釜生林道 第1回

公開日 2008.12.29
探索日 2008. 4. 3

【周辺地図(別ウィンドウ)】

房総半島と言うところはもの凄く林道が多いところで、半島内陸部の房総丘陵に網の目のように張り巡らされている。

しかも、これはもう房総のお家芸とでも言うべき隧道の多さ。
これが林道にまで浸透しているのだから、タマラナイ。
ほんの数キロの林道に、素堀であったり無かったりの隧道が5本以上並んでいるような、隧道連続地帯が、ざらにある。

しかし私も贅沢なもので、たくさんあるのだと知っていると、なんだかありがたみが薄れる気もする。
しかも関東という土地柄から、生半可の林道であればバイクの猛者たちが走破済みで、サイトやブログに情報がわんさか蓄積されている。
こうなると、私の生きるべき場所は限られている。

バイクでは入れなさそうな、廃林道廃隧道だ。



というわけで、それっぽいところを地図で探して行ってみたのが、これから紹介する林道。
名前は分からないままなので、とりあえず起点の字から「釜生林道」と仮称したいが、右の地図を見て貰えばお分かりの通り、かなり怪しい。

点線道に隧道が3つも描かれている。
歩道に隧道がそんなに必要か?
廃林道では無かろうか。





いつもと少し違う、廃道の入り口にて


2008/4/3 10:33 

2008年4月3日は、おそらく房総らしい温かな春の日和であった。
まだ冬枯れの残る森だが、破裂寸前の生命エネルギーを感じる。

ここは房総半島のど真ん中。君津市の東端に近い釜生地区。
この道は国道465号で、数年前に近くにバイパスが出来て旧道化したが、生活道路として現役である。
房総半島にはこういった1〜1.5車線の国道が結構残っているというのが、関東という眼鏡で見てしまう私にとっては、意外だった。

目指す林道の入り口は、このすぐ先にありそうだ。




なかなか、イイ感じである。

ここの左カーブを蹴るように、右に林道は分かれているようだ。
確かにそれっぽい空き地がある。

右に入った林道はすぐ折り返して、今度は真っ正面に見える高いコンクリート法面の下、崖の中腹を横断し、そのまま1本目の隧道に入るようだ。

これまで様々な線形を見てきたが、個人的には見たことのない分岐とトンネルの組み合わせである。


正面に見える小屋の中にはベンチがあり、手押し車を停めたおばあさんが、気持ちよさそうにしていた。
私はてっきりバス停なのだろうと思っていたが、帰宅後に確認すると、バス停はここになかった。

…のどかである。




近づいてみると、顔面括約筋が引きつった。

ちょっと一筋縄ではいかなそうである。


遠目には林道の法面と思ったものは、国道のそれであった。
中段に林道が通っているはずだが、大丈夫か?
完全に防護ネットの裏だぞ…。


廃道っぽ。

…期待通りと言えば期待通りなんだが、崖は予想外だ。
下手に分断されていれば、それだけで探索が終わってしまいかねない雰囲気である。




10:36

私は心中の動揺をおばあさんに悟られないよう、きわめて平静を装って林道へ進んだ。
挙動不審でいると、お決まりの制止を受けかねないからだ。
「行き止まりだよ」とか、「危ないから入っちゃ駄目」という。

まあ、このおばあさんはスリープモードに入っているようだから、大丈夫だとは思うが、私は臆病者なのである。




グッと来た。

一段上の惨状を予告するかのような、早速の危うい雰囲気。
とりあえず、地図にある入り口を見付けるという第一段階はクリアーしたものの、息も絶え絶えといった様相である。

第一隧道へ、たどり着けるか?




振り返ると、朽ちたフェンスが寄せられたようにして置かれているのを見付けた。

これは、かつて通行止めであったものが解除されたという跡なのか。

他に林道の素性を教えてくれそうなものは、なにもない。
ぶっちゃけ、林道なのかどうかも分からない。




堅く締まった路盤に砂利はなく、粘土質の岩が露出している。
かつては軽トラくらいは通ったろうが、凹凸が激しく現状では難しい。
それに、勾配がかなり厳しい。チャリを漕ぐ足に力を込めるも、チェーンが空転した。
また調子悪いのか、おまえ…。

