2007/7/26 18:02 《現在地》
「みかん(略)」を後に、亀石峠まで残すところ約2km、高低差150mとなった峠道に復帰。
相変わらずアスファルトの上では、モーターマンたちが血で血を洗う”アクセル踏み込み大会”に興じている。
その迫力、特に音感からくる臨場感は、さすがに言葉では表現しがたい。
私のよく行く廃道や旧道が、風景としては明らかに「静」であるのに対し、こうした活発な現役道路は紛れもなく「動」の存在であることを思い知る。
…ということで、ここも動画を見て味わってね!!
動画からも滲み出ていると思うが、ここにいる私のなんとも肩身の狭いことよ。
ここには歩行者の余地などない。自専道といわんばかりだ。
(まあ、交通量を度外視すれば、地方の峠道はどこも歩道なんてないし、路肩も狭いが)
肩身はいかに狭くとも、この道がわれわれ自転車や歩行者にだけ小声で教えてくれる、そんな秘密の情報を見逃す手はない。
暴走車が少しこすったらしい凹みのあるガードレールの外に、半ば雑草と同化した様な、もう一列のガードレールが存在していた。
上下3車線となった堂々たる”大道”も、やはり最初からこうであったわけではないようだ。
ちなみに”旧道”の気配を感じたのは、第二番目のヘアピンカーブ以来である。
この道の開通当時の姿やその経緯については、後日少し調べたことがあるので、レポートの最後で紹介する予定だ。
古の道に少しく惹きつけられた私であったが、続いて現れたカーブを目にしたところでまた、現道、働く道の虜となったのだった。
個人的に、ここからが亀石峠のベストシーン!
見よ! 男子諸君!!
この目に見えるバンク(片勾配)はアツいと思わないか?
しかも、これから上り詰める亀石峠の明瞭な鞍部が、ドライバーの闘争本能を一層駆り立てずにはおかないのである!
バンク(片勾配)を付けながら反曲する連続カーブ。
左カーブと右カーブでは付いている片勾配の高低が逆なので、自然と路面は「うねり」の様相を見せることになる。
時速40kmという制限速度で走ったら少々効き過ぎるだろう大袈裟な片勾配も当然で、この道路の「設計速度」に合わせた大きさになっているはずだ。
通常、制限速度より設計速度が10〜20km/hくらい高いことが多い。
いずれにせよ、上り坂をゆく自転車にとっては全く不要なバンク機構であるが、下りをやれば有り難みを私でも実感出来るだろう。
ここで蛇足になるやも知れないが、一度、道路の「勾配」の基本的な仕組みを説明してみたいと思う。
サイクリストもドライバーもライダーも、おおよそ車両を運転する人間にとって、道路の勾配とは単に“上り下り”ということにあらず。もう少しの複雑性を持っているのである。
そして亀石峠の道はその事を実感する、またとない舞台だと思う。
道路の勾配とは、縦断勾配と横断勾配ないしは片勾配を合成したものである。
我々が日常的に「急坂だな〜」などと認識するのは縦断勾配というもので、これは道路の進行方向に対する勾配。
横断勾配というのは直線や緩やかな曲線において、路上の自然排水を目的に付けられる勾配で、普通は道路中央が高く両側が低い山型をしている。
片勾配は、ある程度急な曲線に設けられ、路上の自然排水のほか、走行車両の遠心力に対抗して良好な走行性を確保させるための勾配で、カーブの外側が高く内側が低くなるように付けられる。
そしてこれらの勾配を合成した実際の路上に見られる勾配を、合成勾配と呼んでいる。
このように道路の勾配は、「地形を克服する為の勾配」と、「排水や走行性の為の勾配」という2つの性格を持っているのである。
そしてわが国の道路構造のルールブックというべき「道路構造令」では、縦断勾配、横断勾配、片勾配、合成勾配それぞれの上限や下限が、道路の種類や設計速度毎に、事細かに決められている。
例えば、山地にある一般道路の場合では、縦断勾配の上限は11%、横断勾配は(舗装路で)1.5〜2%、片勾配は10%以下、合成勾配11.5%以下とある。(さらに勾配が変わる地点は緩やかに擦り付ける事も決められている)
道路構造令では、いかなる道にも横断勾配を設けることになっているから、実は厳密な意味での「平坦な道」などわが国には(ほとんど)存在しないということにもなるわけだが(笑)、こうした道路構造令との関連を踏まえてみると、現状の道路風景から「規格」や「設計速度」のような裏側が想像出来るし、それが道の由来を想像する助けになったりするので侮れないのである。
以上、『大研究 日本の道路120万キロ』著者による、付け焼き刃感の漂う道路勾配講座でした!
