道路レポート 滋賀県道130号 岩室神線 中編

所在地 滋賀県甲賀市
探索日 2016.10.15
公開日 2017.11.26

地図にない県道の行き着く先は…… 


2016/10/15 8:06 《現在地》

現在地は、全長4.1kmの県道130号岩室神線の起点から約700m地点に架かる南平橋で和田川を渡った直後だ。
県道は和田川の左岸沿いを上流へ向けて進んでいく。
その最初のうちこそ対岸にさっきまで走っていた道の続きが見えていたが、こちらは徐々に上っていくため、すぐに木の緑に遮られて見えなくなった。

また、一応舗装はされているのだが、全く踏まれることのない轍以外の路面には土が乗り、緑が芽生えている。極めて交通量が少ないことと、路上清掃が行き届いていないことが分かる。
廃道というまでではないが、先行きは大いに不安視される。




道幅も非常に狭い。
路上の轍はいわゆる軽トラ幅なので、普通車だと相当窮屈だろう。
この先が分からない状況でこの道幅というのは、真っ当な神経の人ならば、車では入りたくないはず。
私も自転車だからいいけど、マイカーなら絶対ここは入らない。

橋からわずかに100m地点。県道としての良心みたいに思えた路肩のガードレールと、路面舗装が、同時に打ち切られた。
まだ道は続いているが、不安しかない。




うっわ! 寂しい道だな〜。

“険道マニア”としては、美味しい展開だと内心にやついているが、同時に“山チャリスト”としての自分は、山越えが達成できるのかどうかという不安に心を痛めている。
ここまではさておき、この先しばらくは事前情報が全くない区間でもある。

まったく月並みな感想だが、これで県道というのだから恐れ入る。
普通ならなんか理由を付けて道路管理者が封鎖していても不思議ではない感じの隘路だが、県道の証しが何もない代わりに封鎖もしないという、なかなか放任主義的な対応になっている。



8:08 《現在地》

橋から約150m、恐る恐る進んでいくと、小さな尾根に出た。
前方にごく浅い切り通しが見えると思うが、そこを通って尾根の裏へ進む道がある。
またそれとは別に、切り通しへ入らず左へ下りていく道が分岐している。

なんとなく右が正解っぽいと思ったが、目印も案内も何もないので、ちょっと悩む。
GPSで現在地を確認すると、地形図には描かれていない道を通って、地形図に破線で描かれている道へぶつかったというのが、現在の状況であるらしい。

もはや外見からはどちらが県道かを判断しかねるが、地形的にも、甲賀土木事務所の小縮尺な管内図の解釈からも、ここは右が正解であると判断した。右へ進む。



目が慣れてきたからそう思うのかも知れないが、案外しっかりした道である。
地形図に描かれている道に出たとはいえ、地形図では破線、すなわち徒歩道として描かれているのだが、実際はそれなりにしっかりとした車道だった。

線形的にも無理矢理な感じはなくて、尾根沿いを南に進みながら、自然に高度を上げている。どことなく古くからの車道を思わせる線形である。
だがそうかと思えば、路肩に擬木コンクリート製の土留めがあったり、道を横断する排水口の蓋がまだ新しい金属の色合いをしていたりと、比較的最近に手入れされた気配もあった。
周囲にスギの植林地が広がっているせいか、今も人の出入りがあるようだ。




8:13 《現在地》

先ほどの分岐地点から350mほど進むと、再び道が二手に分かれた。
地形図にもこの分岐は描かれていて、左右ともに徒歩道の表記だ。
だがここも実際には、左右とも車道であったが。

地形図によると、左の道は尾根伝いに南へ進んでいく。
右の道は尾根を逸れて東の沢筋に向うようである。
現地にはなんの案内もないし、明らかに右の道の方が轍が濃いように見えたが、県道の進行方向は左と判断した。左へ進む。




むむっ! 廃道化の気配あり!

