道路レポート 国道113号東港線バイパス 第1回

所在地 新潟県新潟市
探索日 2020.08.18
公開日 2022.01.14

たまには当サイトもそこそこメジャーな案件を取り上げたい。
ジャンルとしては、未成道。
このジャンルが好きな人なら一度は見聞きしたことがありそうな物件だが、紹介したい。




新潟市。

人口80万人を数える本州日本海側唯一の政令指定都市であり、国内有数の港湾都市だ。

この街のど真ん中に、市民から“ジャンプ台”と呼ばれ親しまれている高架道路が存在する。

ジャンプ台なんて使ったら大切な車が大変なことになってしまいそうだが、これがどのような状況の道を比喩した表現であるかは、未成道ファンでなくても察せられるであろう。長らく未成の尻切れトンボ状態である高架道路が、ここにあるのだ。

浅からぬ歴史を持つ、この未成の高架道路は、国道113号の一部である。
国道113号は道路法上の路線名だが、これとは別に都市計画法に則って新潟市が指定する都市計画道の路線名として、東港(とうこう)線の一部も構成しており、中でも高架道路部分のみを指す名称としては、東港線バイパスが広く使われている(都市計画道路としては東港線の支線という扱いである)。本稿もこの名称を採用した。



少し拡大した地図で東港線バイパスの全体像を見てみよう。

この道があるのは新潟市の臨海エリアで、中央区と東区に跨がっている。
バイパス化以前から東港線は存在しており、信濃川河口部を港湾化した新潟港(新潟西港)東岸の幹線道路ということでこのように名付けられているが、新潟駅や新潟県庁、新潟市役所などの都市中心施設と、東区に所在する新潟空港を結ぶ最短ルートであると同時に、市民の生活道路や新潟西港の利用車両が常時多数通行する、市内有数の重交通路線である。

このような東港線の利用車両を分散し、通過交通をバイパスする為にあるのが、4車線の高架道路である、東港線バイパスということになる。
全長は1180mで、冒頭から未成道だと書いたが、大部分はちゃんと供用されている。
全体から見れば僅かな長さに過ぎない未成部分が、見た目に強烈なインパクトを持っているために、“ジャンプ台”というような愛称を得てしまっているのである。

そして実は、この道路が異様な部分は、末端のジャンプ台部分に限らない!!
一度利用すれば忘れがたい特殊な道路状況が、バイパスの大半部にわたって展開している。
これについては現地レポートが始まればすぐ暴露されるので、少しだけ待って欲しい。




本編に入る前に、今回少しだけ自らのハードルを上げてみたい。

この東港線バイパスは誰でも自由に通行できる一般道路であり、その気になれば探索は容易である。
机上調査についても、ウィキペディアに項目があるほどメジャーな物件であるから、なぜこのような未成道があるかについても、それを読めば納得しうるだろう。
なんでもこの東港線バイパスは、「みなと大橋」と呼ばれた別の未成……いや、構想に終わった道路計画と密接に関わる存在であったのだという。
この辺りの“深さ”までは、親切な先人たちのおかげで、容易に我々は辿り着ける。

ならば今回は、もう少しだけ深入りをしたい。
大都市に積層する巨大な都市計画の深層と有機的結合の複雑を、少しだけだが覗いてみたい。オブローダーとしては畑違いで、未だ経験値不足であることは承知のうえで。
そしてレポートとしての最終的具体的な目標として、東港線バイパスの不可解で複雑な“ジャンプ台”が、本来はどのような形を目指していた構造物であったかを、図示したい。

実はこの太字(↑)の内容を知りたいと思ったことが、2012年から今日まで10年かかった調査の最初の動機であった。それから数度の現地探索と文献調査、そして今回も欠かせない強力な地元協力者の助けによって、ようやく書けそうだと思ったのが今日なのである。
本稿は、現地探索編よりも机上調査編が長くなるだろうことをあらかじめ予告しておく。
未成道ならぬ未成レポートをいくつも抱えている身分だけに、出来るだけ簡潔にまとめるように努力するが、目の前に散らばる(ハズレを含んだ)膨大な資料を前に、多少長くなることは避けがたいと思っている。

……恐い恐い。やっぱりハードルなんて無闇に上げるべきじゃない。これから書くというのにね…。 そして悪い癖でまたぐだぐだと無駄な前置きが長い。



それでは、東港線バイパスの“ジャンプ台”から始まる、
水の都が描いた夢の道へと、ご案内致します…。



 強烈違和感がお出迎え?! 東港線バイパス終点「紡績角」より、探索開始!


