2007/7/26 17:18 《現在地》
ここは亀石入口交差点。海抜は約50m。写真は海の方を見ている。
本来ならば海岸に面した国道135号との分岐、県道19号の起点から始めるべきだったかもしれない。
そこには「スカイライン入口」という交差点がある。
なぜレポートがここからになったかと言えば、この日の亀石峠へは探索と言うより、日暮れ前の中途半端に余った時間を手頃な峠のアップヒルとダウンヒルで楽しもうという不純な(笑)目的で来ていたので、最初は写真を撮っていなかったのだ。
「スカイライン入口」から「亀石入口」までは約1.3kmの坂路で、全線が片側2車線の都市的道路風景。
昭和30年に伊東市の一部となるまでは単独で田方郡宇佐美村を形成していた集落が、今では伊豆半島の表裏を結ぶ交通の要衝として、なかなかの繁栄を見せている。
無論、その繁栄の影には亀石峠越え県道の開発があった。
レポする気はなかったこの旅だが、亀石入口交差点からの眺めを前にして、途端に気持ちが変わった。
アップヒルやダウンヒルも良いけど、この峠の道路自体も記録しておかなきゃ勿体ないんじゃないか? と。
だって、あっちぃぜ!!
この風景を見てくれよ!!
まず、「亀石入口 Kameishi Ent.」という直截なネーミング! 峠好きならばこれに惹かれぬ道理はない。
次に、普通よりも随分とでっかい「車線数減少」の警戒標識! でかい警戒標識は道路の高速性と高規格性の象徴であり、寂れた道と同じくらい、ガンガン働いている道が大好きな私にとって、とっても胸がときめく存在だ。
そして、この場にあって最も然るべき風景の主役は…
亀石峠の明瞭な鞍部だ鞍部!An-Booooo!!!!
峠前の風景がこれほど私を萌えさせ燃えさせるならば、それに続く峠道が期待はずれになるわけがないッ!! 記録開始!
交差点から少し進むと、標識で予告されたとおり車線が半減してしまう。
路上は国道と見まごうほど車の量が多く、こうして写真を撮影している私の前に、みるみる車列が出来ていった。
どの車たちも一様に、これから始まる峠道への覚悟を決めている様子であった。
ここから先は、もう一本道である。
彼らの頭上に掲げられた案内看板(青看)に目を遣れば、その中段に記された「伊豆の国」は、今日も独り違和感の大放出中であった。
平成17年までは「大仁」と書かれていたところだろう。
また、下段の「伊豆スカイライン」の字体のファニーさは、伊豆へ来た感を強くする。
伊豆スカイラインを青看に表示するときはこの字体と法律ででも決まっているかのように、どこもこれである。
せっかくだから上段の「沼津」にもコメントを試みれば、現在の県道19号は「伊東大仁線」といっているが、数年前までは「沼津伊東線」であった。
これは昭和57年に沼津と大仁の間が国道414号へ昇格して県道から切り離され、平成6年に路線名も実情に合わせて改訂されたものである。
ぬ〜〜〜!!
