2010/2/4 8:52
前回のグダグダな彷徨からとりあえず、棄てられた自転車の元まで戻ってきた。
広場に最初辿り着いてから、もう1時間近くが経過している。
この場所から最寄りの車道までの距離は、地図上だと150mくらいしかない。
しかし、藪だけじゃなく結構な落差もあって、直に向かうことは不可能である。
ここはおとなしく、破線の道の描かれている谷地を350mほど辿ることにする。
9:01 《現在地》
あ〜あ、疲れただけだったな…。
珍しくそんな後ろ向きな感想を持ってしまったほど、ここの激藪には生気を吸い取られた。
上の写真のところから、左の門柱が立っている地点まで、300mほど藪の中を移動するのにもまた10分を要しているが、全くの平坦地のヤブヤブで絵的に見どころゼロなので途中は省いた…。
門柱は一般のお宅にもありそうな普通のもので、特に表札は見あたらなかった。また、扉やチェーンも無い。
そして門柱からさらに50m。
今度こそちゃんとした道に脱出した。
これは東京湾観音へ行く(唯一の)道である。
その途中に、ズボッと出た。
私は写真の左側に写る幅広の谷の中で1時間を費やした訳であるが、明らかに大々的に人手が加わり、全体が整地されていたのが印象的である。
また確固たる証拠には巡り会えていないものの、おそらくは駐車場か、或いは東京湾観音に付随する園地のような整備を目論んでいたのではないかと思う。
「磯根崎海岸道路」が開通していれば、これと東京湾観音を結ぶ道路も通っていただろう。
そもそも、磯根崎海岸道路の開通を前提とした整地の可能性さえある。
現状でも東京湾観音は観光地として著名だが、ここに巨大な“仏教リゾートパーク”的なものが生まれていたとしても、千葉という土地柄、なんら不思議はない気がするのである。
以前別の大仏を訪問した時に、「東京湾観音脇に宗教テーマパークを作る計画があった」と聞いたことがあったんです。
結果的に資金難で途中で話が無くなって、その後ゴルフ場建設に転向して、それもとん挫したとか・・・
現地に詳しい某氏による、某寺院関係者からの聞き取りによる
東京湾観音は大坪山のてっぺん近くにあり、麓へ下る車道は一本しかない。
それが、おそらくは富津市道であろう、2車線のこの道だ。
全長1.5kmで高低差80mを駆け下り、国道465号に結ばれている。
途中には僅かに別荘などがあるだけで、ほとんど東京湾観音の専用道路の様相を呈しているわけだが、途中で一箇所旧道を見つけたので、ついでに報告しておく。
場所は下りきる直前、国道合流点の300m手前が「新旧道分岐地点」である。
写真では左が旧道、右が堀割となった新道(現道)だ。
自転車ごと行く。
9:08 《現在地》
廃隧道あったし!
地形図はまだ、ここの新道を反映しておらず、隧道も現役として表示されている。
だが、実際にはご覧の通り隧道は廃止され、そして封鎖されていた。
2車線の道路上でこの隧道だけが1車線しかなく、交通上のボトルネックになっていた事は容易に想像できるが、それだけじゃなく前後の線形にも問題がありそうだ。
直角に近い急カーブの先に、この狭い隧道は突然現れた。
微妙に隧道の軸方向に対して傾斜した坑門は、コンクリートのシンプルな外観。
しかしタイル製の扁額(後述)と、アーチを模した溝が備え付けられている。
ただ、このアーチは酷い出来だ…。
はっきりいって、「残念」といって良い。
左上の辺りで、アーチのカタチを大きく外れてしまっている。
飾りなら飾りでいいので、もう少し拘って欲しいところである。
かんのんトンネル
という、何ともストレートな名称である。
その下には「 昭和33年12月竣功 」と書かれている。
東京湾観音の完成が昭和36年で、4年がかりの工事であったそうだから、ちょうど着工当時に隧道も生まれたことになる。
以来、半世紀にわたって参拝客を通してきた隧道も、今や房総の深緑に沈む日を待つばかりである。
高いフェンスで塞がれた坑口だが、どこかの誰かがフェンスの一部を切り取っている。
そのため、身を屈めて洞内に入ることが出来た。
全長70mほどの洞内は直線で、出口に向かって一方的に下っている。
路面は舗装され、天井はモルタルが吹き付けられているものの、側壁は完全な素堀りのままだ。
そのため一部の壁は薄皮を剥がすように崩れており、その下に土砂の山を生んでいた。
坂道…素堀…観光地の入口…、
さしずめ、“千葉版 釜隧道” といったところか。
自転車を置いてきたのと、出口にもフェンスがあり通り抜けが出来ないので、適当なところで引き返す。
房総では珍しくもない、素堀の廃隧道。
魅力的なエピソードのひとつでも見つけられれば印象も変わるのだろうが、残念ながらそういうのもない。
なお、本隧道の詳しい緒元は次の通りだ。
観音隧道
昭和34年竣工 全長68m 幅4.4m 高さ3.0m
出典:平成16年度道路施設現況調査(国土交通省)
反対側の様子はご覧の通りで、右のガードレールの先に短い旧道と坑門が眠っている。
坑門のデザインは同じで、違いは扁額の文字だけである。
こちらは「観音隧道」と漢字になっている。
ちなみに、両側の銘板間で「漢字」「ひらがな」の対になっているのは、房総の隧道ではよく見かけるが、他県では滅多に無い。
しかも房総でも、昭和30年代頃に作られた隧道によく見られる特徴だ。
これなどは一種の地域色といっていいものであろう。
もっとも本隧道に関していえば、「かんのんトンネル」「観音隧道」という具合に翻訳まで含まれているのが面白い。
そして国道465号との交差点である、観音下交差点(観音下は最寄りバス停)。
信号もない、静かな交差点である。
私はここを右折して、JR内房線佐貫町駅付近まで国道を走行したあと、さらに県道256号を経由し、染川河口部にある「終点」へと近付いていった。
そして、思いがけず印象的な場面に遭遇するのであった。
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