道路レポート 富山県道72号坪野小矢部線 石動狭区 前編

所在地 富山県小矢部市
探索日 2018.11.13
公開日 2018.11.19


直近の探索である北陸遠征では、事前の計画になかった探索をいくつか行った。
いまは日の短い時期だけに、車中泊の夜がとても長い。そのため、時間潰しに、普段見ないほどじっくり地図を眺めて過ごすことが少なくない。そうしていると、“変な道”が見つかることがあるのだ。
今回紹介するのも、そんな探索の一つだ。

富山県道72号 坪野小矢部線。
この道の秘めたる変態的要素は、まだ道路マニアにはあまり知られていないようだが、現地で目にした風景に、私は何度も笑顔を零すことになるのだった。

富山県道72号坪野小矢部線は、砺波(となみ)市と小矢部(おやべ)市を結ぶ、全長約18.3kmの主要地方道である。
主要地方道の指定を受けたのは平成5(1993)年のことだが、一般県道としての認定は古く、昭和35年、すなわち現行道路法下における富山県の一般県道認定第1弾に入っていた。ただ、当初の路線名は今とは異なり、坪野石動(いするぎ)線といったようだ。この名称変更は、北国街道の宿場町として名を知られた石動町が、昭和37年に小矢部市の一部になったことによるのだろう。

このように、県道としての長い歴史を有する坪野小矢部線の位置は、右図の通りである。
終点である小矢部市中央町の周辺は、いわゆる旧石動町の中心部であろ、越中と加賀の国境に位置する交通の要衝として栄えただけあって、現代の地図で見ても放射状に発達した道路網を見ることが出来る。そのうちの1本がこの県道で、石動を出た路線は間もなく小矢部川を横断すると、砺波平野を東南東へひた走り、砺波市の東端に位置する坪野地区で国道359号に合流する、そこが起点である。
全体としては、散居村風景で有名な砺波平野の雄大な景観に抱かれた、爽快な県道だと言える。

だがこの県道には、闇……がある。



これは、終点である小矢部市中心部(石動地区)を拡大した地図だ。
この狭い範囲にも沢山の県道や国道がひしめいているが、我らが県道72号は、少々不可解な動きを見せている。

地図中で一番存在感のある南西から北東へ抜ける太い道(国道471号および県道42号)は、平成5(1993)年までは国道8号であった。
この年、国道8号は全線が開通した小矢部バイパスへ移動し、旧道となった石動地区の路線はこれらの国道や県道へ移管されたのである。
我らが県道72号は、終点を出発して小矢部橋を渡ると、この少し前までは北陸地方の大動脈であった県道42号を横断して、南東へ舵を切る。

この小矢部橋から旧国道を横断するまでの短い区間は、このくらいの大縮尺の地図で見ると、おかしい線形を描いている。

もっと拡大してみよう!



(ニヤニヤ)

もう多くは語るまい。

あとは、現地を、見てみよう。




前哨戦? 県道32号から、県道72号へ


2018/11/13 11:05 《現在地》

ターゲットである県道72号との出会いの少し直前からレポートを開始する。
現在地は、小矢部市石動町にある、国道471号(国道8号旧道)と県道32号小矢部伏木港線の分岐地点である。県道32号はここが起点で、おおよそ22km北東に向かって走り、高岡市内で国道415号にぶつかるまでの主要地方道となっている。そして県道72号の終点は、ここからこの県道32号を少し進んだ先にある。

で、写真を見てもらえば分かるとおり、県道32号も主要地方道としては少々褒められない始まり方をしている。
信号も横断歩道もない無造作な丁字路から突然始まっていて(反対車線に大きな青看があるが、県道32号とは無関係)、“卒塔婆”標識だけが県道の存在を告知している。
県道は小矢部の中心市街地を縦貫していくのだが、路線バスもここからは入らず迂回する。



いつものように、自転車でスタート。
県道32号に入ると、早速こんな感じの路地が待っている。
路外の余地がまったくない、住家連担区間。いかにも昔ながらの街路風景である。道幅は1.5車線くらいだが、消雪パイプが通っていて、さすがは豪雪地の道だった。
主要地方道だが、裏道のようで、交通量は多くない。