右、左と矢継ぎ早に曲がったその先には
↓↓↓
さらに右! そして左へ!!
ゆれる! 揺れる!
遂に痙攣のような連続カーブが始まってしまった!
その時、バンクはどうなったのか?!
こうなりました!!
↓ ↓ ↓
アツイ!
18:06 《現在地》
…興奮しすぎて、言葉を失った…。
まさに、夢に見たような山岳ハイウェイの実景。
日本にもこんなドラスティックなロードがあったか…。
もちろん、動画だともっとスゴイ!
↓↓↓
下ってくる対向車は、なんか意志のある人間が操縦しているようには見えない。
ただ傾斜したレールを転がってくる重い球のようだ。
一方で重力に逆らって登っていく車たちは、なんとも人間くさい挙動を見せてくれる。
続いての動画も同じ場所で撮影したものだが、
そんな人間くささの詰まったシーンだ。
↓↓↓
必死に登っていく車たちが、なんか可愛い!!!
こんな所で顔を赤くしている私は、病気なのか?
いや、正常であるに決まっている。
そしてもちろん、人間であるからこそ、
こういう動きをしたくなるのも、やむを得ない …のかもしれない。
↓↓↓
2車線フル使用…… 乙!
この路肩に寄り添って、
伊豆の荒波にたゆたうような車列を心ゆくまで眺めているのは、
道路好きにとって、大変に至福のいっときと言えるのだった。
騒音や排気ガスなど、普通なら余り居心地の良さを感じる場面ではなかったろうが、
今は、少し古くても第一線で活躍している道路の勇姿を、この特等席で眺める興奮に、
肉体的な不快さをまるで忘れていたのである。
あぁ、幸せ…。
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さて、些か個人的趣味に走りすぎたきらいはあるものの、働く道路好きとしての幸せが満たされたところで再び前進を再開する。
自転車のような低速で小さな乗り物で走ると、ここは全体としては上り坂であるものの、バンクの加減で一時的に平坦になったり、心持ち下ってるんじゃないかと思える合成勾配もあったりして、この道路のスケール感をより一層体感することが出来た。
自転車には到底、大きすぎる道路なのである。
個人的に亀石峠のハイライトであり、これがあるからこそ「山行が」で紹介したかったという筆頭の場面も、あれよあれよと終わりにさしかかった。
惜しい気持ちで振り返って見たのがこの写真である。
直線にすると勾配が厳しくなりすぎるから、こんな小刻みなグネグネを付けたのだろうか?
それとも別に大層な意味は無くて、単にもともとあった道路を線形そのままで拡幅したら、こうなったのか?
今まで数多くの峠道を見てきた中で、ただ高規格で壮大と言うだけならば、近年に開通した高規格道路を中心にこれ以上のものがいくつもあるが、山岳道路ならではのアクロバティックで面白い運転性を固守したまま、これだけの広幅員と高規格を実現した道路というのは、初めてお目にかかる…。
日本広しと言えども、こういう道が今後新たに作られる気はしないので、かなり貴重な存在だと思っている。
こうした説明で、私の興奮の理由が少しでも伝わればいいな。
18:18 《現在地》
楽しい楽しい“波乗りステージ”(別名:グネグネステージ)を突破すると、いよいよ亀石峠という標高450mに君臨する王の玉座を、猛獣の一翔びで狙える位置…いわゆる膝元の標高360mへ辿りつく。
そして、ここから峠までの最終高低差90mを克服するルートは、2本存在する。
それは、ありがちな新旧道というわけではない。
急だが短距離な道と、緩やかだが長距離の道という2本の道が、共に現道として利用されているのである。
もっとも、ドライバーはこれを任意に選ぶことが出来ず、上りは緩やかな迂回路へ、下りは急坂道を通ることを約束させられる。
自転車も車両なので、分岐に掲げられた「車両進入禁止」の標識を無視するわけにはいかない。歩行者だけが選択の権利を有する…。
(標識といえば、日本の道路行政の几帳面さを感じさせるのが、この分岐に掲げられた「転回禁止の解除」だ。この先は「一方通行」なので確かに転回禁止を明示する必要性はなくなる(意味がダブる)が、わざわざ標識を設置する辺りが、好きだ)
勾配の緩急が異なる2本の峠道を上下線で分割するケースは、上下線の分離が原則である高速道路を除けば珍しい。
有名どころでは栃木県日光市の「いろは坂」があり、ここよりも遙かに規模も大きいが、あそこも急坂を下りに使っていて、緩やかな坂を上り専用としている。
そして「いろは坂」の場合は、道路の構造や勾配の緩急に、明らかに新旧道の関係が見て取れる。
名前も「第一いろは坂」と「第二いろは坂」と呼ばれているから分かり易い。
昔は「第一」を対面通行していたのである。
翻ってこの亀石峠であるが、開通当初から上下線分離であったのかどうか。
現地の風景からはちょっと分からなかった。
これについては帰宅後の机上調査で判明したことがあるので、レポートの最後をご覧頂きたいと思う。
緩やかな方 でも、10%勾配スか…。
手厳しいスな。
上りに使われる迂回のあるルートは、分岐から峠(再合流)まで1000mである。
対して、既に一段高いところに離れつつある下りに使われているルートは、この間の距離が750mである。
つまり、平均勾配が1.3倍ほどキツイ(13%勾配がある?)計算になる。
「どっちもキツイんじゃねーか!」と、疲れ果てたサイクリストの嘆きが出るのもやむを得ない、そんな王への最終試練であった。
ただの2車線の道路みたいだ!