2020/8/18 8:19 《現在地》

今回の探索も、小回りがきく自転車を足にして進める。
ここは新潟市東区末広町の国道113号の路上で、村上市方向を背に、市街中心部へ向かう進行方向を撮影した。
本稿の主役である東港線および東港線バイパスは、この次の交差点から始まる。
ご覧の通り、この辺りも4車線の道路ではあるが、大型車を交えて交通量が多いのが分かるだろう。

チェンジ後の画像は、ここにある青看を拡大したものだ。次の交差点についての内容であるが、交差点を右折しても直進しても、国道113号が案内されている。直進するのが東港線バイパスで、右折するのが東港線の行き先であるが、それぞれ異なっていることが分かる。
個人的に、ここの案内内容にも未成道の特殊な様相に関わる不思議さが含まれていると感じるが、今からそれを説明してもただただ分かりづらいと思うので、一通り東港線バイパスを見てから思い出したように紹介したいと思う。



青看から100mほどで、実際に交差点が現れる。(この画像は2012年撮影)
ここが、紡績角(ぼうせきかど)交差点で、国道113号にとっては一通過地点に過ぎないが、都市計画道路としての東港線は、ここが「終点」である。

この「終点」から右折して、約4.3km先にある「起点」までが(都)東港線の本線であり、直進するのが東港線の支線である通称「東港線バイパス」だ。
通称の通り、東港線バイパスは起点も終点も東港線の本線上にあるので、最終的には同じ場所へ通じていると言える。

東港線バイパスが、高架道路としての現在の姿で完成したのは、昭和49(1974)年と結構古い。そのためだろう、この交差点は良く景色に馴染んでいる。風景からどちらが新道とは決めつけがたい印象だ。

線形的には、直進するバイパスへ進む方が楽である。だが、ごく短時間の観察ではあるが、実際の交通の流れを見ていると、バイパスではなく本線へ出入りする車の方が多いと感じた。早くも未成道としての綻びの一端が見え始めているというべきなのかも知れない。(正式な最近の交通量調査を見ると、本線の24時間交通量は9200台余りと分かるが、バイパスの交通量は空欄のため不明だった)

それでは、直進して東港線バイパスへ入る。



東港線バイパスへ入った直後の景色。

ここを初めて探索したのは2012年のことだが、その時は“未成高架道路”という期待感抜群の情報だけを頭に入れて臨んだこともあって、この最序盤の風景には少なからず拍子抜けを憶えたことを覚えている。
全然高架じゃないじゃん。ふつうの道路じゃんってね。あと、急に閑散としたなとも思った。
紡績角交差点から、次の長者町交差点までの140mほどは、本バイパス中唯一地べたを走る区間となっている。

行く手に青看が見えているが、そこに長者町交差点がある。
左折するのは1級市道山の下東港線1号といい、これもかなり交通量が多い道だ。




8:21 《現在地》

長者町交差点

辿り着くなり、左の市道山の下東港線から堰を切ったように大量の車が流れてきた。
その沢山の車の間を縫って交差点の向こう側に視線を向けると、そこにいよいよ始まる高架区間の入口が見える。

見える……

見え……………… ん?!

2度目の訪問である今回の2020年8月の探索では、これを見ても、知っている者だけに許されたある種の微笑みしか出て来なかったが、2012年の1回目の探索の時は、まさに「ん?!」となった。
正直、事前情報を得ていたジャンプ台よりも、事前情報がなかった“このこと”の方に驚いたと思う。


何のことだか分かります?