入口から400mほどやや狭い街路を進むと、石動駅に通じる2車線道路(市道)と丁字路で合流し、そこからは県道もいたって普通の2車線道路となった。

…のだが、なにやら路上駐車の様子が普通と違う。
反対車線側には沢山の車が路駐しているのに、こちら側は全く見られない。両側に沢山の商店があって、人通りの多い商店街となっているのに。
原因は、「駐車禁止」の道路標識に取り付けられていた補助標識が教えてくれた。偶数月と奇数月で、道路のどちら側に駐車できるかか入れ替わるようになっていたのである。
全国的にこのような駐車規制を敷いている場所は、ここだけではないが、珍しい。



11:11 《現在地》

さらに500m弱進むと、お目当ての県道72号との遭遇となる。

「商工会前」交差点。この何の変哲もない十字路が、県道72号の終点だった。
交差点名の通り、角には商工会館があり、総合会館があり、図書館や市民体育館がある。一応は石動市街地の中心といっても良い地点と思われる。
が、交通量という意味では当然、通過する交通量の多い国道8号旧道の方に部がある。基本的にここへは、この町のどこかに用事がある車しか入ってこないだろう。




また、この交差点の県道32号側には青看が設置されておらず、県道72号の存在は少し分かりづらい。
これもやはり、土地鑑のある人だけを相手にしているという雰囲気だ。
例によって、“卒塔婆”標識だけが、県道72号の存在をアピールしてくれていた。

右折して県道72号へ入ると、どこにでもありそうな2車線道路が始まった。
この1.3km先に、私が驚愕する道路が待っているとはとても思えない、平凡なスタートだった。

“卒塔婆”の先には、さっそく“ヘキサ”も待っていて、この県道72号の存在を盤石のものにしていた。
そしてこちら側には、いま右折した交差点を案内する青看が立っていた。振り返って見てみると…。


立派な青看だなぁ。

いま通ってきたのは、この青看の左向き矢印の道である。
対して、右方向の道は、同じ県道32号なのに、酷い有様だ(笑)。
極端に細く描かれているし、矢印もないし、行き先も書かれていない。
これはちょっと気になるぞということで、目的としていた県道72号をやる前に、ちょっとだけ行ってみることにした。ようは、寄り道である。

県道32号へ、寄り道開始。




おうおう! なかなかやるじゃねーか!

狭い。
おばあちゃんがゆっくりと歩く傍を、カーナビの県道表示に騙されたのか、大きな乗用車がそろりそろりと走っていった。
たぶん、古い道なんだろう。古い町にしばしば見られる、いわゆる“山辺の道”の雰囲気で、道の山側には沢山の神社やお寺が建ち並ぶ。
路線バスも通らない1車線の街路であるが、確かに県道は、主要地方道は、ここに指定されている。

もう見慣れた景色ではあるが、これもミニレポくらいにはなるだろう。
うん。
とりあえず、現時点では、県道72号よりはよほどネタになりそうだった。
県道72号がつまらなければ、こっちを採用しようっと(笑)。


11:15 《現在地》

「商工会前」交差点から、ガチガチの1車線街路を約700m北上すると、右後方から近づいてきた立派な2車線道路が、県道の進路をかっさらうように奪った。
その姿は明らかに新道と旧道のようである。

チェンジ後の画像は、同交差点を振り返って撮影したもの。
どう見ても、新道と旧道だ(笑)。
実際、この新道のように見える2車線道路は、いま通ってきた県道32号とは終始並走しており、各交差点には青看も完備されていて、実態として県道32号の役割を果たしている。
だが、県道の指定は受けておらず、市道のままになっている。
まあ、なにか事情があるのでしょう。

この先の県道32号に狭路区間はなさそうなので、至急来た道を引き返し、本題の県道72号へ復帰した。




本番開始! 県道72号を終点から辿る


11:19 《現在地》

さて改めて、県道72号を終点の「商工会前」交差点から走り始めた。
そこにあるのは、どこの地方都市にでもある、両側に歩道がある2車線の商店街。ここでも偶数月と奇数月で駐車が可能な車線が入れ替わる規制が行われていた。

そんな賑わいのある県道を250mほど進むと、大きな青看がある十字路が現われたのだが…
その青看の内容が、怪しかった。
まだ始まってわずか250mの県道72号だが、表示が行方不明になった。
どこへ行った?! 県道72号。

お察しの通り、直進の道が県道72号である。
細い、矢印なし、行き先なしの青看三重苦、再び。
ちなみに、先ほど見た【県道32号と市道の交差点】を直進する市道は、この青看の左の道へ繋がっている。県道32号の新道のように利用されている道の実態は、市道と県道270号今石動上野本線である。

さて、直進しよう。 (ちょっとドキドキしてきたぜ)



