2021/12/24 10:54 《現在地》
旧白骨隧道だけならば、これで探索は無事終了。あとは自転車が待つ北口へ戻ってジ・エンドとなるところだが、今回は旧々隧道の捜索という第二部が、ここから始まる。
ここまでの探索で、旧旧道というものの存在自体を全く実感する場面がなかったが、谷底に近いところで旧々隧道を発見したという情報があるので、どうにかして谷底へ降りるのが最初の行程となる。
セオリー的には、旧道と旧々隧道の分岐を見つけ出し、そこから旧々隧道を辿って隧道を見つけ出せれば良かったが、積雪という状況を含む地形の険悪さを考えると、それは難しそうだ。ピンポイントに隧道を探したい。
まずは、旧白骨隧道の南口に接続している洞門部分から外へ出て、そこから雪の斜面を谷底まで下ることにした。
特に踏み跡は見当らないが、周囲に比べて勾配がいくらか緩く、岩場ではないので、安全に下降できそうである。
高らかに瀬音を歌い上げる湯川は、氷雪に彩られた岩を噛みつつ、黒い流れを迸らせていた。
水面までの落差は20m程度。
旧旧道が谷底付近にあったのなら、この下降の過程でその道を横断しているはずだが、それらしい平場は全く見当らなかった。
旧道の建設や川の流れで壊されてしまったのか。そもそも旧旧道自体が幻なのか。
こうして、下っていく最中でも、
注視の対象は、主に、右下方の岩場であった。
旧隧道の直下にあたるその岩場は、旧々隧道の擬定地点だった。
ここには、極めて切り立った岩場が、谷底から旧隧道よりも上の高さまで聳えており、
隧道を用いずに通過することは、ほとんど不可能なように見える地形だ。
この位置に旧々隧道を想定することは、理にかなっている。
こんな谷底に、旧旧道がありさえすれば……だが。
穴?!
穴があるぞ…!!
さらに下降し、だいたい穴の高さの近くまで下りてきた。
だが、穴へ通じる道が全く見当らない!
確かに岩場の一画に、人工物とも自然物とも判別できない小さな黒い穴が見える。
もし、これが旧々隧道だとしたら、本来の大きさよりだいぶ小さくなっているはず。
なにせ、現状ではおおよそ人が立って入れるサイズではない。
穴の前の白い雪が乗っている地面は崩れた土砂の山っぽいので、
それを退かせば、本来の坑口が現れる感じか。
それでも、かなり小さな穴でしかない。間違いなく人道のサイズである。
11:01
無事、谷底まで下降できた。
それは良かったが、旧旧道らしい道形には全く出会わなかった。
“穴”と同じ高さに旧旧道があったなら、必ず横断しているはずなのだが。
“穴”へ早く近づきたい気持ちを抑えて、一旦、谷底を上流方向へ少しだけ移動してみた。これは旧旧道の痕跡の発見を期待しての行動だった。
だが、その目論見はほんの僅かな時間で落胆に変わった。
谷底には凍り付いた大岩が迷路のように散らばっていて、その隙間を凍てつく水が奔っている状況だ。
ツルツルに凍り付いた大岩に乗ることは自殺行為で、かといって腰まで水に浸かって谷を遡ることは憚られた。
旧旧道の痕跡についてあづみのまる氏は、「旧旧隧道の前後に残る旧旧道の痕跡も断片的ではありますが素晴らしいの一言です
」と書かれていたので、それを見出して旧々隧道の確信を得たかったが、申し訳ないが少々時期を見誤ったといわざるを得ない。
旧旧道の捜索については、時期を改めたい。
今回は、せめて“穴”を攻略しよう。情報提供者も内部へは立ち入っていないらしいし…。
今日は上流側へは進めないことを確認して、戻ってきた。
これは下降地点付近の谷底から見上げた旧道の洞門だ。左側は旧白骨隧道である。
洞門の中にいる限り知ることはないが、実は洞門はこんなに高いコンクリート擁壁で支えられていたのである。
おそらくここではかつて大きな欠壊があって、そこを人工地盤で埋め直してから、道路と洞門を復旧したのであろう。
このまま朽ちさせるのは惜しい立派な構造物だが、いうまでもなく、もう二度と使われる日は来ない。
で、我らが旧々隧道はといえば、ここから視線を左下へ移動させると、控えめに見えてくる。
ズドーン っていう具合にね。
確かにこれは凄い対比だ。
旧道にいたときは、そこを良い道だなどと全然思わなかったが、
この穴が旧々隧道だとして、それと対比するならば別格に良い道だ。
……というか、果たして旧々道は、一般の旅人の利用に耐えるような道だったのかな…?