あの路面の“うねり”も嘘のように形を潜め、どこにでもありそうな2車線の峠道になっている。
ただし、対向車はいない。
見た目が平凡すぎることもあって、右車線のブラインドカーブを堂々と曲がっていく車の違和感が余計スゴイことになっていた。
万が一逆送してくる車がいたら怖いのに、みんなこの光景に慣れているようで、がっつりインコースを攻めていた。
迂回のある上りのルートは、峠直下の急斜面にそっぽを向いて一旦反対方向へ山腹を進み、ある程度高度と助走距離を稼いでから再びのヘアピンカーブで峠に向き直るという進路を取っている。
写真はその“向き直り”のヘアピンカーブから見た亀石峠の鞍部である。
明らかにこちらよりも急な坂で峠より一目散で逃げ出す道が見えるが、あれが“反対車線”である。
一本の峠道が二本に分れて山腹を各々うねる様は、なかなかに壮観であった。
「いろは坂」では上下線が遠すぎて、こういう眺めは皆無だからな〜。
標高410mを越え、上下線再合流と峠到着へ王手がかかる。
伊豆半島の脊梁尾根近くから振り返り見る相模灘は、既に白い夕靄へ包まれており、
それがそのまま黒の帳へ置き換わるのも時間の問題のようであった。
急に高原然とした高貴な風気を漂わせ始めた景色に、
実は今、国立公園のただ中にいるということを思い出させられた。
国立公園の観光道路と、伊豆の東西を結ぶガチガチの産業道路。
この2つの合作であり交雑が、この県道の生まれ持った性質だった。
…惚れてまうやろ…。
やっぱり峠は良いもんだ。
現役道路でも、それは変わらない。
というか、自転車の上にいる限りは、現役道路の方が峠は楽しかったりする。
特に途中に変わった風景なんてなくても、この峠前の高揚を得るためだけに自転車に乗りたいと思う。
麓でも見た独特のフォントで描かれた「伊豆スカイライン」の分岐を予告する青看で現れた。
峠のてっぺんを僅かに越えたところが分岐地点だが、実質的には峠の頂上で伊豆半島の稜線道路と言うべきスカイラインと交差接続している。
なおそれなりの勾配で峠への最後の登攀に勤しむ我らが車線の眼下に、下り専用の反対車線がにじり寄ってきた。
案の定、決して自転車で上りたいとは思えない急勾配路だったようだで、ここに至ってもまだ10%くらいありそうだった。
山岳ハイウェイらしさが何とも格好いい、上下線が再び一道に戻る最後の直線。
観音寺の少し下から実に3.3kmも続いてきた上りの複線も、遂に終わりの時が来たらしい。
幅員減少の標識が現れた。さらに先には「駐停車禁止」を解除する標識も見えている。
嵐のような峠道(主に車の動きがね…)も、遂にフィニッシュの時だ。
18:31 《現在地》
直線の先で右に曲がると、峠の頂上へぽんと出た。
その掘割りの頭上には、伊豆スカイラインの高架橋。
本当に伊豆スカイラインは寸分のずれもなく稜線(スカイライン)を通っているんだなぁと、少し感激する。
亀石入口交差点から1時間13分で、亀石峠を極めた!!
…のに、まだレポは終らない?
この峠道の見せる “もう一つの表情(かお)” を伝えるまでは……
オワれん!!
それに、「亀石」って何だ?
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