国道256号は、岐阜県岐阜市を起点に、長野県飯田市に至る、実延長約221kmの一般国道であるが、最新の「道路統計年報2017」によると、この路線には長野県内に全長12.3kmの【自動車交通不能区間】供用中の道路のうち、幅員、曲線半径、こう配その他道路の状況により最大積載量4トンの普通貨物自動車が通行できない区間をいう。があることになっている。
酷道ファンにはよく知られた事実だが、飯田市内にある小川路峠は現在も自動車が通れない。これが上記した自動車交通不能区間の正体である。
ついでに小川路峠の説明を、『角川日本地名辞典 長野県』に行ってもらおう。
飯田市と下伊那郡上村との境にある峠。標高1,494m。飯田の町と静岡県の秋葉神社とを結ぶ秋葉街道が,小川路峠・青崩峠を越えて通じ,江戸期から秋葉参りや善光寺参りの人々でにぎわった。伊那谷から遠山郷への最短ルートで,明治10年頃から峠道の改修が進み,牛馬などによる物資の流通も盛んになった。しかし上下5里(約20km)の難路で五里峠とも呼ばれ,遠山郷へ赴任する教員や警察官が職をやめたくなることから辞職峠の異名をとるほどであった。大正12年,下伊那郡喬木(たかぎ)村の小川と上村の程野の間に竜東索道が設けられ,昭和7年,現在のJR飯田線が平岡まで開通してから,峠の交通量は減少。現在,国道152号になってはいるが,峠は通行不能。同43年,喬木村と上村の上町とを結ぶ赤石林道が開通した。同62年,長大トンネルで越える新国道の工事が始められた。
上記内容は少し古いのでいくらか更新すると、「現在国道152号になっている」は、国道256号に変わっている(平成5(1993)年から)し、「喬木村と上村の上町を結ぶ赤石林道」は、長野県道251号になっている。そして、「長大トンネルで越える新国道の工事が始められた」も、国道474号でもある自動車専用道路「三遠南信自動車道」上の矢筈トンネル(平成6(1994)年開通)として結実している。あと、上村という村名も、平成17(2005)年に飯田市と合併したことで消えて、現在は飯田市上村になっている。
標高1494m、全長20kmもの険しい峠道であった、未だに自動車の通えぬ小川路峠。
ついに「山行が」も、全国有数の酷道である小川路峠に挑むのか! そんな風に期待して下さった向きもあるかも知れないが、今回は「表題」のものが主役であり、小川路峠越えは(探索は済んでいるが)別の機会に譲りたい。
今回紹介したいのは、小川路峠の東側の麓にあたる、飯田市上村の国道風景である。
ここに掲載した2枚の地図は、国土地理院が作成している『地理院地図』(左)と、昭文社が作成した『スーパーマップルデジタル ver.18』(右)で見る、飯田市上村の国道256号終点付近だ。
いずれも最新の内容だが、国道と県道の塗り分けに大きな違いがあることに気付く。
地理院地図では、「上町」の国道152号との交差点から国道256号がスタートして(実際は終点だが)「伊藤」を経て「清水」まで「幅3〜5.5mの道路」が続き、そこで県道251号を分けて左折。以後は点線で表現された「徒歩道」に国道の色塗りがなされた「登山道国道」的表現になっている。そしてこのまま小川路峠へ向う。
対してスーパーマップルだと、国道256号は図中に全く存在しない。
もともとこの地図は徒歩道を国道や県道として塗り分けない描き方なので、清水から先の「登山道国道」区間が国道として描かれていないのはやむを得ないが、地理院地図だとちゃんと車道として描かれている上町〜清水間も県道251号として描いており、国道256号はどこにも存在しない。
皆様もお手元にある道路地図帳にどう描かれているか確かめてみると良いだろう。
私の手元にあった道路地図は、どれも「スーパーマップル」と同じような描き方をしており、道路地図業界は長らくこの“説”を採ってきたことが伺えた。
一方で国土地理院は、平成2年測量版の2万5千分の1地形図「上町」でも既に今と同じ描き方であり、両者の表現は何十年も平行線を辿ってきたようである。
果たしてどちらが正しいのか?
このような疑問にぶち当たることはたまにあるが、今までは多くのケースで国土地理院に軍配が上がった。
やはり今回もそうだろうか。
『飯田建設事務所 台風第7号と前線による大雨に伴う交通規制箇所』より
実は、どちらも正しくない。
国道に限らず道路の正確な位置を知りたい場合、最も詳細なのは道路管理者が保管している道路台帳を見ることである。しかしこれは手続きのハードルが高いし、本当に詳細なので、ある程度広い範囲を見るには不向きだったりする。そんなときは、道路管理者が作成した管内図がオススメだ。
今回の場合は長野県飯田建設事務所の管内図が見たかった。管内図をPDFや画像データとしてネットで公開している管理者もあるが、飯田建設事務所は非公開であった。現地へ行くなり郵送で購入するなりといった手段もあるだろうが、裏口的な技として、管内図はしばしば行政の用いる様々な地図資料の下地に使われていることを利用した。
左図は、飯田建設事務所が作成した『台風第7号と前線による大雨に伴う交通規制箇所』(リンク切れ)という資料である。
この地図の下地に飯田建設事務所の管内図が用いられており、だいぶ小縮尺ではあるが、上村周辺の国道256号と県道251号のルートがどのようになっているのかを見ることが出来た。
拡大した部分に注目していただきたいが、国道と県道はほとんど重なっておらず、並行した別々のルートを通っていることが分かると思う。
私が以前、“とある関係者”から見せてもらった地図(残念ながら掲載はできない)には、この部分の国道と県道の詳細なルートが描かれていた。
それを私が現在の地理院地図上に書き写したのが右図である。
国道256号の終点から約2kmは、県道251号と並行する別のルートを通っている。
地理院地図にも市販の道路地図にも全く描かれていない道だが、道路法に定められた供用開始の手続きを経た、法的に有効な国道256号の現道がここにある。
冒頭に、「道路統計年報2017」では本国道に12.3kmの自動車交通不能区間が存在すると書いたが、この数字にもからくりがある。
よく知られている「登山道国道」の入口である清水から、小川路峠を越えた先のバリケード地点である飯田市上久堅の卯月山(位置)までの距離は、どうカウントしても12.3kmには足らず、約10.5kmしかない。この足りない分が、この“地図にない国道”である。
地理院地図と道路地図のどちらが正しいかの答えは、どちらも正しくなかった。しかしどちらかといえば、道路地図の方が犯している誤りは少ないだろう。国道でない部分を国道扱いしつづけてきた国土地理院の罪は重い。
ともかく、今回紹介するのは、この区間だ。
名付けて━
「国道256号 飯田市上村の地形図に描かれていない区間」 !!