昔の人の健脚は侮れないが、現状ではとてもとても、湯治を欲する足が向く道とは思えない…。
景色に魅入られ、圧倒されて、少しずつ位置を変えながら同じような写真を何枚も撮影していた。
その少しずつ移動すること自体がなかなか大変で、とても気軽ではなかった。
それでも、私は徐々に穴の下へ近づいている。
この“穴”が、まさしく隧道であるならば、この画像に示したような位置を貫通し、
岩場の向こう側に出口があるはずだ。もし無ければ隧道ではない。
ぜひとも、穴に辿り着いて、貫通をものにしたい!
11:10 《現在地》
ここを登るしかない。
垂直の崖というわけではないが、氷柱がぶら下がっているような凍った岩場。
高さは4mくらいかな……。
うまく登れても、安全に下りて来られるのかちょっと不安だ…。
とりあえず、取り付いてみる。
穴は、地面から見て背丈の3倍くらいの高さに開いている。
だから見上げた感じとしては、背丈の倍くらいの近いところに見えた。
手掛かりがあれば、どうとでもなりそうな高さなのだが……
んぐーーっ!
あと一伸びが、届かないッ!
ちょうど足掛かりになる岩が氷柱に覆われていて使えず、
手掛かりになりそうな細い立ち木に手を伸ばすことができない。
氷雪期の登山に慣れていれば、無雪期と同じ動きができたならば、
たぶん辿り着けたのだが……悔しい。悔しい。悔しいッ!!
ギリのギリで穴の中を覗くこともできない高さで、私は断念した。
しかし、これは無難は判断だったろう。たぶん無理矢理登れても、
下りるのはもっと難しかったろうから。貫通している保証はないのだ。
数分間もがいて、最後は駄目だと判断し、下りた。
もうこれで、穴の正体に迫るチャンスは、一つしかなくなった。
事前情報が全くない、北側坑口からの進入である。
そもそも、貫通している穴でなければ、北側坑口は存在しないだろうが…。
で、手っ取り早く北側坑口の擬定地へ迫るべく、困難を承知で、
狭窄せる谷底を下流へ歩こうとしたのであるが、
これはやはり無理であった。腰まで急流に浸されねば、無理。
ううううううううううう
うううううーー
思うようにいかない!
情けないが、少し苛立つ。
敗北感を胸に抱いて、下りてきた雪の急斜面を旧道へ登り返した。
その途中、再び目線の高さに穴がきた。遠目に中を覗くも、出口は見えず。
本当にあれは、旧々隧道なんていう素性の穴なんだろうか? 自然洞窟の可能性は?
カメラのレンズに濡れた雪を沢山付けながら、旧道へ復帰。
少しは平凡な旧隧道と思えるようになった旧白骨隧道を再び潜り、北口へ。
北口から、再び谷底への下降に挑戦するぞ。
もう私にはそれしかない。
雪のせいはあるんだろうけど、本当に狭いな、今回の探索の道筋……。
旧隧道を再び潜り、北口へ。
旧々隧道と目される“穴”がちゃんと貫通しているとしたら、おそらくこの北口直下に近い谷底に、開いているはず。
そう考えるからこそ、今度はこの北口から谷底への下降を目指すのであるが、それが容易ではないことは、ここまでの探索から予想できていた。
チェンジ後の画像は、北口にかなり近い旧道決壊地点から見下ろした谷底である。崩壊によって生じたガリー(雨裂)が谷底まで通じており、見通すことができた。そのため、一度はここを下ることを考え、実際最初の3mほど下ってみたのだが、それより下の凍り付いた急斜面に怖じ気づいて戻ってきたのである。
雪の下が土なのか岩なのか。見ただけでは分からないことがくせ者で、土だと思ったところが岩だったりしたら、滑落の危険が極めて高い。普段以上に無難な下降ルートを慎重に選ばねばならなかった。
11:27 《現在地》
それで結局のところ、一連の旧道探索の最序盤に訪れた辺りまで戻ってからようやく、安全に谷底まで降りられそうな比較的緩やかな樹林帯を見出すことができた。
ここまで戻ってしまうと、旧々隧道の北口擬定地もだいぶ遠のいてしまったが、とにかく谷底に下りないことには話が進まないので、やむを得ない。
現トンネルから流れ出た地下水らしき水が、凍らずに連瀑になって落ちている脇の斜面を辿って、谷底を目指した。
そして2分ほどで無事、谷底へ辿り着いた。
写真は谷底で下流方向を見ており、これから私が向かうのは反対の上流方向となる。