左の道へ入ると、急に路面の様子が怪しくなった。
スギの木っ端が沢山落ちている。大きめの枝も通せんぼしていた。
明らかに、最近誰も通ってない感じだ。
これまではっきりしていた轍が覚束なくなり、道幅もなんだか狭い。
一応砂利が敷かれているので、車道であったことは疑いがないが、強烈な廃道の予感に震える。

そして、行く手からは廃道の“足音”とは真逆と言える、この景色には似つかわしくない種類の音が、断続的に聞こえてくるようになった。
それは聞き間違えのあり得ない、とても聞き慣れた種類の音だ。




最後の分岐から100mばかり、木っ端まみれの怪しい道で鬱蒼としたスギ尾根を進むと、行く手が急に明るく見えた。
暗い森が発光する大きなスクリーンによって遮断されている。これはそんな風な見え方だ。森の終わりが迫っている。
そしてその明るさの中こそが、“この景色には似つかわしくない音”の発生源であり、数秒ごとにはっきりと聞こえていた。

道は薄暗い森から、明るい世界へと飛び出していく。



そこに待ち受けていたものは――



新名神高速道路!!!

冒さざるべき“神”との線引きのように横たわっていた。

……ってまあ、地理院地図にこれだけでかでかと書かれているので、

こいつが県道の邪魔をしていること自体は、分かっていたんだけどさぁ……。



非情だなぁ…。

幅1.5m少々の県道は、中央分離帯を含めて全幅50mを優に超える超高規格な高速道路にぶった切られて、

あとにはどぜう1匹残していなかった。



ここに10年ほどの事業期間を経て新名神高速道路が爆誕したのは、平成20(2008)年とごく最近のことである。
そのため平成6(1994)年の地形図には全く描かれておらず、一応は県道であるはずの破線道は、このまままっすぐに南下していた。

今まで数多くの県道を探索してきたが、高速道路に寸断されたまま放置というのは、初めて目にする気がする。
県道130号は昭和34(1959)年に認定されているので、それから49年も経ってから“新参者”に斬り殺されたわけだ。
うだつの上がらない万年不通県道など、新たな国幹の使命を持って整備されている新名神の前では、
一介の山道となんら変わらなかったいうのだろうか。 …非情だ。



8:16 《現在地》

県道の起点からここまで約1.3km(南平橋から500m)である。
標高は約250mで、起点や南平橋よりも30mばかり高い。

ここまで山道とはいえ車道の形を保っていた県道だったが、突如山を二分する高速自動車国道に寸断され行き場を失った。
“対岸”へ行きたいが、横断するためには迂回をしなければならない。
幸い、高速道路にはツキモノである側道がここにもあり、それを通って東へ行くことが出来る。
地形図にはこの側道を100mほど東へ進んだ地点に、高速を潜る狭い道が描かれている。
県道利用者のための迂回路として用意されているのかは知らないが、使わせて貰おう。




ふだん高速道路を利用しているときには一瞬で通り過ぎてしまうインターチェンジの案内標識を間近で立ち止まって眺めるのは、なかなか新鮮な気分だった。

行き交う車の乗員たちも、こんな側道から視線を浴びていることも、そこに県道が存在することも、全く意識の外であろう。
私も今まではそうだったのに、今日以降は上り線の「甲賀土山ICまで500m」標識を見るたび、この小さな探索のことを思い出すことになりそうだ。
そうやって高速道路上の移動時間も、楽しい道路の思い出によって、徐々に色づいていくのだな。




すっごい下り坂…。狭いし、急!

さすがは、高速の側道だ。
一般道とはひと味もふた味も違うぜ。
巨大な盛り土で谷を埋めて平坦化していた高速の脇で、側道だけが本来の地形に沿って谷底へ下りていく。それも直線的に。急にならない道理がない。


ブレーキを握りしめながら、無理矢理な側道をギーギーと下ること約100m。
県道がこれまで稼ぎ出したささやかな高度の大半を、この一坂で放出してしまった気がするが、ここで前方の側道が平坦化した。
どうやらこの右側に、高速の築堤を潜る道が存在するようだ。

なお、ここまでこんな変な道のりを辿ってはいるが、起点から一度も「封鎖」はなかった。
その気になれば自動車もここまで、私と同じ道で来ることが出来るはず。
地形図に破線道しか描かれていないような山地に対して、県道はなかなか健闘している。(もっとも、この側道部分は明らかに県道ではなさそうだが)




次の瞬間、“道”は私を驚かせた!



