たまには当サイトもそこそこメジャーな案件を取り上げたい。
ジャンルとしては、未成道。
このジャンルが好きな人なら一度は見聞きしたことがありそうな物件だが、紹介したい。
新潟市。
人口80万人を数える本州日本海側唯一の政令指定都市であり、国内有数の港湾都市だ。
この街のど真ん中に、市民から“ジャンプ台”と呼ばれ親しまれている高架道路が存在する。
ジャンプ台なんて使ったら大切な車が大変なことになってしまいそうだが、これがどのような状況の道を比喩した表現であるかは、未成道ファンでなくても察せられるであろう。長らく未成の尻切れトンボ状態である高架道路が、ここにあるのだ。
浅からぬ歴史を持つ、この未成の高架道路は、国道113号の一部である。
国道113号は道路法上の路線名だが、これとは別に都市計画法に則って新潟市が指定する都市計画道の路線名として、東港(とうこう)線の一部も構成しており、中でも高架道路部分のみを指す名称としては、東港線バイパスが広く使われている(都市計画道路としては東港線の支線という扱いである)。本稿もこの名称を採用した。
少し拡大した地図で東港線バイパスの全体像を見てみよう。
この道があるのは新潟市の臨海エリアで、中央区と東区に跨がっている。
バイパス化以前から東港線は存在しており、信濃川河口部を港湾化した新潟港(新潟西港)東岸の幹線道路ということでこのように名付けられているが、新潟駅や新潟県庁、新潟市役所などの都市中心施設と、東区に所在する新潟空港を結ぶ最短ルートであると同時に、市民の生活道路や新潟西港の利用車両が常時多数通行する、市内有数の重交通路線である。
このような東港線の利用車両を分散し、通過交通をバイパスする為にあるのが、4車線の高架道路である、東港線バイパスということになる。
全長は1180mで、冒頭から未成道だと書いたが、大部分はちゃんと供用されている。
全体から見れば僅かな長さに過ぎない未成部分が、見た目に強烈なインパクトを持っているために、“ジャンプ台”というような愛称を得てしまっているのである。
そして実は、この道路が異様な部分は、末端のジャンプ台部分に限らない!!
一度利用すれば忘れがたい特殊な道路状況が、バイパスの大半部にわたって展開している。
これについては現地レポートが始まればすぐ暴露されるので、少しだけ待って欲しい。
本編に入る前に、今回少しだけ自らのハードルを上げてみたい。
この東港線バイパスは誰でも自由に通行できる一般道路であり、その気になれば探索は容易である。
机上調査についても、ウィキペディアに項目があるほどメジャーな物件であるから、なぜこのような未成道があるかについても、それを読めば納得しうるだろう。
なんでもこの東港線バイパスは、「みなと大橋」と呼ばれた別の未成……いや、構想に終わった道路計画と密接に関わる存在であったのだという。
この辺りの“深さ”までは、親切な先人たちのおかげで、容易に我々は辿り着ける。
ならば今回は、もう少しだけ深入りをしたい。
大都市に積層する巨大な都市計画の深層と有機的結合の複雑を、少しだけだが覗いてみたい。オブローダーとしては畑違いで、未だ経験値不足であることは承知のうえで。
そしてレポートとしての最終的具体的な目標として、東港線バイパスの不可解で複雑な“ジャンプ台”が、本来はどのような形を目指していた構造物であったかを、図示したい。
実はこの太字(↑)の内容を知りたいと思ったことが、2012年から今日まで10年かかった調査の最初の動機であった。それから数度の現地探索と文献調査、そして今回も欠かせない強力な地元協力者の助けによって、ようやく書けそうだと思ったのが今日なのである。
本稿は、現地探索編よりも机上調査編が長くなるだろうことをあらかじめ予告しておく。
未成道ならぬ未成レポートをいくつも抱えている身分だけに、出来るだけ簡潔にまとめるように努力するが、目の前に散らばる(ハズレを含んだ)膨大な資料を前に、多少長くなることは避けがたいと思っている。
……恐い恐い。やっぱりハードルなんて無闇に上げるべきじゃない。これから書くというのにね…。 そして悪い癖でまたぐだぐだと無駄な前置きが長い。
それでは、東港線バイパスの“ジャンプ台”から始まる、
水の都が描いた夢の道へと、ご案内致します…。