ただ、“穴”と同じ高さに旧旧道が延びていたなら、この写真に写っている斜面の中腹付近を通ったと思う。
その痕跡があればと思ったが、やはり、それらしいものは全く見えなかった。
旧旧道がないのに旧々隧道だけがあるというのは、不自然な状況ではないのか。
情報提供者には申し訳ないが、現状としては、先ほど見た“穴”が実際は単なる自然洞窟である可能性や、そうでなくても非貫通の鉱山坑道などであった可能性を疑わねばならない状況といえるだろう。
そしてこれが進行方向、上流側の眺めだ。
先ほど降り立った南口直下の谷底(奥の明るく見える辺りがそこだ)より、いくらか谷が広い感じだが、険しいことには変わらない。
しかも日影で凄く寒い。
いまは上部にある旧道も見えないが、地形的に旧白骨隧道のある場所は分かっている。
今前方に見えている崖(黄線で強調)の直上が旧隧道の在処であり、したがって目指す旧々隧道の在処も、あの崖の裏の辺りと思われた。
とりあえず、あの崖の場所を目指すぞ。
方針を決めたので、すぐに谷底の遡行をスタートした。
谷底に道はないので、水に濡れないギリギリの所を適当に歩いた。
岩が凍っているため、飛石伝いにスピーディな移動ができないのが面倒だった。
移動しながら、旧道がある右岸の崖を見上げている。
ここに見えているのは、ちょうど本編第2回の前半で苦労しながら横断した辺りの旧道だが、ほとんど道としての分別がつかない状況だ。崩れすぎているのである。
かなり規模の大きな崩壊地となっており、その崩壊は谷底にまで影響を及ぼしたに違いない。ほとんど樹木がなく見通せるのも、崩壊の影響だろう。
……そんなことを考えながら見上げていると……
んんっ?
旧道よりもだいぶ低い位置の斜面に、なんか見覚えのある模様があるような……
これは石垣かッ!
間違いない!
谷底から10mばかり高い位置、崩壊斜面の中途に取り残される形で、高さ2mほどの空積み石垣が現存しているッ!
旧道はもっと高い谷底から20mほどの高さだから、これはその石垣ではないだろう。
……どうやら、遂に見つけてしまったようだ。
旧旧道実在の証拠…!
ここにこれを見つけた以上、やはり【穴】の正体は、旧旧道の隧道であった可能性が極めて濃厚となった。
いっときとはいえ不信を抱いて申し訳なかった、あづみのまる氏よ。
しかし、いま一番嬉しいのは私だ。これはマジで燃える展開。 あの穴が隧道だったッ!
石垣を見た位置から、さらに少し上流へ移動して、再び見上げている。
ここは先ほど旧道から見下ろした【凍てついたガリー】の直下である。
石垣はここには見当らない。
しかし、この場所からなら旧旧道と見られる高さへ上ることができそうだ。
が、この先どうなっているか分からないし、いまは谷底にいても全てを見ることができているので、上るのは止めておく。
ここまで数回あった凍った斜面の上り下りや横断には、かなりの緊張と疲労を強いられていたので、この先で隧道と格闘する万全の余力を残すためにも、無理をしたくなかった。
谷底へ降り立った時に、「この崖の裏が目的地だろう」と目した、その崖まで来た。
どうやらこの崖の中段を回り込んでいる細い帯状の部分は、旧旧道の痕跡っぽい。ここに石垣はないが、石垣と同じ高さの続きにある。
ここで道へ上ってそれを辿るか、まずは谷底を回り込んで隧道の有無を先に確認してしまうか考えたが、待ちきれない気持ちが強く、後者と決した。
このまま谷底を進むぞ!
泣いても笑っても、この戦いは間もなく決着する!
黒い岩場を回り込む。
一歩進むごとに、遭遇への期待感は高まった。
凍り付いた巨大な岩が、行く手を遮った。
岩戸の向こうの間近に見える絶壁は、間違いなく穴があった、あの崖だ。
あの崖の手前、岩戸に隠された位置に、
間違いなく、答えがあるはず!
片足を水に落しかけはしたが、どうにか岩戸を乗り越えッ!
11:37 《現在地》
あった!穴!
いや、今度こそこいつを、“旧々白骨隧道”と呼んで良かろう!
こんな分かりにくいところに、潜んでやがったか!!(よく見つけたな、あづみのまる氏は。これは素直に脱帽だ…)
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