意外! これが県道130号岩室神線の未来の姿か?!


8:21 《現在地》

けぇ!

な、なぜに、こんなデカいの?!

側道を下りきった先で私を待ち受けていたのは、
2車線道路をすっぽり収納できる大きさを持った、立派なアーチカルバートの地下道だった!
入口にぽつんと置かれたA型バリケードと比較すれば、その広さが分かるだろう。

側壁に「甲賀土山6」と書かれたプレートが設置されており、これが本構造物の名称だ。



幅50mもある道路を乗せた築堤の底辺を潜る地下道は、長さが100mほどもあろうか。
四角いボックスカルバートではなく、最近流行のアーチ型カルバートであるため、外見的にはふだん見慣れたトンネルとあまり違わない。
だが、路面の舗装も照明器具もないために、強烈な“未成道臭”が漂っている。

平成20年の新名神開通時点では完成していたはずだが、以来なんの役割を果たしてきたものか。
せいぜい、今通った側道を介して県道と繋がっているくらいなのだ。

内部に立って振り返て見ると、大きな坑口いっぱいに迫ってくる山の壁という、異様過ぎる風景が度肝を抜く。この壁の450m先に南平橋があるが、直接通じる道はない。

先ほどまでの県道や側道の状況と照らしてみても、これはもう明らか過ぎるオーバースペック!

その理由はなんて……、これは一つしか考えられない…!



未成道だこれ。

右図のようなバイパスを設ける県道130号の将来計画か構想があって、その準備として予め高速道路との交差施設を設けてあるのに違いない。

この手の準備施設は、我が国に高速道路が建設されはじめた当初から、各地に作られていることが知られている。
中には高速道路の開通から40年を経て全く活用されずにいるものもあるが()、高速道路が気軽に付け替えられない“強い存在”である以上、百年の計を持って交差施設を準備しておくことが、セオリーになっている。

そして、甲賀土木事務所が過去に発行した管内図には、実際にこの推論通りの県道計画線が描かれていることを、ハルニチ氏のブログ「道徒然話」の記事で確認することが出来た。また、同氏もこれを県道バイパスの準備施設だろうと述べている。

なお、詳しくは最後の机上調査編で述べるが、このカルバートを活用するバイパスの具体的な計画は、現在のところ全く進展している様子がない。
いつかは真っ当な道の一部になれることを夢見ながら、独り寂しく新名神に風穴を通じているのが、この「甲賀土山6」なのである。



なお、ぽつんと一つだけ置かれていたバリケードに、「滋賀県」の文字が入っていた。
県が県道管理の一貫で設置したならば、このカルバートも県道の認定を受けているのかもしれない。

幅10m、高さ6m、奥行き100mほどの、ビッグサイズのアーチカルバート。
路面は整備されておらず、歩道も車道も分かれていない。側溝もない。
砂利の代わりに粒の大きな砕石が敷かれていて、MTBでも走行には負担を感じる。
ひんやりとした風が流れており涼しいが、同時に空虚を思わずにはいられない。
高速道路を走る車の音も、意外とここまで届かない。



もう間もなく通り抜けだ。この南側の坑口も、北側ほどではないが、真っ正面に山が迫っている。

管内図の県道バイパス計画線は、このまま直進して約1.2kmで、“神”側の県道端に達するように描かれている。
さほど険しい山があるわけではないので、その気にさえなれば完成させられるだろうが、認定後過去半世紀ものあいだ動きがなかった県道だ。きっと重い一歩なのだろう。