こういう感じか。
こういう。
初っぱなから、気持ちより肉体の方を先にアツくさせてくれるようだ。
この手の見渡す限りに続く直線の急坂は、サイクリストによく堪える。
だが、こうした坂道の存在が古くは力なきものを峠より遠ざけ、地域の庇護の元に留まらしめた。
それを志しある若者はたちは、それを脱すべく自力を高めていったのである。
私もそれに倣いたい。
現役であろうか、それとも廃物件か。
夏草に覆われつつある道路情報板。
平成生まれのドライバーは案外そう思っていないかもしれないが、これまた間違いなく峠前を象徴するアイテムの筆頭に挙げられるものであり、私の大好物でもある。
これが現れるとその先に峠道(山道)があるというのは、約束事みたいなものだった。
間断なく続く直線的な上りに待望の“変化”が現れたのは、たっぷり15分ほど絞られたあと。
ここまでは疎らながらも人家がとり続き、隙間に果樹園が入り込む郊外風景であったものが、いよいよ、山岳道路然とした風景へ。
17:33 《現在地》
亀石入口から1.1km、約15分の力走の答えが、この第一番目のヘアピンカーブ。
セメント工場の入口を蹴るように方向転換して、向いの山腹に取り付く進路を採る。
峠を見上げる風景的にはまだまだ麓のようであるが、標高は既に140mに達した。
1.1kmで90mのアップとは、これまでの苦しさも納得の成果であった。
最初のヘアピンカーブは遠いものだったが、次の2番目のヘアピンはあっという間に現れた。
まあ、自転車だと「あっという間」は少しだけ言いすぎだけど、そう大差はない。
この2番目のヘアピンには、初めてオブ的な発見があった。
今はそれを目的にしているわけではないが、一度オブに染まってしまうと、それはもうどうしても目に付かざるを得ない。
ある時期まで、このヘアピンは今よりもう少し小回りのキツいアールに支配されていたようだ。
標高150mを実感させる眺めが初めて登場し、私を励ました。
第2ヘアピンの外側に身を寄せると、狭い低地に家屋が密集する宇佐美の街が一望されたのだ。
その家々に堰き止められた相模灘は、遙か向こうに隠されている首都圏の空を映したみたいに霞んでいた。
今日といううだる熱日の終わりは近く、陽も亀石の嶺にようやく沈んだが、山の気も海の気も未だ気怠い色に染まりきっていた。
二度目のヘアピンを抜けると、またも冒頭の展開をコピー&ペーストしたようなモーターカー向けの勾配路が、一日の疲労を背負いこんだ私に牙を剥いた。
次々と追い越していく車が引き起こす僅かな風も、たっぷりと昼の熱を孕んだアスファルトに忽ち温められ、私に届くのは熱風に等しかった。
路肩も狭く、よろよろと走るわけにも行かないから、辛かった。
そういえば、私が探索した当時、ここで拡幅工事をしていた。
登坂車線の増設工事だと思ったが、あれから6年経った今頃は、すっかり完成している事だろう。
17:42 《現在地》
亀石入口から1.8km地点、標高185mに待ち受けていた、第3番目のヘアピンカーブ。
2車線ながらも各車線の幅はとても広く、大型車にも安心の贅沢設計である。
県道ではあまり見られない、元一級国道にありがちな大ヘアピンが、視界いっぱいに私の大好きな道路を展開して見せてくれた。
「これが道路だ!」と言わんばかりに。
だが、私がこの道の有り様に真の興奮を憶え始めるのは、このカーブを回って、「本邦唯一」を看板に掲げる「人力車製造所」を右手に見送った後だった。
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《現在地》
ここまでは、まぁフツーのどこにでもある峠道です。
さっきまでと言っていることが違うと思うかも知れないが、ここから先の豹変を知れば、今までのは至って平凡な峠道だったと言わざるを得ないのだ。
もういちど、平凡で平穏だった時代の最後の風景を目に焼き付けておいて欲しい。
この道幅、車線数、くたびれ始めた鋪装…
全てが間もなく一新される……!
出現!鈴なりの標識群!
終了追越しのための右側部分はみ出し通行禁止駐車禁止
継続最高速度 40
新規転回禁止駐停車禁止
突如、運転免許の学科試験のように現れた規制標識の束。
その内容の総合して意味するところは、これまでの道路状況の一新であった。
新たに規制される「転回禁止」と「駐停車禁止」は、ここがサーキットではないこと。
サーキットとして利用してはならないということを暗に主張している。
さらに「転回禁止」については、念を押すように道路標示まで現れた。
追い越しは自由である。
ここからはずっと2車線で登る。
どこまでか。
3.3km先の峠頂上まで、全線だ!
これは、登坂車線なんていう生易しいもんじゃねがった…。
まず、ただの2車線ではなかった。
各車線の幅が、一般的な道路の比ではない。
まさに、高速道路並と思われる。
対向車線(下り側は1車線だが)を見て欲しい。
乗用車が2台余裕で並走できるくらいの車線幅があることが分かると思う。
これはこちらの上り車線も一緒であった。
つまり、ギリギリ4車線分くらいの幅を持った2車線の上り車線なのである。
その真の凄みは、これから進むにつれて幾らでも見る事が出来た。
今はまだ、ほんの始まりに過ぎない。
麓からは予想できなかった道路の豹変に目を丸くしながら、やや緩やかになった勾配にも力を得て漕ぎ進んでいくと、第4番目のヘアピンカーブが目前になった。
そしてこの第4番目のヘアピンカーブに来て、さらに驚く事があった。
なんと、上りの車線がこれまでの2車線から、さらにもう1車線増えたのである!