なにこれ。

なにこれ〜〜〜?!?!



東港線バイパスの高架区間は、

4車線全部が“上り線”!

上り方向だけの4車線一方通行路(←珍しい)なのである。



(↑)つまりこういうことだ。

初見の利用者目線で考えると、わずか200mくらい前の【この青看】の時点では、
「直進すると、『新潟駅』や『佐渡航路』へ行けるんだな」と大雑把に理解して直進したはずだ。

だが、次の交差点で唐突に、この分岐を提示されるのである。
中央分離帯のどちら側も上り車線なのにまず驚くだろうが、
驚いている場合ではなく、即座に決めなければならない。

『新潟亀田IC・R7紫竹山IC・新潟駅』 or 『新潟県庁・佐渡航路』

土地鑑のない人には厳しいこれらの行き先を、瞬時に選ばされるのである。
どっちも国道113号らしいから気にしないで良いなんて言ってはいられない!

これはガチで初見ドライバー涙目じゃない? 一瞬でこんがらがってしまって、
気付いたらもう“第1上り線”に入ってしまっていたって人、少なくないのでは?

やべ、  笑うわこれ。



8:23 《現在地》

笑いながら、もちろんこれから東港線バイパスをチャリで爆走するわけだが、その前にちょっとだけ寄り道を。

この画像は、市道山の下東港線の側から眺めた長者町交差点である。
この交差点を案内する案内標識が、めっちゃ個性的である!

そりゃそうだよな。
右折はふつうの双方向通行の4車線道路なのに、左折すると中央分離帯のどちら側も上り線という、異常な4車線道路なんだもの。
案内標識も、こんな特殊な表現を余儀なくされるのである。

しかし、せっかくの力作ではあるが、やはり初見だと理解が追いつかない可能性がありそうだ。
で、さらに初見ドライバーを悩ませそうなのが、交差点の通行帯だ。



これは交差点の100mほど手前の状況であるが、何やら第一通行帯に消えかけた道路標示が見える。
走りながらではまず判読できないと思うが、よくよく見ると、ここには「新潟駅」と書いてあるようだ。
ということは、第二通行帯にも行き先の地名が書いてあったと思えるが、完全に消えてしまっていて全く読めなかった。

そしてこの消えかけた行き先表示の直後で第二通行帯が二つに分かれて、最終的に交差点に進入する50mほど手前から通行帯が三つになる(反対車線は1車線)。




この三つになった通行帯には、それぞれ進行方向を示した矢印形の道路標示(進行方向別通行区分)があったのだが、これもほとんど消えてしまっている。
市道だから国道よりは管理水準が落ちるのかも知れないが、この消えかけた矢印は、こんな特殊な交差点を相手にするにはあまりにも初見ドライバー泣かせである。

矢印の情報だけが全てであれば、第一通行帯と第二通行帯から左折が可能である。
実際は左折直後に道が二手に分かれているが、道路標示がそこまでフォローしているようには見えない。




しかし、実際に観察していると、交差点に向かう交通の流れは、この写真のように第二通行帯が特に混雑している。
そして、青になるとこれらの車は一斉に左折して、そのまま“第2上り線”へ入っていく。
一方で、第一通行帯から左折した車は、そのまま“第1上り線”へ吸い込まれている。

このことは道路標示単体では表現されていないが、青看の内容と合わせて、チェンジ後の画像のような通行帯の使い分けが、知っているドライバーの暗黙の了解的に行われているように見える。
仮に、第一通行帯を左折した直後に第2上り線へ入ろうとしたり、その逆をすると運転が大変そうだが、「進行方向別通行区分違反」は取られないと思いたい。




現地のドライバーの皆さん、大変慣れたご様子でして、次々左折しては戸惑う様子もなく、違和感バリバリの2×2車線一方通行路へと吸い込まれていく。
初見ドライバーが、市道側から長者町交差点へ入った場合、この動きは出来ないだろう……。

いやはや、おかしい道路だ。もう大好きになってしまった!


次回、本番の高架区間へ突入!