出口付近の洞床に、藁(わら)が綺麗に揃えて置かれていた。
乾燥させているのか。
活用されているのは喜ぶべきなのだろうが、正直この使われ方は寂しい。



8:23 《現在地》

南口も丁字路で、右折すると再び狭い側道があるが、

この側道の100mほど先に、切断された県道の続きがあるはずだ。

次回は、この先を終点まで紹介する。




オマケ: 高速道路下で市道と県道を結ぶ未成道あり

これから紹介するのは、この探索の帰路に通った市道源田中野線の模様である。
「前編」でも書いた通り、この市道は岩室と神を結んでおり、実質的に県道130号の代替路として機能している。
【起点の青看】でもそのように案内されていた。

現在、この市道は新名神以南の区間が2車線化を完了しており、将来的には全線を2車線化する計画がある。
そうするとますます県道130号の出る幕がなくなりそうな気がしないでもない。

さて、左図を見ていただきたい。
県道の未成的カルバートとして存在している「甲賀土山6」だが、市道源田中野線はその400m東にある「甲賀土山4」のカルバートで、高速を潜っている。
そして、この二つのカルバートを結ぶ道が、地理院地図にははっきりと描かれている。

「オマケ」はこの区間を探索する。




信号機カラーの幟旗が彩りを添える市道は、山の中に取り残されているに等しい県道を尻目に、明るい天日の元で活躍している。
かの県道は、真っ正面の緑の尾根筋に埋もれているのである。

この場所の市道は新名神と併走しているので、合併で施工されたのだろう。まだ新しい道の気配がある。
(ただしそこは“市道”なりで、あまり路上清掃や白線のメンテナンスに力が入っていないのために、実際よりも古く見えてしまうが)

市道の右側は新名神であるが、緑豊かな築堤が非常に高いため、知らなければ道があるとは思わないかもしれない。




この丁字路、市道は大きなバリケードと矢印板で右折することを強いられている。
曲がると「甲賀土山4」というボックスカルバートがあり、高速を潜る。

この「4」(【写真】)も、2車線は確保しているが、所詮は市道用という感じの少々息苦しいものだ。坑口前が直角カーブなのも、いただけない。
県道バイパス用に用意されている「6」の方が、作りに余裕がある気がするのである。




“右折を強いられる”丁字路を、反対車線にはみ出しながら無理に直進すると、このようになる。

なんと、立派な道が続いているではないか。
緩やかな上り坂が、カーブ大きな橋を渡っている。

橋には四隅に親柱が完備されており、銘板もちゃんとある。
「和田川橋」「わだがわ」「平成15年3月しゅん工」などのデータが判明した。

ここで振り返ると、この道と市道は綺麗な1本道のように見えた。




和田川橋のすぐ隣に口を開けているこれは、「4」と「6」の間にあるから、「甲賀土山5」である。
見ての通り、このアーチカルバートは和田川を通している。いわゆる暗渠である。
土被りが大きいせいか、いかにも頑丈そうな分厚いアーチ構造になっている。川を通すのには不必要なくらい天井が高く、「4」よりも「6」よりも断面は大きいだろう。




和田川橋を渡ると、早くも二度目のバリケードが出現。
今度は全幅が封鎖されている。
封鎖の手前に左折路があり、砂利道が山の方へ伸びていた。

バリケードの奥は、いよいよ本格的な未成道の表情である!
相変わらず2車線道路の広さがあり、車道と歩道を分けるセパレートも施工済なのに、舗装はない。
これまで以上にぐんぐん上っており、高速との比高を縮めていく。



そして、市道との分岐地点から300m弱で、忘れもしない「6」の南口に到達した。

すなわちここが、未来の県道130号との合流地点ということになる。
しかし、出来上がっているのはカルバートと高速道路だけである。
ここに未来の欠片を準備されている県道が、今通った連絡路でもって
市道と手を取り合う日は、果たしていつになることやら……。

以上、高速道路下の県道と市道を結ぶ、側道よりも立派な連絡路の未成道でした。

この連絡路、高速道路の工事用道路として活躍したのかも知れないが、歩道施設の準備があることからも、
一般道として活用する未来が構想されているようだ。しかし、具体的な活用計画は調べても分からなかった。