地形図が言う通り、100mも行かないうちに現れたヘアピンカーブ。
ヘアピンと言うにはちょっと鋭角過ぎるから、かんざしカーブか。

折り返して、さきほど派手目の予告がされた危険地帯に近づく。




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あんまりといえば、あんまりな隧道


10:38

来た。

段々の道が見えてきた。

確かに下から見たとおり、落石防護ネットがある。
しかし、それでも道はちゃんと続いているようだ。

まずは一安心  …か。




そして、見えてきた。

いかにも隧道がありそうな、出っ張りが。


だが。

嫌な予感がする。



 ネットが…。




やられた。

うはははは。
嫌な予感がモロ的中。

落石防護ネットが、林道を守る余勢を駆って、そのまま肝心の隧道を塞いでいやがる。

何となく予感はあったが、こうして見ると悲しい光景だ。
せめて、穴のところだけでも口を開けて欲しかった…。
僕(林道)は、要らない子なのね…。




間違いない。
これは隧道の跡だ。

落石防止ネットの裏側に隧道が「封印」されてしまうパターンは時々見るが、これはその中でも変わり種といえるだろう。
国道のすぐ上という珍しい立地でなければ、こんな目に遭うこともなかっただろうに…。

この林道の素性は不明ながら、2kmほど先で別の林道に抜けているはずの道。
迂回路を造ることもなく塞がれているところを見ると、完全に廃道という扱いなのだろう。

この塞がれた穴の向こうには、かなりの確率でもう2本の廃隧道が潜んでいるということか…。

行きたい…なぁ。




見よ!
この奇妙な立地を!!

国道に臨む垂直な法面の上に、僅か幅2m足らずの林道があったのだ。

ガードレールなど転落防止の役に立ちそうなものは何もない。

反対側から下って来ることを考えれば、隧道を出た正面がいきなり10mも切れ落ちた絶壁になっている訳だ。
隧道で十分に速度を落とす前提とはいえ、スパルタだ。

スパルタ過ぎるだろ、おい!!




ネットの丈は、大変ご丁寧な事に、完璧である(笑)。
地面に着くか着かないかという、微妙な位置を確保している。
さすがは日本の土建屋さん。仕事が丁寧である。

ネットだから、荷物を下ろした私一人くらいは何とか出入りできそうだが…

チャリは…。




隧道自体は、無事であった。
ホッ。

しかし、先の状況が分からないので、チャリはひとまず外に置いてきた。
よもや、向こう側も塞がれていると言うことは無いと思うが、初っぱながこうである、先行きはきわめてフワン(なぜか変換できない…汗)。

まずは、偵察である。

一号隧道、進入…。




ばれないと思ったんだろうな。

余ったネット材が隧道内に棄てられていた。
ホームセンターで買ったら高そうだけど、持ち帰る元気は流石にない。

しかし、洞内にあるゴミと言えばそれくらいで、どことなく使用感の乏しい隧道だ。
長さは30mほどに過ぎないのに、床一面に落石がゴロゴロしているのも気になる。
昭和27年の地形図にもこの林道は描かれているので、隧道自体も古く、地質もあまり良くないと言うことだろう。

乾燥しきった隧道の半ばを過ぎて、向こうの光へ近づく。




北口というか西口というか、とりあえず出口まで来た。

下枝のうるさい杉林を透かして、見上げるほど高くはないが、かといって間近でもない山並みが見えた。
林道の進行方向にある山である。




そして、当然のように廃道である。

期待した以上と言っても良い奇抜なスタートで、紛れない車道廃道が始まった。


内心ガッツポーズだが、気がかりなのはチャリだ。

チャリをどうしようか。
また引き返してくるのは、2kmという距離を考えると、ちょっと嫌だ。




とりあえず飯を食いながら考える事に決め、洞内へ戻った。
野外で腰を落ち着ける気にはなれない事情があった。
まだ4月の頭だというのに房総名物のヤマビルたちがちゃっかり目覚めているという事を、私は身を以て知っていたのだ。

…今朝、ちょっと杉林の中でしゃがみましたら(なぜかは自主規制ですが)、うねうねうねうねぇと居たんですよね。

絶対嫌いなんだからッ!




朝飯といっても、どういうわけかこれしかなかった。

前夜、ディズニーランド近くのホテルでミリンダ細田氏に貰ったカロリーメイト。
しかも、なぜか新発売の「ポテト味」だという。
私はフルーツ味だけが好きなのに…、なんか嫌な予感がする。

うあ。 やっぱりこれは駄目だ。
埃くさい廃隧道の中で食べると、なんか余計に美味しくない。

細田氏、アリガトウ(涙)。




4本入りのところ、1本だけ食べて行動開始。

ネットに塞がれている南口だが、そこには隧道内とは思えぬ見晴らしがあった。
釜生集落がよく見える。

ネットを這い出し、今度はチャリをなんとか隧道内へ引きずり込む算段をする。




少々太ってもしなやかな私の体に較べ、無機物はなかなかに難儀であったが、そこは歴戦の愛車。

ぐいぐい

ぐいぐいぐいッ

ミチーッ!!  …と、突破した。


 …フゥ。





意外な展開が待つ山中へ、いざ。