横須賀市はトンネルの多い街である。
最近の調べでは、市内にある道路用のトンネルの総数は56で、神奈川県内の総数が81というから、余裕で過半数を占めている。
そして、古いトンネルが多い。
『横須賀市史』によれば、昭和30年には既に42のトンネルが供用されていたという。
多くの地域では「地域最古参」と呼ばれておかしくないような古隧道が、この街には無数にあるわけだ。
なぜ、これだけ多くのトンネルが掘られて来たのか。
それは言うまでもなく地形的な理由が第一である。
同市は全域が三浦半島に位置しているが、この半島には細かな起伏が非常に多い。
さらにトンネルは人が掘るものである。当然、人間の営みが深く関わっている。
同市域は江戸末期以降、浦賀港および横須賀軍港を中心としての市街化が大変進んだが、このことがトンネルを大量に掘らしめた。
次いで、地質的に砂岩が多く掘削に適していたと言うことも、古くから多くのトンネルが掘られた原因である。
それでは、この横須賀市に最初の隧道が掘られたのはいつなのだろう。
下の表は、『横須賀市史』をもとに私が作成したものである。
横須賀市内の明治竣工隧道 (現在の市域にあるもの) | ||
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トンネル名 | 竣工年 | 状況 (ヨッキれん調べ) |
走水第二 | 明治15年 | 県道(現役) |
走水第一 | 〃 16年 | 県道(現役) |
観音崎 | 〃 18年 | 市道(現役) |
梅田 | 〃 20年 | 市道(現役) |
楠ヶ浦 | 〃 20年 | 埋め立てのため消失 |
吉倉 | 〃 24年 | 国道(現役) |
田浦 | 〃 26年 | 廃止 |
田戸 | 〃 30年 | 埋め立てのため消失 |
筒井 | 〃 38年 | 市道(現役) |
衣笠 | 〃 43年 | 県道(現役) |
長浦田の浦 | 〃 43年 | 廃止 |
深浦 | 〃 44年 | 市道(現役) |
最も古いものは明治15年に竣工した走水(はしりみず)第二隧道である。
しかし、この隧道はもともと純粋な道路トンネルとして建設されたものではなく、軍関係の導水管を通すための水道トンネルとして明治9年に竣工したものを改造して道路に転用した(第一隧道と共に)。しかも、明治15年竣工というのも台帳上のことで、実際に道路としての通行が開始されたのは明治29年とする資料もある。(さらに当初は軍用道路であった)
明治18年竣工の観音崎隧道が純粋な道路トンネルとして市内最古であるが、やはり軍用道路で一般の通行は戦後まで出来なかった。
純粋な一般道路として最も古いのは明治20年竣工の梅田隧道である。
これ以降次々に隧道が掘られ、明治末年までに12本を数えた。
表中に赤字で示した3本の隧道について、これから2編のレポートに分けて紹介する。
隧道レポート 「吉倉隧道 と 長浦田の浦隧道」
隧道レポート 「旧 田浦隧道」