道路レポート 国道432号東岩坂バイパスの未成部 前編

所在地 島根県松江市
探索日 2023.12.04
公開日 2023.12.14

 ※このページは実験的に、PCとスマホでの見栄えを両立させた新しいフォーマットで作成しています。


《周辺地図(マピオン)》

先日、道路地図に気になる場所を見つけた。
島根県松江市の南東部に位置する東岩坂地区から安来市広瀬へ越える国道432号の峠(地図上に峠名の注記はないが、駒返(こまがえり)峠という)の途中に、気になる道の表現がされている場所を見つけた。



地図の縮尺を拡大して見ると、ご覧の通り。

ループ + 行き止まり = 香ばしい!

ここは一体どうしたんだろうな?
想像が膨らむ奇妙な道路線形だ。ループという特異な線形がまず珍しいが、そのループへ入らず進む行き止まりの国道が描かれているのが、なんとも意味深である。

興味を持った私は、とりあえず手元にあった一昔前の道路地図を引っ張り出して見てみたところ……。




大阪人文社『島根県広域道路地図』平成7(1995)年版より

これは平成7(1995)年発行版の大阪人文社刊『島根県広域道路地図』に見た駒返峠の付近の様子だ。
当時ここはまだ松江市ではなく、八束郡八雲村に属していた。峠を越えた先もまだ能義郡広瀬町といった時代。

広島県竹原市と島根県松江市を結ぶ中国地方の新たな横断国道として、既存の多数の県道を繋ぎ合わせる形で初めて国道432号が指定されたのは昭和57(1982)年なので、これは国道が誕生してまだ十年そこそこの風景だが、早くも“酷道”を返上して真の“国道”へ脱皮しようとする姿が、道路計画線を示す点線を交えながら鮮やかに描き出されていた。

チェンジ後の画像には、この道路地図に現在使われている国道のルートを重ねて表現してみた。
こうして見ると分かるが、ループ道路は、当時の計画には存在しないものだったらしい。
一方で、今は行き止まりになっている部分の先に、道路計画線が延びていたことも分かる。



これは反対に、最新の道路地図(スーパーマップルデジタル24)上に、平成7年の道路地図から判明した「計画ルート」と「旧国道」の位置を書き加えたものだ。
現状利用されているループ線形の道路よりも、さらに利便性と速達性が高そうな計画ルートが存在したことが窺える。
現状のループ道路は、この初期の計画ルートの挫折の産物なのであろうか……?

まだ新旧の地図を軽く見較べただけだが、この場所では何か複雑な経過によって、国道の整備ルートの変更や、それに伴う未成道が生じている疑惑が大いに高まった。
そこで、2023年12月の山陰遠征時に現地へ行ってみた。以下はその報告である。




 チグハグすぎるループ国道


2023/12/4 10:00 《現在地》

まずは、安来市から松江市へ向かって国道432号駒返峠を自動車で走った。
安来市側は峠道の入口にあたる広瀬市街地が昔ながらの街路で直角曲がりが連続するが(この部分もバイパスの工事が現在進行中である)、そこさえ抜ければ快適な山岳バイパスが完備していた。これこそは、平成7年の道路地図では破線の計画線だった道路が見事に完成した姿だった。
同じように描かれていた松江市側の道路が未だにその通りには完成していないのとは対照的だ。

写真は、広瀬から約6km上ったところにある頂上の駒返トンネルだ。
何かのカラフルなレリーフが描かれた坑口は、県都松江市の玄関口の一つである。この場所の標高は約300mだ。
設置された銘板によれば、トンネルは全長454mあり、竣工平成6(1994)年だそうである。峠越えの一連の道路整備では核心的な存在である頂上のトンネル完成は、随分と早かったようだ。

なお、このトンネルが開通するまで国道だった長い峠越えの旧道も今のところは健在で、一般車の通行が可能である。沿道にいくらか人家や耕地があるので容易には廃止できないのだろう。旧道の様子はストリートビューでも見られるので興味のある人は覗いてみると良い。舗装こそされているものの、道幅が狭く普通車同士の離合も難しい典型的な元“酷道”である。



10:10 《現在地》

トンネルを抜けた松江市側の道路も、しばらくは何の問題も違和感もない快走路が続く。
そしておおよそ1.3km下った海抜240mの位置に、この写真の広い非常駐車帯がある。

チェンジ後の画像のように、非常駐車帯の終わり際に1枚の看板が立っている。
そこには、「250M先 直進不可 松江方面 右折」の表示があった。

この「不可」とされている「直進」こそ、私が先に未成道ではないかと考えた部分に違いあるまい。
やはり何か看板で案内しないとマズいような、不自然な状況が存在するようだ。

その実態を詳細に確かめるべく、ここから先は自転車に乗り換えて進むことにした。



10:12 《現在地》

自転車に乗り換えて100mほど進むと、集落が現れた。藤原集落という。
地図上の国道は、この藤原集落内に小さなループを描いているが、なるほど、ループ先の道路の存在が早速見えた。
足元の国道を潜る道が左奥に見えるが、それこそがこの国道自身の行く末であるらしい。自分を潜っているので、確かにループだ。

