかも知れない。
その場合、実は近くにちゃんとした道が存在しているのに、それを見落としている可能性が棄てきれない。
やはり、周囲をもっと観察して見る必要がありそうだ。
――決断。
自転車はここに残し、図中の「小目的地」を身軽な状態で目指してみる事にした。
経路は道に拘らず、最短で向かう。
どうせ往復しなければならないので、行きは最短突破で行こう。
8:19〜8:52
おおよそ30分間、「小目的地」を目指しての山林跋渉を試みた。
結果は惨敗。
廃道を歩くという目的にてらせば、収穫は限りなくゼロ。
私が彷徨った範囲内に道は見つけられずに終わった。
敗因は、地形図では単なる窪みの連続となっている小さな沢筋(右図では水線を追記)が間に存在しており、ここが猛烈な葦原になっていて横断不可能だったこと。
全体的に藪が深く、右図では一筋しか私の動線を描かなかったが、実際には相当に彷徨い右往左往している。
これに相当の高低差が加わっているから、いくら寒い時期とはいえ私は猛烈に発汗した。
冷気を求め喘ぐように開いた口へ、砕けて粉のようになった枯れ笹が、絶え間なく舞い込んで来た。
ぺっぺっぺっ!
廃道を明確に辿っている時の藪ならばまだしも、今は完全に道をロストしているのだから、張り合いなんてものはゼロ。
結局、強引に突破するでもなく、麓の集落へ下山するでもなく、元の自転車を棄てた場所に戻ったのが、8:52である。
(なお、図中に黄色で示した道は、地形図には描かれているが、まったく痕跡なし)
房総の鉄檻の如き激藪により、八方塞がりとなった。
恨めしきは、唐突に現れた広場である。
これがなければ、ここまで酷い藪も無かったろう。
…どうするよ、これ。