が、そんな不安を装った私の期待とは裏腹に、県道はむしろ広く立派になった。

車通りは交差点以降、一気に減った気がするが、ここは新進気鋭の街路、いわゆる都市計画道路の雰囲気だ。
十二分な広さがあるし、道の両側にも新しい家屋が目立っている。




途中、こんな場面があった。
明らかに旧道と分かる1.5車線の狭路が、今の道の脇に三日月湖のように残されていた。
手元の地図には旧道しか描かれていなかったので、ここ数年以内に道は換線されたようである。
どこに出しても恥ずかしくないこの立派な主要地方道は、どこまで頑張れるのか。



11:24 《現在地》

キター! を大文字で書くほどのインパクトではないが、ちょっと始まった。

終点から約800m、青看には行き先が書かれていなかった道を進んできたところ、この無名の交差点を境に、(歩道も含めれば)道幅は一気に3分の1に狭まった。
どうやら、先ほど県道32号で目にしたものと同等クラスの狭路である。
将来的には、この先も拡幅を予定していそうだが、まだ力及んでいない。

広い道の終わりに「最高速度30km/hここまで」の規制標識があり、狭い道の始まりに、「富山県高岡土木センター小矢部土木事務所」による「この先 幅員減少 通行注意」の看板が出されていた。後者は、ここが県管理の道路である動かぬ証拠だった。




おおっ!!→

狭くなった時点ではそこまで驚かなかった私だが、この標識は驚いた。
滅多にない、最高速度20km/hの規制標識だ。

実は、平成26年に公安委員会が定めた、道路の最高速度を決定する際の取り決めにより、30km/h以下は原則として指定しないことになっている。
この原則の例外としては、そこが【生活道路】主として地域住民の日常生活に利用される道路で自動車の通行よりも歩行者・自転車の安全確保が優先されるべき道路であり、高齢者の歩行者などの割合が高く車両との衝突時の被害軽減を特に図る必要がある道路、通学路のうち特に必要がある道路、この取り決め以前から既に20km/hの規制が行われていた道路、地域住民から強い要望がある道路、通行止め規制を実施したいがやむを得ない事情により自動車の通行を制限できない道路などでのみ、特例として認めることになっているそうだ。

おそらくこの標識のくたびれ方から見て、平成26年の通達以前からここは20km/h規制が敷かれていたと思われるが、そうだとしても全国的に20km/h規制は少数であり、特に都道府県道以上では、【一度】山形県道・新潟県道349号鶴岡村上線で平成16(2004)年に撮影しか目にした記憶がなかった。これは間違いなく貴重である!!

なお、公道ではない私有地や駐車場などの構内通路では、20km/hはもちろん、15km/hや10km/h、8km/hなどの標識もよく見られるが、それはもちろん除外される。



これが、最高速度20km/h規制の県道風景だ!

と大書きしたところで、実際の景色はといえばなんてことのない、どこにでもありそうな街路だ。
いずれは拡幅されてしまって、この景色も珍しい最高速度も消える定めだと思うが、まだその気配はない。




11:25 《現在地》

20km/h規制区間は、約300mで終わりを迎えた。
石動信用金庫のある角を起点に、再び道幅が広がって2車線道路となり、同時に規制が30km/hに変わった。

チェンジ後の画像は、振り返って撮影したもの。
こちら側には、「→」(ここから)の補助標識付きで最高速度20の標識が設置されていた。
反対側で見たのは、「→」(ここから)ではなく、「←→」(区域内)だったので、おそらく終点側の拡幅が進展する以前は、もっと広い範囲に20km/h規制が敷かれていたのであろう。



再び2車線になりはしたが、歩道がないし、まるで新しい感じはしない。
道の両側には結構な頻度で看板建築の建物が並んでいて、以前には商店街だったような雰囲気を持っているが、開いているお店は少なく、街並みも全体的に煤けたような風合いである。
まあこの印象は、消雪パイプのせいで道が鉄錆色に変色している雪国ではありがちなものなのだが。




11:26 《現在地》

走っている車よりも、路駐している車が多い、きつきつの2車線道路を進むこと約200m。
俄に上り坂が現われたかと思うと、その先数メートルで丁字路に突き当たっていた。

小矢部川にぶつかったのだ。
県道は、民家の2階の高さほどに設置された“卒塔婆”の導きに従ってここを左折し、短い堤防路を経由して小矢部橋へ達する。


小矢部橋が、ヤバかった。

厳密には、橋を渡った直後が…。


次回、驚愕の展開あらわる。 ストリートビューを見ないで待っててくれよな!