だが、これは想像以上に小さなループだ。
国道のループ道路というと、それだけで壮大なものを連想するが、これは壮大さとは全く無縁。
それに、普通のループ道路は大きな高低差の克服を目的に作られると思うが、この道の交差部分の高度差はごく僅かでしかなく、ループでなくても簡単に克服出来そうに見える。
やはりこのループ、妥協の産物なのか。イレギュラーを感じる。

ピンクの矢印の位置から、下を潜る国道を見下ろして撮影したのが次の画像だ。



オイ! これ“酷道”じゃねーか!笑

たまたま軽トラが写ったので道幅が分かり易いが、これはかなり狭い。乗用車同士の離合は、お互いかなりギリギリまで端に寄らないと難しいだろう。ただの田舎道なら普通だが、国道にしては相当狭いぞ。

わざわざループしてまで、こんな“酷道”に導かれようとしているのか、この先……。
確かにこれは本来造ろうとしていた国道でないことは明らかだな。単純な旧国道というのともまた違った由来がありそうだ…。

なお、このループにはまだおかしなところがあるのだが、それに気付くより前に、今回の本題である、“未成道”とまみえることになる!



10:14 《現在地》

これが、「250M先 直進不可 松江方面 右折」と予告されていた場面だ。

ここまで伸びてきた2車線の国道は、ループを跨いだ緩やかな左カーブをそのまま引き継いで、なおも左カーブを続けて行こうとするが、そこには右向きの矢印を取り付けられた車止めが鎮座しており、それを無視して無理矢理進もうとすれば、草生した廃道に足を踏み入れざるを得ないのであった。

この先の道は、冒頭で紹介した最新の道路地図では国道の色で塗られていて、おおよそ400m先で唐突に行き止まりを迎える奇妙な国道として表現されているが、実際にはこのような車止めがあり、間違って立ち入ることはないようになっていた。
が、一見して異様なこの状況が、通りがかる全てのドライバーの目に映っているのも事実。ここを通る誰もが、国道の変調には気付いているはずだ。



で、こちらが前述の矢印付き車止めや、青看によって誘導されている、国道432号の現道だ。

この場所を境に道幅が2車線から1車線(正確には1.5車線くらいあるが)に縮小するのはまだ分かるとして、急坂で上っていくのには笑ってしまった(笑)。

だって、この先で潜るんだぜ。いま通ってきた国道のをさ。さっき軽トラ走ってるの見たでしょ。
それなのに、まずはっていくのかよwww
なんてチグハグなんだww



これは別アングルから撮影した、ループへ向かって上っていく国道の様子。
メッチャ急坂で上っているけど、この直後には、写真右側に見える国道バイパスを潜るのである。
当然、それより低い場所まで下る訳だ。この忙しさはもう、ジェットコースターといっても大袈裟だ。……うん。 でも本当に目まぐるしいカーブとアップダウンなんで、興味を感じた人は島根旅行のついでに一度通ってみて!
あと、こんな道でも国道なんで結構な交通量がある。写真にも通りかがりの車が3台も写っている。



この相当に奇妙な国道の立体的線形を、カシミール3Dで表示した立体的な地図上で確認しよう。

左下の「駒返トンネル」から下ってきた国道は、緩やかな左カーブで藤原集落へ差し掛かる。
本来はそのまま「未成のバイパス」へ進むはずだったのだろうが、なかなか開通できないためにやむを得ず、バイパス入口を右折して、藤原集落内に迂回する。そしてここが上り坂になっている。それから集落内を右折して、今度は急な下り坂となって、さっき通った国道の下を潜って(ここでループが成立)、「未成バイパス」よりもだいぶ低い位置から松江市街方面へ続いているのである。

藤原集落の住民には利便性があるだろうが、単純に国道の起点と終点を結ぶという意味では、距離的にも高度的にも無駄な迂回をしている。
チェンジ後の画像に描いた“ピンク色の道”を繋げれば、たった30mで済む距離を(この部分の落差は10mくらいしかない)、300m使ってループしている。

そして、なぜこのような迂回する経路になっているかについても、容易く想像できる。
チェンジ後の画像で白く薄消しした部分は、全て国道のバイパス整備のために近年整備されたものだろう。そしてそれ以外の道路は、もともと藤原集落の生活道路として存在していたのだろう。

平成初期に国道のバイパスをこの藤原まで整備して集落と繋げた。だが、何かの事情で、藤原から先のバイパスの整備は長く中断されることになった。そのとき、せっかく作ったここまでのバイパスを、松江側から藤原集落へ通じていた既存の道路に繋ぐことで、一連の国道として暫定的に利用することにしたのだろう。それでも全線が“酷道”だった旧国道を使い続けるよりは、便利になると判断されたのだと思う。

つまり、本来は旧国道でもなんでもない旧八雲村の村道に過ぎなかった道路を、バイパスの全線開通まで、暫定的に国道化して使っているというのが現状だ。
そんな歪なことをしているから、国道のループらしからぬ貧弱な線形や、こんなチクハグなアップダウンが生まれたのだ。全てはバイパスの未完成に原因がある。
そしてこの状況は、少なくとも平成7(1995)年より以前から現在(令和5(2023)年)まで継続しているようである。


これからその“元凶”へ突入し、実態を確かめる!




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