こ…!
これは、ステイツのハイウェイか?!
第3車線の正体が判明したのは、この100mほど先であった。
自然と見上げがちになっていた私の視線が、カーブの先に予想外の物体を捉えた!
おおおお。
なんて……交通量だ…。
こんなに道幅は広いのに歩道なんて無く、私の身体のすぐそばを2車線一杯に広がった車列が駆け抜けていく。
依然として時速40km規制は続いているはずなのに、多くのドライバーはそれを守っていない。
追い越し車線側は特に顕著だが、走行車線(登坂車線ではない)でも明らかに平均速度は40kmを超えている。
まあ、道路の見通しはかなり良いので、私が不用意に車道側へよろめきでもしなければ、接触の危険はまず無い。
そんなことよりも、気炎を上げて驀進していく車列の熱気に当てられた私のテンションが異常上昇してきたことの方が危険だった。
ろーりんぐキタァー!!!
「ローリング許さない!!」
断固たる決意が滲んでいる。
これが前途ある若者たちの無為な死を片付けてきた、地域の総意なのだろう。
しかし、この道でローリングしないでどこでするのかと問われたら、言葉に詰まりそうな道路なのも事実。
そして、であるからこそ、「許さない!!」と拒絶するより手が無いのだろう。
とはいえ、一回だけでは分かって貰えないこともあるから…
続けざまに、もう一声! >>>
やめよう
ローリング
―あなたには死のカーブが見えませんか―
今度はより分かり易いように、「死」の恐怖心へと訴えかけてきた!
よ〜く見えるぜ、「死のカーブ」とやらがな。
上りはさておき、下り側でハンドル操作を少しでも誤って外側へ“孕”めば、路肩も存在しない故、即座に鉄の支柱列に突き刺さり、これ以上無く確実な=死=が待っている。
気付けばもう、こんなに高い山の上にいる。
眼下には宇佐美の町並みはもちろん、海岸伝いに遠くを見れば、
霞む伊東市街の中心辺りまで見通せるのだった。
だが惜しむらく、ドライバーたちは否応なく“レーシング”へと巻き込まれ、
走りに血道を上げることを余儀なくされている。
この眺望を愉しむ余裕は、おそらく無いだろう。
歩行者にのみ与えられた、亀石峠の絶景であった。
相変わらず、各種規制標識が点在している。
規制内容は上り2車線となってから変化無く、「転回禁止」「最高速度40km」「駐停車禁止」である。
言い換えれば、暴走禁止、ローリング禁止である。
殺伐とした道路(嫌いではない)の雰囲気を少しでも和まそうと、1枚の案内標識が紛れ込んでいた。
「みかんの花咲く丘歌碑」が数百メートル先にあるということらしい。
歌碑か…。
はっきりいって、ほとんどのドライバーはこれを読み取れる速度で走っていない気がするのだった…。
←← 動画第3弾!
ここでの見どころは対向車線。
結構な急勾配となっているカーブの内側を、まるで流し素麺のように次々車が転げ落ちてくるのが、なんか無性に面白くて撮影した。
18:01 《現在地》
亀石入口から4km(残り2km)地点には、小さなロードサイドパークがあった。
これぞ少し前に案内標識があった「みかんの花咲く丘歌碑」なのだが…
案の定、車が入って休むような雰囲気ではないような…。
つか、ここに車を入れても「駐停車禁止」の規制に抵触しないか不安だ。
憐れ、歩行者しかほとんど寄りつかなくなってしまった歌碑であるが、それ自体は立派な物で、しかも綺麗に周囲を刈払われていて、道路管理者の心意気は伝わってきた。
この碑、すなわち「みかんの花咲く丘歌碑」が何であるかという説明は、現地の説明書きを見てもらいたい。
みかんの花咲く丘 みかんの花が咲いている
思い出の道 丘の道 はるかに見える青い海
お船が遠くかすんでる
加藤省吾書
この歌詞の「丘の道」がどこかは定かでないようだが、とりあえずここだとすれば、半世紀でとんでもない大動脈になっちまいました!!
次回、亀石峠の上りはいよいよ終盤戦!
かつてない興奮とデッドヒートが、俺に襲いかかるッ!!