今回紹介するのは、全国の都道府県道の中でも屈指の長い“不通区間”を有する路線だ。
路線名は、和歌山県道45号那智勝浦本宮線。主要地方道である。
この路線は、紀伊半島の南部にあり、和歌山県の那智勝浦町、新宮市、田辺市の範囲に跨がっている。
有名な熊野三山(本宮、新宮、那智)のうち、那智と本宮を最短距離で結ぶ路線であり、そのように聞けば、参拝客を大勢乗せた大型観光バスがバンバン走っていそうなイメージを持たれるかもしれないが、実際は上図に示したように、路線の北半分(点線の部分)にあたる新宮市及び田辺市内の大半が未整備のまま取り残された状態になっており、その区間が相当に長い。
具体的には、本県道の実延長49752m(令和7(2025)年度末の数字)に対し、改良済延長(道路構造令に準拠した構造の区間)が23063mしかないので、残る26689mは道路構造令を満たさない未改良道路ということになり、かつ、このうち16km程度は、地形図上で徒歩道のように表現された山道が県道になっており、そこは自動車交通不能区間であろうと考えられるのだ。
仮に16kmが自動車交通不能区間であるとすると、これは全国の都道府県道の中でも相当長いはずだ(統計データが存在しないので順位付けは出来ないが)。
また個人的なポイントとして、ここは単に現道が存在しない未供用区間ではなく、現道自体は存在するが車が通れない区間ということで、このように長い自動車交通不能区間は珍しいのである。(ちなみに、国道における日本一長い自動車交通不能区間は、国道291号清水峠区間で29.2kmもあるが、おそらく都道府県道にはそこまで長い区間はないと思う)
と、ここまで書けば、おそらく読者諸兄の期待は、紀伊半島の山奥を踏破する長大不通県道探索へと素直に向いてくれると思うが、敢て今回は、この長大な不通区間を持つ県道の“顔見せ的”な短編を書きたい。
この路線には、長い不通区間に挟まれた、ごく短い、“不通ではない区間”がある。
私は個人的にそういう場所が大好きであり、今回はそこを紹介したいのである。
もう一度先ほどの地図を見て欲しい。
路線の北半分の大半が自動車交通不能区間になっているが、その途中に1ヶ所だけ、そうではない短い区間があるのが分かると思う。
次は、その周辺を拡大した地図を見ていただく。
最新の地理院地図で、新宮市熊野川町畝畑(うねはた)の一帯、約4km四方を表示した。
蛇行の激しい和田川に沿って黄色く塗られた車道があり、これは和歌山県道229号熊野川古座川線である。
おそらく、全線を通り抜けたドライバー100人中100人が「長かった」という感想を答えるであろう、“険道”が多い紀伊半島内でも屈指の長さと寂しさを感じられる県道だが、起点側からも終点側からも11〜12kmは人家が途絶えた先のこの畝畑には現在も2戸が暮らしている。
で、この地理院地図をよく見ると分かるが、畝畑集落の前後1〜2kmの短い区間のみ、前出の県道229号と今回の本題である県道45号が重複している……ように地形図だと描かれている。
後ほど説明するように、これは一部が不正確なのだが、大部においては正しく、実際に畝畑の前後で県道229号と県道45号が重複しており、当然このような場合は道路法のルールに則り、路線番号がより若い方(さらには一般県道<主要地方道の優先順位で)、この重複区間は県道45号の実延長にカウントされる区間ということになる。
この地図の範囲内で、県道45号が徒歩道ではなく“車道”として表現されているのは、県道229号との重複区間内だけであり、実質的にも県道229号側の経緯から整備された車道であることは疑いがないのであるが、とにかくこういうわけで、この畝畑周辺にちょっとだけ、県道45号の前後を長い不通区間に挟まれた、ごく短い“不通ではない区間”があるのである。
果たしてこの場所へ行くと、県道229号のヘキサがいつの間にか45号へ変わり、また少し行くと229号へ戻るというような、そういう奇っ怪な現象が起こるのであろうか。それとも、道路案内上において県道45号の存在は完全に無視されてしまうのだろうか。
……そういう“些細”なことが、私はとても気になったのである。
だからこそ、なかなか外部からは行きにくい場所であるこの場所を、手間を惜しまず目指したのだ。
そうそう、先ほどの画像のチェンジ後のそれは、道路地図帳『スーパーマップルデジタル26』の表現である。
こちらは徒歩道を県道として塗り分けないので、県道45号は完全に読み取れない存在だ(ヘキサは私が描き足した)。
おそらく市販の多くのカーナビなども、県道229号だけを表現して45号は無視しているものが多いのではないかと思うが、皆さまの機種はどうでしょうか?
さらにもう一つ、この畝畑には県道の面白い秘密がある。
地理院地図で畝畑をいくら拡大して見ても、(↑)これ以上詳細な県道のルートを知る手掛りは無いのであるが、実はこの地図の表現だと、少しだけ正しくないのである。
私はこのことを大昔から様々な情報提供を戴いている『県道と標識のページ』の作者ハルニチ氏に教えて貰った。それこそ10年以上昔の話であるが、以来ずっと気になっている場所だったのだ。
ハルニチ氏からご提供いただいたソースは部外秘であり、ここでお見せすることは出来ないので、“他の資料”に私が転記したものを代わりに使うことにする。
次の図は、上の図の“桃枠”の範囲を、全国地価MAPで拡大したものだ(↓)
全国地価MAPで見ることができる大縮尺の詳細な地図だと、“矢印の位置”に、地理院地図には描かれていなかった、短い峠越えの道がある。
おそらく徒歩道であろう、ごく狭い道で、この地図では、この道がなんだという情報はないのだが……
ハルニチ氏伝授の情報によると――
県道45号は、この狭い峠越えの道に認定されているというのである。
したがって、実際は上図に私が塗り分けたような形で、県道45号と県道229号が狭い範囲で分岐したり、合流したりを、繰り返しているのである。
畝畑での2本の県道の苛烈な交錯っぷりを、地理院地図上に正確に再現すると、こうなる。
長い不通区間に挟まれた、短い“不通ではない区間”の中に、さらにごく短い不通区間があったことに驚きを禁じ得ない!
まるでマトリョーシカみたいに不通区間が詰込まれてやがる。
もはや、誰のためにある県道かと問われれば、私のためにあるのかだと思えたくなるくらいの変な道。
そんな変な県道を、図中のスタートからゴールまで、出来るだけ忠実に辿って見たのが今回の記録だ。
では、いってみよう!!