2008/4/22 8:28
国道293号を足利市街から越床峠へ向かっていくと、こんな山がぽっこりとあった。
地図に山名は書かれていないが、これはなんてきれいな山なんだろう。
山裾を囲むように家が並んでいるのがまた愛らしい。
昔話にでも出て来そうな山だ。
何でこの山がこんなに目を惹くかといえば、背景に高い山が無いからだろう。
それともうひとつ、重苦しい杉の人工林とは違う、雑木林の効果だ。
越床峠とは直接関係もないが、この風景はどうしても紹介したかった。
もちろん、峠を通う旅人たちも見ただろう景色だ。
これから越えるべき峠の姿が見えてきた。
鮮やかなスカイラインは中央が凹み、「ここを越えてくれ」と言わんばかりだ。
昔の人が、ここを「越えるところ」と名付けたのも納得だ。
越えるべき場所が予め分かっている峠越えは、個人的には好きだ。
目的がハッキリしているというのは、いい。
旧道との分岐地点だ。
もちろん、右が旧道。
交差点の一部には、古い路盤がセンターラインごと残っていた。
まずは先に現道のトンネルを確かめよう。
なーに。 もうそこに見えている。
分岐から100mほどで、巨大なトンネルが現れた。
これが現国道の越床トンネルである。
ちなみにこの時点では気付かなかったのだが、先ほど分かれた旧道とは別の旧道が、右手の草地にある。
2本の旧道は少し先でまた一本になるのだが、なぜ2本あるのか謎が残った。
それにしても、でかいトンネル。
銘板によれば、全長562m、幅12.5m(車道幅6.5m)、高さ4.5mである。
両側に立派な歩道を持っていることが、この幅広の原因である。
このトンネルが開通する100年も前に、既にこの峠には隧道があったというのだ。
是非とも残っていてもらいたいものだ。
とりあえずトンネルには入らず、旧道入口へ戻る。
旧道へ入ったが、寂れた雰囲気はさほど無い。
センターラインも見当たらず、どうやら舗装は敷き直されているようだ。
それは、このすぐ先に大きな採石場の入口があるためだった。
旧道が旧道らしくなるのは、そこから先だ。
採石場の入口を過ぎると、赤いセンターラインが復活。
そのすぐ先で、左のガードレールの外側から別の2車線道路が近づいてきて合流。
写真は、その合流地点を振り返って撮影したものだ。
このガードレールで塞がれた右の道が、現道の越床トンネル前に続いていたようだ。
おそらく左は、越床トンネルを含むバイパスの工事中に一時的に国道として使われ、そのまま旧道になったのでは無いだろうか。
そう考える最大の根拠は、この塞がれた道の方に、「153km」ポストが設置されていることだ。
傾いてはいるが、これぞまさしく茨城県の日立市から遠路はるばるやってきた国道293号の道筋である証拠といえる。
この小さな発見を胸に、いよいよ峠越えの山道へ入っていく。
ちなみに、写真に写るダンプは、採石場への入構の順番待ちをしている。
峠を越えてきたのではない。
峠道の入口には、大きなゲートが設置されていたが、この日は開いていた。
そこに不法投棄を禁じる看板はあったが、立入禁止とは書かれていない。
別に危険な場所も無さそうな小さな峠なので、そんなもんだろう。
…と、思いきや。
ゲートの傍らに、見慣れない標識が半ば朽ち果てて、それでも倒れず残っていた。
ちょっと「つぶつぶオレンジ」を思い出すようなデザインだが、これは警戒標識の中で一番人気のある(?)「その他の危険」、通称「ビックリマーク」というやつだ。
旧版標識の「CAUTION」や「DANGER」の後継として、昭和47年頃から設置が始まったようだが、それでここまで古びたものは初めて見る。
なんだか意味もなく得意になるような…、ちょっとイイ発見だ。
旧道の峠までは1kmほどで、高低差も50mほどに過ぎない。
廃止も平成7年とさほど古くない。
そんなわけで、明治の隧道を探すことの他には特に楽しみはないかと思っていたのだが、いい意味で予想は裏切られた。
なかなかどうして、道中にたった一つの九十九折り。
この辺りは、なかなか味がある旧国道ではないか。
むしろ最近は、チャリが邪魔でしかないような「度の過ぎる廃道」ばかりやってたせいか、私の廃道志向の原点といえる旧国道の風景が胸に沁みた。
むふーー。
ゴツイ両腕で大きなハンドルをグリングリンと回すトラックドライバーを想像する。
普段よりも幅の広いセンターラインや、消えかけた道路標示、そして適材適所に配置された各種道路標識が、廃道未満旧道以上の微妙な道を演出している。
これは、隧道がたとえ見つからなくても…、ボツじゃないな。
そんな独り言をかみしめて進んだ。
え? 隧道が見つからないときの言い訳じゃないかって?
……ン?
夏場はガードレールも標識も見えないくらいの藪になるのだろう。
去年の枯れ草が存在感を示している。
すぐに次のヘアピンカーブが見えてくる。
ここにも補助標識に感嘆符を二つ付けた、異形のカーブ標識が立っていた。
まるでウナギだ。
二つめのスプーンカーブを過ぎると、勾配がやや緩んだ。
それにしても、もの凄い窮屈そうな道だ。
全幅5m程度の道に無理やり2車線を取っているものだから、路肩なんて全く無い。
しかもセンターラインには凹凸があるから、大型車のドライバーなどは相当な窮屈を感じただろう。
先は見通しの良くないカーブになっており、ここが峠の標高とは無関係に難所であったことが窺えるのだ。
おっ。
前方に、怪しげな広がりを確認。
地図で確かめると、そろそろ旧隧道が左にあって不思議はない位置にさしかかっている。
ただひとつ気になるのは、こんなにありふれた旧道に面してもし明治の隧道があるならば、とっくに有名になっていても良さそうなのに、出発前に簡単に調べた時点ではそんな情報にヒットしなかったと言うことだ。
もう跡形もなくなっているのかも知れない…が。
次回、探すぞ!